「ただいま」
そう言って帰ってきた由美は以前とはまったく別の姿になっていた。
真夏には似つかわしくない長袖にフード付の上着、足元まで隠れるパンツ。だが、そこから僅かに覗く肌は銀色の光を放っていた。
玄関まで来ると、ほとんど無かった表情が困ったようなものへと変わる。
「足、どうしよう?」
銀色に輝くヒール付の足を見て言う由美に、
「そのまま上がって」
と、促す事しかできなかった。
全ての襖を閉め、窓にカーテンをかけ、一番奥の部屋まできて由美は口を開いた。
「それじゃあ、服を脱ぐね」
手始めに取った手袋の下からは銀色の金属製の手が現れ、フードを外すと銀色の髪が広がり、上着の下からは銀色の豊満な女性体型の機械が姿を見せ、ズボンを脱ぐとスラリと伸びた銀色の足から直にヒールが生えていた。
胸の上にD1というプレートがあるのとヒール状の足以外は、ほぼ人間と同じ姿をしていた。ただ銀色の金属であるという事を除いて。
「一応、1等兵器っていう階級が新設されて、扱いは少尉待遇ってことになるみたい。まあ、それ以外に色々制約があるみたいだけど」
はにかみながらそう言う由美の姿に胸が痛んだ。
【Dプロジェクト試作機】
そんなメールが父のアドレスに送られてきたのは半年ほど前だった。
だが、そんなメールは四菱重工社長である父の目に止まる事は無く、閲覧すらされることなくパソコンのデータの片隅に仕舞われてしまった。
そして、そこに添付されたデータの重要性に気付く者は誰もいなかった。
妹の由美が誘拐されたのはそれから10日後の事だった。
大袈裟な送り迎えを嫌がる由美の性格が災いした。
下校時、いつも一緒の友人が呼び出され独りになった時、攫われたのだ。
後の警察の捜査で友人を呼び出したのは犯人の工作だった事が明らかになった。
大企業の社長令嬢の誘拐。その日のうちに警察は動き出した。
だが、これと言って有力な情報が見つからないうちに犯人からの連絡があった。
フリーのアドレスからのメール。
そこには由美を使ってDプロジェクトを再開するとの言葉と、手術台に拘束された由美の姿の画像ファイルだけだった。
Dプロジェクト、それは父が以前に闇に葬った兵器開発プロジェクトだった。
軍と太い繋がりのある四菱重工が今までと全く異なる兵器を開発しようとしたもの。
その非人道的なプランゆえ一切の日の目を見ることなく、開発責任者の解雇と共に抹殺されたものだった。
それは戦場における画期的無人兵器と言う触れ込みであった、しかしそれは決して無人などではなかった。
いやそれが最早人で無いとするなら、無人と言えなくも無いだろう。
人間を改造しサイボーグ兵器に作り変えるというものだった。
工藤という開発責任者は解雇された後、行方をくらませた。
データは全て破棄され、二度と口に上がる事はなかった。
ただ、社長室を出て行く工藤が発した「私はDプロジェクトを諦めない」という言葉のみを残して…
この後、10日前に送られてきたメールが発見される。
そこには、Dプロジェクトの試作機、D1ーYUMIの設計図と手術方法が掲載されていた。
それはその名の通り、由美を素体として使用することを前提としており、身長や3サイズなど体型や体質などが正確に記されていた。
全身を機械に置き換え、残っているものは脳の一部と神経系のみだった。
皮肉か出来上がりの予想図は生身の由美の体とほぼ変わらない体系になっていた。
それを見た父の狼狽は信じられない物だった。常に慌てずどっしり構えていた父がこの世の終わりかという慌てぶりだった。
母は気を失い、病院へと担ぎ込まれた。
1週間後、一枚のDVDが送られてきた。
再生された動画は由美が改造されるシーンを映した物だった。
解体されていく生身の体が、金属製の機械で再構成されていく。
捜査官がそのスプラッタな光景を目にしてトイレに駆け込む。
僕は父とその光景に立ち竦んでいるだけだった。
さらに1週間経つと、新たなDVDが送られてきた。
そこには、目を開けた由美の姿が映されていた。ご丁寧に初起動とのテロップ付で。
「元に戻して」と懇願する由美に「無理だ」と言い放ち、自分に従い兵器D1として動く事を強要している姿が映し出され、戦闘訓練をさせれる姿が映し出された。
2週間後、送られてきたDVDにはD1−YUMIと称し、最高の無人兵器だと自らパフォーマンスする由美の姿があった。
しかし、この時点で警察は工藤の居場所を発見する事に成功した。
様々な工作をして身元がばれないようにしていた工藤だが、運悪く警官に見つけらてしまう。
工藤のアジトを強襲した警官隊は由美を確保したが、工藤を射殺してしまう。その過程で10人以上の死傷者が出たという。
こうして、事件は幕を下ろした。
機械化された由美を残して。

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