敵のアンドロイドを切り裂くSW(セーラーウェポン)1号、しかし戦闘後に倒れてしまう。

「いかん、今すぐ外部制御で回収しなくては」
 その姿をモニターしていた博士は急いでSW1号に内蔵した制御装置に帰還命令を下した。
 回収されたSW1号の脳波などのデータを確認した博士は一つの結論に達する。
「ストレス過多か・・・」
 そう、それはSW1号の中核をなす生体脳が強すぎるストレスを感じているためである。
「予想された事態だが、このままでは著しい機能低下、最悪生体脳が崩壊し機能停止してしまう」
 それだけは避けなければならなかった。
「しかたない。当初の予定どおり例の機能を利用するか・・・」
 博士はそう言うと、回収され手術台に横たわっているSW1号に近づいていった・・・

 和美は自分の周囲が闇に包まれているのに気が付いた。見回しても、ただただ闇が広がっているだけだった。汗が流れているのを感じ、手で拭うと、その感触に奇妙なものを覚えました。
 硬いのです。拭われた額がまるで金属塊を押し付けられたような感じがしたのです。
 不思議に思って、右手を見るとそこには銀色の塊がありました。それは、和美の意思に従って開閉するまるで手のようなものだ、そう思った瞬間、銀色の部分は侵食をはじめ肩口まで覆ってしまった。
 痛みを感じ左手を見ると同じように、銀色の腕がそこにあった。さらに両足が銀色に変化した。その変化に驚いていると、体の周りが輝きいつのまにか例のセーラー服を着ていた。
 目の前にはいつの間にか等身大の鏡があり、サイボーグ兵器SW1号がその姿をさらしていた。
「あなたは何者?」
 何処からとも無く声が聞こえた。その声に和美は答えなくてはいけないと感じた。
「私はサイボーグ兵器セーラーウェポン1号」
 口から出た答えはそのようなものだった。
(ちがう、私はそんなのじゃない!)
 そう思ったとき、鏡に映った自分がその手を伸ばしてきた。その手は鏡面を抜け、SW1号の姿になった和美の顔に触れる。
「あなた、いえ、私はもうSW1号よ。ほら見てこの手、この足、わたしはもうサイボーグ兵器として生まれ変わったの。いえ違うわ。遠藤和美という少女を素材に新たに製造されたの」
 そう笑う、もう一人の自分を前に和美、いや、SW1号は自分が機械で作られたモノになったことを感じた。次の瞬間、手足だけだった銀色の部分はさらに侵食して体を覆い始めた。
「いやー! やめて! これ以上私を変えないで!」
 そう悲鳴をあげて和美に意識は闇に落ちていった。

 ジリジリジリジリ
 和美は目覚し時計のやかましい音に目が覚めた。
 そこは馴染み深い自分部屋だった。あわてて布団を剥ぎ取り、手と足を確認する。そこにあったのは、変哲の無い肌色の手足だった。
「夢・・・だったの?」
 全身の力が抜け、ベッドに倒れこんだ。手足が少し引きつるような気がしたがそれは些細なことでしかなかった。

 低血圧で寝起きが悪い和美にしては珍しく朝のしたくはあっという間に終わり、登校時刻まで30分以上時間が余った。どうしようかと部屋を見回すと、ベッドの上に1匹のチワワがちょこんと座っているのが見えた。
「えっ! ま、まさか」
 和美にはそのチワワに、いやチワワに模した犬型アンドロイドに見覚えがあった。
「まさか、D1!」
「おはようSW1号」
 その言葉を聞いた瞬間、和美は世界が闇に包まれたような気がした。しかし、自分の手足はあの時のような金属製のものではない。
「ああ、そういえば博士からの伝言があるんだ。再生するよ」
 そういうと以前見たのと同じように、私の部屋の壁に映像を映し出した。
「おはよう、SW1号。気分はどうかね」
 映像の博士はそう言ってきた。
「さて、君は現在の自分の状況に困惑しているはずだ。改造されたはずの自分の手足がなぜ元に戻っているのか?その答えはこれを見てもらえばわかるはずだ」
 そこに映し出されたのは、和美の記憶にあるとおりのSW1号である自分だった。
 手術台に横たわる自分にケーブルが接続され、見る見るうちに銀色のフレームが肌色の体に変わっていく。
「君のフレームに用いた金属は、以前説明したとおり私が開発した特殊なものだ。これには君に説明していない特性が一つある。形状記憶合金と同じように、特殊な電流を流すことで前もって設定しておいた状態に変化させることができるのだ」
 説明の間にSW1号の金属部分は全て肌色の皮膚そっくりに変化していた。
「この姿なら、君は人間として暮らしていけるはずだ。いくらなんでも常に君を拘束しているわけにもいかないのでな。ただし、変化するのは見た目と表面の感触だけだ。君の腕にはもう赤い血は流れていないし、中にあるのは金属製の人工筋肉とエネルギーラインだ。そのことを他人に気付かれてはいけない。そのことに注意してくれたまえ。それからこの機能は非戦闘モードで、元の人間の姿に変身することにしか使えない。通常状態ではSW1号としてもとの姿に戻ってもらう。忘れてはならない、君はSW1号に変身するんじゃない。サイボーグ兵器SW1号が遠藤和美に変身しているのだ」
 そう言うと、映像は終了しました。
「分かったかい? 博士は君が日常生活を送れるよう配慮してくれたんだ。ちなみに、君の家族は僕の催眠術で君に不信を持たないようにしてあるから安心して」 
 D1はそう言うと、本物の犬のように身づくろいを始めました。
「ああ、そうそう学校遅れるよ」
 その言葉に、和美が時計を見るとすでに通学時間を20分過ぎていました。

 絶対に遅刻すると思って、走った和美は始業の鐘の10分前に学校についていました。
「和美ちゃん、今日はすごいスピードだったね」
 そう言って和美の首に飛びついてきたのは斎藤双葉、10人に聞いたら10人小学生と答えるような容姿をした少女である。彼女は小学校時代からの和美の親友であり、和美に懐いており、その体格の違いからその様子は雛鳥が親について回るようだといわれていた。
「やめなさい、双葉。和美が重そうにしてるわよ。それにしても、ほんとずいぶん速かったわね」
 そうたしなめたのは木下幸恵、双葉と同じく和美の親友である。彼女は落ち着いた文学少女といった趣で、その実性格も落ち着いてしっかりしており、3人の中では先ほどのようにたしなめる役をしていた。
「ほんと、ほんと。あれなら、僕に勝てないかもしれないよ?」
 双葉はその体格に似合わず走るのが速く、陸上部の次期エースと言われていた。
「そうね・・・ 遅れると思ってたから」
 自分の体がサイボーグ化したせいであの速度で走り続けられた事に気付いていた。和美は気が重くなるのを感じていた。
「和美ちゃん、くらーい」
「本当、何かあったの?」
 二人に訊かれたが、まさか、サイボーグにされた、などと言えるはずも無く、またそれは博士に禁じられていたので、
「いいえ、何でもないわ・・・」
 和美にはそう答えることしか出来なかった。
 和美はもやもやとしたものを抱えたまま授業が終わり、放課後になった。すぐに家に帰ろうと教科書を鞄に詰めているその時だった。
[緊急事態だ。マシーナリーメイデンが少女を襲っている、今すぐSW1号出撃だ]
 そんな博士の声が、頭の中で響いた。
「和美、どうしたの?」
「和美ちゃん、変な顔してるー」
 2人が和美の顔を覗き込む。
[今から3分以内に擬人化モードの解除が認められない場合、こちらから強制解除を行う]
 その言うと博士の声は聞こえなくなった。しかしこのままでは本当にサイボーグ姿を見られてしまう。そう思うと和美は駆け出していた。
「2人ともごめん、急用が出来たの」
 そう言って、和美は教室を飛び出していった。

「ここなら大丈夫ね」
 体育倉庫に駆け込んだ和美は扉を閉めるとそう言った。
 その瞬間、手足と背中が熱く感じると、それらの部分が銀色のものに変化した。いや、変化していたものが元に戻ったのだ。それと同時に着ていた物が光の粒に変わる。
[擬人化モードの解除確認 非戦闘モード解除 SW1号用装備の転送開始]
 そう頭の中で聞こえると、消え去った服の変わりに専用のセーラー服が現れる。さらに背中にバックパックが現れ、自動で接続される。
[バックパック接続完了 追加動力炉接続完了]
 またしても頭の中で聞こえ、銀の手足にエネルギーが流れるのを感じる。
 この瞬間、人間遠藤和美を模していたサイボーグ兵器セーラーウェポン1号は本来に姿に戻ったのだ。
 SW1号は即座にナビゲーションシステムを起動する。目標地点は住宅街から少し外れた人気のない林だった。SW1号はステルスモードで飛び立った。

 目標地点には1人の少女が倒れており、その周りには見覚えのあるアンドロイドが3体立っていた。
(このままじゃ、あの子も連れていかれちゃう)
 そう思った瞬間、
[前口上データダウンロード完了 決めポーズデータダウンロード完了]
 またしてもこの文字が意識を掠め、体の自由が利かなくなる
「夜闇にまぎれ、乙女を狙う悪の操り人形。セーラー服で鋼の体を包んだ私、セーラーウェポン1号が来たからには許さない!覚悟しなさい!!」
 SW1号はプログラムに従い前回と同じ決めポーズをとってた。
(なんでこんな恥ずかしいことを毎回しなくちゃならないの?)
 和美としての意識はその恥ずかしさに泣きたくなっていた。
 そのSW1号を認めたアンドロイドたちは襲い掛かる。しかし、その3体を難なくレーザーブレードで切り裂くSW1号。勝負は一瞬でついた。
「ふう、たいしたことない相手だったわ」
 SW1号は一息ついて倒れている少女に近づいた。

「あなた大丈夫?」
 そう言って少女の肩に手をかけた瞬間だった。
 少女の皮膚はひび割れその下から無骨な金属製のアームが出てきたのだ。
「な? きゃー!」
 SW1号は反応が遅れよけられず、両腕でガードする。しかしその凄まじいパワーに吹き飛ばされ、木に叩きつけられてしまう。
 メキメキ ズダーン
 その凄まじいパワーはそれだけでは済まず、木が折れ倒壊してしまう。
(あれがもし生身のボディーに当たったら・・・)
 和美としての意識が死に対しての恐怖を覚える。

 少女の方を見ると首から下の肌が全て崩れ落ち、そこからは先ほどのアームと同様人体を構成するパーツとは思えないような、無骨なフレームが現れた。
「どう、この機甲将ヴァネッサの作った戦闘用サイボーグMM04は?」
 少女の口からそう声がした。
「あなたはサイボーグとしては不完全、量産アンドロイド兵になら勝てても、私が捕らえた少女を改造して作り上げたこのMM04に勝てると思わないでもらおう」
 この少女は自分と同じようにサイボーグ化された人間だと言うことに気付いて驚く。
「MM04、もしこの目障りなサイボーグもどきを破壊したら、お前の姿について考えてやらんことはない」
 MM04がそう言った瞬間、今まで絶望の表情しかしていなかった少女の顔に、希望を見出したような色が灯る。
「本当ですか、ヴァネッサ様」
「ええ本当よ、頑張った子にはご褒美をあげなくちゃ」
 一人の口で口調を変えて会話をするMM04とヴァネッサ。
「わかりました。私、あのサイボーグもどきを見事破壊してご覧に入れます」
 MM04はそういうとSW1号の方に意識を向ける。
「あなたのようにしっかり人型のサイボーグには私の苦しみはわかるまい。いまここでバラバラにしてやる」
 ドスン、ドスン
と大きな音を響かせながらMM04が近づいてくる。SW1号は迎え撃とうとブレードを構えようとするが
[腕部関節エラー発生]
 その文字が流れ、両腕が上がらない。どうやら先ほどの攻撃で関節部に過負荷が係り、エラーが発生したらしい。
「腕がつかえなくても、まだ足があるわ」
 SW1号はそう叫んで飛び蹴りを繰り出す。
  カキーン
 金属同士がぶつかる甲高い音が響く。MM04のボディーにSW1号のキックがクリーンヒットしたのだ。しかし、MM04はまったくひるむ様子はない。
「すごいキック。生身の人間ならひとたまりもないわね。だけど私のウェイトではどうということはないわ」
 そう言って腕を振り回すMM04。
(このままでは勝てない。ブレード無しでは・・・)
 そのとき一つのアイディアが和美としての意識に浮かぶ。
(これなら勝てる)
 自分の能力とアイディアを比較してSW1号は確信した。

「こっちよ。私を倒したければこっちに来なさい」
 その方法は木々が生い茂るここでは不向きでした。そこでSW1号はMM04を挑発して誘い出すことにしました。
「虎の子のレーザーブレード無しで勝てると思っているの?」
 そう言い、MM04は追いかけてきた。
 そして、林の中、木のない地点まで来るとSW1号は飛び上がり空中で反転して、だらんと下がった手にブレードを発生させて斬り付ける。
 重力加速とブースターの威力で高速になったブレードはMM04の右腕をやすやすと切り裂く。
「きゃー! 私の腕がー!!」
 そう悲鳴をあげるMM04を横目に同様に左足を斬り飛ばした。
「もうあなたの負けよ。降参しなさい」
 その言葉を聞いたMM04はそれでも抵抗しようと左手を振り上げる。
「私がこの身体から開放されるにはあなたを倒すしかないのよ」
 和美はその姿に自分を重ねた。
「あなたではもう私に勝てない。それに博士に頼めばあなたの為の新しい体を作ってくれるかもしれない」
 思わずそう口走っていた。
「わかった。あなたを信じる。私じゃあもうあなたに勝てないし・・・」
 そういって、振り上げた左手を下ろし、差し出してきた。
 SW1号がその手をつかもうとした時、
「裏切りは許されないわ」
 そう言う声が聞こえMM04は左手と右足でSW1号を押さえ込んだ。
「裏切り者には死の制裁、その程度当たり前。でもあなたには敵と一緒に吹き飛んでもらうわ」
 そう言うと、MM04の表情は見る見る恐怖に染まる。
「自爆装置起動確認。いっいやーー!! 私死にたくない!!!」
 絶叫が響き渡る。

 SW1号は冷静に状況を観察した。
 先ほど抱えられた衝撃で腕のエラーは消えている。
「あなた、自爆装置は何処?」
 自爆装置さえ破壊すれば2人とも助かる。そう思ったのだ。
「私の胸よ。でもダメ。自爆装置は生命維持装置に繋がっていて、正しい手順で止めないと維持装置まで停止してしまうわ」
「そんな、それじゃあ出来ない」
 そう言った瞬間
[外部制御強制コントロールON]
の文字がおどり、和美の意思と反してレーザーブレードがMM04の胸を貫く。
「えっ?」
「かぁ、はぁ、いっ、いや、しに、た、く、な・・・」
 MM04は動きを止めた。
 研究所に戻ったSW1号は博士に向かって問い詰めた。
「なぜ? なぜあんなことをしたの? あんなことをすれば彼女が死ぬことは分かっていたじゃない」
「君は何を怒っているんだ。あのままでは君も一緒に吹き飛ぶところだったのを助けただけだろうが」
「でも彼女を助けることが出来たかもしれなかったのに・・・」
「君は何か勘違いしているようだな。君は兵器だ。正義の味方じゃない。兵器の役目は敵を倒すことだ。それを忘れるな」
 博士はそう言うと部屋を出て行った。

「私はただの兵器なの? 目の前で泣いてる子も助けられないの?」
 悲しみが和美の心に吹き込んでいた。

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