<マシーナリーメイデン謁見の間>
明かりの消えた謁見の間、その闇の中で1人膝を折り頭をたれひかえる人機将シルビア、そこに闇の向こうから声がかかる。
「シルビアよ、例のプロジェクト経過はどうなっている」
シルビアは頭を下げたまま答える。
「はい、ただいま素体の選定作業中です。幾分条件が厳しく難航している次第です」
「お前には期待している。最高の素体を選び出すのだ」
「はい、ご期待に添えるよう全力を尽くします」
「よし、行くのだ。そしてわが期待に応えよ」
「はっ」
シルビアが去り、部屋にはただ闇が残されるだけであった。
<機甲将ヴァネッサの改造処置室>
「完成した、この画期的なサイボーグで私の開発効率は飛躍的にあがるはずだ。さて、実験体1号はどれがいいかな?」
ヴァネッサは新しく開発したサイボーグを前に悩み始める。
「そうだ、あの娘がいい。記念すべき1号はあの娘にしよう」
「ここから出せー! 梓を何処に連れて行った! 梓を返せ!」
素体を閉じ込めておく牢の格子にしがみついて叫び声を上げている少女がいる。
「ずいぶんと元気だな、素体番号375。これなら今すぐ改造できるな」
そこにヴァネッサが入ってくる。少女はその姿を認めると食って掛かった。
「きさま、梓を何処に連れて行った! 梓を返せ!」
「梓? ああ、素体番号376の事? 返せと言われてもあれはあなたの物じゃないでしょ」
「うるさい! 黙って、梓を連れてくればいいんだ!」
「連れてくる? 困ったな・・・ あれは今動けないんだよ」
「動けない? 貴様梓に何をした! 梓は無事なのか! 梓に会わせろ!」
「大丈夫、あれは元気よ。まああれに素体番号375、あなたを会わせるために連れに来たんだ。連れて来い」
「おれはそんな名前じゃない、三井 久美ッて名前がある。それに梓をあれって呼ぶな」
「そんな名前、もう意味が無いけど。いいだろう久美、ついて来い」
少女は牢から出され、アンドロイド兵に両脇を抑えられ後についていった。
「さあ、感動のご対面だ」
そう言うヴァネッサだが部屋の中には手術台と思しき大きな機械があるだけで、梓の姿は無い。
「何言ってやがる! 梓は何処にもいないじゃないか」
「何言ってる? いとしの梓ちゃんはここにいるじゃないか」
ヴァネッサが指差した所には手術台があるだけだった。
「ふざけるな、梓を出せ」
「このままではわからないか、仕方ない」
そう言ってヴァネッサはリモコンを取り出し、手術台に向けてボタンを押す。
「何をしてる! 早くあず・・・ あっ、梓!」
「久美・・・」
「素晴らしいだろう、これが全自動生体改造装置サイボーグマザー01AZUSAだ」
手術台の一角から、セーラー服姿の少女がせりあがってくる。
「お前達の再会とこいつの完成記念に、お前をこいつの被験体第1号にしてやろう。やれ」
ヴァネッサが命令するとアンドロイド兵が久美を手術台に押さえつける。
「AZUSA、素体を拘束しろ」
「ハイ、素体ヲ拘束シマス」
AZUSAは無機質な声で応え、久美の体は手術台に拘束される。
「何だよ! 何するつもりだ!」
わめく久美を無視してヴァネッサは作業を続け、AZUSAの首筋にあるスリットにディスクを挿入する。
「改造用データ入力完了。改造処置手術開始シマス」
AZUSAはそう言うと、指先がメスや溶接用レーザーになった両手を持ち上げる。
「やめて! やめて梓!!」
「だめ、久美。体がかってに動くの」
そう言う間にもAZUSAの左手の中指についた注射器が久美の体に刺さる。
「いや、いやだよ、私こんな事したくないのに、体が勝手に!」
「もうお前は生体改造装置だ。あきらめて友人の体を改造するんだな。全自動なので私も楽が出来る。それから脳改造は最後にしておいた。ゆっくりと友人に改造されるのを楽しむんだな。はっはっは」
そう、笑いながらヴァネッサは出て行った。
「ごめん、ごめんね久美」
そう言いながら梓は泣き続けた。
「いいよ、梓が悪いんじゃないよ」
久美もそう言い続け梓をなだめ続けたが、その間にも久美の体は改造が進み、手足は切り外され、手足の付け根にアタッチメントが作られ、完全に機械化された手足が接続される。
ついに、AZUSAが久美の胸にメスを突き立てようとしたとき、
「私が、私が死ねば!」
梓がそう叫んで自分の腕に噛み付いたのだった。戦闘用に作られたわけではないAZUSAの腕はたいした強度ではないらしく、あっけなく折れてしまう。それとともに
「非常事態ガ発生シマシタ。手術ヲ緊急停止シマス」
と言いAZUSAの動きが停止し、久美の拘束具が外れる。
「久美、あなただけでも逃げて!」
梓がじぶんを心配そうに見ている久美に言った。
「そんな事できない! 梓も一緒に逃げるんだ!」
「無理よ。私はもう動けないわ。だから久美だけでも逃げて!」
「そんな! だめだ置いていけない!」
そこへ甲高い足音を響かせアンドロイド兵がやってくる。
「もう時間が無いわ。早く逃げて」
「わかった! でも絶対助けに来るだからその時まで・・・」
「ええ、また会いましょう。待ってるわ」
久美は落ちていた自分のセーラー服を掴みアンドロイド兵へ向かっていった。
「俺の邪魔をするなーー!!」
破壊された改造処置室にアンジェラが入ってくる。部屋の中の惨状を見、AZUSAを見て
「まさかこんな事をするとは、想像もしなかった。戦闘用ではないからと言って、繊細に作りすぎたか?」
「久美は無事に逃げられたみたいね」
「ああ、お前が余計な事をしてくれたおかげでな」
「これできっと久美が助けてくれるわ」
「いいや。奴は捕らえてお前に再改造させてやる。しかしその前にやらねばならない事ができた」
そう言ってアンジェラはAZUSAに手をかけた・・・
<数日後>
「幸恵ちゃん保健委員の仕事忙しいみたいだね」
「ええ、何か配布資料があるから、それをまとめる作業があるって言ってたけど」
「一緒に帰るから迎えに行こう」
「わかったわよ。それにしても双葉、あなた陸上部止めちゃってよかったの?」
「うん、いいんだ。今の僕は普通の人間とは違うんだから。
それに部活をやるよりも重要な事があるから」
「ええ、そうね。一緒に頑張りましょう」
「うん、そうだよ。がんばろう1号」
和美と双葉の2人は話しながら保健室前までやってきた。
「「失礼します」」
2人は声をかけて保健室に入ると、室内では校医の仁野先生が口に人差し指を当てて「静かに」とゼスチャーをした。
見ると二人の少女がベットで眠っていた。一人は和美たちの友人の幸恵だった。
「木下さん疲れがたまってるみたい。作業が終わったらつらそうだから休んでいきなさいって言たらそのまま寝ちゃったの」
仁野先生は微笑みながら「困ったわ」などと言っていた。
もう1人の少女はつらそうにうなされていた。
「由美ちゃん、お姉さんがもう少しで来るからね」
仁野先生がそう言って励ましていると入り口の扉が開き、1人の少女が入ってきた。
「すいません、妹が倒れたって聞いたんですけど」
そう言って入ってきたのは和美たちのクラスの副委員長を務める四之宮 麗だった。
「お姉ちゃん・・・」
「由美、大丈夫なの」
「うん、大丈夫だよ・・・」
由美はそう言って笑ったがとてもつらそうに見えた。
麗が由美を連れて帰り、保健室には四人だけとなった。
「四之宮さん。生まれつき体が弱くて、重い内蔵の病気があるそうなの・・・」
仁野先生はそう言って二人が出て行った扉の方を眺めていた。
しばらくすると幸恵が目を覚まし、3人で帰ることになった。校庭を横切ろうとすると1人の少女が3人に近寄ってきた。
「双葉先輩、なんで陸上部を止めちゃったんですか?」
「恭子・・・ ごめん。僕、陸上部続けるわけには行かなくなっちゃったんだ」
「そんな、私分かりません」
「今の僕はみんなと同じ条件で競い合うことが出来ない。だからダメなんだ」
恭子と呼ばれた少女はしばらくの間、双葉をにらんでいたがやがて諦めたかのようにグラウンドに戻っていった。
「良かったの? あんな事言って」
寂しそうな顔をしている双葉に幸恵が声をかけた。
「いいんだ。僕には和美ちゃんと幸恵ちゃんがいるから」
そう言って笑う双葉だったが、その表情にはつらい心内が見て取れた。
3人が校門を出ようとしたときだった。
(マシーナリーメイデンのサイボーグが現れた。SW1号、2号直ちに出撃だ)
和美と双葉はその通信を受けると顔を見合わせてうなずきあい
「「私(僕)急用を思い出したの、先に帰っていて」」
二人はそう言うと人気の無い学校の裏山へ向かった。
周囲に人影が無いか確認して擬人化モードを解除する。
[擬人化モードの解除確認 非戦闘モード解除 専用装備転送開始]
手足は本来のメタリックシルバーとメタリックグリーンに変わり、服が光の粒に変わる。さらに髪が身体と同じ色に変化する。最後に光の粒が集まって専用のセーラー服が現れる。SW1号の背中にはバックパックが接続され、ジェネレーターから手足にエネルギーが送られる。
ここにSW1号と2号は本来の兵器としての姿を取り戻す。
「1号、2号一緒のようだな。港湾部に奴らのサイボーグが現れた。今すぐ向かってくれ」
博士の通信を聞いた2人はステルスモードで港へと急いだ。
港湾部にはアンドロイド兵と機甲将ヴァネッサがおり2人の少女が組み合っていた。
「今のお前ではこの捕獲用サイボーグMM03に勝てない、諦めて再び改造されるんだな。そうすれば負けないだけの力が手に入るぞ」
「いやだ、私は梓を助けるって約束したんだ。それまで捕まるもんか」
久美はそう叫んだが、目の前の少女の右腕がネットのように広がり彼女を捕らえ、更に左腕の代わりに付けられているワイヤーが伸び身体を雁字搦めにしている。
「ごめんなさい。私もあなたを捕まえれば元の腕に戻してもらえるの。だからおとなしくして」
MM03と呼ばれた少女は済まなそうな顔で久美に言った。
それでも久美は諦めずに暴れ続けた。
「無駄だ。基礎改造しか出来ていないお前ではどうあがいてもそこから脱出する事は出来ん」
だが、そうヴァネッサが叫んだ瞬間、一条の光がワイヤーを切り裂き、ネットをバラバラにする。緑色の影が久美を抱き駆け抜ける。
「なんだ? まさか」
ヴァネッサは驚きの声をあげ、光が過ぎ去った方を見る。
そこには2体のセラー服姿の少女がいた。
「「夜闇にまぎれ、乙女を狙う悪の操り人形。セーラー服で鋼の体を包んだ私達、セーラーウェポンが来たからには許さない!覚悟しなさい!!」」
2体は見事にハモリながらポーズを決める。
「1ご〜う、何度やっても恥ずかしいよ」
「諦めなさい、この機能は何が何でも外さないって博士は言っていたわ」
2号として生まれ変わった後、数回の戦闘を経験し戦う事には慣れた双葉だったがこのポーズだけはどうしても慣れる事が出来なかった。
それは1号としてより長い時を過ごした和美にも同じ事だった。
「まさかSWが現れるとは。仕方が無い、MM03奴らを倒せ! 奴らを倒せたら生身の身体に戻してやる」
ヴァネッサがそう言うとMM03は再び腕のワイヤーを伸ばし、臨戦体制をとった。
しかし、戦闘用に作られたSW2体相手では捕獲用に作られたMM03では相手にならなかった。
両腕は何度も切り裂かれ、アンドロイド兵も全て破壊されてしまった。
「さすがだな。戦闘用ではないMM03では勝ち目は無いか。仕方ない、それでも目くらましぐらいには使えるだろう。MM03自爆しろ」
ヴァネッサは冷たくそう言い放った。
「そんな、元に戻してくれるって言ったのに、いやよ」
MM03は悲鳴をあげるが、その姿にヴァネッサは冷たく言い放った。
「ああ、それは嘘だ。お前はもう耐用限界に達していてな、これが終わったら解体するつもりだったんだ。それじゃあ私は逃げさせてもらうぞ」
MM03の身体は赤熱し今にも爆発しそうになっている。
「2号逃げるわよ、その子を持って掴まって」
1号は2号と久美を連れ緊急ブーストで退避する。
「いや、私死にたく・・・」
ズドーーーン!!!
MM03は爆音を上げ、自爆した。
後には何も残っていなかった。
「それで彼女はどうするんですか?」
博士の研究室に戻り、久美を博士に預けて1号は尋ねた。
「身体をかなり改造されているな、このまま元の生活を送らせるわけには行かないぞ。それに奴らに狙われているんだろう。この子がよければSW3号として再改造したいが」
博士がそう言ったときだった、今まで眠っているようだった久美は体を起こし、3人の方を向き言った。
「かまわない、奴らを倒せる力が手に入るならいくらでも改造してくれ」
それを聞いた1号はあわてて考え直すように言ったが、久美の意思は固く最後には1号もみとめ
「わかったわ、一緒に戦いましょう」
と言った。
そのあと、久美は再改造処理を受け、SW3号としてメタリックレッドの手足を持った戦闘用サイボーグ兵器として生まれ変わったのだった。

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