(オプションパーツの本編最終回です)
−−(36)屯田兵−−
(核パルス艦”まりあな”就航から1年半後 冥王星ーカロン重力均衡点の”なると”)
みどり:「減速完了。静止しました」
マサ:「あー、やっと着いた。久しぶりだけど相変わらず寒々とした風景だな」
真理亜:「無駄口叩いている暇はないよ。隕石移動装置が溜まってるんだからね。マサは大至急リストアップされた氷隕石を回って設置マーカーを撃ち込むこと。マオとミキはそれぞれ5名を率いて周回軌道の隕石移動装置群を捕捉せよ。捕捉したら各群に連結された二式降下艇に移乗。そのまま曳航作業に掛かれ」
マサ:「リストって、えーっ、こんなに沢山。目が眩みそう。ひええ」
真理亜:「そりゃ、こっちが片道飛ぶ間に”まりあな”は3往復してるからね。しかも、1回で60基の隕石移動装置を積んできてるから当然だろうが」
マサ:「しかし、60個の氷隕石に180基設置なんて大変だわ」
真理亜:「完成品を曳航用降下艇ごと運んできてあるから扱いは楽でしょ。設置だってマーカー打っておけば自動降下・自動設置なんだからね。昔とは比べものにならないくらい1基当たりの手間が少ないのよ。気合い入れてかかれば隕石1個あたり1時間で片づくはずだろうが。10日後に再び”まりあな”が着くから、全部片づけておくんだよ」
マサ:「あれ?。リストが61行ありますが?」
真理亜:「61個目は”まりあな”の帰りの積み荷になるのよ。艦載エキシマで裁断して積み込めるようにする必要があるからね。指示書があるでしょ。その通り裁断用にマーカー撃ち込むのよ」
(6日目 61個目の氷隕石)
マサ:「ふう。ようやく最後のやつか。よく飛び回ったなあ。で、ふんふん。3方向から4掛ける4に切り刻む訳ね。だから1方向16個ねえ。マンドクセ」
真理亜:「今から”なると”でそっちに向かう。マークは済んだか?」
マサ:「えっ、これからですよぉ」
真理亜:「15分で到着する。それまでに必ず済ませるんだ。遅れたら氷隕石ごとエキシマで切り刻まれることになるからね」
マサ:「ひいい。真理亜様サド全開だわ。マジでやばいよ。よし、ここから。マーカー連射だ。いけいけいけ。よし次、側面...」
真理亜:「ふむ。出来ているようね。帰艦してよし。正面は避けろよ。みどり、エキシマ照準合わせいいか?。裁断射撃開始よ」
みどり:「マーカー反応視覚オーバレイよし。原子炉出力微増、27%。連続照射モード設定よし。発射します。カッター・ビーム!。さくっ...?あれ?気分はテスター1号機のリサだったんだけどなぁ。さくっと切れないわ。なかなか切れないものですね。さすが極低温。手強いわ」
真理亜:「リサ?。誰それ?。ああ先日北米連で事件起こした飛行士のことか。カッタービームとおむつ事件のバカ飛行士に一体何の関係があるって言うのよ?おしっこひっかけたぐらいで巨大氷隕石が切れるわけがないでしょう」
みどり:「爆走おむつ飛行士じゃなくて古典に出てくるゼロテスターの方ですよぉ。もしかして、真理亜様ご存じ無いんですかぁ?。帝大卒なのに」
真理亜:「帝大は実学一辺倒だから古典なんか知らないわよ。貴族は忙しいのよ。とにかく、巨大氷隕石だからね。レーザーをいたわりながら根気よく切り出しなさい。おそらく3日はかかるでしょうね。”まりあな”到着までぎりぎりかしら」
みどり:「それで開始を急いでいたんですね。裁断に3日もかかるのか。すると、その間私は不眠不休でレーザー撃ち続けるのですか?」
真理亜:「無理に決まってるでしょ。くも膜下出血で過労死しちゃうわよ。ちゃんとサイボーグの弱点判ってる?。当直割りで交代ね」
マサ:「戻りました。ところで”まりあな”が来るとまた移動装置も来ますね」
真理亜:「当然。私らが帰れるのはあと20個の氷隕石を処置してからよ」
マサ:「1年で80個ですか。これだけ降らせればさすがの金星も冷えるかな」
真理亜:「既に2回別の艦が同じ事をやってるから帰ったらもう始まってるわね。今回送り出す氷の量が約400万dね。他の便でもだいたい同じ量でしょう。金星大気は90気圧もあるから高緯度地域なら少し冷えれば降水を呼び込めるわ。今までは氷が少なかったから水深が大きくなる前に溶けて効果が落ちていたのよ。それに降水の殆どが硫酸になって降ってくるため炭酸ガスが溶けなかったでしょ。でもこれだけの水量を1個のクレーターに集めれば、さすがに硫酸も薄くなるわね。水面で10気圧もあるのだから、ガスを水に押し込む力も地球の比ではないわよ。恐らく水深が数百bを超えれば炭酸ガスの閉じこめ効果もいくらか現れるでしょう。水圧で沈み込んだ炭酸ガスはあとから硫酸の雨が降ったって出てこないからね。湖を中心に半径200`程度は摂氏100度未満の低温地域になるとの予想よ。3年間で3つの大クレーターを形成するの。その中心では突風もきつくないはずよ。これが成功すれば地上降下が可能になるから、さらに別の手も打てるでしょう」
(3日後)
マサ:「反復する核爆発を探知しました。”まりあな”以外の可能性はありません」
みどり:「よく見えますよ。さすがに核爆発は明るいなあ。あ、終わったようです。頭をこっちに向けましたね。さらに減速しています。周回軌道に乗りました」
マサ:「重力均衡点には停めないつもりかな」
真理亜:「あの重量でバーニアは大して増強していないから停泊が難しいのよ。重力均衡点なんて空間の1点だから、ずれたら冥王星かカロンに落ち出すでしょう。どうせ裁断した氷隕石を積み込むのだし、ここに向かってくるはずよ」
マサ:「氷の積み込みは自力でやるんですか?。人数少ないと時間かかるなあ。細かい動きが苦手なら横付けは出来ないでしょうから降下艇で引き込むのかな」
真理亜:「エアロックに入れてしまえば自動処理装置で水に出来るんだけどね。積み降ろし要員は5人くらいしか乗っていないから手伝ってやった方が早いわ。マオ、ミキ、こっちで使える降下艇を動員して裁断した氷を引っ張って行って頂戴。入れ替わりに”まりあな”が積んできた隕石移動装置を貰い受けてくるのよ。例によって10基の移動装置がワイヤーでつながって両端に降下艇が付いてくるわ。氷を曳いていった降下艇はあっちの格納庫に置いて来て良いからね」
知子3世:「こちら”まりあな”、10分後に61番マークの氷隕石と会合します」
真理亜:「こちら”なると”隕石前方200`に居ます。積み降ろし手伝うわよ」
知子3世:「宜しく。いつも少人数で時間がかかっていたので助かります」
真理亜:「短期間でその重い船を見事に乗りこなしているわね」
知子3世:「貴女が育成した理美のお陰ですよ。そちらは大変じゃないですか?」
みどり:「ちゃんとやってますのでご心配なく」
知子3世:「それは失礼したわね。みどりも一人前か」
冬子:「みどり、ちょっと慣れたからって宇宙で油断なんかしちゃダメよ」
みどり:「お母さんは相変わらず心配性ね」
冬子:「そんなに嫌うなって。火星大工場土産のお花持ってきたわよ」
マサ:「そりゃあどうも。もう花の栽培が始まっていたのか」
冬子:「私らが往復する度に水が6万d増えるので使い道に困っているのよ。積まないと加速がきつすぎて私らが保たないし、棄てるのはもったいないわ。余ってるとは言っても、外国船に売りつけたらすごい単価になるわけで。農産といっても食料作ったってなかなか売り切れるものでもないでしょう。花や酒なら単価が高いからどうにか地球へ輸出もできるからね」
マサ:「閉鎖空間の工場衛星じゃ大型化したって3ヶ月に水6万dは大杉だよ。政治的に金星直行ができないのが痛いよね。金星なら焼け石に水でも欲しいのにな。氷隕石落下前に外した移動装置を回収するため別の船を出すのも大きな手間だし。水ならどこでも要りそうだけど、火星の地表には降ろしていないの?」
冬子:「火星の気圧じゃ深い盆地の底でも特殊な品種しか栽培できないでしょ。揚げ降ろしも入れたら洞窟でやるくらいなら工場衛星で育てる方が低コストでして」
マオ:「”まりあな”のハッチに着きました。氷を置いて移動装置を曳き出します」
真理亜:「1組6往復がノルマだからどんどんやって頂戴。氷が済んだら一旦”なると”に帰って生命維持物資の搬送も頼むわね」
ミキ:「こちらも到着しました。すぐ次に取りかかります」
(カロン給水施設前の氷原)
マオ:「やっとここに来れたわね」
ミキ:「でも、”なると”への給水が順調だと滑れるのはたったの4日よね」
マオ:「無いよりはましだわ。少ないチャンスを生かさないと」
ミキ:「よーし、やるか。久しぶりにスピン競争でもしない?」
マオ:「よーし、片手ビールマン、どうよ?」
ミキ:「鈍ってるわね。ひひひ、これでどうだ?。おっと、お尻が冷たいな」
マオ:「いきなりこけちゃって。そんな肩の冷える格好危ないよ。あんたこそ、無理するとまた肩関節がもげることになるわよ」
ミキ:「耐寒外装だって随分進歩したんだから大丈夫よ」
マオ:「さて、ちょっと滑って勘も戻ったし、中継準備にかかるかな」
ミキ:「ん?。中継って先日言っていた”矮惑星選手権”ってやつのこと?アレ、冗談じゃなかったの?。ネタだと思っていたんだけど」
マオ:「ちゃーんと地球中に放映されるし採点も公式記録になるのよ。まあ、実態はパパの商売の手伝いだけど、表向きは公式競技だからやる気出してよ」
ミキ:「なるほど。では本気出すか。まずはショートプログラムでジャンプ競争かな」
マオ:「行くわよ。そーれ、どうだいこの回転数。あんたじゃ腕もげるよ」
ミキ:「このミキ様がいつまでも同じ失敗なんかしないわ。新素材の威力を見るが良い」
マオ:「うそ。いつも腕もげてたのに。あ、しまった気を取られてしくじったか。ちっ」
ミキ:「よし。いけてるわ。優勝はもらったな」
マオ:「なんの。完璧フリーで抜いてやる。三連続トルネードジャンプ、これで勝ったわ」
ミキ:「甘いな。こっちも今日は調子良いから何一つしくじりそうもないわ。そーれ」
マオ:「えっ?。うっそー。あんなバニースーツみたいな衣装じゃ背中凍結するはずなのに。それ、故障しろ、故障しろ...なにぃー最後までノーミスで行っちゃったよ」
ミキ:「はい。ということで、世界が注目する矮惑星選手権はミキ様が1位だね」
マオ:「うー。感動の逆転優勝の筈だったのにぃ。悔しい」
ミキ:「さて、積み込む水も魔法瓶に溜まった頃だな。いつまで睨んでたって結果は変わらんがな」
マオ:「仕方ないなぁ。次はショートプログラムも気合い入れなくちゃ」
(”なると”艦橋)
ミキ:「給水作業が終わりました」
マサ:「ご苦労さん。”まりあな”就航で降下艇を沢山置いていくから給水が早くなったわね」
マオ:「任務期間短縮は有り難いけど、忙しくて滑る時間がちょっとしかとれなくなっちゃったわ」
真理亜:「休みが増えてるんだからその分は地球で副業にでも精を出す事ね。すぐに発進よ」
みどり:「艦内各部加速警戒態勢完了です。原子炉出力上昇。グリッド通電。推進剤注入始めます」
マサ:「地球かぁ。ブランドファッション、酒、売春...全てが懐かしい」
真理亜:「私らの休暇は私用で金星。落札したプラットフォームに別邸建てさせたからね」
マサ:「ありゃ。隠れ家は良いけどあそこでは売春できないよorz」
真理亜:「先行便の氷隕石群が落ち始めていると言ったでしょ。落札した領地の一部が湖面になるのよ。しかもそこに隣接する領地の端っこは、3つの氷クレーターに囲まれる弱風区域にかかっているわけ。うまくいけば領内に80度くらいの弱風低温域が出来てくれるから地上を見られるわ」
マサ:「降りるつもりですか?。いくら何でも危険だと思いますが」
真理亜:「リモートボディなら降ろせる可能性が大きいわ。耐高温高圧用の特注品を用意させてるの」
マサ:「なるほど。それじゃ、地獄巡りに向かって帰りますかね」
(火星軌道 大工場 岸壁)
メタラニ:「やっと帰れるね。ずいぶん長居をさせられたわ。契約オーバーもいいとこよ」
メタリカ:「本国で史上初めて宇宙飛行士が犯罪で逮捕されてせいだってさ」
メタルナ:「はぁ?。おむつリサの件?。それが私らと何の関係があるわけ?」
メタレア:「宇宙飛行士の精神検査が厳格化されて全員チェックが済むまで飛行停止だって。スージーとリンダは民間人だから除外って話もあったけど結局宇宙局の請負条件になったんだって。それで検査の順番待ち。当局は月資源関係が最優先だから私らの都合なんか考えないのよ。で、後回しにされて、しかもあの二人は体が特殊だから検査方法で揉めたらしいわ」
孫:「その通りよ。私らも帰ったら検査されることになるわ」
メタラニ:「誰が!。こんな所もう来ねえよ」
メタリカ:「全くだわ。こんな島流しみたいな待遇絶対ご免ね」
メタルナ:「金輪際再契約なんかしないわよ」
メタレア:「そうそう。核パルス艦が何往復も飛ぶのをただぼんやり見送ってさ。よく判りもしない核工場を見回るばかりの退屈な仕事でセックスする機会もないなんて最悪。使えないからお金も貯まったし、帰ったらまた元通りニートになるわ。前よりリッチにね」
孫:「藻舞等使えないからそう願いたいね。でも、代わりが見つからなければ強制動員されるわ」
メタラニ:「冗談じゃないわ。例のおむつリサが刑罰代わりに島流しされればいいのよ」
メタリカ:「でもおむつリサって、メタロリじゃないわよ」
メタルナ:「刑罰だから四肢切断なんか当然じゃん。どうせ員数合わせならダルマのままで良いわ」
メタレア:「そうよね。とにかく私は絶対再契約なんかしないわ」
孫:「おい、スージーが早く出ろといってきたぞ。無駄口叩いてないでさっさと乗り込むんだ」
メタラニ:「相変わらずせっかちな機械人間たちね」
メタリカ:「また磔台で猛加速に耐える地獄の日々かぁ。憂鬱だわ」
孫:「早く持ち場に着くんだ。余計なこと考えてて事故起こしたら即お陀仏よ」
メタルナ:「はいはい。右舷レーダー映像良好」
メタレア:「同じく左舷良し。エアロック外壁まで200b。余裕ですよー」
管制官:「北米連査察船出航完了後、待機中の満漢連絡船が入港する。警備兵は入管業務体制を採れ」
警備兵:「あら?。満漢は査察船が出ないうちにもう次が来たの?。今日は賑やかだわ」
管制官:「満漢連絡船は査察船隣への接岸を要求している。満漢船間の往来は入管対象外とする」
警備兵:「へえ。手間が省けるわね。気が利くじゃないの」
(ベイ内の満漢人民共和国査察船 蛸部屋)
査察官:「入電。發人民党本部。経由月火星連絡船弐号。査察官、操縦員両名、交代連絡船乗船下命。新査察官居住港湾飯店。本船編入隕石鉱夫団。乗員、新着・隕石鉱夫団長、新着・操縦員、鉱夫九名。月面苦力隊九名、免兼務査察団、命兼務隕石鉱夫団。尚戸籍付与、所属地域小惑星帯。脱無戸籍祝賀」
達磨娘・月面苦力1号:「悲惨。我々置去。地球帰還不可」
達磨娘・月面苦力2号:「祝賀論外。小惑星戸籍、無戸籍以下也」
達磨娘・月面苦力3号:「懇願。農村戸籍付与」
査察官:「全人代議決新人口制限法。無戸籍者原則地上居住禁止。不法居住者生存権剥奪、肉畜扱。小惑星戸籍無償付与特別慈悲也。農村戸籍特別付与税壱億元、都市戸籍特別付与税壱拾億元也」
達磨娘・月面苦力4号:「壱億元!。絶望的金額也」
達磨娘・月面苦力5号:「小惑星戸籍棄民同然」
達磨娘・月面苦力6号:「嗚呼、地球帰還願望」
達磨娘・月面苦力7号:「最低限壱人壱式手足譲与希望」
査察官:「隕石鉱夫団参交代勤務。手足増備不要也」
達磨娘・月面苦力8号:「号泣」
査察官:「不平発言処罰制度存続中。以後雑言禁止」
達磨娘・月面苦力9号:「諸盆」
管制官:「満漢連絡船接岸完了。警備兵は入管体制。繰り返す、警備兵入管体制...」
査察官:「我移乗。再見」
達磨娘・月面苦力1号:「壱億元、壱億元...方法思料」
達磨娘・月面苦力2号:「公式販路当局搾取率劇高必至」
達磨娘・月面苦力3号:「禿同!、勤勉隕石資源収集到底一億元収入不能」
達磨娘・月面苦力4号:「隕石資源採取量計測杜撰必至」
達磨娘・月面苦力5号:「高単価資源物横領、帝國転売名案也!」
達磨娘・月面苦力6号:「禿同!。貴金属類隠匿手法検討」
達磨娘・月面苦力7号:「剛体宇宙服内部空隙大也」
達磨娘・月面苦力8号:「空隙使用手足制御接点支障不安」
達磨娘・月面苦力9号:「無問題。制御接点伝達部密着構造也」
(地球静止軌道 第1工場衛星 ベイ)
みどり:「着床まで5m。係留ポール挿さります。あっひっ...イイ。入りました」
真理亜:「ご苦労さん。総員退艦せよ」
マオ:「真理亜侯、工場の義肢設計部に寄り道したいので許可願います」
ミキ:「私もお願いします。マオ、足の部品で出し抜こうったって、そうは行かないわよ」
真理亜:「二人とも良いわよ。だけど工場の特例志願兵も再改造要員に引き抜かれているわ。人手が減って大変だから、あんまり面倒な特注品は引き受けてくれなくなってきてる鴨ね」
マサ:「そういえばひとみさんはどうしているかな。脳性麻痺だから残っているかな」
真理亜:「まだ居るわ。今度私らが金星に持っていくリモートの足を担当しているわね」
マサ:「そうでしたか。だったら私たちも寄っていかないんですか?」
真理亜:「頼んだ仕事は終わっているし向こうも忙しいでしょ。こっちも時間無いし」
マサ:「時間ったって、休暇入りでしょう?」
真理亜:「あのねえ、金星の自転考えなさい。軌道中継ステーションは静止衛星じゃないのよ。到着時刻が悪いと、うちの浮遊プラットフォームに降りるタイミングを待つことになるわ。30分以内に発進すれば乗換待ちが殆ど要らないけど、逃がすと30時間待ちなのよ。着いたらやることが一杯あるのに丸1日以上遅れちゃ堪らないわ。さあ、急ぎなさい」
マサ:「はぁ、今回の休暇は全然マターリできないのかよ」
(青の公家 連絡艇)
マサ:「この艇を使うのは初めてだけど、なかなかしっくり来ますね」
真理亜:「そりゃそうよ。藻前が頻繁に使う想定で迎撃艇をベースに作らせたからね。燃費とペイロードを考えたら資源収集艦をベースに小型化する方が遙かに合理的なのよ。高速連絡艦の増備で余った旧式の4グリッドイオンエンジンが安く公売されているからね。ところが藻前は操舵員能力が低くて迎撃艇なら大得意ときてるだろう。おかげで不経済な化学エンジン併用で積載力極小の迎撃艇をベースにする羽目になったんだ。戦闘用でもなく大気圏に降りられるわけでもないのに無駄な急加速性能だけが取り柄でね」
マサ:「プラットフォームの固定資産税代わりに炭素吸収義務が課されているじゃないですか。どうせエタノールを生産して金星から持ち出さなきゃいけないから余るでしょう」
真理亜:「藻前のせいで酒にして地球に輸出できるものをただ燃やしているんだよ」
マサ:「最近、酒は火星大工場で量産されてるからどうせ太刀打ちできませんよ。もう値崩れする時代なんだから水余りの生産拠点には敵いませんって」
真理亜:「そんなことは無いわ。ワイン作るなら天然の日照がものを言うでしょうが。日当たりの良い金星産ワインを蒸留してブランデーにすれば上物になるんだよ。火星大工場で作ってるのはウォッカや焼酎が殆どだから市場が競合しないでしょうが」
マサ:「プラットフォームに葡萄を植えたんですか?。なら休暇中は飲み放題ですね」
真理亜:「水不足で日照が強い場所なら当然の選択よ。飲むのは良いがちゃんと働けよ」
マサ:「ワイン造りは楽しそうですね」
真理亜:「コギャルが踏みつぶした葡萄を使うと高級ワインになるって決まってるんだ。藻前もコギャルを標榜するなら精々公家の利益に貢献しなさい」
(金星 青の公家私有浮遊プラットフォーム)
マサ:「着陸床まで8m。降下速度0.5`。そのまま着床します。よし着いた。さーて、酒だ酒だ」
真理亜:「その前に積み荷を降ろしてカプセルをリサイクルバンカーに入れるんだよ。12時間後に次の氷隕石が落下するから衝撃波に備えて全部安全に格納しないとダメ」
マサ:「え?、どうせ退避命令が出てるから東に300`移動するんでしょ」
真理亜:「移動しても爆風が拡がるから少々揺れるの。備えは必要でしょうが。着陸床にカプセルを放置なんかしていたら転落する恐れがあるんだからね」
マサ:「はいはい。リモート体は接続して歩けば済みますが水10dは大変だなぁ」
真理亜:「水はカプセルをリサイクルバンカーに入れれば自動処理されるわよ。まずリモート体をそれぞれ1体ずつ接続して外に出しなさい」
マサ:「接続しましたよ。貨物扉開けます」
真理亜:「よし、私が反対側を持つからそのままリモート体でカプセルを持ち上げて」
マサ:「え?。いくら重装甲ボディーがベースでもそんな力あるんですか」
真理亜:「電池がすぐ減る代わりに力は十分よ。はい、せーの、そのまま右に20m」
マサ:「バンカー扉開けます、よしここで良いですね。うーん、こりゃ軽々だ」
真理亜:「感心してないでバンカーに降ろしたらリモートを退けて本体が降りること。ぼんやりしているとカプセルごと自動リサイクルされてしまうわよ」
マサ:「あ、あわわわ、本体復帰、真理亜様待ってよぉ」
真理亜:「ちっ処理し損なったか、なーんちゃって」
マサ:「ふう。何なんですかこの危ない施設は」
真理亜:「だから手間要らずの自動リサイクル施設よ。カプセルを自動解体するの。タンクの水は勝手に抜いてプラットフォームの水槽に回収してくれる優れモノよ。もちろん解体したカプセルは全自動で融解して打ち上げロケットにしてくれるわ」
マサ:「手間いらずは禿同ですが、もっと安全な造りに出来ないのかと小一時間」
真理亜:「そのまま融解されるようなのろまは青の公家、いや宙軍全体に不要よ。さあ、次の仕事に備えて体の換装よ。放射能ワインじゃ売り物にならないからね」
(換装室)
マサ:「換装は良いですが、ここには消化器官が置いてないですよね」
真理亜:「ああ、今回の休暇中は酒だけにして。どうせここで美味い物は酒だけだし。次に来るときまでには、豚消化器を手配して置くけど、今回間に合わなくてね」
マサ:「そんな悪寒がしていたけどやっぱりか」
真理亜:「ぶつぶつ言うな。換装したらそっちの衣装に着替えてワイン工場よ」
マサ:「なんすか?。あの妙に地味ーなゴスロリもどきは」
真理亜:「17世紀南ヨーロッパ風のドレスよ」
マサ:「何故そんな中途半端に古風な代物を?」
真理亜:「ワカラン香具師だな。高級ワイン造りは形からよ」
マサ:「はあ。そんなものですかね」
(ワイン工場)
真理亜:「汚さないようにスカートの裾を持って踏むんだよ」
マサ:「だからぁー。何故こんな古風なドレスで作業するのかと小一時間...」
真理亜:「高級感だよ高級感。藻前の育ちでは理解できないかも知れないが重要なの」
マサ:「それとここの石造りの壁なんかも関係あるんですか?」
真理亜:「当然。室内の大気成分まで厳密に古城を再現したのよ」
マサ:「ここは良いけど葡萄畑の大気まで再現するのは無理でしょう?」
真理亜:「そんなことは無い。畑を囲う外壁をガラスでなく有機多層膜にしてあるでしょ。あれは適度に外気の二酸化炭素と畑で余った酸素を交換してくれるように調整してある。同時に多層膜光フィルタとして日照の波長成分も最適化するんだよ。機械で調整するのは加湿器の運転だけで地中海沿岸に似た気候を作れるよ」
マサ:「そこまでの技術がありながら原始的な葡萄踏みも必要なんですか?」
真理亜:「酒は生き物なんだよ。だからワイン造りにはコギャルの精神が欠かせない。この作業だけはロボットや遠隔リモート体では出来ず、本体でやらないとダメね」
マサ:「それでわざわざ休暇に金星通いですか。余程美味いのが出来ないと割に合わないな」
真理亜:「飲んでみればすぐに判るよ。それに仕事は葡萄踏みだけではないわ」
(金星プラットフォーム青の公家別邸内 円卓の間)
マサ:「ふむ、このブランデーは上物だけど何かが欠けている気がしますね。売れませんよ」
真理亜:「藻前は育ちが悪い割にどういう訳か味覚と性感だけは鋭いからすぐに見抜いたな。ここの改装後すぐに仕込んだものだったけど使ったアルバイトがイマイチの香具師でね。衛生的で良いと考えて脚をステンレス外皮の扁平足に換装して葡萄踏みをやってくれたんだよ。ステンレス外皮の脚を舐めてみたいと思うのは余程特殊な趣味の奴だけだろう?そういうことだよ。葡萄踏みは舐めたくなるような脚でやらなくちゃダメさ」
マサ:「確かに。私ならそんなコギャル精神に欠けたやぼったいことはしませんね」
真理亜:「ところで今日落下した氷隕石は見事に最寄りのクレーター中心に入ったそうだ。まだ正確な数値は出ていないが、ここの真下の地上温度が80度前後になる可能性が高い。30時間ほど様子を見てそれで安定しそうならリモート体を降ろして探検してみよう」
マサ:「もうやるんですか?。温調で電気喰うから電池が2時間保つかどうかでしょ?あのリモートには発電能力がないんですよ。短時間ではろくな成果が上げられません」
真理亜:「リモートだけ降ろすわけではない。小型の格納ドームごと気球で降ろすのさ。格納ドームはごつい魔法瓶みたいなもので温調も付いているから中で整備が出来る。風力発電機が付いているし緩いほうと言っても相当な風はあるから電力は十分取れるだろう。ドーム内の温度を50度ほどに保ってもリモートの充電に回す余力はあるよ」
(資材倉庫)
マサ:「何ですか?。あの紙袋の山は」
真理亜:「石灰だよ。ドームを降ろす場所一帯に撒いておくのさ。地面は強酸性だからね。チタン製のドームでも濃硫酸がしみこんだ地面に置いたらじきに腐食してしまうのよ。それに耐酸性の遺伝子組み替え植物を蒔いてみるにはなるべく中和する必要もあるわ」
マサ:「雲が厚くて光が少ないから地面の酸性を中和したって難しいでしょう?」
真理亜:「焦熱地獄になるくらいだから波長の長い光は沢山届いて居るんだよ。火山の周辺とか酸性土でも草は生えるしコケや下草のように少ない光で育つものもある。そういう種を元に野菜類の遺伝子を組み替えて耐酸性と葉緑体の適合波長を操作したのさ。まあ、結果はどうなるかやってみないと皆目見当が付かないけどね。1品種でも根付いて蔓延れば一帯の温度安定化に大きく効くからめっけものさ。プラットフォーム上の作物やドーム内のサボテンなんて量が少なすぎるからね」
マサ:「意味は分かりましたが、撒くのはどうやってやるんですか?一つ100`とすると1000dほどありそうですよね。手で撒くんですか?リモート2体でこんなに沢山撒くのでは気が遠くなりますよ」
真理亜:「石灰袋の中心に爆弾を仕込んで爆撃するのさ。そのセッティングに来たんだよ。そっちに大量のカプセルがあるだろ。あれに酸素と水素の爆鳴気を詰めるんだ。カプセル内に圧力信管が付いているから地表付近の気圧で自動点火される」
マサ:「なるほど。爆発とともに少しでも水蒸気を出そうって訳ですね」
真理亜:「その通り。少しでも湿気が有った方が中和反応が進むだろう」
(プラットフォーム制御室)
マサ:「赤外線計によるとこの真下は地表温度77度、位置はクレーターの縁から5`です。大気の吸収が大きいから温度の計測精度はあてになりませんがね。地球から石灰を持ってくる手間を考えるともうちょっと余裕が欲しいかなあ」
真理亜:「一応予定に近いか。やってみるしかないわね。投下始めて」
マサ:「投下装置始動します。ベルトコンベア始動、プラットフォーム推進器微速」
真理亜:「よしそのまま。投下しながら500b進んだら右に回って折り返しよ。往復しながら500メートル四方の地表を絨毯爆撃するんだよ」
マサ:「そろそろ届く頃だけど、あ、閃光見えましたねうまく地表付近で爆発してます」
真理亜:「これで当面作業する場所は中和できそうかな。終わったらリモート降ろすよ」
マサ:「80時間後に次の氷隕石落下ですよ。爆風は大丈夫かな?」
真理亜:「次の落下地点は一番遠いクレーターだから問題はないな。むしろ落ちるところを地上から観測できる貴重な機会だね。近くに落ちるのは次の次だからそれまでに格納ドームを固定すればいいさ。すぐにリモートを起動してド−ムに入れるんだ」
(リモートボディ格納ドーム)
マサ:「入り口ロックしました。気球にヘリウム入れ始めますよ」
真理亜:「浮き上がる寸前で停めてクレーンで降ろすんだよ」
マサ:「浮力9d、こんなものかな。出しますよ」
真理亜:「降りていくと気圧でしぼむから加速付きすぎないうちに足すんだ」
マサ:「リモート体とはいえ金星地表に向かって落ちるのは気味悪いなぁ。外気温100度超えましたね。ずいぶん上がってるな。大丈夫かしら」
真理亜:「この高度じゃ氷クレーターの影響も風で薄まってるからさ。クレーター付近の地表ならもっと低温だよ。それより気流に気を付けて。あんまり流されると良いところに降りられなくなるから早めに戻すのよ」
マサ:「側面バーニア噴射。戻った。絞って。これで対地速度はゼロですよ」
真理亜:「うん。いいよ。気温も下がってるだろう」
マサ:「ちょっと落下が早くなってきた。ヘリウム足します」
真理亜:「着地は秒速2b以下にしたいな。荒いと水タンクが危ない」
マサ:「秒速5b、気球膨らみにくくなってきましたよ」
真理亜:「タンクの水を500`放出するんだ」
マサ:「ここで水が1割目減りするのは痛いですね」
真理亜:「どうせ種撒く辺りが濡れるんだから無駄でもないさ」
マサ:「放出しました。落下速度秒速3b。まだ減速してます」
真理亜:「良いペースよ。最後は逆噴射で合わせて」
マサ:「高度50b。逆噴射かけます。高度20b。着地。よーし成功」
真理亜:「喜ぶのは早い。すぐ気球を畳んでアースドリルを回しなさい。ここで突風が来たら飛ばされてしまうわよ」
マサ:「アースドリル始動。ヘリウム回収ポンプ回します。う、遅い」
真理亜:「気球を収容しないと風車が展開できないから電気がないのよ」
マサ:「この状態は確かに危ないですね。気球を棄てた方が早いんじゃ?」
真理亜:「地表でめぼしいものが見つかったら上にあげるのに要るでしょうが」
マサ:「あ、そうか。気球収納まで9分です。アースドリル食い込み40aです。遅いよぉ。地面固いなあ」
真理亜:「硫酸の雨がしみこんで硫酸塩の結晶になっているから仕方ないわ。固い方が刺さった後の安定は良いから地盤が悪いとも言えないしね」
マサ:「でも、こんなんじゃ種撒いたってなかなか根付きませんよ」
真理亜:「石灰袋の爆発で砕けた場所を狙うしかないわね。あとは持ってきた種の中に根性のある奴が混じってるのに期待するしかないな。一応、古代蓮だの、ど根性大根、ど根性トマトとかいかにもって遺伝子は集めたわ。どいつも藻前と違ってちょっとやそっとではへこたれない代物よ。色々撒けば一つや二つは生き残ると思うけどね」
マサ:「まるで私が軟弱者の代表みたいな言い方ですねぇ。まあいいか。アースドリル2b入りました。もう良いでしょうね」
真理亜:「よし。停めて速乾セメントを注入するんだ」
マサ:「注入します。気球縮んだので収納します」
真理亜:「気球が片づいたら発電風車を出すんだ。これで電気に困らなくなる」
マサ:「風車格納ハッチ開放、支柱繰り出します。ピッチ40度、ブレーキ開放。お、回った。いきなり500ワット近く来ましたね。もう1基も出しますよ」
真理亜:「風の強さは期待通りほどほどだわ。強すぎたら種が蒔けないしね。ドームのペルチェ空調に通電して、リモートボディにも充電するのよ」
マサ:「充電していないと電力が余ってしまうくらいですね」
真理亜:「電力が余ったら外気を取り込んでドライアイスを製造する装置がある。ドライアイスはドームの温度安定に使って余ったらクレーターへ棄てに行くのさ」
マサ:「でも結局気化したら炭酸ガスが減りませんね」
真理亜:「そうでもないさ。湖底深く沈めれば水圧で閉じこめられるからね」
(リエたちの会社が落札した浮遊プラットフォーム)
あざみ:「真下の地表温度は200度くらいです。ここはまだ熱いなぁ。もうちょっとクレーターが近ければ良いのにねぇ」
リエ:「緑化しようって訳じゃないから生存可能温度まで下がっていなくても良いわ。狙いはあくまでも水銀鉱脈の確認だから差し当たり使い捨てプローブが動けばいいの。200度ならプローブを4dくらいの氷塊で包んで降ろせば半日は使えるでしょ。恒久的な設備を設置するのは鉱脈を確実に把握して試掘にかかる段階で考えることよ。それに200度だったらフル回転で製氷してじゃんじゃん送れば小施設を維持できるよ」
あざみ:「そうですね。でわ、プローブの氷詰めを用意しましょう。何個作りますか?」
リエ:「不可能でないと言っても試掘はかなり高くつくから予備調査の精度は欲しい。3点では心許ないから6箇所に投下しよう。2倍有れば組み合わせで情報量は数倍になる」
あざみ:「6個ですね。冷凍機は10基有るから並列でいけます。3時間で出来ますよ」
リエ:「4基遊ばせるのは惜しいな。空の氷塊を4個作っておこうか」
あざみ:「空の氷塊ですか。なにに使うのですか?」
リエ:「落下傘無しで落としてどれくらいめり込むか調べるんだよ。高温高圧下で地面がどうなっているかなんて想像だけで詳しい情報はないんだ。地面の固さによってはいい鉱脈があっても掘りにくいかも知れないだろ。あとで試掘装置を用意するときにどんな仕様にするかは地面に左右されるからね」
(真理亜とマサのリモートボディ格納ドーム)
マサ:「ボディの充電がフルになりましたね。土台のセメントも乾いた頃です」
真理亜:「よし、エアロックから外に出てドームの固定状態を確認しようか。ここの安全を確認できたら石灰の濃いところを選んで種を蒔くよ」
マサ:「エアロック内扉開けます。ふん、機密がいまいちだなちょっと漏れてる」
真理亜:「宇宙空間用のような気密性にしたら重量がかさむだろうが。こいつは硫酸の侵入を抑えるだけで良いから内圧を上げて釣り合わせる方式なのよ」
マサ:「なるほど。重い扉より水を降ろす方が優先ですもんね。内扉締めます」
真理亜:「帰ってくるときはそこのシャワーで酸を洗い落としてから入るのよ」
マサ:「毎度洗うんじゃすぐに水が足りなくなりそうですね」
真理亜:「プラットフォームには200dの余剰備蓄があるから補給できるわ。洗浄に使った水は外の散水に使って、減ってきたら気球につり下げて降ろすのよ。どのみち種撒いたらドーム周囲に一日500`は散水しないと芽が出ないからね」
マサ:「気圧合いましたよ。外扉開けます」
真理亜:「出たら藻前は右に回れ。アースドリルを2基ずつ手分けして点検だ」
マサ:「つんつん、セメントは固まってますね。気泡もないし大丈夫だな。こっちはどうかな。固まってるな。ちょっと揺すってみよう。動かないね。ドームの土台は良いようですよ。で、種ってどこに積んでるんですか?」
真理亜:「エアロックの脇に納戸があるだろ。小袋にわけて積んであるよ」
マサ:「あー、これかぁ。遺伝子組み替え100%、ど根性シリーズ、混蒔用。要分別管理。なかなかえぐいタイトルの製品ですね。採れても食べたく無いなあ」
真理亜:「金星の地面なんてどんな有害成分があるか判らないのよ。生育しても、いきなり食べたらイタイイタイ病になることだってありうるわ。最初は生育可能かどうか確かめるだけで食べることなんか想定していないわ。うまく行っても地球の研究所に持ち込んで分析させなきゃ危ないに決まってる」
マサ:「でもプラットフォーム葡萄薗のワインは売るんでしょう?」
真理亜:「あそこは人造水耕下地だから宇宙工場と同じで安全な成分しか無いのよ」
マサ:「するとここではカドミウムとか出ちゃったら農地化は無理ですか」
真理亜:「とりあえず温度安定化さえ出来れば大規模な土壌改良施設だって置けるわよ。今のところは植物相さえ形成できれば質は問わずってことね」
マサ:「そんじゃあとりあえず蒔いてみますか」
真理亜:「蒔いたら一旦撤収して上で追加の水を降ろす準備をするのよ」
(リエたちのプラットフォーム)
あざみ:「使い捨てプローブの氷詰め出来ましたよ」
リエ:「一辺20`の正六角形になるように移動しながら投下するわよ。パラシュート付けて投下口にセットして頂戴」
あざみ:「空の氷塊はどうしますか?」
リエ:「プローブ降下後に六角形内部へ投下するのよ。めり込みを見るだけじゃないわ。着地の衝撃が良い人工地震になるからプローブの地震計で捉えれば広く地質が捉えられるわ」
あざみ:「でも地震波ではなかなか成分まで推定って難しいのでしょ?」
リエ:「プローブのボーリングシャフトは50bだから深いところの情報は地震しかないわ。その50bだって、熱でドリルが保たなきゃもっと浅くなるしね。さて、1個目はここらでいいかな」
あざみ:「1分経過、パラシュート開きました」
リエ:「ここからの風がねぇ...けっこう流されるな」
あざみ:「着地しました。取りあえず立っているのでボーリングは可能ですね」
リエ:「回ってはいるな。シャフトがうまく刺さるかな」
あざみ:「5bほど入りましたね。地熱は210度あります。サンプル1個目上がります」
リエ:「取り込んだらX線デフラクトメーターにかけるのよ」
あざみ:「線源部温度は0度。出力正常です。終わるまで氷と電池が保つと良いけど」
リエ:「取りあえず次だな。移動する。1個目が停まる前に6角形を完成せねば。計測結果のチェックは任せたわよ」
(青の公家別邸プラットフォーム)
マサ:「リモートボディリンク終了...。よし帰還」
真理亜:「ぼけっとしてないで降下タンクに注水よ」
マサ:「え、一杯やってからにしましょうよ」
真理亜:「配管が細いから時間かかるのよ。起動してからにしなさい。遅れたら水が切れてしまうわ」
マサ:「4d有ればそんなすぐには切れないでしょう」
真理亜:「始めのうちは地面がからからだから多めに撒かなきゃダメよ」
マサ:「はあ。じゃ作業始めますか。やれやれ、本体の燃料が切れなきゃ良いが」
真理亜:「降下前にあれだけ飲んだらそんなすぐに切れるわけが無かろう!」
(別邸下層部の貯水槽前)
マサ:「よいしょ。うう、なんで降下タンク置き場とここの間が人力トロッコしかないんだか」
真理亜:「ワイン工場のため下層を石造りで増築したから気球の浮力に余裕が無くなったのよ」
マサ:「そんなぁ。水入れたら2.5dですよ。何でサイボーグがこんな原始的労働をするのか」
真理亜:「サイボーグなら2.5dどころか4dだって一人で押せるだろうが。しかも二人だ」
マサ:「で、給水バルブは?...え?これは!」
真理亜:「石の水門がそんなに珍しいか?。そっちの輪っかを回して開くんだよ」
マサ:「貯水槽まで大理石で作ったらそりゃ重量オーバーになりますよ。無茶な話だ」
真理亜:「これは酒造用水を兼ねてるんだから金気臭くなったらダメでしょうが。この石材は弱アルカリ性だから下で使う水としても都合がいいんだよ。そもそも藻前は前回の休暇でここの設計打ち合わせをさぼって売春していただろ。設計を手伝わなかった者がここの造りに文句を言う資格はない」
マサ:「水門開けたけどちょろちょろとしか出ませんね」
真理亜:「氷隕石落下の爆風で揺れても大きな漏水がないように水門が狭くしてある。だから一杯やるのはこれをセットしてからだと言ったんだ」
(リエたちのプラットフォーム)
リエ:「よし。6個目も掘り始めたね。いよいよ地震を起こしてみる番だな」
あざみ:「3基目から最初のX線デフラクトメーター反射グラフ出ました。主なピークの格子定数出します。んーー、結局最強は鉄かぁ。水銀、大して多くないなぁ」
リエ:「どれどれ。フツーこんなものじゃない?。鉄は宇宙で一番多い金属でしょうが。金星なんて硫酸降りまくりだし、どこ掘っても黄鉄鉱だらけでしょ。水銀のピークはここだね。ふんふん、これなら濃い方だわ。2次探査をやって地点を絞り込めばまとまって出そうよ」
あざみ:「また使い捨てプローブ使うんですか?。X線源が入るからけっこう高いんですよ」
リエ:「核パルス推進艦が冥王星へ1往復する度に水銀を150dも消費するんだ。財部省が密かに買い集めてきたが、そろそろ世界が感づく頃だよ。そうなれば暴騰さ。小惑星からの収集もめぼしいのはトロヤとか僻地ばかりで楽な場所が無いようだしね。火星大工場では数百グラム単位で満漢の隕石鉱夫が横流しする品まで買っているそうよ。たかがプローブ代ごときはすぐに回収できると思うね」
あざみ:「そういうものですか。私のちっぽけな脳では憑いていけませんね」
リエ:「藻前はどうせ気楽なアルバイトだろう。無理して経営の心配をする必要はないわ。私はしくじったら体を覆うダイヤ膜や皮下の水銀まで売り払う覚悟で腹を括っているのよ。この外皮を買い取りたいっていうフェチは結構大勢居るから文無しになっても困らないし」
あざみ:「大変なばくちですね」
リエ:「大昔から山師とはそういうものさ。よし、ここでいいな。氷塊を落とすよ」
あざみ:「地震計信号受信チェックします。...6基とも入っていますよ。全てのボーリングを一時停止します。振動収まりました。投下どうぞ」
リエ:「ほい。1発目だ」
あざみ:「P波来ました。続いてS波も...あれ?、4番だけ弱いし遅いわ」
リエ:「投下地点との間に液体の地層があるからだね。そしてこの温度だ。はんだ類の一部みたいに特殊な合金が天然に無いとすれば水銀しか考えられないね」
あざみ:「でもこれほどS波が遮られるってそんな大きな液体層が...」
リエ:「生物が居ない金星に石油が眠っているわけもないし他に無かろう。実は任務中にここのレーダー探査をやったとき特定波長の反射に影が出ていてね。大本営に命じられた任務は地形調査だったからこの件は詳しく報告しなかったのさ。それでこっそり目を付けていて落札時にこの場所を選んだってわけよ。これで多分この大ばくちは私の勝ちだね。さて、少し場所を変えて絞り込もうか」
あざみ:「1個目のプローブ、氷が無くなりそうです。急ぎましょう」
リエ:「ふっ。積極的になってきたな。だが、バイトにボーナスはないわよ」
あざみ:「あ、いえ、次の機会も是非来させて下さい、リエ社長」
リエ:「くっくっく。今度の働き次第で契約社員にしてやっても良いよ。当たり確定で地上に試掘施設を置くとなったら製氷機の増強も手配しないとね。気温200℃の地区で1000uほどを常温に保つなら計30基は欲しいな。ミキの実家を資本参加させておいたのは正解だったわ」
(金星プラットフォーム青の公家別邸内 円卓の間)
マサ:「うーん、労働の後の一杯は堪りませんな。このヌーボーは良いじゃないですか。昨日のステンレス扁平足ブランデーとは大違いだな」
真理亜:「うむ。この樽はマツとミツがバイトに来て踏んだやつだからな」
マサ:「あいつらか。腕が立つから遠距離任務が多いのによく時間がとれましたね」
真理亜:「大量の氷隕石が金星に着きだす頃にまとまった移動装置の回収があったろ。万一、テロリストの手に落ちたらしゃれにならない量の核物質が乗っていたわけだ。それで回収班とは別に精鋭の護衛が付いたときがあったのよ。回収船が金星から離れた後は暇になるのでそのまま寄り道させたのさ」
マサ:「貴重品ですね」
真理亜:「その通りだ。この樽は売らないつもりだ。飲めるのは貴族の特権よ」
マサ:「味わいが人工臓器を突き抜けてクリトリスまで染み渡る感じがしますよ」
真理亜:「さて、降下タンクが一杯になった頃だ。降ろすよ」
マサ:「え?。昼寝ぐらいしていかないのぉ」
真理亜:「マターリしている場合じゃない。下のドームの給水が最優先だよ」
(別邸最下層 投下口)
マサ:「よいしょ。ひいぃ。水満タンのトロッコ押すのはやっぱりきついや」
真理亜:「うだうだ言ってないで気球にヘリウムを注入しろ」
マサ:「ヘリウムバルブまで手回しとはね。重量ケチるのも考え物ですよ」
真理亜:「降下中の感圧追加バルブは自動だ。良いからさっさと手を動かせ」
マサ:「浮いてきました。浮力2d。トロッコどけます」
真理亜:「よし投下口を半開きにしてタンク下のロープを垂らすんだ」
マサ:「落としましたが、下でこれを掴んで引き寄せるんですか?」
真理亜:「その通りだ。水を降ろすと浮いてしまうから係留するためでもある」
マサ:「今回はなにからなにまで原始的な希ガス。これがサイボーグの仕事とはなぁ」
真理亜:「良いから次だ。3歩下がって投下口全開、よろけて落ちるなよ」
マサ:「ぞくっ。やっぱこの場所は怖いよ。大気圏飛行能力なんて無いんだからねぇ」
真理亜:「よし、投下口閉めろ。制御室に移動してリモート接続だ」
(地表のリモートボディ格納ドーム)
真理亜:「さっさと起きあがりなさい。ぐずぐずしていたら気球が流されるわ」
マサ:「ひいぃ。忙しいなあ」
真理亜:「すぐエアロックに行くのよ。次の隕石落下前に水を降ろしてしまわねば」
マサ:「あら、もうこんな時間。確かに爆風はまずいわ。ダッシュダッシュ!」
真理亜:「よし、外扉開いたわ。ロープ探して。蛍光塗料で目立つはずよ」
マサ:「あ、あそこ。クレーターと反対方向。これ以上離れたらかなり熱いですよ」
真理亜:「全力疾走だ。先に追いついた方がとにかく先を掴むのよ」
マサ:「こら気球、待てーっ!」
真理亜:「怒鳴っても気球は止まらないわよ。足元注意!」
マサ:「ここは平坦だから...あ、いててて。なんでこけるかな。あ、これは。石灰爆弾の穴かよ。ん?。え、なにこれ、もう芽が出てるジャマイカ!」
真理亜:「捕まえた!。おいマサ、引っ張るんだ...ん?何やってるんだ!」
マサ:「転びました。その時見つけたんです。もう芽が出てます」
真理亜:「そうか。早いとは聞いていたけどこれ程とはね。さ、とにかく水よ」
マサ:「よいしょ、よいしょ。ふう。タンクに手が届きました。ああ、かなり熱い。こんなお湯を撒いたんじゃすぐ蒸発してしまうし草の芽だって茹だってしまうな」
真理亜:「ドーム内は冷却されているから保管中にいくらか冷めるわよ。このまま気球ごとタンクをドームに引っ張って行って係留し水を移すのよ」
マサ:「ホース繋ぎました。バルブ開けますよ」
真理亜:「開けたらロープの固定を確かめて。軽くなると浮き上がってしまうわ」
マサ:「ふん、ふん。これでいいでしょう。そっちの端は放しても大丈夫ですよ」
真理亜:「走ったからすぐドームに入って充電しなくちゃ」
(ドーム内充電台)
マサ:「充電率50%。取りあえずこれでもう一度外の様子を見ませんか」
真理亜:「何をそわそわしているんだ」
マサ:「さっき見つけた発芽が気になりませんか?」
真理亜:「ああ、だけどここの日照じゃ成長は遅いわ。早いのは発芽だけよ。ジャックと豆の木のようにでもなると思っていたのか?」
マサ:「いや、そこまでは。でもちょっとだけ空想しましたが」
真理亜:「くすっ。それはともかく隕石落下前に水タンク気球を上に戻したいな」
マサ:「飛ばすのは良いけど回収方法って有るんですか?。空中ですよ。追いかけてロープ掴むわけには行かないでしょう」
真理亜:「発信器があるから小型飛行船で捕りに行けばいいのよ」
マサ:「初めから水の輸送自体を小型飛行船でやったら楽なのに」
真理亜:「飛行船の動力はなんだか忘れたの?。太陽電池よ。日照が強い成層圏でしか航行は出来ないでしょうが。高温対策も施してないし」
マサ:「ダメか。とりあえず出ましょうか」
(ドーム前)
マサ:「タンクはちゃんと空になっています。ホース外しましたよ」
真理亜:「よし、ロープゆるんだ。そーれ飛んで行けっ!」
マサ:「発芽を見に行きましょう」
真理亜:「さっきのってここだね。やはり伸びは停まったようね」
マサ:「あ、ここにも有った。よーく見ると変わった芽ですね。」
真理亜:「どこが?」
マサ:「これ、双葉じゃなくて五つ葉ですよ」
真理亜:「ああ、そう言えば、日照の少なさに耐えるよう葉を多くしたらしい」
マサ:「急成長が最初だけじゃ、根付くかどうかすぐには判りませんね」
真理亜:「最終的に枯れるとしてもこの調子なら少なくとも半月は生育するな。種自体は高い物でないから、大量に蒔けば炭酸ガス吸収効果は期待できるね」
マサ:「あ、そろそろ次の隕石落下時刻ですよ。爆風に気を付けないと」
真理亜:「落下地点は400`以上離れているから危険はないよ」
マサ:「あ、あれですよ。真っ白な尾を引いて流星ってより彗星みたいだな。まあ、一応流れ星だから願い事でもしておこうか。ぶつぶつ...」
真理亜:「何を願っているんだ?」
マサ:「え、金星でも繁華街が出来て援交や売春、酒場が栄えますように」
真理亜:「それだけか?」
マサ:「それからブランドファッション、宝石、金銀財宝...」
真理亜:「もうお終いか?」
マサ:「あ、もう落下しちゃった。終わりですね」
真理亜:「馬鹿者、帝國や青の公家の繁栄とか有栖の将来は考えないのか!」
マサ:「え、あ、でもここに繁華街が出来るようなら可住化は成功なんで...」
真理亜:「藻前は最終回になっても外見だけでなく中身が成長しないな、全く」
マサ:「永遠のコギャルですから。あれっ?。冷たい。これって雪?。まさかね」
真理亜:「極低温の氷隕石が上空を通過したんだ。大気の水分も凍るさ。3分と続かないだろうけど種蒔いた直後のお湿りは少しでも有り難いな。まあ、金星だって成層圏には氷点下の領域があるし水蒸気も多いんだ。幸い、当局はこの地域のクレーター湖をとことん維持拡張する方針のようだしね。ここは北極圏だ。根気よくクレーターに氷を足していけばいつか本当の雪も降るだろう。生きているうちに有栖と3人で金星雪祭りでもやりたいね」
マサ:「それまでは Cyborg girls be ambitious ってとこですかね」
(とりあえず本編完成 The
END)

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