オプションパーツシリーズ未来編「ケンタウリ」

(1)プロローグ

 皇紀195年。帝國は執拗な氷隕石投下の継続によって金星可住化、即ち地球外素体生産地の獲得に成功した。しかし、その成果は必ずしも満足なものではなかった。焦熱地獄を解消した後に現れた新世界は硫酸地獄であった。そこは、耐酸外装を施したサイボーグにとっては可住惑星だが、素体にとってはあまりにも危険な住処である。依然として高い気圧、低い酸素濃度、硫酸分と抱き合わせの水資源、遅い自転...。
 そして最大のリスクは地球から近すぎることである。金星は地上の大国にとって手の届かない世界ではない。ただ、非サイボーグには環境が厳しぎるから手を伸ばさないだけのことである。
 地上の巨大民主国家・北米連は相変わらず生活水準の維持という衆愚の我が儘を至上の価値として資源収奪に邁進するばかりであった。もう一つの地上大国・満漢人民共和国は一人っ子政策、達磨ッ子政策、小惑星戸籍等あらゆる人口抑制策を採りながら、なお膨張する人口に苦しんでいた。既に月面ではヘリウム3採取拠点が満杯になっており、新たなエネルギー資源の要求とは即ち外惑星開発か戦争の2者択一を意味する。いや、今も根強いサイボーグへの宗教的否定にとり憑かれた人々にとっては1者択一なのだろうか。
 そして大国どうしの戦争は直ちに地球周回軌道がデブリに覆われ本国の支援なしに成り立たない金星素体生産拠点が破綻する事を意味する。それでもデブリによる往来遮断だけなら少しは望みがあるが、核保有国がやけを起こせば惑星間核攻撃だってありうるのだ。諸外国よりはいくらかましな帝國の軌道警備戦力も暴発した大国が打ち上げるであろう無数のミサイルには無力である。金星可住化とは、所詮そんな薄氷の上の成功に過ぎなかった。
 過酷な任務に堪え続けた往年の部下達は、櫛の歯が抜けるように一人、また一人と脳血管障害のため現役を去っていった。好きでもない政務に縛られるが故に、Gに晒される機会の少ない私にはそれすら羨ましいことだった。特異ミトコンドリアDNAを持つ私の生体脳は、いまだにサイボーグ自律行動限界の基準を超えるIQが残存していた。ああ、もうこんな時間だ。とうとう呆けたのかしら?
 それでも体内CPUは容赦なく頭の痛い議題が待ち受ける御前会議の刻を告げている。もう勘弁して欲しい。

上級皇族SNS・皇帝朝子10世のブログより


(御前会議)

外務大臣・新月:「毎度聞き苦しい報告で申し訳ないのですが、氷隕石販売の方はろくでもない引き合いばかりです」

皇太子兼宙軍大臣・華子4世:「またですか」

新月:「ええ、特に満漢人民共和国、汎印度連合、六芒星共和国の3件は明確に拒否したのに再度の要請です。私でらちがあかないのなら首相が訪問するから直接皇帝と談判させろと言っています」

華子4世:「困ったわね。核保有国からそこまで強硬に言われたら会いもせずに断るのは難しいかな」

新月:「満漢は黄河上流の遊牧民居住地域、汎印度連合は旧首都一帯、六芒星は死海を落下地点とするものです。どれも有人地帯をクレーター湖にしろという無茶苦茶な要求ですからいずれ断るしかないのですけどね」

華子4世:「恐らく住民には退去命令を出すという建前を言ってくるのでしょうけど嘘に決まっているわね。形だけ退去命令を出して移動手段は用意せず、間に合わずに大量の死者が出た原因は私らのせいと言うのね」

新月:「私の読みもその通りです。彼らの真意は水資源確保でなく大量虐殺による直接的人口削減ですよ。そして手を下したのは血も涙もない機械娘らであると言って、民衆の怒りを逸らす気でしょう」

華子4世:「断るしかないけれど、訪問だけは受け入れざるを得ませんね。宜しいですか陛下?」

朝子10世:「厭なところから先に片づけましょうか。最悪なのは六芒星ですね。死海沿岸は全てが彼らの領土というわけではありません。おそらく、自国民だけ待避させる気でしょう。そして壊滅した他国の沿岸を奪うつもりなのでしょう。最初は六芒星に会ってきっぱり断ります。あそこは核保有国と言っても大国ではないから逆切れされて攻撃を受けても構いません」

民部大臣:「お言葉ですが、六芒星商人は世界の貴金属市場に大きな力を持っています。敵対しますと、水銀の調達を妨害されて核パルス推進艦の運航に差し支えるやも知れません」

華子4世:「水銀資源の地球依存率は40%まで低下しています。この際仕方ないです。水銀のために憲法を侵して事実上の戦争行為に加担することは避けるべきですよ。満漢と汎印度連合については如何致しましょうか?。大国ですから攻撃されたら保ちませんね」

朝子10世:「代替案を示して説得するしかないでしょう。ス連への工作は何とかなりそうですか?」

新月:「ス連を巻き込んで旧アラル海を再水面化し周辺地域の水資源を賄うという件ですね。ス連は元々アラル海復活に前向きですが、真意は単独もしくは旧大ス連系の衛星国だけでの実施です。満漢や汎印度連合に水を分け与える気は全くありません。財政が苦しいから応じるふりはしますがね」

華子4世:「それでは仮に話がまとまっても後で水を巡る紛争の火種が仕込まれることになるわね」

朝子10世:「それで紛争になってもス連と満漢、汎印度の問題だから我々は戦争当事者にならないわ。満漢と汎印度の要請をそのまま引き受けて大量虐殺犯人に仕立て上げられるよりはましね」

華子4世:「どっちにしてもとほほですねぇ。もう逃げ出したくなりますよ」

朝子10世:「逃げ出すと言えば、太陽系外素体生産地確保の研究はどこまで進んだの?」

華子4世:「結論から言うと不可能ではないが成功の保証も無いというのが現状です。まず基本的問題として候補地の選定をどうするかで研究専門会議の意見が2分されています。第一案は、目的地を地球型惑星581cの存在が確認されている天秤座Red dwarfとするものです。既知の系外惑星としては最も地球に似た温度と重力を有し液体の水の存在がほぼ確実です。重力が1.6Gとやや大きいですが、かえって素体の耐G性向上に資するかも知れません。到達さえ出来れば金星より優良な素体生産地となりうる可能性が高いでしょう。しかし、距離が20.5光年ですので早期に実現できる技術では1世代で到達するのが困難です。そもそも世代船が実現できるなら宇宙艦自体が素体生産地になるので行く意味も無くなります」

朝子10世:「惜しい距離ねえ。不可能でなく困難というならどうにかならないの?」

華子4世:「唯一の可能性は推進機関の比推力向上によって航行速度を高めることです。星間航行では最高速において目的地での減速に必要な推進剤が残っていないとダメです。無人探査機によるフライバイのように加速だけ考えれば良いわけではありません。減速も考慮する場合はここ数年で実現できる機関の最高速は光速の13%程度です。これでは相対時間圧縮効果による乗員の寿命延伸もごく僅かしか期待できません。1パルス当たりの衝撃を小さくし間隔を縮められれば点火位置を船体に近くできます。これにより地道に核パルス推進の効率を高めれば比推力はいずれ向上するでしょう。また衝撃が小さくなれば船体強度が下げられるので軽量化の効果も得られます。しかし、開発を待てば待つほどその前に戦争で帝國が破滅するリスクが増すわけです」

朝子10世:「目的地の第二案はもっと近くなの?」

華子4世:「すぐ隣のアルファ・ケンタウリが第二案です」

文部大臣:「惑星が見つかっていないじゃないですか」

華子4世:「太陽系内からの観測で地球型惑星を確認できるのは特殊な条件に限られます。581cが発見されたのは母星が矮星で公転軌道が水星より近いという好条件だったからです。もし母星が太陽級だったら同じ軌道に同等の惑星があっても見つからなかったでしょう。おまけに恒星が大きいほど可住惑星が存在できる公転軌道は遠くなるのです。つまり、あっても見つからない確率の方が圧倒的に高いわけですよ。宇宙塵の分布に関する統計上、連星系には惑星が出来やすいと言うのが定説になっています。連星におまけの伴星まで付いたアルファ・ケンタウリに惑星が全くない方が不思議なんです。でも、ケンタウリAとケンタウリBはともに太陽級ですから可住惑星の観測は無理でしょう。ならば行って確かめることにして、見つかったらそのまま開発するというのが第二案です」

文部大臣:「ケンタウリC別名プロキシマは矮星だから可住惑星が無いのは確実でしょう。すると可能性は主星だけに絞られますね。近接連星では安定した惑星軌道が限られます。可住惑星の存在しうる内惑星圏は確かに安定軌道領域ですが外惑星圏は不安定領域です。仮に内惑星を見つけても金星や火星のような星だと改良に小惑星資源が必要ですよね。外惑星圏が不安定だと小惑星資源が乏しくて惑星改良も難しいのではありませんか?サイボーグが暮らせる惑星すら無かったときは乗員が困窮するでしょう?」

華子4世:「アルファ・ケンタウリまでなら片道40年ですから往復飛行も可能です。最悪でも調査結果を持ち帰ることだけは出来ますよ」

文部大臣:「往復できると言ったって20代の乗員がほぼ全人生をかければってことですね。全人生をかけて飛び続けて、何も見つかりませんでしたでは悲惨すぎませんか。実際問題、そんな若手だけで難しい飛行をこなすのは無理だから幹部は片道でしょう。皇族や貴族の士官に艦内か未知惑星で人生を終える前提の任務に行く方が居られますか?」

華子4世:「志願者は多いですね。ポストを代わってくれる者がいれば私も行きたいですよ。今の世界情勢では地球で政務に就いている方が余程窮屈だしリスクも大きいんです。首尾よく行けば地球と向こうの2箇所に子孫を残せるというのは魅力的ですよ」

文部大臣:「シビリアンの私にはそういうお気持ちは理解できないなあ」

華子4世:「核パルス艦に乗れる体を持ちながら性能が全く活かせない方が辛いですよ」

朝子10世:「気の毒だけど貴女はダメよ。私のIQが基準割るのは時間の問題なんだから」

華子4世:「ということで、私もチャンスがないのは文部大臣と一緒ですか。ははは。私の儚い妄想は横に置いて、いくら確率を計算したって確実な未来を知ることは不可能です。結局、最終的な方針決定は陛下のご聖断に依るしかないですね」

朝子10世:「非難を引き受けろってのは構わないが、根拠になる情報はもう少し欲しいな。航行に関する見通しは判ったけど、政治判断をと言うなら他にも詰めるべきことがあるわ。まず、極長期の航行中に乗員の生活をどうするかと、多様な状況を想定した現地行動計画ね。それから居住可能環境があった場合には超遠距離の植民地をどう統治するのかも要検討よ」

華子4世:「航行中の乗員生活に関しては既に相当な検討を行いました。素体生産地における育児に支障がないよう乗員は地球の生活習慣を維持する必要があります。つまり、任務中は消化機能を搭載しないといった従来の運用方式が通用しなくなります。すると強固な耐加速性を持ちながら地上用ボディに近い機能を有する新型ボディが必要です。これについては近々試作機が出来ますのでその結果を踏まえて詳細に報告します。統治方法については腹案ならあるのですが、まず制憲会議に諮る必要があります」

朝子10世:「それもそうね。当然、皇室や公家の制度に関わってくるからね。解ったわ。元老院議長に召集依頼を出しておきましょう」

文部大臣:「改憲は陛下の一存で出来ないのでしたっけ?」

朝子10世:「そうよ。普段は意識する機会がないけど我が国は専制君主制ではないのだから」

華子4世:「ということで、本件の次回報告は制憲会議を通してからとします」


(地球静止軌道 第七工場衛星・造機本部)

華子4世:「大叔母上、一寸お邪魔するわよ」

本部長・知子3世:「あらあら、東宮様がわざわざこんな所に。意外と暇なのね」

華子4世:「暇じゃないですよ。貴女に来て貰ったら恒星間機関の試作が遅れるでしょう。で、どこまで出来ているのですか?。取りあえず会議では5年後に運行と言っておいたけど。先日いただいた資料から考えたらそう外れてはいないでしょう?」

知子3世:「5年後かぁ。もちろん、近い方で良いのよね?」

華子4世:「ええ。さすがに20.5光年は無理でしょう」

知子3世:「近い方って言うけど往復可能でとなると難しさは大差ないのよ。どっちにしたって、根本的問題はプルトニウム爆弾では臨界量が大きすぎることでしょ。そのために点火位置を相当離さないと衝撃がきつすぎて船体も乗員も保たない訳ね。爆風をかなり逃がした上に、核物質の過半が爆発に使われないため燃費が悪いわけだ。で、核融合爆弾なら1発が小さくできるから点火位置を近くできるのね。おまけに元々核燃料の重量当たり出力エネルギーも大きい。一見良いことづくめだね。ところが、核融合の点火に必要な高温高圧をどうやって作るかってのが難問なのね。北米連なんかの核融合炉はこれをレーザーでやるけどプラズマを閉じこめての話でしょ。爆風出してなんぼの推進用だと全ての燃料ペレットをレーザーで狙い撃てってことね。ところがアイデアが出た当時はレーザーが普及していなくて肝心なことが抜けてたんだ。つまり、レーザーってのは光の定在波だから強い戻り光があったら安定しないのよ。 で、爆炎が消えないうちに次を点火するような連射は無理って事なの。間隔を開けて点火するのでは1発を大きくしないとパワーが出ないからダメなんだな」

華子4世:「それであの資料の方法になったんですよね」

知子3世:「そう。1発目をプルトニウム爆弾で点火して順次爆炎に撃ち込む方法。これの難しさは初弾が遠い位置で点火した後、滑らかに点火位置を寄せることなの。燃料ペレットの間隔を詰めすぎたら誘爆が早すぎて射出部で自爆してしまうわ。一方、開けすぎれば爆炎が拡散しすぎた後に届いて不発、プッツンorzなわけ。つまり、ペレットの発射間隔はあまり自由度が無くて推進力の調整が難しいのよ。で、1発当たりの燃料の量とかヘリウム3と重水素の混合比とかが微妙なのよ。
ここまで延々とシミューレーションしてきて、ようやく実験という段階よ。次の問題はエンジン実験の場所ね。自爆の恐れありでは艦で試すわけに行かないわ。逆に不発だって加速してしまってから陥ったら帰れなくなるでしょ」

華子4世:「そんな艦には誰だって乗りたくないです。艦長時代いつも考えていました。加速後に残りの推進用弾頭が不良品ロットで減速不能になったらあぼーんだなって」

知子3世:「艦が使えないとなると惑星か衛星でやるしかないでしょう。で、実験にフォボスを使いたいのだけど政治的な問題は無いかしら?」

華子4世:「条約上は推進用核実験が許される空域ですが、ちと引っかかることもあるか。最近、火星では外国の連絡船を使って富裕層向けの観光が行われていますよね。西から昇る月が結構人気なので、自然保護派の耳に入るとうるさいことになるかも。帝國自体が自然保護大国を標榜してることでもあるし、うまい言い訳が欲しいわ」

知子3世:「そうか。あ、こういう名目はどうかしら?。観光資源の保護ってこと。つまりね、フォボスって放っておくといずれ潮汐力で火星に落ちちゃうでしょ。それで、軌道維持のために推進実験をするって事で」

華子4世:「なるほど名案ですわ。外国でも似たような例はありますね。観光名所の滝が崩れるのを遅らせるためにダムで夜は水を止めるとか。そういうことで、有名な巨大クレーターの景観には十分配慮して実験して下さい。では、私はもう一つ寄るところがあるので失礼」

知子3世:「ごきげんよう、東宮様」


地球静止軌道 第四工場衛星・特殊身体開発室

特殊身体開発室長・理美:「東宮様、よくお越し下さいました」

華子4世:「例のもの、準備できているわよね」

理美:「もちろんです。直接お試しになりたいと仰せでしたから食事の用意もしました」

華子4世:「よしよし。でわ早速見せて頂戴」

理美:「こちらです」

華子4世:「なるほど。胴だけメタリック外皮ってこんな感じかぁ」

理美:「強度と消化器、生殖組織の耐放射保護のため金属層が厚くなりますので。この上に人工皮膚を貼るとかなり太めになり、却って見苦しくなってしまいます。肩や首筋、胸の上半分は人工皮膚貼りですのでレオタードを着ければ隠れます」

華子4世:「ハイレグはOKのようだけど、Tフロントは無理か」

理美:「新世界に持ち込む風俗習慣としてTフロントはいかがなものかと」

華子4世:「そうかしらねぇ。私としてはどこでもこういうの流行らせたいわ。とにかく試させて貰いましょうか」

理美:「首の着脱機構は従来通りの互換性がございます」

華子4世:「うん。それなら慣れてるから一人ですげ替えられるわ。四肢制御経路変更、頭部トランスポンダから手足直通無線パス設定。頭蓋内生命維持装置スダンダロンモード、首中間液コック閉鎖。首関節ロック解除。切り離し準備チェックモニタオールグリーン。よし捻って...ん、抜けた。で、差し込み位置よし。逆回し、入ったな。首関節ロック。接続設定、四肢有線制御、中間液循環再開。気泡アラーム消灯。頭蓋内生命維持装置ディペンドオンボディモード。OK、首が繋がったわ。どれ、うーん姿見で見ると向かい合ってみたときより格好いい希ガス。いや、気のせいかな。単に私の首が乗ったお陰かも知れないな。このボディは外性器が無いから服着なくても気にならないわね」

理美:「生活習慣の維持という観点からは好ましくないのです。ただ、強度や耐圧性能の要求から開口部を局限する必要があってやむなくです。皮肉なことに生殖器官の搭載で安全性が重視されたため外性器が無くなったのです。とりあえず食堂に参りましょう。ご報告すべきことも多いですし」


(隣接する食堂)

華子4世:「ほお、まるで高級レストランね。よく工場衛星内にこんなの作ったわね」

理美:「星間航行用ボディのテストの内でも食習慣維持の確認は期間が長いですから。それにいずれ東宮様がお試しに見えると予想していましたので恥ずかしくない調度に」

華子4世:「お気遣いどうも。ところで、調度はすばらしいけどこの献立はどういうこと?貴女、いつからベジタリアンになったの?。無宗教を旨とする帝國人らしくないわね」

理美:「カツ丼理美の異名を持つ私としては甚だ不本意ですが、報告すべき事の一つです。実は、非人を使った肉食実験で事故が起きまして、非人1体が廃非人になりました」

華子4世:「ぎょっ。今から食事というのに不吉なことを言うのね」

理美:「菜食での安全性は私が身をもって確認して参りましたので自信があります。ご承知の通り、耐G性確保のため生体パーツの搭載を必要最小限としております。そこで耐環境上ネックとなる腸を短くするために人工膜による吸収を併用しています。この人工膜は脳維持のため糖類吸収を優先した仕様なのでプリオンがすり抜けるのです。非人に牛肉を食べさせる実験を数日続けたところ狂牛病を発症してしまいました」

華子4世:「えっ?。数日食べただけで発症?。いくらなんでも酷すぎるわ。そもそも帝國は汚染地域からの牛肉輸入は一切行っていないはずよ」

理美:「私もそう思っていましたが、残った肉のDNAを追跡したところ北米連産でした。悪質な流通業者による巧妙な産地偽装が行われていたことは間違いないと思います。非人に贅沢なものを食べさせてはいけないと思って安い挽肉を使ったのも失敗でした。産地偽装だけでなく、危険部位の混入も行われていたと考えています」

華子4世:「私が知る限り告訴がされていないようだけど、何故?」

理美:「被害が非人だけでしたので物損ですよね?。非人のため公安を動かすのもどうかと。まあ、亡き父が再改造した貴重な非人でしたので悔しい気持ちはありましたけど」

華子4世:「それは違うわ。非人が食べることを前提に納入したのなら確かに器物破損よ。でも卸業者ならば人が食べるか非人が食べるかなど区別せずに販売したはずでしょうが。帝國法では危険性のある食品を産地偽装して売ったら、詐欺や器物破損で済まないでしょ。牛肉の場合は、1食につき0.001人を未必の故意で殺したとして換算殺人罪になるわ。卸業者なら1000食は売っているでしょうから1人以上殺した扱いになるのは確実ね。換算殺人でも1人殺していれば、立証されたら即人権削除刑の重罪になるのよ」

理美:「済みません。そこまで思い至りませんでした」

華子4世:「すぐに告訴状を作成して頂戴。私が預かっていって陛下に直訴します」

理美:「え、直訴!。それはやり過ぎではないですか。私が公安に出しますよ」

華子4世:「被害の出た時と場所が問題なのよ。北米連の破壊工作も視野に入れなくてはね。重要なプロジェクトを進めているときは蟻の一穴というのに注意を払わないといけません。無理を言って研究開発を急がせておいて申し訳ないけど、コンプライアンスも重視してね」

理美:「なんと!。北米連工作員が故意に汚染牛の危険部位を入れたと言うことですか?」

華子四世:「あくまでも可能性だけど、捜査の前提に入れるべきだと思うわ。さて、いきなりがみがみ言って悪かったけど、この料理はなかなか美味しいわね」

理美:「それも報告すべき事の一つです。このボディは味覚干渉システムが入っています。プリオンのリスクもですが、核パルス推進艦内では牧畜が一切出来ません。どうしてもと言うなら加速終了後の巡航中に凍結受精卵から一応動物を作れます。しかし、牧畜のために船体を重くして航行が遅くなるのはまず許されないでしょう。また、それを前提にしていて失敗した場合、栄養失調に陥るリスクも大きいですし。そこで、このボディの消化吸収系は菜食のみで恒久的生命維持が出来るようにしました。しかし、根っからのベジタリアンでない者が40年も菜食を続けるのは辛いでしょう。その辛さを緩和するために、消化装置と連動して味覚に干渉する仕組みを設けたのです。見ての通りの献立で、平素宮中料理をお召し上がりの方が美味く感じるなら完璧ですね」

華子4世:「まったく恐れ入ったわ。さすがに伝説のマッドサイエンティストの娘ね。最優秀操舵員だった貴女を強引に艦から降ろして父上の跡を継がせたのは正解だったわ。カイパーベルト輸送作戦本部からは、この人事で艦が難破したら呪ってやると言われてね。でも、これで恒星間航行船が難破する確率がうんと下がるから私の勝ちだわ。ところで、一つだけ気になることがあるのだけど、排泄はどうなるのかな?。こんなに繊維の多いものばかり食べていたら、やっぱり大便を出す必要があるの?。いまどきサイボーグが大便なんてちょっと厭よね。それにボディには肛門が無いわね。変なところから出す構造になっているようなら、ますます嫌がられるわよ」

理美:「大便は出ませんよ。消化吸収後の残滓はまずエタノール生成に使います。その絞りカスは加圧して完全に脱水炭化されて固形燃料の形で蓄えられます。酸素呼吸が可能な環境にいると自動的に燃焼されて炭酸ガスが排泄されるのです。その廃熱はマイクロスターリングエンジンで発電に使用されるので無駄は出ません。長時間酸素が得られない場合に限り余った固形燃料を摘出する必要があるのです。後は、僅かに残る不燃性のカスをたまに除去するだけですね。燃焼用の吸排気口は腰の側面に目立たないように設けられています。動作していても、おならと紛らわしくなる恐れがないよう静音化されています」

華子4世:「ますますGJね。この完成度なら誰も文句を言わないわ。このボディは気に入ったからこのまま借りていきたいけど、良いわね?」

理美:「肉食だけ避けていただけるなら。それからせめてレオタードを着用願います。東宮様の御体面を考えていただかないと、後で侍従長から抗議されてしまいます。機器類の信頼性はそもそも長期間メンテナンスに不自由する前提で高めてあります。また、胴体部の外皮強度は重装甲ボディに匹敵するので暗殺防止能力も十分です。脚は標準航宙足が付いていますので、地上帰還後は地上用に換えて下さい。しかし、試用後に即日お持ち帰りとは随分お急ぎなのですね。 元々1体献上する予定でしたが、専用メッキも出来ずにお渡しするのは想定外でした」

華子4世:「降りたらすぐ制憲会議に出なくてはならないのよ。このプロジェクトを実施するには憲法改正が必要になるからね。憲法改正となると通常はかなり慎重な審議が必要になるでしょ。急がせるには元老院議員達にこのボディを披露して進捗を見せつけるのが効果的だわ。貴女の方は、2年以内にこれを量産できるよう準備を進めて頂戴。それから、貴重な非人のカタキが取れたら連絡するわね。今日はご馳走様でした。でわまた!」


(オプションパーツ未来編・”ケンタウリ”に手を着けてみました。かなりハード志向になりそうなので板違いに陥る心配もありそうですが、恐る恐るやってみます。次回予定(2)制憲会議)


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