−−(11)次期皇太子選挙−−
(宮殿にて)

朝子10世:「ただいま戻りました。陛下。東宮様。」

皇帝知子1世:「3年間の任務ご苦労様でした。本来なら、ペリリューの離宮あたりで、しばらく休養して下さいと言いたいところです。しかし、残念ながら2点程やっかい事を抱えて貰わなければなりません」

朝子10世:「厄介事と仰せられますと?」

知子1世:「一つは、次期皇太子選挙のことです。皇室典範の通り、次期皇太子は毎年選挙を行い、過去10年の累積結果に基づいて毎年再選定されます。被選挙人は、累積功労ポイント条件を満たした女系女子の皇族でしたね。今回成功裏に終了したの任務の結果、貴女の累積功労ポイントが被選挙資格に届きました。私は、皇帝推薦票を貴女に投じるつもりでおります」

朝子10世:「いきなり皇帝票ですか、正直気が重いです。またどうして?」

知子1世:「世界情勢が貴女を必要としているのです。詳しいことは東宮に言って貰いましょう」

皇太子・朝子8世:「この先30年の内には北米との衝突は避けがたいであろう。戦時にあっては、そなたの特異性が宙軍大臣を兼ねる東宮のつとめに必要じゃ、我が子よ」

朝子10世:「サイボーグ化の副作用である、あの性癖が薄いのは姉上や華子も同じですよ。功労なら、華子の方が上です。それに女系女子の本旨からも相応しいです。ましてや、私は直系後継者が殆ど得られないXXYではないですか」

皇太子:「それを知るものは、ここの3人だけじゃ。他の皇族や公家らの支持に差し障る訳ではあるまいて。そもそも、それこそが姉9世や華子を凌ぐそなたの特異性の源であろう。みな素体となったときに女子となっているのだから典範には抵触せぬ。本旨など気にする者は少数派じゃ。次の代は、そのときあらためて最適な者を選べばよい。それに華子は技術者タイプじゃ、工場の功績は確かだが情勢に合わぬ」

朝子10世:「私としては、冥王星を探検したかったのですが」

皇太子:「それはやっても構わぬ。むしろ功績について公家らを納得させるにはよい任務じゃ。なにせ、北米連が強くこだわる”惑星”だしのぉ。万一、探検中にそのときが来たら華子に代行を命ずるがいい。決戦のときまでにそなたが戻っていれば困るまい」

皇帝:「そういうことで、よろしく。で、もう一つの件を」

皇太子:「いよいよ北米連が火星の有人探査を実行するようじゃ。既に地上での資材製造が進んでいて、近々モジュールの打ち上げが始まる。軌道上で組み立てるとして、出発はおよそ3年後だろう」

朝子10世:「無事に火星まで行かせる訳にはいかないですね」

皇太子:「火星の秘密地下施設やアイスインパクト計画の現場を見られてはならぬ。ロボットによる作業でないことはすぐに判ってしまうからな。かといって、まだ北米連と戦争をする訳にもいかん。宇宙だけでならサイボーグの力で優位に立てるだろう。しかし、本国や衛星軌道を核から守りきるのはまだ無理じゃ。やるなら、衛星軌道に十分な迎撃戦隊を配備できるよう宙軍を増員せねばな。それには時間がかかる」

朝子10世:「私に秘密の妨害工作を命じられるのですね」

皇太子:「そういうことだが、今すぐではない」

朝子10世:「いつ?」

皇太子:「そちの次回探査案はトロヤだったな。あの案通りなら、帰りの軌道を調整すれば、火星到着の1,2ヶ月前に向こうの船とすれ違うだろう」

朝子10世:「では、その時に事故を?」

皇太子:「そういうことじゃ。方法は任せる。向こうの宇宙船の詳細な情報は外務大臣から直接な」

朝子10世:「方法は腹案があります。おそらく採鉱員を2名ほど増員する必要があると思いますが」

皇太子:「増員となると、艦は竣工予定の”みくら”を使うのじゃな。人の方は、他から引き抜くとなるときついな。新兵で構わぬか?」

朝子10世:「トロヤは遠いですから、元々”みくら”を使いたいと思っていたのです。増員による積載も問題ですが、軌道調整が大きくなると、尚更ですね。決行が帰り道ですから、兵の方は途中で鍛えます。それで手配願えますか」

皇帝:「トロヤ探査とこの件を合わせて成功させれば、10年間貴女に皇帝票を投じ続けても異論を唱える者は無いでしょう。せっかくの休暇に申し訳ないが、計画作り、宜しく頼みますよ。外務大臣との打ち合わせはぐらいは、離宮をお使いなさい」


(離宮にて)

外務大臣・弥生(黒の公家当主):「殿下、お久しゅうございますね」

朝子10世;「弥生公、忙しい中、こんなところまで済みませんね。陛下のおはからいで、打ち合わせくらいは此処でのんびりやれということですので」

弥生:「いいえ、この件が最優先ですから。半月ほどかかっても良いようスタッフ同伴で来てます。
本音を言うと、私もたまにはのんびりしたくて。たぶん、次官は泣いてるでしょうけど」

朝子10世:「では、今夜は大臣とスタッフの歓迎晩餐会といたしましょう。タロキチ、ブッチャーをここへ」

執事・タロキチ「奴をでございますか。まあ、直にお好みを聞かせるなら仕方ないですね。では」

弥生:「ブッチャー?。まさか、あの...」

朝子10世「ええ、あの人肉事件で人権削除刑になった本人ですよ」

弥生:「懐かしいわね。研究熱心が高じてあんな事になって、惜しいと思っていたので。とっくに、実験材料になってしまったと思ったら、まだ料理人をやってるなんて」

朝子10世:「体はそのままですが、人間をやめてるので、料理人でなく料理マシンですけど」

弥生:「大使時代に公邸料理人として使っていたことがあって。現地の料理を覚える能力は超人的でしたよ」

朝子10世:「コントローラーを埋め込むため大脳をかなり切っているので感情はないです。たぶん貴女を思い出すことは出来ないでしょうが、料理の勘だけは残っていますよ」

ブッチャー:「オヨビデゴザイマスカ、ヒメサマ」

朝子10世:「こちらのお好みを伺いなさい」

ブッチャー:「オキャクサマ、ナンナリト、オモウシツケクダサイ」

弥生:「出来るなら、松茸の土瓶蒸しを。後はお任せするわ」

ブッチャー:「カシコマリマシタ、デワ、バンサンノシタクニカカリマス」

弥生:「あの感情のなさは、確かに殆どロボットですね」

朝子10世:「まあその通りですね。脳改造実験としては成功の部類だけど、行動の殆どを建物に設置した主制御装置に頼っているし。体だけなら私たちの方がよほど機械に近いのに。やっぱり脳って難しいのね」

弥生:「電波が届かなくなったら刃向かいませんか?」

朝子10世:「鬱みたいになって、動けなくなるだけですよ。さてと、まず今日のところは情報ソースの確認をしましょう。それ次第で、予定外の事態を考慮すべき程度が違いますから。あちらの船の造りなどは明日からということで」

弥生:「ご存じの通り、在北米連大使館は特区自治政府の管轄です。大使館の活動に、外務省は関与していません。我々の工作は、専ら特区の環境NGOを利用しています。主なルートは、提携関係にある北米連内の環境NGOです。そこを通じて、北米連のサイボーグ開発を妨害させるために、あちらの人権団体や宗教強硬派を継続的に支援しています。特に、宗教強硬派は自称愛国者が多く、兵器メーカーの社員も多数居ます。今回の情報は、メーカーで働くそういった団体の構成員から得たものです」

朝子10世:「すると、モジュールの製造に直接加わった者からも?」

弥生:「複数の作業員から情報を得ています。設計者は含まれないので数値は断片的ですが、材質や厚みから船体規模が推定できます」

朝子10世:「乗員数やエンジン配置は判りませんか?」

弥生:「モジュールの総数を把握できないので、下限しか。乗員数は5名以上でしょう」

朝子10世:「向こうの船がある程度大きくないと、惑星間で捕捉は難しくなるのです。それから、乗員がサイボーグでないとすると、余裕が無いので武装はあっても僅かでしょう。但し、隕石排除用の武器があると厄介なのでなんとか情報が欲しいですね」

弥生:「断片的な部品の情報から割り出せると良いのですが」

朝子10世:「宙軍研究所から何人か呼び寄せます。明日以降、そちらのスタッフと合同で検証を進めましょう」

弥生:「とりあえずソースの状況はよろしいでしょうか。ところで、次期皇太子選挙のことですが、私としては貴女になっていただきたいと思っています。そのためにも、今回の件、首尾よく行くと良いですね」

朝子10世:「はは、貴女まで...。陛下からもそんなこと言われてますが、正直気が重くて。まあ、そういった話は酒の席の方がよろしいでしょう。とりあえず、今日はそろそろ晩餐会にしませんか」

弥生:「では、一度宿舎に戻りますので、後ほど」


(情報の検証を追うのは大変なので、手抜きします。それなりの成果はあったらしく、殿下は次の作戦計画を決めたようです)

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