−−(17)素体教官(その1)−−


(宙軍基地 会議室)

真理亜:「みんな揃ったわね」

リエ:「任務前に地上で打ち合わせなんて珍しいですね。こんどはよほどややこしい任務ですか」

真理亜:「他の者にとってはややこしいかも知れないけど、リエには楽勝かな」

マサ:「ところで、みんなといってもタラ特務中尉と冬子が居ませんね」

真理亜:「あの二人は、準備が大変なので既に任地に行っているわ」

マサ:「はあ。いったい我々は何処に行くので?。厄介な場所と言ったら火星とかですか?」

真理亜:「今度の任地は地上よ。前回の任務で身にしみたと思うけど北米とは一触即発の状態でしょ。衛星軌道警備の強化を急がないといけないの」

マサ:「すると、地上発射型の迎撃部隊でも編成するんですか?」

真理亜:「地上は天候に左右されるから迎撃なら上からよ。それが、すぐ増強できたら良いのだけれど、宙軍の人数が絶対的に足りないのよ。それで特に最近3年間は文部省にはシビリアンの素体供出率向上の施策を採って貰ってきたのね。リエも前に教育委員会の仕事手伝ったでしょ。その甲斐もあって、今年の素体召集は昨年の20%増しで120名になったの。だから、今年度から素体養成所の教官も増やすことになったわけね。
 で、丁度ウチは全員が教官を出来る下士官以上となったところだから、小隊ごと養成所に回ることになったって訳ね。特例の増員もあったので、タラと冬子は特例志願者の教官として福祉公団内の臨時素体養成所に出向してもらったのよ」

マサ:「えーっ、素体教官ですか。ということは体をスケルトンにしなきゃいけないんですよね。いやだなー」

真理亜:「藻前ねえ、前回の降下前にチャンスなら少々の苦労はいいって言ったでしょ。3年間で担当訓練生の落第率が10%以下だったら教官は2階級特進よ」

マサ:「確かに言いましたです。とほほ。リエみたいの、かわいくない」

マオ:「まあ良いじゃないですか先輩。宇宙行きだってどうせ純金外装外すんだし。大差ないですよ」

ミキ:「鬼教官のしごきっていっぺんやってみたかったですよ。ポワント1時間!出来なかったら足切断だぞ!って」

真理亜:「そういうことで、リエ以外はすぐ換装室に行きなさい。リエは私と手分けして各地区の中学校卒業式へ素体を迎えに行くのよ」

マサ:「あれ、真理亜様は換装しなくて良いんですか?」

真理亜:「もう済んでるわよ。ほら、(ぬぎぬぎ)全面ダイヤ膜よ。第一教程部長の体面でね。リエより豪華にしたんだから」

リホ、エリ:「えーっ!。うっそー!。綺麗!」

マサ:「真理亜様の髪が無くなってしまった...しくしく」


(素体養成所教官室)

真理亜:「来たわね。かつらとコスメチックジャケットを取って、仕上がりを見せてみなさい」

マオ:「(ぬぎぬぎ)これはこれで面白いですよ。どうです」

ミキ:「(ぬぎぬぎ)似合いますか?」

マサ、リホ、、エリ:「(しぶしぶ)はああ...」

真理亜:「早くしなさい。規則で素体たちに会う前に、私が点検しなきゃいけないのよ」

マサ:「(ぬぎぬぎ)とほほ。どうですかねえ」

真理亜:「良いじゃない。似合うわよ。じゃ、着けて良いわ。初対面でスケルトンはショック受ける子もいるからね」

マサ:「素体はどんな様子ですか?」

真理亜:「たいていの子は不安で小さくなってるわね。みんなそうだったでしょ?それで、担当なんだけど120名を4班に分けるから30人ずつね。これをマサ、リエ、リホ、エリが担当するのよ。マオは1,2班の、ミキは3,4班の助教官として主に実技系の訓練をサポートして貰うわ。最初に言ったように、任期中の3年間で10%つまり落第が3人以下ならその班の担当教官は2階級特進ね。逆に20%超えたら昇進なして落第生が3年次の科目を終えるまで任期延長だからしっかりしごくのよ。但し、体罰は支給する電気鞭以外絶対に使わないこと。どんなにむかついても素手はダメよ。死んじゃうから」

リエ:「死人が出たら責任問題ですよね」

真理亜:「無理な訓練や規定外の体罰で死んだら、担当教官は2等兵に降格の上、20年間の火星勤務よ」

マオ:「電気鞭は自由にやって良いんですか?」

真理亜:「科目ごとに毎回の成績について処罰基準があるからそれに従って公平にやるのよ。反抗は即やって構わないけど」

マサ:「ところで、突然だったので学科の準備は全然出来てないんですが」

真理亜:「まず、宇宙のことは6年も出ていたんだから実践で身に付いてるでしょ。天文学者を育てるんじゃないから、太陽系外の事は省いていいわけで、ブラックホールとか難解なのはいらないのよ。有人飛行ならニュートン物理プラス勘で飛べるっていう感触が理解できれば良いんだからね。
 サイボーグ体の仕組みも十分理解してるでしょ。細かいこと抜きに通常の整備に必要な基本だけ理解させるのよ。知識はいずれ体内CPUが保持してくれるんだから覚えさせる必要はないでしょ、その場で一旦理解させておくのだけが目的よ。
 それに、4月中は最初の手術とその回復のため、最低限の軍規とか楽な科目だけだし、講義も殆ど私が担当するからその間に準備しなさい。
 じゃ、担当クラスに行って手術の日程割り当てをやって。午後から第一陣にかかれるように飯抜かせてあるから。あ、そうそう、リエの班に春男が入ってるけど、顔見知りだからって甘やかしちゃダメよ」

リエ:「そりゃ、私も自分の将来に響くんで、手抜きなんかしません。でもよかったわ。あの子受かったんだ」


(マサの班)

マサ:「宙軍にようこそ。この班の担当教官を務めるマサ軍曹です。夜露死苦」

素体たち:「...(小声で)よろしくお願いします」

マサ:「そんなに怖がらなくて良いわよ!。外国のバカ軍隊みたいに意味もなく連帯責任とかいって苛めないから。但し、その分個人個人の目標が達成できないときはきちんとしたルールに従ってきつーいお仕置きがあるけどね」

素体・ミツ:「あのぉ、教官は宇宙でどんな仕事をされてきたのでしょう?」

マサ:「ここに来た以上、宇宙に興味を持つのは良い事ね。私は主に採鉱をやってきました。現地で役に立ちそうな隕石を選ぶのが任務です。小惑星への資源収集飛行は2回で6年間行っていました」

素体・マツ「戦闘のご経験はないのですか?」

マサ:「相手が居ないのでありません。今のところ宙軍の全員が同様です(嘘つくの疲れるー、妨害作戦の自慢したいよぉ)」

素体・ササ:「北米や満漢の宇宙船との争いって本当にないのですか?」

マサ:「北米連が月資源の独占を狙っているせいで険悪な雰囲気だけど、こちらは小惑星重視だからね(うう、ホントの事言いたい)。さて、自己紹介はこれくらいにして、早速だけど今日の午後から半日に6人ずつ交代で手術を受けて貰うので順序を割り当てます」

ミツ:「えっ、それって男子だけじゃないんですか?」

マサ:「そういえば、この班は女子ばかりか。元から女子の方が内容は簡単なんだけどあります。まず、改めて宣告しますが、勅令によってあなた達の体は徴兵された瞬間から脳と脊髄以外すべて国の所有物です。よって国は脳と脊髄の存続に必要な措置を執る限り、必要な部位を任意に切除し使用することが出来ます。逆にあなた達は髪や爪といえども許可無く勝手に切ってはなりません。以上、いいですね(ふう、マニュアル通り言えたわ)」

素体たち:「...(判っちゃいたけど、初っぱなからきつー)」

マサ:「国は素体適性のある遺伝子を持った生殖組織の維持管理を非常に重視しています。この目的のため、サイボーグの生殖組織は、すべて生殖バンクに預けられることになっています。女子も、生理による訓練スケジュールの狂いや訓練の負担による卵巣へのダメージ防止と、元男子との日程統一のため最初に卵巣摘出を行うのです。それから脱走防止のための素体番号ICタグ埋め込みも行います。じゃ席番号1から6番の娘は直ちに全裸になって向かいの手術準備室に行きなさい。10秒以内に行動しなさい。反抗は鞭打ちです。7から12番は明日午前9時からなので、安静室に行って待機。以下、半日遅れで同様ね」

素体たち:「はい...(いきなり初日からか、ガグガクブルブル)」

マサ:「では13番以降は待ち時間を利用して訓練端末の支給と簡単な説明をします。マオ来てる?」

マオ:「持って来てますよー。確かに18台プラス予備で」

マサ:「配布する端末は我々サイボーグの体内CPUとほぼ同じものを使用し、画面は将来各自の視覚にオーバレイ表示されるのを模したものです。本来BCIで操作するものですが、これは両脇のレバーと音声認識で代用しています。これからの訓練では身体訓練時を除き常時使用するので早く慣れるように。非常に頑丈に出来ていますが戦闘訓練中などには壊れることもあるので、壊れたら遠慮なく助教官のマオ伍長に交換を申し出ること。養成所内に居る限りデーターは常時サーバーにバックアップされるので、取り替えで困ることは無いはずです。養成所終了時のデーターは改造手術後に体内CPUへ移行されるので、知識の丸暗記に無駄なエネルギーを使わないこと。その場その場での理解に集中すること。学校とは根本的にやり方が違うということを受け入れるように。端末操作は殆ど画面を見れば判るようになっているけど困ったら私かマオに聞くように。今週は手術中を除き常時携帯し、とにかく慣れること。教科書やノートは一切使えないのでこれだけが頼りです。それでは、全員居住セルに移動して待機よ。手術の12時間前に安静室に入ること」


(リエの班)

リエ:「押忍。この班を担当するリエ軍曹である。まず、宣告する。おまいらの体は脳と脊髄以外すべて国のものになった。よって国はこれを自由に改造できる。以上宣告おわり!」

素体たち:「...」

リエ:「さて、おまいらはサイボーグになるために集められたのだが、サイボーグになれるのは女だけなのね。ところが、この班は今のところ全員男だわ。したがって、今日から半日交代で6人ずつ性転換手術を受けて貰うわ。この先5年間の訓練機関は、おまいらの場合、改造手術に備えて女になりきるための順応期間でもあるってことね。みっちり仕込んであげるからそのつもりで(やっぱし何人かびびってるのが居るなぁ)。
それで、手術の順番だけど、股間を押さえてふるえている香具師からにしようかな。3番、8番、11番、15番、25番、27番、以上が今日の午後!」

3番:「そんなぁ。あみだとかにしましょうよぉ」

リエ:「駄目。そもそもここに来て今更びびってるようじゃ逃げかねないと判断したのよ。脱走者なんか出たら私の責任問題になるんだから真っ先にやっちゃわないとね。すぐ全裸になって手術準備室に行きなさい。他の者はこれから様子見て順番決めます。まず、忠告しておくけど、みんな改名は考えている?。手術後1ヶ月以内に届けなかった者はコンピューターがランダムに命名することになってるの。なるべく使われてない名前が優先されるから、トメとかヨネとかださい名になりやすいわよ。一度決まってしまうと、大きな功績があって皇帝が許可したときくらいしか変えられないからね」

30番:「何語でも良いんですか?」

リエ:「構わないけど女性名と判定できないものや、皇帝陛下と同名とか特に畏れ多いものは却下されるわよ。まあ、却下されたらそこからまた1ヶ月くれるので、迷っているならわざと却下されそうなのにするのも手だけど。さて、明日の午前だけど5番、7番、16番、18番、20番、29番、以上の者はすぐ安静室へ行くこと。他は、助教官が端末持ってきたら配って説明するからここで待機ね」

2番:「ところで、リエ軍曹って3年ほど前に小学校で臨時講師されてましたか?」

リエ:「そうよ、憶えててくれたのね。」

2番:「あのお話を聞いて宇宙を目指したくなったんです」

リエ:「そお、嬉しいけどお礼に甘やかすわけにはいかないからね」

1番・春男:「なあんだ。同じリエさんでも別の人かと思っちゃった。スケルトンやめちゃったんですか?」

リエ:「あ、これかつらとコスメチックジャケットよ。私は着けたくないけど、初日は素体の子が怖がるからって命令でね」

6番:「私も授業聞きました。スケルトンかっこいいですよ」

リエ:「どうやらこの班では取ったほうが好かれそうね。ま、命令なので今日はやめとくけど、来週からは私本来の姿でやりたいわね。とにかく、これからの訓練は嫌々やってると地獄だけど、前向きな子には楽勝だからそのつもりで」


(3日後、教官室)

真理亜:「全員無事に出来たようね」

マサ:「逃げそうなのやひどく反抗的なのは居ませんね」

リエ:「何人か嫌がってるのが居たので逃げられないように手術の順番を先にしました」

リホ:「3班は問題ないです」

エリ:「4班は2,3人ぐずったので、鞭使いました。すぐ観念したようです」

真理亜:「偶数班で何人か嫌がるのはやはり仕方ないわね。例年より増えた分リスクの高い子が混じりやすいし。苛めっぱなしにしないで、回復期間中はまめに見舞ってやるのよ。特に自力排泄が出来ない間は精神不安になりやすいから」

リエ:「その辺のフォローは経験者のマサの方が得意なんじゃ?」

真理亜:「迷ったけど、マサは不安がってなかった方でしょ。リエやエリの方が断固とした態度でやれるからね」

マサ:「おっしゃるとおりで。初日から鞭はいやですよ」

リエ:「それもそうね。ところで、うちの班は私のスケルトン姿を知ってる子が多くて結構人気なんで、偽装いらなそうなんですが」

真理亜:「そう、だったら外しても良いわよ。リエの精神安定も大事だしね。マオ、ミキ、訓練施設の点検・調整のほうはどうかな?」

マオ:「サーバーや空ボディなどディジタル系は何も問題ないです。野戦で使った銃器類は1割くらい痛んでるのがありますね」

ミキ:「身体訓練用の器具類は未経験者用にストッパー調整し直してるんですが、アナログだし数が多いので手間取ってます」

真理亜:「銃器は業者呼んで整備に出して、程度の悪いのは新品補充しなさい。手入れなんて人手不足の宙軍兵がやることじゃないでしょ。素体にも軍隊ごっこで時間の無駄させる気はないから、手入れは教えなくていいわ。陸戦実技は2丁持ちでジャムったら捨てろと教えるのよ。身体訓練の器具は、未経験者が3月の設定で使うと怪我するからマオも手伝って慎重に整備しておいてね。私は、2日間タラたちのところに出張してくるからよろしく」

リエ:「あっちも真理亜侯が監督するのですか?」

真理亜:「福祉公団の責任でやる協定になってるんだけど、一人採用審査の難しい娘が居てね。直接見て欲しいと言うことなの」


(回復室)

リエ:「最初の6人は特にやばそうな子を選んだのだけどメンタルどうかしら?」

医師:「普段やっている一般のシビリアンだと精神科でGID診断済みですが、こちらは違いますから私にはなんとも」

リエ:「そうでしたね。あなた方シビリアン医師は協力員として手術請け負っただけだし、メンタルは軍の責任でしたね」

医師:「ええ。ホントは宙軍さんで全部出来ると良いのですが、殆どの方が脳外科限定なんで私らが下請けしてる訳ですから」

リエ:「どう?。落ち着いたかな?」

2班3番:「諦めはつきましたよ。ただ、痛くて死にそうです」

リエ:「顔色はそんなでもないわね。痛みで死ぬ事なんて無いんじゃないの」

医師:「出血は少なかったからその点は大丈夫でしょう。明日カテーテル抜くのでそこで問題なければ万全ですな」

リエ:「ということで、死にはしないようよ。明日も来るからね。愚痴はいくらでも聞いてあげるから安心なさい。あんたはどうかな?」

2班8番:「痛いですぅ。吐き気するし」

リエ:「言うことは同じか。ドクター、催眠ランプで眠らせちゃっても良いかな?」

医師:「薬と違って影響はないです。眠らせられるかどうかだけが問題ですね」

リエ:「そう。ドクターは目つぶってて!。(ぬぎぬぎ)そーら、みんなこっち見ろー、眠れチカチカチカ...」

素体たち:「ばた、ばた、ばた...」

リエ:「成功ね。ドクターもう見ても良いわよ」

医師:「おお、お見事。痛みが退くまで、毎日回診時にやって貰えると助かりますね」

リエ:「お安いご用ですわ。じゃ、今日の見舞いはこれでお終いっと!」


(福祉公団内・臨時素体養成所、観察室)

真理亜:「うーん、墜落機の生き残り、外国人で推定10歳か、厄介ねぇ。両親は?」

公団職員:「母親はDNA鑑定で死亡が確認されています。父親は同乗していたかどうかすら未確認です。記憶が飛んでて身元も不明で」

真理亜:「身元不明でどうして外国人だと判るの?」

公団職員:「乗客名簿の帝国臣民と特区住民が全てDNA鑑定できたので、消去法で外国人なのは確かです」

真理亜:「なるほど。悲田院令によれば外国人に恩賜援助はしないはずよね、何故ここに居るの?」

公団職員:「重体で一刻を争う状態だったので身元不明のまま帝国大学に搬送されてしまって、容態安定後に福祉公団に来たのです。DNA鑑定から外国人と確定したのは最近でして。それで援助打ち切りになってしまうので扱いに困っているのです。あんな体ではここでしか生きられませんし、それも人工臓器が成長についていけないのでこのままでは1年しか保ちません。次は遺伝子組み替え豚も必要になるので航空会社の補償金で賄えるような代物じゃないですから」

真理亜:「両手足の義肢と腰下アダプタ、義眼は見た目で判ったけど他は?」

公団職員:「心臓と肺が人工です。当初運動もおかしかったのでBCIも付けたのですが今は自己脊髄で手足を動かせる状態です」

真理亜:「うーん、こりゃ素体と言うより未完成サイボーグね。先に改造して訓練全部後からか、時間かかりそうだな。見捨てるのも後味悪いから採用しても良いけど、特例の場合は自発的志願の原則守らなきゃいけないのよ。とにかく、私が直接話してみて志願したらってことでいいわね。名前はあるの?。それから言葉は普通に通じるの?」

公団職員:「ひとつ宜しくお願いします。仮の名前は理美となっています。言葉はずっと失語症だったのですが、最近は何故か我々の言葉を話します」


(福祉公団内・臨時素体養成所、面会室)

真理亜:「はじめまして。お姉さんね、貴女のこれからの事についてご相談したいの。怪我の具合はどうかしら?」

理美:「肩と腰の切り口の痛みはやっと消えました。時々頭が痛いです。頭のてっぺんにある人工の目のソケット辺りが」

真理亜:「確かに痛そうね。髪はどうしたの?」

理美:「このソケットが濡らせなくて洗えないため丸坊主にしているのです。体にも人工臓器のソケットがあって風呂にも入れないのです」

真理亜:「かわいそうに不便ねえ。もっと自由になりたいでしょ?」

理美:「可能なら。でも、ママは死んじゃったらしいし、自分の名前も判らないし、施設の職員もこれ以上してあげられることは無いって」

真理亜:「施設にも決まりがあるの。恨まないでね。それで貴女を引き取ってもっと自由な体に直せないかってお姉さんの組織に相談が来たのよ」

理美:「そんなことできるんですか?。出来るならお願いします」

真理亜:「方法はあるわ。但し、その方法を使うと貴女の記憶が戻ってお家が何処か判っても帰ることが出来なくなるの」

理美:「施設の職員の話だと、こんな体で生きていられるのはこの国だからで、余所では無理だろうって。だから、同じ事だわ」

真理亜:「そこまで理解してるならお勧めできそうね。方法というのは体の脳と脊髄以外の部分をすべて機械に置き換えて作り直すことなの」

理美:「サイボーグなら知ってます。でも、マンガの話だと思ってました」

真理亜:「ここではそれが現実の話なの。貴女の今の体も技術的にはサイボーグなのよ。この国ではより完全なものしかそう呼ばないけどね」

理美:「確かにこの体もマンガみたいですね。でも、体全部を機械で作り直して自由に動けるようになるなんて不思議だわ」

真理亜:「外国で育った子には信じられないかな。証拠を見せてあげるわ。(ぬぎぬぎ)ほら!」

理美:「えっ!。そんな、貴女がサイボーグだったなんて。でも確かに透明な体に機械が...」

真理亜:「私はいま新しくサイボーグになる子の世話をする仕事をしているので、説明しやすいよう特別に透明な体にしているの。この国のサイボーグの大半は殆ど普通の人間と変わらない外見なのよ。たとえ、会っていても気づかない鴨ね。この体でもさっきみたいにコスメチックジャケットというカバーを付けたら見分けにくいくらいだから」

理美:「すごいですね。こんな事が出来るなら私も自由に動けるようにして貰えそうですね」

真理亜:「但し、条件があるの。この国でサイボーグになれるのは、軍隊それも宙軍という宇宙で活動するための軍隊の人だけなの。つまり、貴女がサイボーグになるには私たちの軍隊に志願しなければならないと言うことなの。そして、私たちの軍隊は一度入ったら一生辞めることが出来ないし、特別な任務でもない限り外国に行くことも許されないの。宇宙には任務でしょっちゅう行かなくちゃならないんだけどね。そんな重大なことを貴女みたいな小さい子に決めさせるのは本来出来ないのだけど、貴女は特別な状態だから会ってみることにしたの」

理美:「こんな不自由な状態で一生暮らすなら、軍隊に入って人を殺す方がましです。志願させて下さい」

真理亜:「私たちは宇宙で色々な仕事をするのが主だから、すぐに人を殺す覚悟は要らないわ。将来どうなるかは判らないけど。ただ、貴女の場合は怪我の後遺症があるのでサイボーグとしても完全な体になれる保障はないわ。それに、本来なら改造手術の前にすべき訓練も出来ないから、自由に動けるようになるまでにとても時間がかかるの。私は明日また来るから、一晩よく考えてもう一度返事を聞かせて頂戴」

理美:「はい、よく考えます。えーと...」

真理亜:「名前言ってなかったわね。私は真理亜よ」

理美:「え、真理亜様ですか。きっと神様がかわいそうな私のために遣わして下さったのだわ」

真理亜:「違うわ。地球にも宇宙にも神様なんて居ないのよ。生きるのに必要なのは自分の意志だけなのよ。それも含めてよく考えてね」


(翌日、面会室)

真理亜:「今日は、貴女の意志をきちんと確認するので、ここの施設内で新しくサイボーグになる人の世話をしている冬子さんと、ここや貴女の居た施設を運営している福祉公団の理事さんにも一緒に聞いていて貰います」

冬子:「はじめまして。大変な目に遭っちゃったわね」

真理亜:「理美さん、よく考えてくたたかしら?」

理美:「はい。やはり、真理亜さんの軍隊に入ってサイボーグになりたいと思います」

真理亜:「体をまっぷたつに切り開いて脳と脊髄を取り出す手術を受けなくちゃいけないのよ。怖くない?」

理美:「もう、頭だけで3回も手術したので、痛いのや怖いのは慣れちゃいました」

真理亜:「そお。じゃ、後悔しないわね?。理事さん、何か言いたいことは?」

理事:「済まないね。もうこの人たちにお願いするしか君の体を良くする方法はなくてね」

理美:「いいえ、真理亜さんたちに会わせて貰えてよかったです。これから宜しくお願いします」

真理亜:「判りました。それでは貴女の志願を受け付けます。これから当分の間、冬子が貴女の上官になるから指示に従うのよ」

理美:「はい」

真理亜:「冬子、この子は改造後しか訓練始められない状態だから、すぐ基地の手術準備室に連れていって検査始めて貰って。訓練計画は改造手術やってる間に立てられるわね?。人事への手続きは、理事さんからやって貰える?」

冬子:「承知しました。理美さん、歩けるのよね、一緒にいらっしゃい」

理事:「いつもの通りで大丈夫でしょうか?。今回は特殊事情なので、真理亜侯の意見書を頂いた方が通りやすいと思うのですが」

真理亜:「いいわよ。意見書は私から人事に直接送って受領番号をお知らせするから、備考欄に書いておいてね。あ、ところで通常の成人と違って無能力者だから半額自己負担契約は無理よね。そちら困らないかしら?」

理事:「恩賜援助打ち切りの代償措置と言うことで悲田院の負担承認を取り付けております」


(2週目初日、回復室)

リエ:「全員、カテーテル取れたね。おしっこちゃんと出たかな?」

2班3番:「出るには出たけど、向きが定まらなくて足にかかるんですが」

リエ:「糸は取れてるでしょ。7日経てば腫れもかなり退いてるから後はしつけの問題ね。例年こんな調子なんで7日目から集団排泄訓練をやることになってるから初日組はついてきなさい」

2班27番:「服がないんですが」

リエ:「排泄訓練に合格したら制服を支給することになってるの。それまでは全裸でやるのよ」

2班8番:「そんなあ...」

リエ:「つべこべ言わずに来るのよ。それとも電気鞭がいい?」


(排泄訓練場)

リエ:「配った利尿剤入りの水を飲んでもよおしてきたら手を挙げなさい。私が見てる前でするのよ。こぼさなかったら合格よ」

2班8番:「(いやだなー、でも漏れそう)ううっ、はい!」

リエ:「よしよしどーれ、あ、小陰唇ちゃんとめくって開かなきゃ駄目よ。あーあ横にこぼしちゃった。不合格。やり直し。次!」

2班11番:「(厳しいなあ)はい」

リエ:「ちゃんと腰落としなさい。あー、足に伝っちゃって垂れてる。汚いなあ。不合格。シャワー浴びてきてやり直し。次!」

2班15番:「(無理だよお)はい」

リエ:「もうちょっとかかと上げて体を前に傾けるのよ。膝がくがくしたらダメ。ほらー、前にこぼしちゃってぇ。不合格。次!」

2班25番:「(もうだめぽ)はい」

リエ:「お、角度良いじゃない。そのまま、ふらつかないのよ。ん、よしこぼさなかったな。よし合格」

2班27番:「(よしあの角度か)はい。ん、角度調整、(手がスカッ)あっしまった無いんだった」

リエ:「手で何を掴んで調整するって?。バカ。あーあ、何処飛ばしてんの。不合格。やり直し。1巡目は一人か。25番、配給切符を端末に転送したから装備室へ制服貰いに行って良いわよ。あとの娘は、水飲んでやり直し。今日は5回まで我慢してあげるけどそれでダメなら明日も全裸よ」


(4日後、教官室)

真理亜:「標準スケジュールなら今日までで全員回復室から出てるはずだけど、問題のある娘はいないかな?」

マサ:「うちはみんな回復してます。暇なのと、宇宙の予備知識はあっても計算がいまいちのが何人か居たので、端末で軌道出す練習とかさせてます」

リエ:「こっちは何とか全員が制服手に入れたとこです」

リホ:「私のところも1班と似たような事してます」

エリ:「こちらも、やっと全員が服着れるようになりました」

真理亜:「偶数班で精神的にやばいの居ないわね?」

リエ:「制服が下着一体型レオタードなのでトイレが一層不便だとぼやいてる香具師が多い程度で、おかしいのは出てないですね」

エリ:「一人口数の少ないのがいますが、排泄が早くできた香具師なのでまあ大丈夫でしょう」

真理亜:「偶数班はトイレの不便さ自体が訓練だからね。ぼやきは基本的にほっといて良いわ。あんまりぼやいてばかりで意欲が落ちてる香具師には、鞭使っても良いけどね。予定通り、来週頭から2週間でここの訓練目標と軍規の基本をやって、5週目からは実地と身体始めるからね」


(3週目初日、講堂 訓練目標概要)

真理亜:「おはよう。全員が無事に最初の手術を乗り越えたこと、喜ばしく思います。これで、貴女たちはサイボーグの素材に相応しい体、素体となったわけですが、まだ中身は伴っていません。これから5年間の訓練によってその中身を整えていくことになるのです。
 5年のうち最初の3年間は、第一教程と呼ばれる基礎訓練であり、ここでその中身を整えることが主となります。我々第一教程部の教官が担当するのはこの3年間です。あとの2年間のうち1年半強は、改造手術の準備としての特殊訓練となり、その後予備手術、最終訓練、本手術となり、順調に行けば5年で完成サイボーグとなります。その後の半年から1年の調整検査期間をあわせて第二教程と言い、改造手術に関する専門分野にたけた教官と技術スタッフが共同で担当します。
 宙軍兵に必要な中身は、三つです。
 第一がサイボーグとして生きるのに必要なもの、第二が宇宙で活動するために必要なもの、第三が軍として行動する上で必要なものです。サイボーグとして生きることは、これが成り立たないと宙軍の活動に耐えられないのだから最優先です。
 生きる上で絶対に欠かせないのが、サイボーグ体の整備能力です。サイボーグ体は生体より丈夫ですが、自然に備わった自己修復能力がありません。したがって、自己修復に代わる働きを日常作業として意図的にしなければなりません。地上基地や衛星工場には専従の整備兵も配置されていますが、宇宙空間に出たら大型宇宙艦ですら30人程度で全てをこなすため整備兵は居ません。したがって、サイボーグ体の仕組みを理解し、実際に手を動かして整備する経験をあらかじめ積んで置くのです。
 また、サイボーグ体の感覚や運動は生体と差があり、特に宇宙に出るときにとる構成ではその差が大きくなります。これを、違和感無く自らのものとするには生体から見れば偏った運動神経の鍛錬が必要で、今からこなしていく必要があるのです。なお、元男子の娘については、女性しかサイボーグ化できないという技術的制約に適合するために、性自認の適応も生きる上で必要なことと心得て下さい。
 宇宙で活動することは宙軍兵の本業であり、これが苦手だと基地要員のような補助的任務にしか就けないので次に重要なことです。宇宙空間では艦や自分自身が、それぞれいわば1個の天体となって運動することになります。したがって、その運動を計算し制御する方法を身につける必要があります。また、宇宙艦をはじめとする使用機材の仕組みを理解し、さらに日常使う物は取り扱いを実習する必要があります。限られた艦内空間で生活するため、狭い生活空間に慣れる必要もあります。ここの居住セルは、未改造素体の許容範囲内で最も艦内に近い状態を再現しており暮らすこと自体が訓練です。
 軍として行動することは、サイボーグになれば体内CPUのネットで柔軟に指揮系統が組めるようになり、体力も全員が同じになるので、難しくありません。したがって、必要最低限の規律や射撃術を教えるだけで、外国でやっているような犬の調教まがいの軍事教練はやりません。むしろ広い宇宙空間で孤立した状態で行動しなければならない我々は、犬のような指示待ち型の姿勢を身につけてはいけないのです。
 以上の訓練においては、実習で勘を身につけるべきもの以外は、一旦理解しておくことが目標であり、学校でやったような丸暗記は不要です。サイボーグになれば、知識は体内CPUが保持してくれ、いつでも取り出せるようになるからです。その違いを常に念頭に置いて行動して下さい。
 全ての訓練は時間割ごとに考課を行い、選ばれてここに来た者なら容易に達成できる標準レベルを下回ったときは、もれなく公平に処罰されます。処罰を受けるものは、その99%が意欲不足か、学校教育や一般の軍事教練とここの訓練との目的の違いを誤解している者達です。訓練目標の概要は以上です」

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