−−(21)インターセプター小隊−−


(地上基地 搭乗員待機室)

ハル:「あ、おかあさん!。降りてきてたのね」

冬子:「ハル!。完成したわね。おめでとう。これから上に?。私は解体検査のために降りてきたところ。いよいよ冥王星探検の参加者選別ね。頭蓋ばらして脳を裸にして徹底的に検査されるの。結果が決まるまでの9ヶ月は軽い訓練だけで暇だから、夜は家でゆっくり出来るんだけどね」

ハル:「私、最初は軌道警備部隊に配属されることになって。一緒に冥王星行きは無くなっちゃったね」

冬子:「こっちもどうなるか判らないわよ。候補者の内、シビリアン出身者では私が最年長なのよ。頭蓋ばらして検査してみたら動脈硬化で不合格ってなる可能性は、若い娘より格段に高いからねえ」

ハル:「でも、おかあさんは特殊な構造だから、もともと耐Gだけは有利なんでしょ。きっと大丈夫だよ」

冬子:「そりゃ、脊髄が無い分はね。でも脳は他の人と同じなんだから、年の分不利なのよ。ところで、ハルは、そっちの娘たちと一緒に上がるの?。みんな完成したての娘ね」

マツ:「冬子特務少尉!初めまして、ご活躍のうわさはハルからかねがね」

冬子:「どんな噂だか。私は元々おまけサイボーグですからね。大したことはしてないのよ」

ミツ:「94年のメインベルト収集飛行や97年のトロヤ初探検の資源分析で多大な成果を残されたとか」

冬子:「地道にやっただけ。宇宙遊泳とかまともに出来ないから、それしかなくて」

ササ:「でも、第3工場建造とか、最近の資材充実にはその成果が大いに効いているそうじゃないですか」

冬子:「それも勘良く隕石を集めてくれた徴兵の娘たちが居たから出来た事よ。私は裏方ですから。ところで、工場衛星には、私のように戦闘サイボーグになれなくて製造に回っている障害者が多いの。工場の安全は、貴女達のように素質で選ばれて軌道警備の第一線につく娘が頼りだからよろしくね」

ハル:「了解。そろそろ搭乗時間だから行くね。冥王星土産期待してるから、お母さんも頑張ってね」


(M55ロケット打ち上げ場)

管制官:「M55ロケット03061002貨物便発射300秒前、規制空域侵入機無し、規制海面船影無し、初段回収艦待機ポジションよし、進路に交錯する大型デブリ無し...3,2,1発射」

ミツ:「飛んだ飛んだ!。いよいよ私らの出番ね。だけど、ハルは良いなあ、親子でサイボーグなんて貴族様みたいで」

ハル:「お父さんは一般シビリアンよ。それより、私は貴女達みたいに、最初から女の子の方が羨ましかったわ」

マツ:「5年以上経っているのに、いまだに違和感ってあるものなの?」

ハル:「体の違和感は3年前には無くなったわ。ただ、ここまでは訓練や改造で自由が殆ど無かったでしょ。この先、任務期間中はまだしも地上休養に入ったときの生活とかちょっと不安なのよね。殆どの娘が特区で売春とかやるでしょ。地上休養中の体って、それが必要らしいじゃない」

ササ:「ハルって、そういうの生身では未経験だったんだ。そりゃ、初めての地上休養が大変かもね。下請けで改造施設に入ってた、だるまっ娘好き整形外科医のオサーンにでも売春してみれば良かったのに」

ハル:「あのときは、まだとてもそんなコトする勇気なくて。あ、そろそろデブリ要注意の高度だね。管制じゃ、でかいのは無いって言ってたけど、レーダー網にかからない細かいのもあるからね」

ミツ:「前方50`以内は無さそうね」

マツ:「真上、後方寄り40`辺にうっすらと影出てるね。同航だから相対速度は小さいけど交錯しないかな」

ササ:「念のため、左右どっちかに避けとこうよ」

ハル:「左は管制情報で200`前方にでかいのがあるから右にしようよ。じゃ、スラスタ吹かすね」


(第1工場衛星内・軌道警備部隊司令部)

真理亜:「4人ともお久しぶりね。実は迎撃艇を低軌道で乗りこなせる勘の良い娘が足りなくて困っていたのよ。それで、東宮様にお願いして素体訓練時に適性があるのが判っていた貴女達を配属してもらったのよ」

ハル:「真理亜侯様のご指名は光栄ですけど、そんなに難しいなら新兵じゃ尚更ダメかも知れませんよ」

真理亜:「経験よりも、軌道計算をチェックするタイミングのよさとか、素早く独断で行動を決められる性格が重要なの。さっき、貴女達が上がってくるときの操縦はここでも監視していたんだけど、デブリ回避の判断良かったわ。期待通りね」

ハル:「あ、見ていらしたんですか。期待通りといわれましても、初任務でいきなり怪我とか漂流とか嫌ですから」

真理亜:「嫌だっていっても、デブリは勝手に去ってくれないしね。このごろ北米連と満漢人民の競争で増えているでしょ。自分の隊の娘が上がってくるときは、心配するわよ。みんな貴女達のように連携良く周囲監視して避ければいいけど」

ササ:「増えてるって噂は聞いてましたが、確かに酷いですね。我々のようなデブリレスシステムにすればいいのに」

ミツ:「宇宙にリサイクル工場持ってないと、デブリレス化が単なるコストアップになっちゃうからね」

マツ:「でも、リサイクルだけじゃ工場作っても仕事少なすぎるわね。結局、隕石鉱山がないと無理って事か」

真理亜:「さっきみたいに、非力なアポジモーターで重い2段目を牽引してる状態だと速い判断がなによりよね。迎撃艇だって、少々加速力重視の設計といっても、低軌道の重力下では鈍重なロケットの一種に過ぎないわ。だから、さっきみたいに先回りして運動を決めていくセンスの有り無しで上手い下手が決まってしまうのね。早速、これからシミュレーターにかかってもらうわ。一通り済んだら、マサについて実機訓練ね。じゃ、よろしく」

ハル、ミツ、マツ、ササ:「こちらこそよろしくお願いします」


(3日後、工場衛星ベイ)

マサ:「期待通りソッコーでシミュレーション終わってくれたじゃない。じゃ、今日は月見に行こうか」

ミツ:「先輩の軌道警備隊員から噂聞きましたよ。マサ特務中尉は最近ずいぶん月が好きだって」

マサ:「ロマンチックなんだもん。ホントは真理亜様と行きたいんだけど司令部が忙しくて付き合ってくれないのよ。シミュレーション明けの足慣らしに適当だし。北米連を刺激しないようにって、L1までしか行けないのが惜しいわ」

マツ:「L1でも十分大きく見えますけど、せっかく行くなら間近で月見したいわ」

ササ:「北米連の監視衛星、目障りですよね。悪戯して故障させてやりたいですね」

マサ:「あの衛星は、エキシマを加減して太陽電池を焼けば、正常な外見のまま壊せるんだけどね。許されるのならやっちゃいたいけど、やる前にカメラに写ったりして、バレたらさすがにまずいからなぁ」

ハル:「あのぉ、今日のところはロマチックじゃないネタは止めにしませんか。お月見お月見」


(第1工場衛星内・酒造区画 別名:バー改め、おしっこバー こんなところ

マサ:「お月見の後のお約束って訳じゃないですけど、ささやかですが新人歓迎会を始めたいと思います」

真理亜:「藻前は、最初のときおしっこの味見なんか嫌だと言っていたけどいつの間にか積極的になったわね」

マサ:「この設備はあんまり好きじゃないですが、公平に見てここで出来る酒はうまいですよ」

リエ:「確かにねえ。0.2気圧じゃ虫が生きられないお陰で、原料が完全無農薬だし」

ミツ:「まさか、こっちで歓迎の宴会なんかやって貰えるとは、驚きです」

真理亜:「公式には宴会じゃなくて、工場の酒造事業立ち上げに味見で協力するという仕事だけどね。我々の勘の良さで売れ筋を探せってことで。はいこれ。誤嚥で故障しないためのゴム栓ね」

マツ:「なるほど。はぐっ(以下、全員会話はLAN経由)。しかし、味だけでも、うまければ楽しめますね」

ササ:「マサさんと宴会なんて、100年祭バレエパレード後の満漢全席以来ですね」

マサ:「残念ながら今日は料理なしだけどね。じゃ、新兵4人の活躍を祈ってかんぱーい」

ハル:「ほう、これは!。たしかに、残留農薬の微かな雑味が無いですね。地上では出来ませんよ」

リエ:「我々の味覚は高感度だからね。通常人で、残留農薬の微かな雑味がわかる人は少ないでしょ。雑味がないのは当然として、この中からどれを主力商品にするかといううまみの評価が必要なの」

ミツ:「そうですね。どれ、こっちの注いでみようか。クリちゃんクリックぽちっとな(じょろろー)」

マツ:「うーん、尿道からコップにって、なんだか学校の健康診断思い出しちゃいますね」

ササ:「でもさぁ。オサーンの中にはこういうのが好きな人も結構居るんだよね」

ミツ:「それって、実体験なの?」

ササ:「一度だけ。中1の時に、ゆきずりのオサーンにおしっこ売ってくれって言われてやっちゃった。同級生の噂だと、近所に何人かそういうオサーンが居たみたいで、他にも売った娘が居たそうよ」

ハル:「なるほど、それだ!。副業はこれにしよう」

マサ:「どうしたの?」

ハル:「私、まだ地上社会で女として暮らした経験が無いでしょ。売春ってできそうもなくて悩んでいたんです。今の話から、地上休養時に体を酒造装置にしておしっこバーをやったら良いかなと気がついたんです」

リエ:「そおねえ。私もどっちかって言うと売春より露出って方だから、感覚はわかるわ。ただ、腹部器官を酒造に使ってしまうと燃料が生産出来ないから、足の電源確保が課題ね。それに、口からは原料米や麹しか摂れなくなるから、生命維持がタブレット依存になるわね。酒も出すだけで、自分は飲めないことになるけど、大丈夫かな?」

マサ:「廃液はどうするの?。ここに並んでいる胴体はアナルから下水に管が直結でしょ。動けるようにするには、タンクを前後に分割して廃液を後ろに溜めるようにしなくちゃね」

ハル:「電源と廃液が問題ですか、義肢工場にお母さんの同期が居るから今度相談してみよう。3年あれば特注パーツで出来るかも知れないし。真理亜様、次の休息時間でアポ取って良いですか」

真理亜:「地上休養時のメンヘル向上は大事なことだから、研究するのは大いに結構よ。私の忠告としては、貴女の考えるような風俗営業は経営的に辛いかもしれないって事かな。全身サイボーグであることを晒す営業形態だから、お客の沢山居る特区では出来ないでしょ。ササの話のような、特殊嗜好のオサーンが帝国本体だけでどれだけ居るか、市場規模が問題ね。ただ、本物のおしっこじゃなく酒を出す訳だから、新しい客層が開拓出来る余地もあるわね。あんまり、コストをかけすぎずにスモールスタートでやってみたら良いんじゃないかしら」

ハル:「ご忠告ありがとうございます。あくまで副業と割り切って欲張らないようにします」


(3ヶ月後 第1工場衛星内・軌道警備部隊司令部)

真理亜:「新兵の4人も慣れてきたので、ICBM迎撃に備えた訓練を本格化します。以前から東宮様の指示はあったのだけど、できる搭乗員が居なくて遅れていたのよ。そういう訳で、まず地球重力の影響が強い低軌道で速度同調の訓練を徹底的に行います。しかし、単に訓練で終わっては退屈だしポイント稼げないと藻前たちのやる気も出ないでしょ。そこで、訓練標的にデブリを利用し4隻で吸着網を展開してトロールで回収することにします。幸か不幸か低軌道は昔に軍事衛星が大量に打ち上げられた際のデブリがうようよしてるでしょ。おまけに、最近も外国どうしの覇権争いで大気圏出たあたりでノーズコーンとかが大量に投棄されているし。この先、北米連の核を抑えられる兵力を上げるとなるとデブリのリスクを下げておかなきゃならないしね」

マサ:「ポイント配分ってどうなるんですか?」

真理亜:「迎撃艇の運動ログから捕獲したデブリの軌道を逆算し、我々の打ち上げに対する支障率を出すの。さらに重量と標準打ち上げ軌道に対する相対速度から衝突時の想定被害額も計算するのね。これらを掛け合わせた額が、デブリ回収によって宙軍が得る利益となり、その50%が5人に等分還元されます。さらに、回収された物体の素材価値相当分は、工場が評価して買い取ってくれ全額臨時ボーナスとなります。外国の液体ロケットは結構贅沢な素材を使っているから、がんばってね」

マサ、ハル、ミツ、マツ、ササ:「はーい。大漁期待して下さい」


(低軌道に降りた迎撃艇間の通信)

ササ:「80`先にいくつか固まって流れているのがありますね」

マサ:「ゆっくり接近して金目になりそうか確かめようか。リサイクルしにくい材質のなら落としちゃっても良いし」

マツ:「破損したロケットから出た液体エンジンの燃焼室周りですね。モリブデンとか高そうな素材入ってますよ」

マサ:「そんじゃ、4人で一辺1`に吸着網展開、予熱して。私は前に出て進路中心を誘導するからね。ただ、こっちもぶつからないように避けなきゃいけないんで、細かいぶれは適宜無視してついてきてね」

ミツ:「網リードワイヤー渡りました。吸着網展開・連結完了。4隅相互の位置関係良いです。シンクロ飛行用意」

ハル:「マサ特務中尉艇、正方形の中心から法線方向に捉えています。法線長2`。シンクロ入ります」

マサ:「地球の潮汐力忘れないでね。1`差でも長びくと燃料消費の格差になるから」

ササ:「秒速1度くらいでローテートして良いですか」

マサ:「網にテンションかかりすぎるのも嫌だから0.5度にして。対標的速度は10`手前までは秒速0.1`ね」

ハル:「一番近い標的物体まで10`。マサ艇減速中、秒速0.01`。落下補正、エンジン指向、再弱..。停止」

マサ:「小物避け始めるから、私とのシンクロ外して。相対速度3m/sでそのままゆっくり寄ってきて。右上隅の小物こっちで弾くから避けないで良いよ。ラブラブ光線、連射5回...よし追いやった」

ミツ:「マサ艇、デブリ群の向こうに抜けました。吸着網当たります」

マツ:「吸着網、ヒーター電流供給停めます。粘着剤硬化まで約20分」


ササ:「エンジンらしき物、くっつきました。周囲の小物も殆どかかっています」

ハル:「そろそろ正方形の辺を縮めて包みにかかろうよ」

マサ:「間隔0.8`に縮めて。前進方向ちょっとだけ加速。そうそう、いいよ」

ハル:「網、ちょっと固いですね。5分ほどヒーターかけながら包み込みましょう」

マサ:「1辺0.5`に縮めたら、帰還軌道に向かうのよ」


(第1工場衛星・ベイ)

マサ:「初回から大漁だったわね。こりゃ良い。カネになるわ」

ハル:「金属モリブデン500`ったら、高いですよね。使い捨てで、よくこんな贅沢なエンジン作るよなぁ」

ミツ:「あんなところで壊れて流れているって事は、たぶん失敗して上昇中に爆発した2段目とかよね」

マツ:「ということは、打ち上げた国は使い捨てどころか、ペイロードごと丸損かあ。惨めねぇ」

ササ:「ていうか、こんなのに税金使われた国民は悲惨よねえ。北米連ならまだしも貧乏国だったら尚更」

マサ:「でも、そのお陰で私らの懐が潤うんだもんね。宙軍兵は、一度やったらやめられないわねえ」

ハル:「辞められないのは元々ですよ。金が入るし、風俗ボディの打ち合わせに行こうかな。皆さんお疲れ様!」


(第1工場衛星・義肢部下肢課)

ハル:「こんにちわ。先日ご相談した件、どうですか?」

ひとみ:「あら、春男君、じゃなくてハルちゃん、いらっしゃい」

ハル:「まだ間違えるのは、ひとみ伍長くらいですよ」

ひとみ:「私って、素体番号で認識した相手を初対面の外見に脳内変換してしまう癖があってね。障害のせいか、脳構造が特殊なのかしら。勘弁勘弁」

ハル:「初対面のときの外見っていうことは、私だと赤ん坊に変換されちゃうんですかぁ?それじゃあ、風俗ボディの打ち合わせに来たのに、やりづらいですね」

ひとみ:「そんな心配はしなくて良いわよ。ユーザーが誰であれ設計製造のプロとして対応出来ますから。それでね、検討してみたのだけど、足電源については、やっぱりニッケル水素だと容量的に苦しいかも。軍の規則で、サイボーグの無補給連続稼働時間が24時間を割り込む構成は休養中でも禁止なのね。休養中に侵攻を受けたときに困るでしょ。充電中は動けないのもまずいし、落雷事故とかも怖いしね。それで、なんとか燃料電池にエタノールを補給する構成にしなきゃいけないのよ。といっても、足に補給口を付けて直に入れるのも蓋の継ぎ目で見栄えが悪いから風俗向きじゃないでしょ。唯一、採りうる方法は、醸造の方をアルコール濃いめに生産し、半分抜き取って足に補給する構成ね。陰部のタンクを製品と廃液に分割すると、製品の収容可能量も半減するからそれで妥当と思うわ」

ハル:「醸造機と分離器が特注になっちゃうと高くつきそうですね」

ひとみ:「特注品は分離器と廃液タンク、製品タンクだけで済むわよ。足が標準だからかえって安くなる鴨。気がかりな点は、廃液タンクが通常型の45%しか容量が取れないことかしら。おまけに、製品と足でアウトプットを分け合うから、原材料を2倍投入しなくちゃならないでしょ。製品は頑張って売るとしても、廃液の方でトイレの頻度は標準構成の4倍くらいになってしまうわね」

ハル:「排泄が多くなるのは我慢します。それより、分離のせいで製品の味が落ちる方が心配ですが」

ひとみ:「それは、原材料や菌のブレンドで条件出しするしかないわね。必ずまずくなるとは限らないし」

ハル:「ここにいる間に実験出来ないのが痛いですね」

ひとみ:「第1工場のバーが順調なので、近々第2工場と第3工場にもバーが設置されるのよ。最初は、様子見のために試作品の酒造装置ばかりが設置されるから、似た製造条件のを仕込めるわ。あとは、貴女達で頑張って味見して売れる味を見つけるようにすると良いわ」

ハル:「それは助かりますが、そんなコトしちゃって良いんですか?」

ひとみ:「私も伍長になったので、開発主任として足だけでなく胴体内機器開発の娘にも指図出来るのよ。その程度の裁量権はあるから大丈夫よ。そのかわり、できた特注品を購入する費用は稼いでおいてね」

ハル:「うまい具合に、訓練ついでのデブリ回収で臨時ボーナスが入り始めたんです。3年目には十分な予算が用意出来ると思いますよ。期待して下さい」

ひとみ:「風俗やるとなると、機器だけでなく、最初は外装とか服にもお金かかるから、頑張ってね」


(3ヶ月後 第1工場・ベイ)

マサ:「今日から、ミサイル迎撃の主力兵器となる粘着焼夷弾頭ミサイルの訓練にかかるわよ」

ササ:「標的はやっぱりデブリですか?。とすると、今度は拾えないんでしょうか?」

マサ:「標的は正解。でも拾えるわ、っていうか拾えるようにうまく当てる訓練なのね。粘着焼夷弾頭って、標的にへばりついて硝酸とマグネシウムを反応させデブリ出さずに故障させるでしょ。つまり、標的の進路が変わるような激突をさせちゃ失敗なの。拾えるような当て方が、正しい当て方になる訳ね」

ハル:「かなり難しそうですね」

マサ:「有線誘導で頭部のカメラ映像を見ながら追えるので、相対速度が遅い同航戦なら易しいわね。逆にすれ違いでは殆ど使い物にならないわ。同航戦に持っていく軌道計画が勝負なのよ。北米連本土から本国を狙うICBMだと極軌道に近い逆行軌道で追うことになるでしょ。静止軌道から出て低軌道に降りる間に素早く軌道傾斜角を変換するところが訓練の重点ね。したがって、標的にするデブリは極軌道系の物を選ぶことになるわ」

マツ:「それはかなり面倒な操作になりますね」

マサ:「その代わり、極軌道系のデブリは打ち上げに対する支障率と衝突時の想定被害額が高めでしょ。うまく拾えれば、ボーナスポイントも大きいわよ」

ミツ:「なるほど。そりゃあ少々面倒でもやる気が涌きますね」

マサ:「軌道変換の燃料消費が大きいから残量に十分注意するのよ。危なくなったらすぐ諦めること。くれぐれも、欲に目が眩んで、大気圏に落ちて蒸発するような事がないようにすること。じゃ、行こうか」


(対地高度1100`の極軌道)

ハル:「前方100`の下20`に標的に適するらしき物体発見。追跡始めます」

ミツ:「レーダー反射からすると金属質です。リサイクルできるかしら」

マツ:「形からするとノーズコーンですね。ジュラルミンとかでしょう。高価素材ではないですね」

ササ:「大きさからすると衝突想定被害額は高いんじゃないですか」

マサ:「一応、金にはなりそうね。取っておこうか。突撃体型、間隔300mで1列縦隊に。順に後方2`、同高度で追尾体制に入ってすぐ発射訓練、発射後は200m間隔で右に待避よ」

ハル:「化学燃料残量60%、推進剤残量75%。推定追尾可能時間10分です」

ミツ:「ちょっと短めですね。吸着網の予熱が間に合わないといけないんで、待避方法を変えましょう」

マツ:「進路中心から100mずつの上下左右散開でどうですか?」

ササ:「網は発射訓練終了後すぐに、投げ合わせ合体で良いですよね」

マサ:「禿同。任せるわ。私が追い越したら、10秒後に投げ合わせやって」

ハル:「距離5`減速します。...2`、同航。撃ちます。有線有視界誘導中。1`、リードブレーキ作動。吸着!。焼きます。リード溶断確認、巻き取りよし。上に待避します、次どうぞ」

ミツ:「撃ちます。...吸着。点火。...下に避けます。次どうぞ」

マツ:「...吸着、点火。...左に避けます。次どうぞ」

ササ:「発射...あら、刺さっちゃった。もう溶けてますが点火。...右に避けますた」

マサ:「融点低いわねえ。これなら網の予熱は要らないわ。合わせたらすぐついてきて」

ハル、ミツ、マツ、ササ:「投網装置起動、辺磁石通電、...連結しました。前進します」

マサ:「間近に来たわ。まだ赤熱状態ね。これならくっつくからすぐ来て」

ハル:「網接触、粘着材適当に溶けてますね。時間無いので、そーっと加速しましょう」

マサ:「イオンエンジンの最弱でやって、包んでないとばらける心配あるから。みんな、吸着焼夷弾頭の当て方はさっきの通りで良かったわよ」

ミツ:「デブリの熱で、網適当にゆるんでますね。少し、すぼめてみましょう」

マサ:「どれ、ん、それだけすぼめればばらけないわね。全員上昇、軌道変換開始」


(静止軌道第1工場衛星・ベイ)

ハル:「ジュラルミンのコーンじゃあんまりカネにならないな。でも、吸着焼夷弾頭は面白かったね」

ササ:「私の番の時は溶けてて刺さっちゃったから、手応えが無かったわ。次は順番変えてね」

マサ:「司令部から想定衝突被害額出たわ。でかいんで、当たったらロケット全損だって。けっこう高いよ」

ミツ:「そうですか。資源の方は1`100Pにしかならなかったんでまさにゴミでしたけど」

マツ:「打ち上げると高くつくけど、ここで作って使うなら鉄で間に合うからアルミってさほど使わないもんね。鍋や釜は要らないからなあ。ま、リサイクルしづらい複合材とかよりはましかぁ」


(2ヶ月後、軌道警備部隊司令部)

真理亜:「ここが攻撃された場合のリスク分散をはかるため、明日から第3工場に分駐することになったわ。第1の方は、工場攻撃に対処するため、応急に下手なのを集めて高軌道を数でカバーする拠点にするの。それで、マサを小隊長にハル、ミツ、マツ、ササで第3の方に駐留することにしたから、すぐに移動して」

マサ:「えええぇぇぇっ。真理亜様と泣き別れですかぁ。代わりにリエに逝って貰いましょうよぉ」

真理亜:「前にも言ったでしょ。藻前は大部隊より少数精鋭の指揮向きだって。大体ねぇ、泣き別れったって、第3工場にはゴンドラも繋がってるし、迎撃艇なら5分で行けるでしょうが」

マサ:「あっちは、娯楽施設も少なくて寂しいんですよねぇ」

真理亜:「その心配はないわよ。バーを作ることになっていて、内装は藻前の趣味でやることになったからね。それから、空きスペースが多いので、ある程度好きな施設を作ってよい事になっているわよ」

マサ:「そうですか。農産の割合を大きく取るってことになってましたね。お花畑をやって良いですか」

真理亜:「全体で50m幅の娯楽施設枠を独占しすぎない規模なら構わないけど、種はどうするの?」

マサ:「ネット通販で買って、どうせ軽い物だから、私用貨物枠で上げてもらおうかと」

真理亜:「そぉ。うまく咲いたら、ちょくちょく視察に行ってあげるから頑張りなさい」


(静止軌道第3工場衛星・酒造区画 別名:おしっこバー3号店)

ハル:「リモートリンクうまくいくかな...うん、原料粉砕粒度0.5_、槽内温度33.5度...」

マサ:「何やってるの?」

ハル:「実は、サイボーグパーツ開発にいる、お母さんの同期に頼んで装置の管理権限を貰ったんです」

マサ:「酒造の管理?。なんでまた。変わった趣味ねえ。まあ、へまして不味くしなけりゃ構わぬけど」

ハル:「例の風俗のために、こいつらはアルコール濃いめに生産して半分抜く構成にして貰ったんです。これをうまく設定して、味が良くできれば、動ける体で売り物になる酒造が実現出来るんですよ。自分の体に組み込むときは、完全手動式にして気合いで造るようにするつもりで、練習するんです。」

マサ:「貴女もこだわるわねえ。副業なんか売春の方が楽で良いのに。抜いて余ったエタノールはどうするの?」

ハル:「迎撃艇の燃料に使えるので始末に困ることはないです」

マサ:「ふーん、なるほど。ところでさあ、味は貴女に任せるとして、ここを改装して雰囲気良くしてみない?」

ハル:「良いですねえ。風俗店設計の勉強にもなるので是非手伝わせて下さい」

マサ:「第1で雰囲気がいまいちだった原因の一つが、酒造装置が全裸ってところなのよね」

ハル:「そうですよねえ。モロ出しより、ゴスロリ風の衣装でも付けた方が高級感出ますよ」

マサ:「それだ。そうしよう。するとカウンターは石造りか、黒革張りが良いかしらね。

ハル:「衣装はロングだと注ぎづらいから、陰部が出るよう超ミニにする必要がありますね。革はブタしか手に入らないから、隕石を切り出してきて石造りにする方がやりやすいですよ」

マサ:「なるほど、良いわね。着飽きたゴスロリいっぱい持ってるから改造してみるわ。問題は石ね。工場に頼むと小隊の娯楽予算食いつぶすから、なんとかタダにできないかな」

ハル:「射撃訓練でボタ山を標的にする名目で、うまくエキシマを撃ち込めば切り出せませんか?」

マサ:「5隻で繰り返し撃てばいけるかも。よし、明日の訓練はそれにしよう」


(1ヶ月後 第3工場衛星内・お花畑)

マサ:「成長促進型遺伝子組み換え朝顔とはいうものの、ここは熱帯並みだから咲くの早いなあ」

ミツ:「伸びるにつれて重力が低下するからますます伸びちゃってジャックと豆の木みたいですね」

マツ:「よじ登れるような固い茎の朝顔ってできないのかな。スカイフックに使えるのに」

ササ:「このペースだと毎月種が取れて増え過ぎちゃいますね」

真理亜:「やりすぎると、炭酸ガスが不足して農産に響くわね。植えるペース調整しなさい」

マサ:「確かにドライアイス系の隕石がときどき入ってこないときついですね」

ハル:「酒造を増やせば炭酸ガスが適当に増加しますよ。足りなけりゃ、メタンを燃やしても良いですし」

マサ:「そうか。じゃ、安心だね。もっと作って、生花をベイ内売店に出荷してみるかな」

真理亜:「まあ、いいけど任務期間中なんだから、アルバイトはほどほどにするのよ。休憩時間に休憩しないで、余計な事ばかりした挙げ句に大気圏落下事故なんて絶対無しよ」

マサ:「花を愛でることで心が落ち着いて集中力高まるってのもありますから。一応、気を付けます」


(3ヶ月後 地上基地、大会議室)

朝子10世:「皆さん、全面分解検査ご苦労様でした。冥王星探査部隊参加者および補充要員を発表します。念のため言っておきますが、参加者選定は長時間連続高加速への耐性という医学的要因が最優先です。また、司令部、航行、探査、運用、機関の各分野に必要最低限の人数を配置するという制約があります。したがって、選に漏れた者が参加者より能力的に劣るという訳ではありません。本計画のバックアップや本計画遂行後の国際情勢変化に対処するために多くの重要任務が存在します。選に漏れた者は、これらの各種重要任務に就いてもらいますので、落胆せず新たな任務に邁進して下さい。私自身も評価対象ですので、公正を期するため、発表は宙軍研究所脳脊髄医学研究部長にお願いします。それでは、漣侯始めて下さい」

漣大佐(貴族・赤の公家所属):「発表します。司令部員は朝子10世殿下、翡翠侯、瑪瑙侯、水月侯、タラ特務少佐、同補充要員は恵子殿下、皐月侯となりました。航行部員は雀奴侯、冬子特務少尉、理美3等兵、同補充要員は綾子殿下、美鈴特務少尉となりました。探査部員はリホ特務中尉、エリ特務中尉、マオ特務少尉、ミキ特務少尉、寿那緒2等兵、香奈子2等兵、同補充要員は真奈美侯、文子1等兵となりました。運用部員は...(略)」

朝子10世:「検査結果の解析、ご苦労様でした。発表は以上です。参加者および補充要員は、これよりスケジューラーの指示に従って搭乗、第1工場衛星に集結して下さい。なお、補充要員は出発直前まで”みくら”艦内に留まり、参加者が欠けた場合にそのまま充当されます。出発に際し離艦するときは任務変更または休養機関入りの指示がその時点で宙軍省から発令されます。補充要員にも漏れた人は、間もなく宙軍省より次期任務もしくは休養期間入りの指示があります。では解散」


(軌道警備部隊司令部)

真理亜:「わざわざ集まってもらったのは、冥王星探査計画に伴う支援任務に、極秘の部分があるからなの。ネット越しの打ち合わせがちょっと憚られるものでね」

マサ:「こっちに呼んで頂けるのは嬉しいですよ。はい、お花どうぞ。新種の3色チューリップです」

真理亜:「御前会議の方針は、我々の有人宇宙活動は冥王星到達の公表までは秘密にするとのことなのね。北米連がぶちキレる心配があるから、軌道警備部隊増強や本国防空施設整備に、2年ほど欲しいってね。ところが、発進に際して固体燃料ブースターを使うでしょ。イオンエンジンと違って強い光が出るわよね。これを地上から見られたら、従来の資源収集活動と桁違いの遠距離作戦であることが判るわよね。それで、ブースターの点火は月の陰でやることのなったのよ」

リエ:「外国の月面基地は月の表にしか無いですけど、北米連の月周回監視衛星が回ってますよね」

真理亜:「そういうこと。したがって、監視衛星にはタイミング良く故障してもらう必要があるって訳ね」

マサ:「あの月見の邪魔になる衛星にはいつか悪戯してやろうと思って方法を考えていたんです。あれは、電源が太陽電池でしょ。エキシマを加減して当てれば外見を変えずに壊せるかと思います」

リエ:「監視衛星のカメラは全天型でしょ。迎撃艇が写って破壊活動がばれちゃうじゃないの」

マサ:「隕石に塗ったようなステルス材で迎撃艇を塗装すれば3`先より遠くからは見えにくくなりますよ。エキシマはパワー落として当てるし、真空中だと散乱光が無いからビームは写らないですよ」

真理亜:「そうねえ。じゃ、マサ小隊でやって貰おうか。黒塗り迎撃艇はこっちで準備するから明後日取りに来てね。それから、今週は”みくら”の要員が続々と上がってくるでしょ。念のため、コース沿いのデブリ回収しておいて」


(低軌道 デブリ回収中)

マサ:「よーし、ここらは片づいたね。30分後にM55が上がってくるから進路前方を調べながら帰ろうか」

ササ:「そうですね。化学燃料残り53%ですから、何か見つけたとしても少しは手が打てるし」

ミツ:「...高度10000`。ここらはデブリも少ないですね。ん、と思ったらありゃ何じゃ。真上30`!」

マツ:「大型ブースターの燃えがらでしょう。事故起こした北米連の火星探査船が発進時に捨てたやつでは?」

ハル:「どかすのは無理ですよね。上昇をイオンロケットだけでゆっくりやってM55を待ちましょう。この高度ならアポジモーターで2段目牽引してるから、向こうも遅いんでランデブーは容易ですよ。近距離通信で警告して、そのまま同航で回避コースへ誘導するのが確実でしょう」

マサ:「(そういえば、あの船、救援は間に合ったものの漂流中のケンカで2人氏んだんだっけ。調査結果も事故って発表されてるのにいまさら、祟るんじゃないわよ。)...それしかないわね。M55はもう発進しちゃってるし、遠距離だと通信が不確実なうえに外国に漏れるし」

ハル:「...来ましたね。呼び出します。上昇中のM55へ。こちら軌道警備第3迎撃艇小隊。進路上に大型デブリ有り。誘導する。指揮官マサ艇を目標に続航されたし。繰り返す...応答です。あ、この素体番号は、お母さん!。この便に乗ってるって事は選ばれたんだ」

冬子:「ハルじゃないの。デブリ警戒ありがと。マサさんの艇についていくわね」

ハル:「お母さん、冥王星探検隊当選おめでとう」

冬子:「ありがと。だけど私語してていいの?。せっかく見つけたデブリに当たったら大バカよ」

ハル:「気を付けます。じゃ、ベイでね」

(マサたちが花とか酒とか造っている合間に、冥王星探検隊の準備が整ったようです。あ、ちゃんと訓練もしてたっけ?、おバカなこと書いてるうちに忘れてました。次回予告:(22)目潰し)

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