−−(23)冥王星−−


(減速開始から29日目の”みくら”艦橋)

瑪瑙:「ブースター点火位置まで600秒」

朝子10世:「カウントダウン開始して」

タラ:「2,6,10,14番ブースター点火回路接続。カウント始めます。540,539,538...」

朝子10世:「発進時より2000d位軽くなってるから、かなりGがきついわよ、みんな気を付けて」

瑪瑙:「軌道、姿勢とも良いです。進行方向視野内に確認できる障害物ありません」

タラ:「...120,操舵員に権限渡します」

理美:「点火権限受領確認。体内CPUタイマー同期よし。3,2,1,点火!」

翡翠:「うわぁ、振動きついですね。今のところ各部異常ありません」

瑪瑙:「第3宇宙速度切りました。冥王星を追尾する軌道に乗っています。ニクスの軌道半径内に入ります」

理美:「メインエンジン、ブースターとも依然出力正常」

瑪瑙:「冥王星−カロン系の第2宇宙速度切りました。ヒドラの軌道半径内に入りました。系重心点に向け落下中」

理美:「ブースター燃え切りました」

朝子10世:「進路を冥王星とカロンの重力均衡点に調整、重力均衡点を狙って減速を継続して」

翡翠:「静かになりましたね。各部異常の報告ありません」

瑪瑙:「このまま行くと重力均衡点まで3時間ですね」


(3時間後)

理美:「相対速度毎秒1900m。メインエンジン絞ります。50%、20%、10%」

瑪瑙:「重力均衡点まで15分です。理美、秒速200mからはバーニアだけで良いわよ」

朝子10世:「凍結防止のため原子炉は純抵抗負荷をつないで出力10%で回しておいて」

機関長:「グリッド整備をやってしまいたいのですが、原子炉停められませんか?」

朝子10世:「グリッドに触る直前に停めて5分以内で終わらせて」

機関長:「2度目だから大丈夫です、承知しました。重機要員借りますね」

朝子10世:「時間に余裕があるカロン降下班のほうに手伝って貰って。マオとミキが慣れていて良いでしょう。それから、耐低温外装に換装していない者が船外作業に出るときは必ず保温全身タイツを着用すること」

理美:「...秒速20m、10m、最終噴射...重力均衡点に静止しました」

朝子10世:「冥王星降下班は私に従って1号降下艇の発進準備。カロン降下班はグリッド整備支援後に発進準備。副長は手すきの者を集めて上甲板に出て放送用パラボラリフレクターの展開をやって頂戴。いずれも極低温注意のこと」


(ヘッドフィギュア口腔エアロック内)

マオ:「あら、リホさんとエリさんは全身タイツですかぁ、だっさーい」

リホ:「頭、坊主にするのが嫌だったから...あんたたち、それ大丈夫なの?。凍結で髪が折れちゃうんじゃ」

ミキ:「殿下に聞かなかったんですかぁ。光ファイバータイプの髪でシニオンに纏めておけば大丈夫ですよ。寒いとプルトニウム電池の出力が良く出るんで、毛根のLED点けっぱなしておけば凍結はしないだろうって。外は真っ暗だから照明にもなるし。私たちカロンからのアイスショー中継に出るんで、そんなださい格好で行けませんから」

エリ:「そうかぁ。そんな手があったんだ。まあいいや、こっちの中継は殿下が主役だからね」

朝子10世:「あらいけない。リホたちに髪のこと教えてなかったわね。時間無いから今日はその格好で我慢してね」

リホ:「ところで、シニオンだと背中の耐放射補強してないとまずいんじゃ?」

朝子10世:「ここは太陽から十分遠いでしょ。冥王星は磁気圏が殆ど無いからバンアレン帯もないし大丈夫よ」

機関長:「マオ、ミキ、交換グリッドの曳き出し頼むわよ。理美、口空けて」

朝子10世:「リホ、エリ、寿那緒、こっちも出るわよ。1号降下艇搭乗!


(上甲板)

翡翠:「支柱立ったわね。じゃ、みんな骨組み1本ずつ持って、拡がって頂戴」

兵員:「ここで良いですか?」

翡翠:「いいわよ。場所決まったら骨組みの先をハブに差し込んで」

兵員:「入りました」

翡翠:「電波反射膜の張りが均等になるように骨組みの長さを加減して。うん、そんなもんかな。理美、船体の安定は良いわね?。瑪瑙、船体側のパラボラ調整して、地球の電波入るか確かめて頂戴」

艦橋から瑪瑙:「なんか入ってます、こりゃ西部劇ですね。北米連のテレビは電波強いから映りますね」

翡翠:「良いようね。これで地球の連中に世紀の中継を見せてやれるわね。みんな、引き揚げるよ」

瑪瑙:「本国あてに試験電波送信始めます」


(2式降下艇1号艇、降下中)

朝子10世:「あ、そう、地球のテレビ放送拾えたのね。ならこっちからも届くわね。2号艇は出たの?」

艦橋から翡翠:「30分前にカロンへ向かいました。そちらの5分遅れで着陸できる予定です」

朝子10世:「いっぺんに中継は出来ないから、ゆっくりいい場所探して降りるように伝えて。あっちは、アイスショウ見せるんだから氷の荒れてない所に降りた方が良いでしょ」

リホ:「足、下に向けます。現在高度1500`、減速始めます」

エリ:「重力均衡点からだと簡単ねえ。真っ直ぐ落下するだけだもんねえ」

朝子10世:「こんなに降りやすい惑星は他にないわね。まあ、昔は惑星と呼べるかって議論もあったけど」

寿那緒2等兵:「昔は冥王星やカロンが惑星じゃないって言う人もいたんですか?」

朝子10世:「資源収集に関係のない純粋に学術上というか政治の話だから、素体教育でやってなかったわね。要するに、冥王星が見つかった当時はエッジワース・カイパーベルト天体がこんなに沢山あると思ってなかったのよ。21世紀に次々に見つかるようになって、冥王星は軌道を占有する突出した天体じゃないのが判ったのね。それで、天文学者達はこれじゃあ惑星の定義に当てはまらない、小惑星の仲間だって言い始めたの。ところが、そういう説に対して北米連が強硬に反対したのよ。それまでの惑星発見はすべて西欧の手柄でしょ。自分たちが見つけた惑星が一つもなくなることが、大国の威信に関わると思ったのね。それで論争の末に惑星の定義を変えてしまったのよ。当時は宇宙望遠鏡なんて北米連しか持っていなかったりでね。北米連の意向に逆らって観測データを分けて貰えなくなったら、小国の天文学者は失業してしまうから。冥王星を見つけたのは個人が私財で設置した私設天文台だから、本当は国家の威信と関係ないのにねぇ」

寿那緒:「そんなこだわりの惑星に我々が最初に降りたら北米連が怒り狂うんじゃ、ガグガクブルブル」

朝子10世:「そうねえ。ある意味これは、北米連の民衆が良識をとるか意地をとるか、というテストだわ。こんなことで暴発するような国なら、いずれ決着をつけなくちゃいけない相手だったということかしら」

リホ:「高度100`、約1時間で着地します」

朝子10世:「大気抵抗が使えないんだから慎重にね。急がなくて良いわよ」


(2式降下艇2号艇)

マオ:「高度100`、落下速度秒速180m、減速率0.1m/s/s。地表の様子はどうかしら?」

香奈子2等兵:「望遠見てます。真下に大きなクレーターは無さそうですね」

ミキ:「冥王星とカロンは公転軌道の離心率が高いせいで、氷が昇華と降着を繰り返してるって言うからね。けっこう平坦な地面なんじゃないかしら」

マオ:「平坦であって欲しいわよね。あんまり荒れてたら思い切り滑れ無いじゃない」

ミキ:「足元もだけど衣装大丈夫かしら。体の方はそれなりの素材に替えたけどスカートが固まると変よねえ」

マオ:「空気がないからどうせひらひらしないわね。スノボーみたいに大技で誤魔化すしかないわよ」

香奈子:「怪我しないで下さいよぉ。私、降下艇の操縦は自信無いんですぅ」

マオ:「大丈夫よ。どうせ操縦はリモートボディリンクだから手足の1本ぐらいもげてても支障無いって」

ミキ:「空気抵抗がないとスピンがめちゃくちゃ早くなるでしょ。着地姿勢がいがんだら、一発でやっちゃうかもね」

香奈子:「そんなあ。気をつけましょうよ」

マオ:「判ってるって。ただ、低重力だと地上で出来ない大技やってみたくなっちゃうのよねー」


(1号艇)

リホ:「高度100m、落下秒速0.5m。逆噴射一時停止。...再開。着地します。着きました」

朝子10世:「よし、ごくろうさん。足の凍結防止処置良いわね?。寿那緒、上部デッキでテレビカメラ用意して。艦橋、こっちの音声ちゃんと通じてる?」

母艦艦橋から翡翠:「音声明瞭です。副音声にストリーム翻訳装置待機よし。中継の準備、整っております」

朝子10世:「判ってると思うけど、こっちは真空中だからテレビ映像に主音声乗っけるのも母艦でやるのよ。それから、この距離じゃ地球での受信が確認できないんだから、生をあてにせず母艦に録画も残してね。じゃあ、送信始めるわ。寿那緒、映像送信してみて」

翡翠:「ばっちり入ってます。ぶるる、しかし、やっぱり見るからに寒そうですね」

朝子10世:「はは、サイボーグが寒がるかしら。ま、私でも人間の本能から来る恐怖心は無くせないわね。さて、いよいよ歴史的第一歩か。私には人類にとっては大きな一歩だなんて格好いいこと言えないわ」

翡翠:「じゃ、中継始めます。理美、原子炉出力20%に。中継波出力最大です。殿下どうぞ」


(冥王星からの中継放送)

朝子10世:「地球の皆さん、お元気ですか。あ、我が本国以外の方には初めましてですね。この番組は、私、南太平洋帝国宙軍艦隊・冥王星特別派遣部隊司令官、朝子10世少将が冥王星より生でお送りしています。他国の方々には突然の電波ジャック、大変失礼しておりますが、ごめんあそばせ。さて、今申し上げましたがもう一度耳をかっぽじってよーく聞いて下さい。ここは冥王星ですよ、メ、イ、オ、ウ、セ、イ。え、信じられない?。そんな遠くまで行ける有人宇宙船が出来るわけないだろって?そういう方は、私の足元を見て下さい。どうして、ずーっと足踏みしてると思いますか?ここの地面は同じ所を踏んでいると熱が伝わって溶けちゃうんですよ。めり込んでから再び凍ったら動けなくなっちゃうんで、ここでは立ち止まれないんですねー。そんなの、冷凍倉庫にセット作れば出来るだろうって?そういう人は、電波天文台の先生方にお願いしてこの放送電波が飛んでくる方向を調べて貰って下さいねー。ただいまの時間、地球からこの方向に見える惑星は冥王星しかありませんから。同じ方向でもっと近くにいる宇宙船内のセットから放送しているんだろうって?そこまで疑うなら、この電波の発信源の移動速度を測ってみましょうね。冥王星の運動と一致する筈ですから。でも絶対おかしい、そんな格好で冥王星に人が降り立てる筈がないって?うーーん、それは技術力の問題なんですよ。一応まだ秘密なので、エロい人に想像して貰って下さいな。まだまだ放送は続きますよぉ...」


(2号艇)

マオ:「高度1`。落下速度毎秒10m。逆噴射再開。一旦ホバリングするから場所選んでね」

香奈子:「あ、あそこ。右0.5`、前方0.8`辺り、つるっとしてるんじゃ?」

ミキ:「うん、良さそうねえ。あそこに降りましょ」

マオ:「おっけー。降りるよぉ。尻尾ひと吹き、逆噴射最弱、足チョイ前、戻して最後にひと吹き、よし着いた」

ミキ:「香奈子、カメラマン宜しくね。一世一代の演技見せてあげるから」

香奈子:「怪我しないで下さいよぉ」


(しつこく続く、冥王星からの中継)

朝子10世:「ごらんの通りここは氷の原野です。氷の主成分はメタンだと言われてきました。これから、少しブロック状に切り出して母船に持ち帰り、詳しく分析してみます。我々の着陸船、2式降下艇にはエキシマビームという強力なレーザー光源が搭載してあります。のちほど、これを使って、氷を切り出すところをお目にかけたいと思います。あ、今ニュースが入りました。カロンに向かった別の降下艇が無事着陸したとのことです。それでは、中継を切り替えて貰いましょう。カロン降下チームさんドゾー。」


(カロン地表からの中継)

マオ:「こちらカロンのマオ少尉でーす。やっぱりここも寒いですねー」

ミキ:「同じくミキ少尉でーす。ここカロンは、地表を覆う氷の主成分が水だそうです。水の氷と言えば、そう、なんてったってアイススケートです。実際にここでスケートが出来るか試してみます。極低温なので、さすがに普通のブレードじゃ滑りそうもないので特製の超音波ブレードをつけています。また、このために比較的平坦なカロンでも特につるつるの場所を選んで降下しました。じゃ、やるよー。そーれ、お、おおお、ちょっと渋いけど滑れますねー」

マオ:「それでは私もやってみます。ん、ん、最初張り付いてましたが滑り出しました」

ミキ:「だんだん調子出てきました。ジャンプしてみますね。それーっ、わー重力軽いから飛びすぎー」

マオ:「画面から飛び出しちゃいましたが、ミキはまだ回っております。カメラさん追って下さい」

香奈子:「冷え切っててマウント渋いー、あ、映った」

ミキ:「ひえー、目が回るう(嘘だけど、演出演出。落ち始めたかな。足のジェットで減速して...)」

マオ:「着地成功!お見事。では私も、ジャーンプ!。おお、回る回る、いつもより多く回っております」

ミキ:「低重力下でのアイススケートは楽しいですねー。では、スノボー並みにムーンサルトなど行ってみましょう。加速中でーす、そーれジャーーンプ、ムーンサルト20回ひねり...まだまだ回ってます。降りました。どうです」

マオ:「おお、やるわねー。負けないわよ。ジャーンプ、ムーンサルト25回ひねり、...落ち始めたね。よし、ジェットで減速、...え、出ない、何で?。噴射口凍ってる...ああっ、ぎぃゃぁぁぁっ」

ミキ:「おっと、やりすぎましたね。(やば、メカばれするような壊れ方じゃ...)アクシデントです。えー、とりあえず中継冥王星の方に戻して下さい。カメラ停めて」

マオ:「痛ったーい。強く突きすぎて、肩から、左腕が取れちゃったわ」

ミキ:「しーっ。隠して隠して。早くカメラ停めてよ」

香奈子:「スイッチが凍結してますぅ」


(”みくら”艦橋)

翡翠:「ありゃ、まずいわ。すぐ中継切り替えて」

タラ:「切り替えました。でもマオの肩の外れたところ、少し映っちゃいましたよ」

翡翠:「遠くて小さいし氷の破片舞い上がったからどうかな。でも録画で拡大されたらメカばれかなぁ。まあ、どうせ宇宙服無しであんな事して見せたんだから判る奴には判るんだけどね。ただ、もろに素人が判る映像が流れると、宗教勢力の反発が強いだろうから抑えろって言われてたのにぃ」


(冥王星)

朝子10世:「(あちゃー、やってくれちゃったわね。まあいいか。どうせ専門家には見え見えだし。)...えー、再び冥王星からお送りします。カロンのほう、ちょっとアクシデントがあったようですね。残念ながらアイスショウは中止になりました。やっぱり寒いので手元が狂ってしまいましたね。こちらも、気をつけて探検作業を続けたいと思います。ひとまず中継を終えます。この後、本国の皇帝からも世界の皆様にメッセージをお送りする予定ですのでご注目下さいませ。でわまた。(陛下...後始末宜しく)」

寿那緒:「とりあえずカメラ停めました。凍てつきそうなので一旦収納します」

朝子10世:「マオの破損状況も気になるから、とりあえず少しだけ氷サンプル取って引き揚げましょう。カロン降下チームにもそうさせなさい。採掘の中継は本国の指示待ちにしましょう。後日やればいいわ」


(6時間50分後、マオの実家 テレビの前)

マオパパ:「おお、マオでかしたぞ。よしよし、これでうちのアイスショウも世界のメジャーに躍り出るな。外人観光客向けに特区にもリンク作らなくちゃならんかな。ん、そこで大技...あーーーーっ。マオ、大丈夫か!。死んではいないようだが...ああ、もう7時間前の出来事なのか。無事でいてくれよ」


(その少し後、北米連大統領官邸)

ヤブー大統領:「国務長官、なんなんだね、この馬鹿げた映像は。どうせ黄色い猿どもが作った特撮だろ、これは。萌えだかなんだかしらんが、いったいこれが我が国の政治とどう関係するというのかね」

コメー国務長官:「大統領、これは特撮ではありません。仮に特撮だとしても実際に冥王星から放送されていたのです。わざわざ、そんな遠くから特撮映像を流すことは無意味ですから、おそらく本物でしょう」

ヤブー:「発信地点は確かなのかね。満漢人民共和国が似た方向から流した謀略電波ということは無いのか?」

コメー:「電波天文台に測定を依頼しました。方向、距離、移動速度とも冥王星に一致するそうです」

ヤブー:「すると地球の一般家庭の衛星放送受信機で受かるほど強い電波を冥王星から流したのだね」

コメー:「専門家の計算ではアンテナを工夫してビームを地球方向に絞れば数十メガワットの送信機で届くそうです。その程度の出力は原子炉を搭載した宇宙船なら容易に出せるそうです」

ヤブー:「あの映像に出てきた小娘たちは宇宙服を着用していなかったぞ。あり得ないことだ」

コメー:「いくつかの可能性が指摘されています。テレビに映っていたのは人間でなく遠隔操作のマリオネットのような物ではないか。着陸地点に透明なドームを設置しているのではないか。テレビに映りにくい透明な素材の宇宙服を使っているのではないか。それから、おお、なんと恐ろしい考えを...」

ヤブー:「どうしたのかね。続けたまえ」

コメー:「に、人間を真空や極低温に耐えられるよう改造したのではないか、そんなことが許されるはずがない」

ヤブー:「ふむ、君の意見には同感だが、世界には我々と相容れない価値観の持ち主も多いからね。自爆テロや特効攻撃が出来る連中なら、技術さえあれば人体を戦闘用に改造するくらい、やるかもしれんよ。実際、甚だ不快なことだが、我が国でも美容整形や性転換といった類の人体改造は禁じられていないのだ。想像するのもおぞましいが、その延長に宇宙空間用に人間を改造する技術が開発される可能性もあるな。ここで憶測ばかり言い合っていてもしょうがない、軍や学界の有識者にビデオを分析させるのが先決だろう」

国務次官補:「失礼します。大統領、長官、P共和国の国連大使がマスコミにとんでもない声明を発表しました」

コメー:「とりこみ中だから手短に報告を」

国務次官補:「要約です。1.P共和国は106年前、AD2030より独立国にあらず、南太平洋帝国の経済特区なり。2.我らは高度の自治権を有し、帝国の貿易を一手に管轄せり、この地位は将来も変わらず。3.我らは対国連を含む帝国外交活動の大半を管轄するが、世界情勢の複雑化に鑑み帝国本体との共同管轄に移行す。4.我らは帝国の宇宙活動に関与しおらず、ただ宇宙工場製品の貿易のみに関わる。以上です」

ヤブー:「P共和国が今度のことに関わっていたというのか。自由貿易港というのは表の顔に過ぎなかったと」

コメー:「あの国は無人宇宙工場で生産されたと称する高性能な能動義肢や人工臓器を輸出しています。経済の自由化に関しては好ましい政策を採っていますが、性風俗と医療に関する政策は極めて非道徳的です。売春をする権利は基本的人権である、ファッションのために義肢をつけてもよいなどと、実におぞましい。あそこの輸出品にはダッチアンドロイドなどの、不気味なくらいリアルな人型ロボットもありますね。技術力や価値観からするとさらに一線を越えた人体改造をやっていても不思議ではありません」

ヤブー:「あの自称探検隊員はダッチアンドロイドを改良した物ではないのか?」

コメー:「出回っているアンドロイドはあんなに滑らかな2足歩行が出来ません、スケートなど到底無理です。それに、寒がったり、転んだとき悲鳴を上げるような手の込んだAIなんて搭載されていません」

ヤブー:「人間の真似をするAIは何処でも研究されているだろう。AIの可能性は無いか専門家に調べさせたまえ。とにかく、事実確認が先決だな。大至急、情報局長官を呼びたまえ」

国務次官補:「新たな報告です。今度は先ほどのチャンネルとインターネットの両方で皇帝と名乗る娘が放送しています。放送波の発信地点はP共和国の静止衛星、例の無人工場衛星です」

ヤブー:「また娘か。何故、娘ばかりなのだ。いまさら萌えブームでもあるまい。何の意味があるのだ。しかし、仮に人体改造説が正しくて、その皇帝も体を改造した本物の要人だとすると大変なことだな。その帝国とやらのサイボーグ技術は要人の命を預けられるほど確立したものと言うことになるぞ。そんな技術がもしも軍事利用されたら我が国の地位を脅かしかねん。情報収集を急ぐのだ」


(知子1世の放送)

知子1世:「世界の皆さん初めまして。私が南太平洋帝国の皇帝、知子1世です。かさねての電波ジャックで失礼します。既に国連大使がマスコミ向けに声明したとおり、P共和国は我が帝国の特別自治区域、いわゆる経済特区です。先に我々が冥王星から行った放送は、ご覧頂けましたね?。あれはトリック映像ではありません。我々は長年にわたり密かに有人宇宙活動を行ってきましたが、この冥王星探検を区切りとして公表を決意したのです。はじめに、有人宇宙活動や我々の政体について、これまで秘密にしてきた事情をお話しします。ご存じのように、これまで有人宇宙活動はひとにぎりの大国が寡占してきました。それらの大国はいずれも核兵器と大陸間弾道弾を保有する軍事大国でもあります。我々の宇宙開発の中心は、宇宙資源の活用、とくに地上より遙かに強い太陽光をエネルギー源とする工業活動であります。その究極の目的は、殆どの工業活動を宇宙で行うことで地球温暖化ガスの増加を全く伴わない経済を確立することでした。しかし、これは強大な軍事力を背景に地上のエネルギー資源を支配する大国の経済戦略と相容れないものです。したがって、計画の初期に公表すれば外圧によって遂行不能となる恐れがありました。そこでやむなく、全ての有人宇宙活動を秘密にし、対外的にはP共和国の無人宇宙工場実験プロジェクトとしてきたのです。
 次に、これを公表することとした事情についてお話しします。我が帝国は、静止軌道に3基の大型工場衛星を完成し、小惑星帯の隕石を採掘した素材から多様な製品を生産できます。この工場衛星は地上から打ち上げる資材に頼らず建造され、従来の人工衛星のような軽量化を必要としません。隕石から無尽蔵に取れる鉄を使い、分厚い外壁を持った頑丈な構造物です。核兵器でも容易に破壊できません。また、不断の日照により効率的な農産物の生産も可能となっており、いざとなれば我が国の全人口を養えます。つまり、もはや大国の圧力を畏れず、地球温暖化の阻止による島嶼住民の生存権維持を進められるようになったのです。冥王星の探検は、我々の技術力を立証し、同時に広範囲の宇宙資源を調査するために実行しました。それでは、もうしばらく後で冥王星からの放送の続きをお楽しみ下さい。でわでわ」


(北米連大統領官邸)

ヤブー:「あの小娘皇帝の言っていることは我々への宣戦布告、いや冷戦布告というべきものだな。やつらの経済戦略が成功すれば、いずれ我が国の産業にも影響が出る。放置すれば、私は国民の支持を失うだろう」

コメー:「隕石資源で重工業を成り立たせるほど大規模な有人宇宙活動に必要な人員を投入しているのです。小国がそんな大人数に人体改造を施すとしたら、国民の相当割合を強制的に改造しているに違いありません。とんでもない人権問題です。神への冒涜ですよ。我々の最重要支持基盤である宗教界が黙っていません」

ヤブー:「君の懸念も分かるが落ち着きたまえ。あの皇帝とやらは人体改造について何も言っていないのだ。冥王星からの映像でその疑いは濃いが、我々の支持基盤を判っていてあえて刺激しない態度にも見えるぞ。国防長官と北米宇宙局長はどう思うかね」

国防長官:「どうかお怒りにならず、冷静にお聞き下さい。本当のことを言います。わが軍でもサイボーグ技術の研究は行っているのです。ですが、実用的な水準に達していません」

コメー:「なんと、恐ろしいことを。こっそり、そんなことに税金を使うとは」

ヤブー:「もちつけ」

国防長官:「まだ、動物を使った基礎実験が主体です。恒久的な生命維持装置がどうしてもできないのです。ですから、能動義肢や一部臓器の機械化はできても、宇宙服無しで真空に耐えるようなサイボーグは出来ません」

コメー:「主体?、では人体実験もやったのですね。まだ?、もし成功したら兵士を改造する気?」

ヤブー:「もちつけ」

国防長官:「末期癌患者など他に望みのない志願者で実験しました。決して強制ではありません。仮に成功しても、強制改造など滅相もない。そもそも我が国は徴兵制を廃止しています。どうしても必要になったら、サイボーグ化を条件として新たに志願者を募集すればよいでしょう。体力が要らなくなるので、兵士に求める資質も違ってきますので」

コメー:「それが国防長官の本音か。なしくずしに、全軍をサイボーグ化したいのか。ガクガクブルブル」

北米宇宙局長:「国務長官の御懸念は判りますが、外惑星探査においては必要な技術かと。先に不運な事故のため引き返すことになった火星探査船でも、全長1`近い巨大なものでした。火星以遠の探査を目指すなら生身の宇宙飛行士では難しいと思います。資源収集では尚更です。長期の飛行のため大量の酸素や食料を積むと宇宙船が巨大になりすぎて力学的に無理なのです」

ヤブー:「ならば、あの帝国の宇宙飛行士がサイボーグ化されているのは確実かね」

北米宇宙局長:「食料や酸素を船内で生産できるなら違う可能性はあります。しかし、従来P国の無人船とされていた、いわゆる”こけし船”が有人船だとしたらあまりにも小型です。エンジンの種類は不明ですが、燃焼炎を出さないことからイオンエンジンの類でしょう。あの船には太陽電池パドルが無いし、外惑星に行けるなら強力な発電用原子炉が乗っているでしょう。地球上の船で言えば昔の駆逐艦程度の船体に、そんな原子炉を積んだら遮蔽が十分出来ません。普通の人間が長く乗れば必ず放射線障害になってしまうでしょう」

コメー:「局長もサイボーグ技術を肯定するのですか」

北米宇宙局長:「外惑星探査に携わる、特別な宇宙飛行士への適用はやむを得ないと思います。無論、技術の安全性を十二分に確認し、適用者への人道問題をクリアすれば、ですが。感情的な否定ばかりしていては、無神論者が多い満漢やス連に先を越されてしまいます」

コメー:「くっ、満漢の無神論者か。いまいましい」

ヤブー:「スレイブ共和国連邦はともかく、満漢人民共和国は神も人権も認めない上に大国だから始末が悪いな。この上余計なライバルが増えるのは困るから、小娘帝国には世界秩序にしたがうよう脅しをかけるべきだな」


(経済特区・某北米系商社駐在員社宅)

商社員兼情報局工作員・キャサリン:「んもう。誰よこんな朝早くから。睡眠不足になっちゃうわ。はい?」

電話の声:「ポストに入っているテープを聴きたまえ。でわ」

キャサリン:「ぎくっ、任務?。ポストか。これね」

テープの声:「おはようキャサリン君。今度の君の使命だが、自称南太平洋帝国の実態と技術力の調査である。すでにそちらでもテレビでやっているだろうが、そこP共和国は南太平洋帝国の一部、経済特区に過ぎないと言う。では、帝国の本体は何処か?。我々は、いわゆる自然保護地区という広大な立ち入り制限地区にあると睨んでいる。なんとかそこに潜入し帝国の首都所在地とその技術水準、ことに人体改造およびロボット技術の実状を探ってくれ。例によって、君もしくは君の仲間が殺され、あるいは捉えられても当局は一切関知しないからそのつもりで。成功を祈る。なお、このテープは自動的に消滅する。(ぷしゅー、めらめら)」

キャサリン:「自然保護地区に侵入しろってぇ。捕まったら情状抜きで死刑って、ここの法律に明記されてるのに。やらなけりゃ当局に消されるし。成功か死か、か、トホホだわ。この世の見納めに今日は美味い物でも喰わなきゃ」


(”みくら”艦橋)

マオ:「ご心配かけました。落ちながら転んだ衝撃で肩関節の磁気ロックが外れただけで故障はありませんでした。通常なら外皮が伸びるので完全に腕が取れることはないのですが、極低温で硬化したため裂けてしまったのです」

朝子10世:「耐低温外皮もここらの温度では性能不足かぁ。こういう技術検証も目的の一部だから仕方ないわね。陛下から、アイスショウは我々の探検計画にゆとりがあるというデモンストレーションとして貫徹の指示があったわ。だけど、転倒の原因になった、足のジェット噴射口の凍結について対策が必要のようね。すぐに出来ないようなら、ジャンプを低く抑えるなど演技内容を工夫して、とにかく次こそは成功させなさい」

マオ:「承知しました。では次回の降下準備に取りかかります」

翡翠:「映像に少し映ってしまったメカバレのことについて、本国からは何も?」

朝子10世:「肩の断面が一瞬小さく映っただけですからね。元々、専門家の目にはみえみえだし。あの程度なら、輸出している能動義肢と大差ない訳で、すぐに過激な反応をまねくことはなかったようよ。宗教界もイスラム諸国などではむしろ、大国の宇宙開発独占を破ったということで歓迎されているようだし」

翡翠:「そうですか。我々の生命維持システムが豚に依存していることは、絶対知られちゃいけませんね」

朝子10世:「知られない方が良いけど、北米連のように絶対と言うほど危険な相手でもないでしょ。そもそも彼らが地上基地や工場衛星に侵入することなど、殆ど不可能だろうけどね」


(翌日未明、クピドタワーから境界検問所にかけて)

マサ:「今日もよく淫ったなあ。そろそろ帰ろうっと。...さすがは特区だわ。こんな時間でも、うろついている香具師の多いこと。ん、おや外人女か、香水きつー。ごつい鞄抱えているし、売春してそうには見えないな。かたぎのビジネスウーマンが、こんな時間に歩いてるのは流石に珍しいわね。やっぱり、冥王星探検公表のせいで、ハゲタカ外資金融とかはばたばたしてるのかな」

特区側境界警備官:「虹彩認証登録済みの方以外はここを通れません。あ。はいどうぞ」

マサ:「(こっちの警備官は、本当は虹彩認証じゃなく素体番号認証だってのまだ知らんのか)ご苦労さん」

本国側境界警備兵:「特区のお仕事ご苦労様でした」

マサ:「(シビリアン警備兵だって副業の実態は知ってるよなぁ。本気で愛想良くしてるのかしら。)ども。...しっかし、地下鉄駅までの間の緩衝地帯って真っ暗だな。まあ、私らの目なら困らないが。...あれ、どこかでかいだような臭いだな???。まさか、でも一応確かめた方が良いかな。...海岸の方からか。居た!。あの外人女だ。見られてるとは思ってないな。ごつい鞄は潜水具だったのか。...捕まえて警備兵に突き出しても良いが、退屈しのぎに少し後を付けてみよう。そうだ、一応報告。(体内公用通信)真理亜様、...」

真理亜から通信:「どうしたの?。忘れ物なら公用通信使うんじゃないでしょ」

マサ:「...というわけで、後を付けてみようかと(/体内公用通信)」

真理亜:「それが正解だわ。工作員なら、捕まってからじゃまず口を割らないから、目的が掴めないでしょ。地下鉄に乗るのにお金じゃなく認証が必要だなんて、まず知らないでしょ。簡単に追いつけそうね。私もすぐそっちに行くから、手を出さずに尾行していて」


(地下鉄・特区境界駅)

キャサリン:「切符売り場が何処にもないわ。改札ドアが閉まってるから無料ってこともないみたいだけど。困ったなあ。...あ、誰か来たわ。隠れて入るとこ見てようっと。さっ...」

マサ:「あいつ、改札で困って隠れたな。とりあえず、真理亜様と待ち合わせて時間稼ぐか。(体内通信)真理亜様...」

キャサリン:「なんだよう。早く入れよ。ちっ、待ち合わせか。...ううう、海で冷えたからおしっこ漏れそう。ここなら、誰も見てないからやっちゃうか。...じょろろー」

マサ:「うわっ、くっさー。あいつ、隠れ場で立ちションかよ。まあ、間もなく人権削除刑だからちびる運命だったのね」

真理亜:「待ったぁ?」

マサ:「いいえそれ程でも、実はパスカード落としちゃって(芝居、芝居...)真理亜さんが来ないとどうせ乗れなくて」

真理亜:「余分に持ってるから貸してあげるわ、(体内通信)クピドタワーのゲートカード白地で良かったわ。これをわざと落として、拾わせるのよ。私が特権リモートで扉空けるわ。このまま宮殿に連れていきましょ。どうせ、A級犯罪は宮殿の最高法廷で陛下が直接裁くことになるから、手間省くのよ。(/体内通信)はいこれ。(わざとらしくないようにして、下の1枚ぽろりと...)」

マサ:「ありがとう。じゃ、行きましょう」

キャサリン:「券、落としたわ。しめしめ、助かったぁ」


ハルの新風俗店

オサーン:「ひひひ、いいねえ、割れ目の小穴から酒がじょろじょろ...もう一杯くれよ」

ハル:「はい。クリトリス押して下さい。あひっ...じょろじょろ」

オサーン:「その表情が良いんだよなあ。ところで、ハルちゃんのお母さん冥王星探検隊に行ってるんだって?」

ハル:「おかげさまで、無事着いたようで。お土産にカロンの氷をリクエストしてるんで、いずれ手にはいるかも」

オサーン:「うまく行って、お店の名前通りに氷が飾れると良いね。でもお母さんって偉いんだね。とすると、ハルちゃんも宙軍さんではエリートなのかな。こんなハードな風俗やっちゃって良いのぉ?」

ハル:「私はただの1等兵ですよ。それにもっと偉い人でも副業は別と割り切ってやってますし。私の上官なんか特務中尉になっても特区で売春ですよ。その郭のオーナーが実は部隊司令で」

オサーン:「へええ。お上は風俗大国を目指してるって言うけど、本気でやってるんだ。ぼくちゃんに住み易い国で良かったよ」

ハル:「まあ、その住み易い国が大国に踏みつぶされないように気をつけないといけないんですけどね」


(ついに冥王星に到達しました。と同時に冷戦にも突入してしまいました。果たして風俗大国の繁栄はいつまで保つのでしょう。
次回予告(24)準侯爵マサ)

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