−−(25)査察要求−−

(冥王星からのテレビ中継)

朝子10世:「まいどー。地球の皆さんにもだいぶお馴染みになって頂けた、冥王星の朝子10世です。今日は初日の事故で極低温対策を再検討していたため延びていた、氷の切り出しをお見せしましょう。後ろの地上に見えますのが、我々の誇る極低温天体降下艇、2式降下艇です。上空にのしかかるように覆い被さっているのが冥王星の双子惑星カロンです。はっきり言ってキモイです。何しろ天然の静止衛星ですから、いつも空の一点から動きません。落ちてきそうな不安にかられます。月よりずっと小さい星なんですけど、近いのでばかでかく見えるせいですね。太陽の光がほんの少ししか届かないため薄暗いというのも、一層気持ち悪さを引き立てていますね。カロンからこっちを見ても同じ、いやこっちの方が大きいからもっとキモイかしら。そんな場所でアイスショウをやってしまったうちの娘たちの神経の太さ、実に頼もしい限りです。あ、準備が整ったようです。では操縦席のエリ中尉、始めて下さい」

エリ:「エキシマレーザーCWモード、出力35%。ビーム・ボンバー!。連続照射」

朝子10世:「このように降下艇を横歩きさせてレーザーを斜めに打ち込み四角錐の形に切り取るのです。切ったら、再び凍り付く前に素早く取り上げます。リホ中尉、クレーンお願い」

リホ:「クレーン操作リンク接続、さっとつかんで背中にポイ」

朝子10世:「取った氷はこのように降下艇背面の荷台に乗せます。外は極寒ですが船体の熱が伝わります。荷台の断熱はかなり厳重ですが何しろ温度差が大きいです。急いで保管庫に運ばないと溶けてしまいます。というわけで、すぐ離陸しないといけないので今日の放送はここまでです。でわまた」


(北米連 大統領官邸 応接室)

愛国民兵会会長:「大統領、我が国の領土である冥王星におかしな小娘どもが侵入するのを取り締まって下さい。私たち愛国民兵会は、民間の自主的取り組みで長い国境線を不法移民から守ってきたのです。民間ボランティアだってこれだけやっているんです。国家なら冥王星くらいなんとか出来るでしょう」

ヤブー:「毎度、選挙での応援に感謝しますよ。もちろんあなた方のボランティア活動は大変尊敬しています。しかし、残念ながら宇宙条約では宇宙における領有権の主張は認められていないんですよ」

愛国民兵会会長:「そんなバカな。だって冥王星を見つけたのは我が国ですよ」

ヤブー:「国連での議論の結果、南極と宇宙には国境がないことになっていますよ」

愛国民兵会会長:「何を言ってるんですか。国連だって我が国が作ったようなものでしょ。我が国は特別だ。そんな弱腰なことを仰っていると、次の選挙で会員を纏めきれなくなりますよ。しっかりして下さい」

補佐官:「失礼します。次の面会のお時間です」

愛国民兵会会長:「でわ。頑張って下さい」

ヤブー:「次は誰だ?」

補佐官:「ハゲタカ派教会、南西部教区長様です」

ヤブー:「次もわからんちんの爺さんか。やれやれ、民主国家の指導者はつらいのお。なんとかせねば」


(北米連 大統領官邸 会議室)

ヤブー:「たび重なる冥王星からの放送で明らかなように、やつらは宇宙で高出力の原子炉を使用している。我が政権の支持層からはやつらを取り締まってくれという無理な陳情が相次いでいる。現実にはいきなり国連の枠組みを無視した行動など出来ないが、出来ることはやらないと支持率が下がってしまう。それで、原子炉があるなら核兵器の保有も可能だろうということで安保理の査察要求決議を取り付けたいと思う」

北米連国連大使:「やつらが宇宙条約に違反し宇宙空間に核兵器を配備している兆候を示す物証は何もありません。また、旧P共和国自体は反核憲法によって我が国の艦船寄港を拒否したため関係が冷却化した経緯があります。あの帝国が核兵器を保有するような体質なら、P共和国が迎え入れるとは考えにくいですね。実際、あそこは地上には原子炉が無く、発電は潮力ダムと太陽光だけです。昔からウラン燃料の輸入量もゼロです。したがって条約上は査察受け入れ義務がないんですよ。他の理事国は簡単に賛成しないでしょう」

コメー:「ウランの輸入量がゼロ?。では、宇宙の原子炉は何処から燃料を?。密輸でもしているのでは?」

商務長官:「密輸は相応規模の地下経済がないと難しいですよ。あそこは地下経済の規模が極めて小さいのです。麻薬取引と武器輸出に関しては情状抜きで一律に死刑適用という極端に厳しい規制が敷かれています。逆に、売春や臓器売買、賭博は合法で公然と行われています。このため地下経済の成り立つ余地が乏しいのです。表の経済に関するお金の流れはIMFの統計に出ますが、ウラン生産国への資金移動は殆どありません」

北米宇宙局長:「宇宙で隕石からあるいは地上で海水から核物質を集めている可能性なら考えられます。但し、海水からの場合は発電用に必要な量を集めるのすら難しく、核兵器生産に必要な量を集めるのはまず無理です。隕石からの収集はデータがないので、どちらともいえませんが、我が月面基地の実績から推定すると易しくはなさそうです。原子炉というのは目一杯発電用に運転してしまうと、発生するプルトニウムが兵器に使えない同位体ばかりになります。そこから回収したプルトニウムの使い道なんて熱源しかありません。兵器用には専用の生産炉が必要なんです。核燃料は宇宙船の動力に回す分を確保するのが精一杯で、核兵器のような不経済な物に回す余裕はないと想像します。例の工場衛星が集める太陽熱は外観から推定でき、赤外線観測による放熱量と比較すると原子炉はあってもかなり小型です。核燃料に余裕があるなら、あんなばかでかい凹面鏡を作るよりも原子炉を増設した方が経済的ですよ」

ヤブー:「やつらが核兵器を持っていないか、仮にあっても脅威になる数でないことは百も承知だよ。あの工場衛星の核査察が認められれば、査察官に我が国の人間を押し込むことは簡単だ。工場内に立ち入ることが出来れば、全身サイボーグ技術の秘密を探れるだろう、それが真の狙いだ」

コメー:「まさか、大統領まで国防長官のような恐ろしい考えにとりつかれていませんよね」

ヤブー:「兵士のサイボーグ化など考えておらん。ただ、やつらの技術力を調べて弱点を探っておくべきだと思うのだ」

北米宇宙局長:「IAEAの査察官に宇宙飛行士の有資格者なんて居ませんよ。それにどうやって行くんですか?」

ヤブー:「物理系のペイロードスペシャリストなら査察官ぐらい務まるだろう。人選と訓練をやっておいてくれ。首尾よく決議が取れれば、IAEAの方から困って人材提供の要請をしてくるに決まっているからな。どうやって行くかは、あの工場衛星の施設にこちらの宇宙船が入港できるかという問題もあるから交渉するしかないな」

北米連国連大使:「仮に決議を取り付けられるとしても、根回しには非常に時間がかかると思いますよ」

ヤブー:「まあ、ダメ元で2国間交渉もやってみるさ。コメー、事務レベル交渉で良いからとにかく動いてくれ。国民向けにはしっかりやる気を見せておかないと、次の選挙が危ない。みんなまだ引退したくは無いだろう?」


(経済特区=旧P共和国 国連大使公邸)

国務次官補:「我が国民の相当数は、貴国が宇宙に核兵器を配備しているのではと疑っていますぞ」

経済特区国連大使:「それはあなた方らしい発想ですね。我が国には反核憲法があるのです。そもそも何故そんな憲法が出来たか。元を糾せば、あなた方が私たちの近くの海を核実験で汚染したからです。我が国は漁業を重視しているので地上では原子炉すら一切設置しない政策を採っているんですよ」

国務次官補:「元のP共和国なら信じますよ。しかし、あなた方は今や謎の帝国の一員ではないか。その帝国は冥王星に宇宙船を派遣しそこから強力な放送波を送っている、原子力を使っているのでしょう」

経済特区国連大使:「反核憲法は帝国全体に継承されています。隕石で取れた核物質は発電で消費しています。隕石に含まれる物質で使える物は全て有効利用しないと採算がとれませんからね。但し経済性を重視していても、核に限らず有害な物は地上に降ろさないように気を使っているんですよ。地上を攻撃するための核兵器を生産するなど論外です。そもそも発電用燃料だって足りないんですから」

国務次官補:「それが事実か検証させるべきでしょう。工場衛星への査察を受け入れたらどうです」

経済特区国連大使:「どうやって?。IAEAの仕組みは核物質の生産から廃棄までの流れを追いますね。うちの施設は全部宇宙にあるし、資源の収集は小惑星帯でやっているんですよ。誰が査察に来るんですか?小惑星帯への飛行は近いところで往復3年の長期任務なんです。これを全部追わないと意味がないでしょう。資源収集艦内の気圧は0.2気圧しかないし、普通の食料や調理施設はありません。加速もきついですよ。つまり査察官の呼吸、食事や移動は自力でってことになります。IAEAが宇宙船を用意するんですか?そういう話なら検討しますが、工場衛星だけ見せろと言うのなら目的が違うんじゃないですか。それに、工場衛星だって呼吸や食事の事情は同じだから、来るなら自己解決して貰うしかないですね。宇宙船ベイへの入港にしたって、操縦方法が特殊なんで他国の人では難しいと思いますよ」

国務次官補:「では、同じことを国連でも言うんですな。安保理がどう反応するかお楽しみに」


(経済特区大統領府)

大統領:「予想通り、核疑惑にこじつけて工場衛星を探ろうとして来ましたよ。とりあえず、どうやって小惑星帯まで査察官がついて来るのかと難問をふっかけておきましたが」

帝国外務大臣・弥生:「IAEA査察官に宇宙飛行士経験者なんか居ないわ。北米連の人間を入れる気ね」

大統領:「北米連は安保理に査察要求決議をかけるでしょう。対応を決めて下さい」

弥生:「簡単だわ。交換条件に北米連の月面基地への査察要求を逆提案するのよ。満漢が大喜びするわね。たぶん、あそこを調べれば満漢の有人飛行に対する妨害工作の証拠が出るだろうから拒否するはずよ。公然核保有国でも宇宙条約は守らなきゃいけないんだから、拒否すればお互い様ってことになるわね」

大統領:「国連大使にすぐ伝えます。満漢やイスラム諸国を抱き込めば決議の成立は難しくなりますね」

弥生:「イスラムといえば、例の”漁業監視船”は評判どうかしら?」

大統領:「引き渡し済みの4隻は評判いいですね。北米連の潜水艦が居る場所もくっきり映るんで。受注分が全部入ったら、順次本格武装するようですが、今は迫撃砲を仮設してヘッジホッグ積んでます」

弥生:「沈める気がなくて威嚇するだけなら、ヘッジホッグどころか手投げの爆雷で十分よ。武装はユーザーの技術水準に見合った物を使った方が、補給だって楽でいいのよ」


(満漢人民共和国 人民党本部)

毛主席:「安保理面白くなてきたあるな。北米連のやつら宇宙娘々帝国の逆提案に泡くてたある。わしら賛成しなければ、ずーと睨み合い続くある。思い切りじらして、漁夫の利とるよろし」

周首相:「漁夫の利あるか。最後はどっちに転ばせるある?」

毛主席:「出来れば北米連月基地調べたいあるな。我有人月探検船何故遭難した?。北米連怪しある」

周首相:「宇宙娘々は改造人間なる噂あるよ。その技術も探れるといいあるね。毛大人どう思うあるか」

毛主席:「我感想、宇宙娘々一見非強靱。折角製造、強靱必須。我望、機械化改造人間主体的開発。又、共和国食料不足。改造人間空気消費許可、其代食料不要必須、戦闘能力重視、外見軽視。共和国素体無尽蔵。人権一切不要。余剰人実験使用無問題」

周首相:「了。無戸籍違法出生者余剰。皆逮捕、為実験使用。唯、実験部品全部製造必要時間過大。為時間節約、見本用手足、宇宙娘々帝国輸出品購入許可?」

毛主席:「手足限定可買?。胴体装置不可買?」

周首相:「肯、手足可買。唯、達磨人連行@宇宙娘々帝国経済特区、為制御素子取付手術独占。又、購買数制限、達磨人一人宛三腕対三脚対也。価格腕対約弐萬$、脚対約弐萬弐千五百$也。取付手術料金開放価格也。相場噂、再切断料金・断端基材埋設料込壱肢五千$乃至七千$也」

毛主席:「達磨人先行製作必要也。即、無戸籍違法出生者数人逮捕達磨人化実行。
為達磨人余計発言防止、宇宙娘々帝国経済特区連行時達磨人声帯切除必須」

周首相:「了。即刻手配。実験許可謝謝。再見」


(数日後、経済特区・メタロリホスピタル)

満漢人民共和国領事・陳:「化学工場の爆発事故で重傷者が一度に6人も出てしまって。気の毒に両手両足を失った上に、ガスにやられて声が出なくなってしまって。こちらでは、人工の手足を取り付けることが出来るというので連れてきたのです。費用は国家予算で何とかします。高福祉は我が国の誇りですからな。とはいえ急な出費で痛いことも事実です。団体割引など適用して貰えると助かるのですが」

いつぞやのダルマっ娘好き整形外科医:「そうですか、それは大変でしたね。断端の状態は...」

満漢唖達磨娘1から6:「...(嘘よ。戸籍法違反でいきなり逮捕されて。何でこんな目に!)」

整形外科医:「ふむふむ(これは爆発事故じゃない。意図的な切断だな。雑な切り方だ。初めからここへ切りに来れば、痛い目に遭う回数が少なかったのに。政府関係だから刑罰か?さすがに外国の刑罰執行は請け負えないか。本人同意がないのは特区でも違法だからな)。我が国の能動義肢を取り付けるには、断端の残りを除去する再切断手術が必要です。全ての製品が肩関節・股関節離断者を対象とした構成になっているからです。電源の体積や制御系の関係で余所でやっているような部分義肢は作れないんですよ。同時に、基盤材と神経トランスポンダの埋設が必要です。ここは明朗会計でしてね。見積もりは、...6人同時ですから、団体割引2%となっています」

陳:「2%ですか。もう少し何とかなりませんか?。予備を付けて3対ずつ買うつもりなんですが」

整形外科医:「私はアルバイトなんで独断では。じゃあ、輸出義肢営業課長を呼びましょう。あ、もしもし事務部。満漢領事館の団体さんがね数量割引希望で...すぐ来れるそうです」

営業課長:「イ尓好。貴団体員数拾人未満、割引原則2%、標準型式手足数量割引条件超弐拾対也。他形式数量割引五拾対超必要。為義肢生産元公営、此数量割引基準、公定也。他院同様也」

陳:「労働災害悲惨。仁愛価格必要。仮、弐拾対購入許可、追加予備購入検討」

営業課長:「為制御素子仕様上制限、予備義肢保有可能数最大弐也。六人弐拾対使用無理」

陳:「追加達磨娘連来不能。不足僅弐対也。慈悲価格希望」

営業課長:「了。除手術費、特例割引2.5%。限界也、為特区内全病院有限公司、非慈善事業也」

陳:「謝謝。即刻手術開始希望」

営業課長:「話はまとまりましたが、先生一人で6人まとめて手術するのは大変じゃないですか?」

整形外科医:「再切断の方は得意なんで20人でも行けますが神経トランスポンダがきついですね」

営業課長:「神経トランスポンダの”専門家”に応援を頼みますか?」

整形外科医:「そうして下さい。流れ作業で切断に専念できる方が時間当たりの稼ぎが良いので」

陳:「専門家?。誰?」

営業課長:「神経接続微細手術高速実施神業専門家。技術秘伝、面会見学等不可」

陳:「了。不面会希望。至急手術優先也」


(冥王星探検発表から2ヶ月後、宮殿、御前会議)

皇帝:「今日は、冥王星探検後の世界の動き、探査の成果、および今後の方針について検討します」

外務大臣:「予想通り、北米連は工場衛星の核査察を要求してきました。本音は核問題じゃないでしょうけど。採掘から廃棄物までの移転一貫管理というIAEAの仕組みを無視した提案ですから通ることはないでしょう。宇宙条約を盾に月面基地を査察させろという逆提案に満漢が乗ってきたせいもあってとりあえず黙りましたね」

皇太子:「安保理が拒否権合戦で膠着したのは有り難いですが、諦める筈はないし次は何を仕掛けて来ますかね」

刑部大臣:「新たな工作員侵入の形跡はありません。最初の香具師が何の成果もなく捕まったせいですかね」

地軍大臣:「200海里水域への潜水艦侵入も無いですね。警戒システムで居場所を押さえられるのを避けています。衛星や超高高度偵察機による撮影はやっているようですが妨害蒸気システムのせいでまともに写っていないでしょう」

外務大臣:「とりあえず帝都や重要工業施設の場所を特定したいんでしょうね」

皇帝:「鬱陶しいから、教えてあげちゃいましょうか」

地軍大臣:「えっ、それは危険では?。いきなり侵攻してくる可能性だってあるでしょう」

皇帝:「まず、離宮の方に見せかけの遷都をやってから教えてあげようと思うのよ。私があっちに住んで、特区のマスコミに特別立ち入り許可を与えて定例記者会見でもやればあっちが注目されるわ」

地軍大臣:「離宮の島は外洋に突き出た位置にあります。余計侵攻されやすいのではありませんか?」

皇帝:「一見重要そうで、上陸侵攻しやすそうな場所を作っておいた方が核攻撃の選択をされにくいと思うのよ。それに、侵攻される場所が重要工業施設から引き離されることも必要でしょう。私が囮になるのが一番効果的だわ」

地軍大臣:「しかし、本当に攻め込まれたら陛下に危険が及ぶじゃないですか」

皇帝:「そのつもりで地軍の配置を厚めにすればいいわ。重装甲ボディーの近衛サイボーグ隊にも応援させるわよ」

皇太子:「重装甲隊ですか。確かに核の至近弾以外で倒すのは難しいし、地上で混戦になったときは有効でしょう。」

皇帝:「じゃあ、良いわね。念のため私の分も重装甲ボディー送っておいて。さて、北米以外に動きは無いかな?」

民部大臣:「特区の病院に満漢領事館が口のきけない四肢切断患者をまとめて6人も連れてきたそうです。突然の団体客ということで応援要請があって、神経トランスポンダ接続手術を貴族が請け負ったため判ったのです。化学工場の爆発事故で四肢を失い喉をガスにやられた患者だというのですが、見え見えの嘘だったそうです。四肢以外には怪我の痕もなく、切断は全て同じ術式でなされ、声帯も焼けたのではなく切除されていたそうです。特区でのことですから追求するわけにも行きませんが、強制的にダルマ化されたのを喋らせないようにしたのかと。最初は予備の義肢を制限数以上に購入しようとの交渉もしていたので、おそらく満漢政府による技術調査ですよ」

外務大臣:「安保理では満漢がごねてくれて助かっているので、特区の法律を破らない限り規制は避けたいですね」

皇太子:「輸出用義肢は北米連にだって出しているのです。買ってくれるなら誰でも構わないと思います。仮に義肢を分解調査したところで、機構の要であるリニア牽引帯や磁気サスは無重力で加工しないと出来ません。仕組みが判ったとしても、我々より低コストで同じ物を造るのは殆ど不可能だから経済的被害は生じません。制御の要である神経トランスポンダは、プロトコルをランダムロジックで組んであるので解析に何年かかるやらです」

外務大臣:「解析された場合、我々の手足がハッキングされる恐れはないのかしら?」

皇太子:「サイボーグ体はシールドされていますし、プロトコルがわかっても素体番号の体系を知らないと難しいです。番号帯が離れているので義肢患者に付与されているコードが素体番号だとは滅多に見破られないでしょう。むしろ、装着者がそのまま外国の兵士になっていて、ハッキングを仕掛けるチャンスが出来る可能性の方が高いです」

皇帝:「とりあえず、満漢の調査活動は放置しましょう。実験素体には気の毒だけど外国の人権に干渉する気は無いわ」

文部大臣:「冥王星探査の成功によって、サイボーグになりたいと思う小中学生が増えるという効果が現れています。それ自体は喜ばしいのですが、惑星科学や経済への効果が今ひとつ見えてきていないのは寂しいですね。勿論、私もそっちが専門ですからデータ分析に時間がかかるのは承知ですが、国民向けに見える効果が欲しいです」

皇太子:「それについて、討議したいことがあったのです。移動装置で発送する隕石の選定のことです。冥王星ーカロン系の重力均衡点を巡る氷隕石、微衛星といっても良い大きさのがいくつか見つかったのです。”みくら”は重量軽減のため隕石移動装置を1基しか持っていっていないので選定に迷っていると報告しています。つまり、メタン主体の氷と水主体の氷どちらを優先するか、それと妥当な大きさの決定ですね。メタン主体の氷を持ってくるとしたら期待する用途は石油化学素材の代替で、地球軌道への輸送となります。水主体の氷を持ってくるなら、極低温という特性を考えると金星へのアイスインパクト実験用でしょう。大きさについては1万dから5万dまでの候補があり、5万d級ですと移動所要期間は12年から16年です。推進力は選べないので大きい物ほど使える時期が遅く、衛星軌道に運ぶか落下させるかでも所要期間は違ってきます」

文部大臣:「いち惑星科学者としては、地球軌道に運んで大量のサンプルをじっくり調べられると嬉しいです。しかし、大臣としては金星アイスインパクト実験の方が地味な資源調査より国民を納得させられると思います。それに、隕石移動装置は推進剤に水を使う設計ですからメタン主体の氷だと信頼性が不安ですね。1基しか設置できず、しかも10年以上無人で飛ばすなら、水の氷の方が失敗の確率が低いでしょう」

地軍大臣:「済みません、意味がよく判らないのですが、火星でなく金星に氷を落とすのですか?」

皇太子:「聞き違いではないですよ。つまり、金星の可住化という長期的な実験にかかろうかという話です。火星ではすでにやっているわけですが、重力が小さ過ぎるためどんなにがんばっても素体生産地には出来ません。気圧が最も高い、深い窪地の底を選んで水たまりを設ければ農産なら出来そうですが、サイボーグしか暮らせません。金星の地表は現在のところサイボーグも降り立てない高圧の焦熱地獄ですが、冷却さえできれば地球に似た惑星です。大隕石を落とせば核の冬の効果で一時的に温度が下がります。また、氷隕石なら周囲に水たまりができます。ある程度大きな水たまりが維持できれば、大気の主成分である炭酸ガスが溶け込んで気圧も少しは下がります。定期的に大きな氷隕石を落とし続けて気温100度未満の地域を維持すれば、大気に水蒸気も多いので雨が降ります。いったん雨が降る環境ができれば、水たまりが勝手に成長して、ますます炭酸ガスを吸収し低温低圧化が進みます。時間は1000年以上かかるとしても、植物の生育が可能な地域が出来てしまえばいずれ可住化されるでしょう。間に合うかどうかは判りませんが、核戦争などの恐れを考えると地球外に素体生産地を得る努力は必要です」

地軍大臣:「わざわざ冥王星軌道から氷隕石を持ってくる意味はあるのですか?。移動中に暖まるのでは?」

文部大臣:「氷は水と違って対流がありません。固体の水つまり氷は熱を伝えにくい物質なんですよ。そして隕石移動装置による移動は遅いといっても自然の彗星の移動に比べれば一桁速いんです。1万d以上の巨大な塊なら太陽熱で暖まるのは表面のごく一部だけで、内部は冥王星の寒さをそのまま運びます。金星の環境では1万dの隕石1個はまさに焼け石に水ですが、溶けきる前に同じ地点へ次を落とせば効くかも。溶けきるまでの時間を稼ぐには極低温の氷を落とすしか無いですからカイパーベルトから移動するのが正解ですよ。気になるのは、次の1個が何年後に落とせるかですね。今のところなるべく大きいのを選ぶのが良いと思います。金星は対流が激しい世界なので、どれくらい持つか予測するのは計算に2ヶ月くらいかかります」

皇太子:「探検部隊は乗員数を最低限に抑えているので隕石移動装置の設置に時間がかかります。宇宙滞在制限期間に余裕がないので、計算結果は待てません。5万d級の隕石を選ばせるしかないようですね」

民部大臣:「水5万dといえば宇宙では莫大な経済価値があります。地球軌道で使う余地はないですか?」

皇太子:「工場衛星の水はメインベルトからの輸送で充足していますし、冷たすぎると使い辛いんです。12年以上先のことですし。北米連の月面基地が高値で買ってくれると言うなら喜んで運びますがね」

外務大臣:「はは。意地でも買わないでしょう。それどころか地球付近に運ぶだけで脅威とされる鴨」

皇帝:「脅威とされるのはあんまり良くないわね。差し当たり目的地は金星にしておきましょう。ところで隕石移動装置の設置は技術力のデモンストレーションとして派手だからTV中継したいわね」

外務大臣:「原子炉の使用も目立つことになりますね。動力としてだから専門家は核疑惑を否定するでしょう。ただ、知識のない大衆がどう捉えるか、それに政策が振り回されるのが北米連の特性だから気になります」

皇帝;「動力として長期運転すると兵器用プルトニウムが生成されないことは放送で言わせましょう。他に議題がなければ今日はこれくらいにします」


(4ヶ月後、冥王星ーカロン系重力均衡点周囲の微衛星上からの放送)

朝子10世:「地球の皆さんこんばんわ、朝子10世です。今日も超ぉーー寒い中がんがってます。この放送では、なんと微衛星の移動作業をお目にかけちゃいます。え、何をどこに動かすかって?。この微衛星は5万dの氷の塊です。移動の目的地はなんと金星!。12年以上かけての大移動です。なんのため?。それは金星の環境を人が住めるように変えられるか実験するためです。金星はご存じの通り、90気圧もの炭酸ガスの大気に包まれた、平均気温400度という地獄のような世界です。太陽に近いため水が全部蒸発して海ができず炭酸ガスが溶け込む先がないせいでそうなったと言われています。いちどそんなに熱くなったら雨が降らないので放っておけば温室効果が続いて永久に焦熱地獄です。そこで極低温の氷隕石を窪地に落下させてみたらどうなるか、試してみようと言うわけです。予想では、局所的に寒冷地ができ、氷が溶けたり冷気で雨が降ったりしてできる水たまりに大気が吸収されます。おまけに隕石落下の際に舞い上がる埃のせいで1年くらいは日照が弱まるため、平均気温も下がります。氷が溶けきらないうちに次の氷を落とせば海が成長して地球に似た環境ができる鴨って訳ですね。それでなるべく溶けにくい極低温の氷をここから運んでやろうというわけです。ではこちらをご覧下さい。そびえ立っていますのが隕石移動装置の排気ノズル、その下が加熱装置、地中には貯水槽があります。加熱装置で発生した高温高圧の蒸気は大半が排気ノズルから噴射されてその反動が推進力になります。一部は大型蒸気タービンを動かして地中の氷を掘り出す巨大ドリルを回し、余った力で発電もします。掘り上げた氷は蒸気の余熱で溶かされて貯水槽に補充されるのです。つまり自給自足の推進器なんです。今はアイドリング中で少し氷を掘りながら発電しているだけですが、これから出力を上げます。じゃあ、オペレーターさん始めてね」

リホ:「加熱装置出力上昇、5MW、7MW...50MW...100MW、最大です」

エリ:「給水バルブ開度、5%、7%、...50%...100%、全開になりました」

朝子10世:「お、お、お、微かですがGを感じますね。ノズルの先に少し白い湯気が見えるのが判りますか?。見えにくそうなのでカメラを赤外に切り替えましょう。カメラさんお願い」

寿那緒:「テレビカメラ赤外モード(凍結対策でスイッチをBCIからの無線操作にしたから楽だわ)」

朝子10世:「ノズルから光の帯が出ているように見えるのが高熱の水蒸気です。強力そうでしょ。えっ、地上で5万dの船動かしたってスピードなんか大して出ないだろ、宇宙飛行なんかできるかって?。確かに推進力は船よりずっと弱いですよ。でもここには水の抵抗もないんです。ちゃんと加速できるんです。カメラ上空を向けて下さい。ほら、上空のカロンが少し動いてるのが判りますか?。ね、この通り。なになに、藻舞ら12年以上も氷隕石で旅するのかって?。まさかぁ。飢えと寒さで氏んじゃいますよ。ここにはちゃんと無人探査機でお馴染みの星追跡装置があるので無人で軌道を維持できるんです。推進器台座の端に望遠鏡みたいのがあるでしょ。パラボラも設置してるから遠隔操作だってできます。え、なになに、加熱装置ってのは原子炉だろう、放っておいて大丈夫かって?。大丈夫です。これは地上の発電所で普及している軽水炉です。念のためシュラウドも厚めになっています。ずーっと一定出力で動かすから、原爆の材料になるたちの悪いプルトニウム同位体も出来ません。いいですか、世界のテロリストの皆さん!。ここの炉からプルトニウム盗んでも原爆は出来ませんよ!もちろん、金星を汚さないように、落下前には我々の回収部隊が隕石移動装置を撤去します。決してご迷惑はおかけしませんので安心して下さい。それでは、我々も退去する時間ですので終わります。冥王星付近からの放送もあと僅かとなりましたが次回をお楽しみに。でわまた」


(北米連 大統領官邸応接室)

愛国民兵会会長:「いつになったら、冥王星で勝手をしているあの小娘どもを取り締まってくれるのですか」

ヤブー:「ですから、国連安保理でやつらの宇宙工場に核疑惑があるから査察させろと要求しているんです。ところが、やつらは逆に我々の月面基地に核疑惑があるから査察させろと言いだして満漢が乗ってきたんです。満漢人民共和国は拒否権を持っているから月面基地を査察させない限りこちらの要求も通らないんです」

愛国民兵会会長:「そんな国連なんかでぐずぐずしている間に小娘どもは金星に手を着けようとしてるでしょ。そもそも公然核保有国の我々が査察を受ける義務なんか無いでしょうが、馬鹿馬鹿しい」

ヤブー:「宇宙条約で宇宙への核配備は禁じられているんです。我々もそれは守らないといけないんです。もし破ったら、満漢やス連も宇宙に核を配備して、とんでもない軍拡競争になってしまうんですよ」

愛国民兵会会長:「我が国ともあろうものがつまらん条約に縛られるんですね。困ったものだ。しかたない、政府が手出し出来ないと言うなら、我々が冥王星に行ってボランティアで取り締まりましょう。北米宇宙局に命じて冥王星に行けるロケットを無償で払い下げて下さいよ。それくらい出来るでしょう」

ヤブー:「冥王星に生身の人間を送り込めるロケットなんて有りませんよ」

愛国民兵会会長:「だったらどうしてあの小娘どもは冥王星にいるんですか。矛盾してる」

ヤブー:「未確認ですが、あいつらは真空や極低温に耐えるため体を機械化したサイボーグなんですよ」

愛国民兵会会長:「サイボーグ?。ああ、黄色い猿の書いたマンガなんかに良く出てくるやつね。私はマンガなんぞ殆ど読まないから詳しいことは知りませんが、要はやれば出来るってことですね。だったら、わが軍にも当然サイボーグ部隊ぐらいあるんでしょ。何故それを派遣しないんですか」

ヤブー:「我が国は民主国家です。そんな兵士の体を機械化改造なんて無茶は出来ませんよ」

愛国民兵会会長:「最近の軍はたるんでるんだ。セックスのことばかり考えてるへたれ兵士が大杉です。しかたがない。だったら、民主的にやれば良いんでしょ。我々で志願者を用意すれば出来ますよね」

ヤブー:「そ、それは。サイボーグ技術は不完全なのです。改造に失敗して死ぬことだって。仮に成功しても元の体に戻すことは不可能です。性器も無くなるんだ。神がお許しになりません」

愛国民兵会会長:「あの小娘どもは成功しているでしょ。神はやつらだけ許して我々は許さないと?リスクのことなら心配無用ですぞ。うちの若い者はへたれ兵士なんぞとは出来の違う愛国者揃いです。我が領土から犯罪者を締め出すためなら命だって懸けます。一生セックスできなくなるくらい平気です。大統領、宜しいですね!。ロケットとサイボーグの準備、必ずやっておいて下さい。でわ失礼」

ヤブー:「ちょ、ちょっと待って...。困ったことになった。言質を取られちまったぞ。あの勢いじゃあ、必ず志願者を連れて来るな。強引に却下すれば次の選挙が...。トホホ。あの頑固オヤジがまた来る前に小娘どもが冥王星から去ってくれればいいのに。いっそのこと、皇帝とやらに頼んでみようか。いや今すぐ公式に会うのは大国のメンツが...。困った。とにかく一人じゃいい手が浮かばない。おい、君、国防長官を読んでくれ給え」

補佐官:「はっ、ただいま」

国防長官:「参上しました。小娘帝国のことですね。コメー国務長官は同席されなくて良いのですか」

ヤブー:「君だけを呼んだのだ。コメーの前で出来る相談じゃないんだ。実は愛国民兵会会長が...」

国防長官:「ほお。人体実験の志願者を連れてきてくれるんですか。軍は大歓迎でしょう」

ヤブー:「人体実験じゃない。実戦用サイボーグの志願者だ。失敗して氏んだら大変なことになる。愛国民兵会は自前のサイボーグとロケットを保有して小娘帝国を冥王星から追い出すと言っているんだ。そんな無謀な話を政府が手伝うわけにはいかん。断念させる方策を相談するために君を呼んだのだ」

国防長官:「こっそり援助するというかたちでなら良いじゃないですか」

ヤブー:「愛国民兵会はそんな融通の利く連中じゃない。仮に成功したら大声で宣伝するに決まっている。そうなったら、我が政権は宗教界からそっぽを向かれるんだ。君は早く引退したいのかね?」

国防長官:「いえ、滅相もない。では志願者に人体実験の悲惨な実態を見せて諦めさせましょう」

ヤブー:「うまく諦めるかな?。どのように悲惨なんだ?。そもそも生存中の被験者が居るのか?」

国防長官:「生命維持装置が不完全なため栄養失調に罹り、数ヶ月で痴呆状態になって氏んで逝くのです。HLAの合う血液を大量に用意して入れ替えてやれば延命出来ますが、とんでもない量の献血が必要です。現在生存中の元末期ガン患者の脳は、偶然にも血液ストックの多いHLAでして半年正気を保っています。視聴覚神経と腕の運動神経を装置に繋ぐことに成功したのでなんとかコミュニケーションが取れています。しかし、ガラスケースに浮かんだ生きた人間の脳ですから見るからに気味の悪い物ですよ。あれを見せたら普通の人間なら嘔吐か気絶をしますよ。健常者が志願するはずがないです」

ヤブー:「先日の話では、恒久的生命維持の見込みは全くないという話だったが違うのか。心配だな。献血集めなんて愛国民兵会なら得意中の得意だぞ。他に解りやすい致命的な障害はないのかね?」

国防長官:「我が国は脊椎損傷者や視覚障害者の福祉用としてのBCI技術が世界一進んでいるんです。生命維持とBCIが出来てしまえばサイボーグを作るのはロボットを作るのと技術的な差なんて無いです。長期の生命維持は実績がないですから、精神面など全く未知ですが、素人に解る障害じゃないですね」

ヤブー:「そうか。嘘をついてあとで知られたら怖い連中だから、見せるなら正直にやるしかない。愛国民兵会の志願者が、むき出しの脳を見て恐れをなしてくれるのに期待するしかないかな。とにかく、生きている被験者をなるべく持ちこたえさせておいてくれ。コメーには一切報せるな」


(経済特区自治政府大統領府 記者クラブ)

自治政府・広報官:「それでは予告通り、帝国の首都往復日帰りの会見ツアーを開始いたします。初めにご注意ですが、本経済特区を除く帝国全域は本来なら外国人全面立入禁止区域です。私たち特区住民だって立ち入り許可を得るには厳重な審査を通らなければならないのです。無許可で越境することはスパイ行為かテロ工作と見なされ、例外なく死刑に処せられます。皆さんの特別立ち入り許可は、あくまでも皇帝の記者会見ツアーのために必要と認めた地域限定です。ご案内する場所以外に無断で行こうとした時点で不法越境となるので、くれぐれもご注意下さい。なお、不法越境行為の禁止以外に規制はございません。無論記事や映像の検閲などは一切やりません。後日皆さんがどのような記事を発表しようとも、次回以降の取材許可で差別することも絶対しません。皇帝への質問時間は一人当たり10分とっており、質問内容に制限はありません。それでは、身元確認システムのゲートを通って、裏庭に接岸中の飛行艇の方に移動願います。駐在記者証をお持ちの方は右の、個別招待状を取得されたフリー、ネット記者の方は左のゲートです」


(飛行艇内)

広報官:「帝国内の遠距離交通はこのような飛行艇か太陽電池と風力による電気推進船を使用しています。民間航空用の飛行場は経済特区にある国際空港だけとなっており、建設による自然破壊を回避しています」

北米連大手新聞記者:「軍用飛行場は別にあるのでしょ?」

広報官:「特区自治政府の軍備は海軍しかありませんので航空戦力は大型空母一隻だけです。この艦は友好国への訪問航海でエアショーなども行っているから有名ですよね。搭載機が陸上に降りるときは国際空港を共用しています。帝国本体の戦力については皇帝にお聞き下さい」

ネット記者:「そういえば陸軍の無い国って珍しいですね。なんでこんな体制になっているのですか?」

広報官:「経済特区の陸上部分は都市国家のような地勢ですから上陸されたら守りようがないでしょう。警察が優秀なので治安維持は十分できてますよね。実際、暴力団の居ない自由港なんてうちぐらいですよ。一方で、太平洋のただ中にある島国だから海の防衛圏は大国並みに広いので海軍は必要でしょ。もう一つには、今まで帝国の外交活動を一手に引き受けてきたのに伴って緊急展開部隊も必要でした。それで、外洋型海軍の中核として最低規模ながら空母機動部隊を保有しているのです。あ、もうじき着水ですので席にお戻り下さい。着水したら海岸洞窟の駅から宮殿までは地下鉄で5分です。はい、着きました。なお、この先のご案内は飛行艇を操縦してきた帝国本体の近衛兵が行います。私自身もこの先は初めてですので、あちらに指示に従って行動して下さい」


(海岸洞窟内飛行艇基地兼地下鉄駅)

近衛大隊伍長・マミ:「岸壁と機体の隙間が有りますのでご注意下さい」

近衛大隊伍長・ユミ:「お降りになりましたら、2列に並んで下さい。お揃いになってからご案内します」

マミ:「近衛大隊のマミ伍長です。帝国本体は広報官がおりませんので臨時にご案内を勤めさせていただきます。なにぶん不慣れですので、不行き届きの点はご容赦下さい」

ユミ:「同じくユミ伍長です。よろしくお願いします」

フリーの雑誌記者:「(おいおい、こんな女子高生みたいなやつらが操縦してたのかよ、((((;゚Д゚)))。)質問!、着水から洞窟内の接岸までお見事な操縦でしたが、ミニスカが大変お似合いのお二人は何歳なんですか」

マミ:「わたしたちの年齢に関する質問は国家機密とも関わりますので皇帝に聞いて下さい」

ユミ:「地下鉄ホームの方に参りますので、こちらに続いて下さい」

満漢人民共和国政府系新聞記者:「地下鉄に切符売り場が無いようですが、料金はどうなっているのですか」

マミ:「虹彩認証のある臣民は無料で乗れます。皆様の今日1日限りの認証は入国時のデータから設定しました」

北米連大手新聞記者:「公共交通の無料化は昔の共産圏ですら例がないですよね。財政的によく成り立ちますね」

ユミ:「潮力及び太陽熱発電の高効率化を進めた結果電力価格が安いことと、石油消費削減政策予算のお陰ですね」

マミ:「こちらの車両に集まってお乗り下さい」

某交通雑誌記者:「リニア式地下鉄にしてはトンネル径が大きいし車両も贅沢な造りですね」

ユミ:「宇宙工場の無重力環境で生産される高性能磁石鋼が余剰気味なのでリニア式を採用しています。物資を降ろすカプセルにリニアカタパルトの機上子が大量に付いてくるので、それを再利用しているのです。トンネル径を小さくする意図はありません。台風被害が多いので、車両は避難者の寝泊まりを想定しています」

J軍事年鑑記者:「(台風の避難用だって?。本当は核戦争時の兵舎だろ。ものは言いようだな)入り口の崖の高さからすると相当深いですね。核シェルターとしても使えるのでしょう?」

マミ:「この深さなら有効でしょうけど、工業施設の大半が宇宙にあるのでここを攻撃しても無意味ですよ。地上はジャングルに覆われていますからそんなことをしたら大規模自然破壊として国際的な非難を受けますね。トンネルの深さは飛行艇との乗り継ぎをエレベーターやエスカレーター無しでバリアフリー化するためです。海岸洞窟の駅は塩害を受けるのでなるべく機械類の設置を減らしたいですからね」

ユミ:「宮殿下の駅に着きました。降車願います」

マミ:「こちらの高速チェアリフトで宮殿内に直接上がれます。続いてお乗り下さい」

某交通雑誌記者:「エスカレーターの代わりにリフトですか。変わってますね」

ユミ:「ここは高低差が大きい上に乗降客が少ないので、この方が建設費や維持費が安いですから」

マミ:「移動お疲れさまでした。リフト降り場正面2基のエスカレータを上がると宮殿大広間です」


(宮殿=実は離宮、大広間)

侍従:「ようこそ。お席は招待状の番号と同じところでお願いします。あちらにお飲物がありますのでご自由に」

侍従長:「南太平洋帝国皇帝、知子1世陛下のおなーりー」

皇帝:「世界のメディアの皆さんようこそ。既に衛星放送でお見知り置きいただいている、知子1世です。我が国がこれまでその実体を秘匿してきた事情や基本政策については先日の放送の通りです。今日は、この首都宮殿が実在することを直接確かめていただき、質問をお受けするため会見を設けました」

北米連大手新聞記者:「早速ですが、いまどき新たに帝国を名乗る国家が現れたことは驚きです。おそらく160年前の中央阿弗利加帝国以来でしょう。何故、いまさら帝政の必要があるのですか?」

皇帝:「我が帝国の体制と160年前の独裁者ボカサ1世の妄想とは根本的な違いがあるのです。現在の技術水準において地球温暖化の阻止に役立つ規模で宇宙資源を利用するには特殊な中央集権体制が必要です。その体制で指導者の任に耐えられるのは特異なミトコンドリア遺伝子の持ち主に限られるとの研究結果があります。特異ミトコンドリア遺伝子保有者を常に指導者として確保するなら、女系による万世一系継承制度が必然です。我が国の指導層は全員がこの必然性を承知して帝政を支持しており、恐怖政治による支配などやっていません。中央集権による絶対支配も宇宙関連や外交軍事を中心とする国の秘密に関わる事項に限っています。民生に関する事項は、民選の衆議院が実質的な政策決定権を持っています」

西欧連大手新聞記者:「先ほど他の記者が案内の近衛兵さんに年齢を尋ねたら機密に触れると言われました。陛下も、冥王星探検隊員達も、それに先ほどの近衛兵も皆さん若い娘さんばかりですね。誠に不可解です。ミトコンドリア遺伝子の維持というだけでは説明がつかないじゃないですか。侍従さんは男性のようですね。するとアマゾネス帝国というわけでは無さそうですが、この国の要人は若い女性ばかりなのですか?」

皇帝:「皇位継承制度の関係で重要な地位に女性が多いのは事実ですが、中高年男性の大臣ならいますよ。私たちの年齢に関しては今のところお答えできません」

ネット記者:「ズバリ聞きますけど、あなた方はサイボーグですか?。脳改造で帝国を支配しているのでしょ?」

皇帝:「サイボーグ技術について肯定も否定もしませんが、脳改造で帝国支配というのはマンガの読み過ぎですよ。脳改造で人格を破壊された者が、孤立無援の宇宙で独立して活動できる柔軟な思考力を持てると思いますか?。仮にロボット同然の者だけで大規模な宇宙開発が出来るなら、わざわざ人間を送り込む必要はないでしょう」

ネット記者:「だったら、自爆装置を組み込んで逆らえないようにしているとか」

皇帝:「未知の危険が多い宇宙で活動する勇気と知力がある者を自爆装置で支配し続けるのは無理ですよ。そもそも冥王星なら電波が片道7時間もかかるんです。反乱が起きたら自爆命令が間に合わないでしょう」

西欧連大手新聞記者:「しつこいようですが年齢に関してはお答えいただけないのですか?失礼ながら、案内の近衛兵さんは高校生ぐらいに見えます。見た目通りの年齢なら児童労働禁止条約違反では」

皇帝:「そもそも児童労働禁止条約の規制とは子供をろくに学校にも行かせず働かせることの禁止でしょ。ユミとマミはここに来る途中で皆さんの難しい質問にもきちんとお答えできたはずです。それなりの教養が無い者を近衛兵のような国家の体面に関わる仕事に就けるわけにいきませんからね。児童労働禁止条約は十分な教育を受けた者が能力を発揮するときの年齢は規制していませんよ。年齢については女性なら外見を若く保ちたがるのは当然なのでとしか、今は言えません」

J軍事年鑑記者:「冥王星探検を敢行する技術のある国が突然出現したら誰しも漠然とした不安を抱きます。宇宙開発に使われる技術と軍事技術が密接に結びついてきた歴史からそれは当然ですよね。世界の人々の不安を取り除くためにあなた方の軍事力について出来る限りの情報公開をお願いしたい」

皇帝:「我が国には、宇宙空間を持ち場とする宙軍と本国の地上及び200海里水域を防衛する地軍があります。そのほかに特区自治政府が独自に保有する公知の海軍がありますが、統帥権は我々から独立しています。宙軍の人員は約4100名ですが、その大部分は宇宙工場と資源収集の要員であり戦闘員は150名ほどです。即ち、宇宙開発に関わる国家機密の保全と未知の危険が多い宇宙における指揮系統の明瞭化のための軍組織です。戦闘は主たる任務ではありません。少数の戦闘員は宇宙工場に対する破壊活動を防止する自衛戦力です。他国への侵攻能力はありません。これらの人数には地上で長期休養中の交代要員を含むので実働は60%です。地軍は2個連隊規模の地上部隊と200海里水域の権利保全を行う警備艦主体の水上部隊を統合した軍です。保全すべき海域が広く、飛行場建設による自然破壊を避ける政策もあって中型空母を2隻保有しています。ただし、艦船の推進方式が石油消費のない太陽熱・風力併用電気推進式のため短時間しか高速が出せません。即ち、専ら近海警備のための戦力であって他国への侵攻能力は極めて劣ります。そもそも我が国の人口では、全部合わせて1個師団にも満たない現在の戦力を保有するのが精一杯なのです。仮に十分な武器があって外国を侵略しても、支配統治を行うような兵力には全国民を動員したって足りません」

J軍事年鑑記者:「脅威論は絵空事と仰るのですね。では、宇宙における核配備もないと」

皇帝:「旧P共和国憲法の反核条項は帝国全体に継承されています。現に我々はウランの輸入量がゼロです。地上に原子炉がなく、ウランの転入もないのだから条約上は査察受け入れ義務すらないのです。外惑星での活動に使える唯一の熱源として核物質の利用はありますが、隕石から回収される限られた量です。動力用に必要な量を集めるのが精一杯で核兵器用に無駄遣いするゆとりはありません。我々が脅威となるのは無尽蔵の隕石資源と太陽熱で生産される安価な鉄鋼製品と競合する業界ぐらいです。あとは、エネルギー資源の消費が減って困るような利権の持ち主もですかね」

北米連大手新聞記者:「安保理における査察要求にはどう対応されるおつもりか」

皇帝:「全面的に拒否する気はありません。北米連の提案は論理に矛盾があり、物理的にも難しいのです。IAEAの制度では核物質の採掘から廃棄まで全ての移転を追跡管理するのがルールです。これを宇宙に拡大適用するなら小惑星帯での隕石採集から管理しなければ核兵器の密造は防げません。それを抜きに工場衛星だけ見せろと言うのは、目的外の情報収集を意図していると言うことでしょう。そもそもIAEAの査察官は宇宙飛行士ではないし、自力で衛星軌道に行く手段だって持っていません。我々のロケットは技術的制約から誰でも乗れるようにはなっていないので、便乗は出来ないんです。誰がどうやって査察に行き、どんな方法で検証するか、具体性のない話には返事のしようがないでしょう。もしIAEAの制度ではなく宇宙条約に基づく新たな枠組みでというなら北米連月面基地も同様ですよね」

侍従長:「そろそろお時間です」

皇帝:「時間のようですので、聞き足りない方は次回の定例会見にお申し込みを。でわでわ」

侍従:「皆様、お帰りの支度を願います。帰路もユミとマミがご案内します」


(翌年早々、冥王星から最後の放送)

朝子10世:「半年近くお送りしてきた冥王星からのテレビ中継も今回で終了です。おかげさまで大きな事故もなく予定していた探査を終了できました。今日は、最後のイベントとしまして、冥王星ーカロン系の重力均衡点から水の補給作業をお見せしましょう。
我々の小惑星資源収集艦は推進剤として大量の水を使用しています。今回の飛行では目的地の資源状態が不明のため往復に十分な量3400dを積んできました。しかし、現地での補給ができればその分噴射時間を増やして帰りの時間を短縮できます。そこで、カロンから200dの氷を切り出し、補充することにしました。ちょうど、出発前の最後の便が上がってくるところです。現在私が浮いている場所は船体の真下になります。後方にカロンが見えていますね。あちらの方から氷を積んだ2式降下艇が上がってくるはずです。あ、見えてきました。どんどん大きくなってきます。お尻をこっちに向けて逆噴射してますね。止まりました。背中に大きな氷のブロックを乗せているのがわかります。クレーンで降ろしてますね。船体の真下に浮かべた氷のブロックを溶かしやすいようにレーザー光線で細切れにしようとしています」

マオ:「氏ね氏ねビーム!、氏ね氏ねビーム!、氏ね氏ねビーム!、氏ね氏ねビーム!...」

朝子10世:「細切れになりました。艦首ハッチから出た機関員が大きな袋状の物を持ってきましたね。そう、あれはまさに巨大な浣腸器です。氷を溶かした水が逃げないよう袋に詰めています」

機関長:「主任操舵員、ヴァギナルハッチ開けてちょうだーい!」

雀奴:「ヴァギナルハッチオープン、ぱくりんこ」

朝子10世:「ヴァギナルハッチは人間で言えば性器のような位置にある穴で、宇宙艦の補給口が有ります」

機関長:「入れるよー。えいっ。ロックよし。愛液出して!」

雀奴:「あひっ、あうあう。インナーバルブ解放、熱水放出、あうあうあう」

朝子10世:「操舵員があえぎ声を上げていますが、冗談です。熱水を浣腸器に逆流させて氷を溶かしています」

機関長:「絞るよー。マオ、降下艇を足場にするから寄せて頂戴。よし、せーの、ぎゅーっと。」

朝子10世:「下から寄せた降下艇を足場にして機関員たちが巨大浣腸器を絞っています」

雀奴:「あうひぃーーー」

朝子10世:「無重力下なので軽そうに扱っていますが、この作業1回で4dの水を補給しています。今日のが50回目ですからこれで200dの補充になります。絞り終わったようですね」

機関長:「終わったよー。インナーバルブ閉めてー。いい?。抜くよー」

雀奴:「はひぃっ。ふう(気持ちいいけど毎日じゃ疲れるなあ。冬子は障害で駄目だし、理美は教育上...)」

機関長:「主任操舵員、ぼーっとしてないでヴァギナルハッチ閉めてちょうだーい!」

朝子10世:「機関員がしぼんだ巨大浣腸器ごと降下艇で帰っていきます。これで補給作業が終わりました。間もなく放送用巨大パラボラリフレクターをたたむのでこれでお別れです。長らく視聴ありがとうございました」


(北米連、愛国民兵会本部)

愛国民兵会会長:「ガッデーム!。取り締まりに行く前にやつらの活動が完了しちまったじゃないか。大統領が志願者と同じHLAの献血者が50人要るだのとぐずぐず条件付けるから遅れたんだ。まったく。最後までふざけた放送を繰り返しおって、ふしだらな馬鹿娘どもめ。次は許さんぞ。事務局長、HLAの調査はどうなっているんだ」

愛国民兵会事務局長:「2万人の正会員と10万人の協力会員全部のHLAを突き合わせたました。51人以上一致する型はこれとこれですから出せるのは2名です。それぞれのうち志願者はこのリストです。民主的決定の趣旨からはそれぞれのグループを集めて互選させるのが良いと思いますがどうしますか?」

愛国民兵会会長:「宇宙の果てまで犯罪者を追いかけるんだからな。意欲だけでなく実力も必要だ」

愛国民兵会事務局長:「そうですね。経歴からすると、うーむ、こいつとこいつかな、どうです?」

愛国民兵会会長:「ビルの方は儂もよく知っている奴だからいいが、このスージーは女だぞ。大丈夫かな」

愛国民兵会事務局長:「ご心配は解りますが、経歴は抜群ですよ。宇宙飛行士の最終候補まで行ってます。うちの活動でも不法越境者の抵抗にあって負傷しながら3人撃ち殺してるし、性根が座っていますよね」

愛国民兵会会長:「うむ。こっちのHLAグループは他に経歴の良いのが居ないからしかたがないな。いやいや、相手だって小娘ばかりだから、女の方がかえってうまく取り締まれるかも知れないぞ。いずれにせよ、軍の研究施設で人体実験の現場を見て、それでも志願するならという条件が付いている。たぶん現場を見ればびびってやめるだろうという腰抜け国防長官の差し金だ。責任をとりたくないのだろう。そのときは儂も同行するから、少しでもびびる素振りがあったら、儂の判断でやめさせよう」


(”みくら”艦橋)

朝子10世:「発進準備は良い?。帰りは軽いから加速きついわよ。サンプル保冷庫の温度再点検は?」

タラ:「各部耐G固定再点検完了。サンプル保冷庫外周区画温度60度K、安定しています」

朝子10世:「よし発進。ニクス軌道まで通常推進」

理美:「原子炉出力10%、グリッド電圧20万Vに上昇。推進剤注入始めます」

瑪瑙:「加速度0.2G、エンジン推力正常に出てます。方位も良いです」

翡翠:「いよいよ今度は太陽に向かってまっしぐらに落下ですね」

朝子10世:「確かに帰りの方がちょっと怖い感じになるわね。ところで先行する氷隕石の位置は?」

瑪瑙:「異常なしです。冥王星の位置も十分移動しているので追突する心配はありません」

朝子10世:「よし、隕石移動装置の管制を地上に引き継いで。放す時間は14時間後にね」

タラ:「ヒドラの軌道半径を超えました」

理美:「エンジン推力上げます。原子炉出力30%、60%、...最大です」

朝子10世:「加速圧かかってきたわね。いよいよよ。ブースター点火カウントダウンはじめ」

瑪瑙:「ニクス軌道半径まで200秒」

タラ:「ブースター点火回路接続。180、179、...」

冬子:「操舵バックアップリンク、待機状態よし」

タラ:「120秒前、点火権限操舵員に付与。カウント続行」

理美:「体内タイマー同期正常。船体方向ぶれ無し。...3,2,1,点火!」

翡翠:「おわっ、こりゃきつい」

朝子10世:「振動によるサンプル保冷庫温度上昇に注意して!」

ハルの新風俗店

真理亜:「”みくら”が無事に冥王星を出たわね。店もなんとか黒字のようね。」

ハル:「首尾良くお土産の氷が手に入ったそうですので、無事帰ってきてくれるのを願うばかりです」

マサ:「それも冬子の腕次第ね。まあ大丈夫でしょ。冬子のBCI能力はすごいから。 ところで真理亜様、わざわざこんな特殊な店に呼び出してお話って何です?」

真理亜:「実は、次の任務でN共和国大使館勤務を打診されている。藻前、憑いてくる気はあるか?」

マサ:「外交官に出向するのはインスタント一代貴族じゃ出来ないでしょ?」

真理亜:「トロい香具師だな。つまりだ。青の公家に入籍する気があるかってことよ」

マサ:「い、いいんですか???」

真理亜:「藻前のバカが感染ったの鴨ね。まあ、冗談抜きに藻前の素質は公家に必要だ。急な話になったのは、N共和国で北米連工作員が政権転覆を画策しているせいなんだけどね」

マサ:「また、スパイ退治ですか。まあいいか。先日の香具師のお陰で今の私があるわけですから」

ハル:「そんな重大な話、私に聞こえちゃって良いんですか」

真理亜:「私らがこの任務に就くと言うことは、当分軌道警備が手薄になるってことよ。ハルにはその分頑張って貰わないといけなくなるから、わざと聞かせたのよ」

ハル:「もうじき休養期間もお終いでしたね。お母さんの帰還を妨害されないよう頑張らないと」

真理亜:「その意気よ。じゃあ、マサ良いんだな?。新規叙爵者研修開けに勅許を申請する」

マサ:「ええ。やっぱり真理亜様に憑いていきたいんで」

ハル:「同性婚かぁ。サイボーグになった以上、それしか無いんだけど私にはまだ想像できません」


(北米連情報局は密かにマサを応援しているのかしら。げ、これを書いている間にIAUで惑星の定義変更!。冥王星どころかカロンとセレスも惑星だって。和名は憑くのかしら?。三途星&穀星?。100年後だとクワオワーも鴨。これ難しいな、犬糸星? 次回予告(26)青の公家)

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