−−(27)民間宇宙保管官(前編)−−


(北米連 国防総省秘密研究施設内入院施設)

スージー:「あ、そこそこ、かゆいからしっかり拭いて」

衛生兵:「こうで良いですか?」

スージー:「ありがとう。ふう、気持ちいい」

衛生兵:「入浴できない状態であれだけ動くのはきついでしょう」

スージー:「まだまだこれからよ。毎日2回も清拭は大変だけど頼んだわよ。何しろ、あらゆる体の動きをデーター化しないと次に進めないからね。ここで手を抜いてロボットみたいな安っぽい動きしかできない体になるのはご免よ。限られた時間で採っておかなきゃいけないパターンが非常に多いのよ。脳の出す信号と体の動きの関係が単純でないことは予想していたけどね」

衛生兵:「脳で考えた動きと脊髄が体に分配する信号を突合するのは大変ですよね。脊髄を残せば調整だけでなく手術だってかなり易しくなるのではないですか?手術手順を見ました。次のステップでは、超音波ギロチンで首を切断する事になっていますよね。どうしてあんな怖い手術方法を提案なさったのです?。」

スージー:「もちろん脊髄を残すことだって十分に検討したわ。脊髄が残っていると、元々かさばる生命維持装置がさらに大きくなるの。大きくなると耐衝撃性や耐真空性を保つのに必要な重量が著しく増えるのよ。既に300`を超える予定の体重がさらに重くなるのは困るからね。おまけに脊髄があると生命維持装置が頭部に収まりきれなくなるのよ。ボディーから首を外せない構造になるのは不便だし、胸部に武装が搭載出来ないわ。さらに脊髄の分だけ貴重な補給物資である血液の消費量も増えてしまうの。献血してくれる50人の仲間にかかる負担がきつくなるのもまずいのよ。むしろ、延髄や小脳も除去したいくらいなんだけど脳底部は手術のリスクが大きくてね。逆に脊髄を残すなら繋がったまま出すために体をばらばらに解体しなければならないわ。手術時間が長くなると、その間に脳が乾燥するせいでリスクが大きくなるのよ。首の切断なら時間がかからないし、狭い脊髄の断端を保護するのは難しくないからね。大きい血管さえ先に人工心肺に繋いでおけば死ぬ心配がないから怖くはないわ」

衛生兵:「なるほど。そこまでは考えつきませんでした」

スージー:「一通りデータが集まったら実ボディとの連動試験になるわ。今よりさらに沢山の汗をかくことになるから宜しく」


(在N共和国帝国大使館 地下室)

真理亜:「出張裁判の段取りが出来たわ。検事は1等書記官、大使が弁護人ね」

マサ:「私はまた証人ですか?。今度は年齢ばらさないで欲しいなあ」

真理亜:「証人は、私がなるわ。藻前は陛下に体を明け渡すことになるからね」

マサ:「へ?。リモート用のボディなら1体無傷で残っているんじゃ?」

真理亜:「あんな安っぽいダッチアンドロイドじゃあ陛下の体面が保てないわ。藻前の体なら外交仕様で金がかかった造りになっているから使えるでしょ。藻前はダッチの体を制御して法廷警護を務めること。良いわね」

マサ:「すると、私の口から人権削除刑を言い渡す事になるんですね。ああ、恐ろしや。キャロルの恨みが私に降りかかるのか。嫌だなあ」

真理亜:「つべこべ言わずにリモート受け入れプロトコル起動にかかりなさい。それから、皇族用の礼服がないから、せめて最上等のドレスに着替えるのよ。急ぎなさい。陛下は忙しいんだから待たせるんじゃないわよ」

マサ:「はああ。スパイ捕まえるのは良いけど、毎度痛い目に遭ってるなあ」


(会議室)

皇帝・マサ:「開廷します。代用検事、起訴状を朗読して下さい」

1等書記官:「えー、初めに。当職は経済特区高等文官試験合格者です。よって代用検事資格を有します。でわ、起訴状、...」

キャロル:「ちょっとぉ、なんでマサが裁判長なのよ。当事者でしょ。これで公正な裁判なんかできっこないじゃないの」

皇帝・マサ:「不規則発言はやめなさい。私は皇帝知子1世です」

マサ・ダッチアンドロイド:「マサはこっちですよ、キャロル先生。今は皇帝陛下に体を明け渡してこっちのボディを制御してるんです。サイボーグはリモートリンクで体の貸し借りが簡単に出来るんですよ」

皇帝・マサ:「代用検事、続けなさい」

1等書記官:「被告人、自称キャロル、職業、自称国際学校教員、年齢不詳。住所は不明ですが仮の居所がN共和国、国際学校教職員寮となっております。右の者は、本日未明、帝国在N共和国大使館において、以下の不法行為を働いた。
その1、塀を乗り越えるという明確な悪意に基づく方法による不法侵入
その2、爆裂弾を発射可能な重火器の所持、
その3、窓と天井に関する現住建造物損壊
その4、煙幕弾について爆発物不法所持および使用
その5,誘拐未遂
以上につき、現行犯逮捕されております。
また、現場において帝国武官の正当防衛射撃により死亡した共犯者の以下の行為、
その6、爆裂弾を発射可能な重火器の所持、使用
その7、傷害、殺人未遂
さらに、逃亡中のため起訴不能な共犯者による以下の行為
その8、確定殺意を有する狙撃による殺人未遂及び傷害
に関して、共謀共同正犯が成立するものと推認されます。
うち、その1は治外法権区域に対するものなので不法越境が同時に成立します。よって、勅令・特定技術開示規制令による極刑適用の余地があります。このため、最高法廷に対し一括して起訴いたします」

皇帝・マサ:「被告人、罪状認否をしなさい」

キャロル:「諜報戦に合法も非合法もないわよ。私は殺人許可証持ってるんだ」

皇帝・マサ:「要するに犯行事実を認めるわけですね。弁護人、意見を」

大使:「初めに。当職は経済特区高等文官試験合格者で、代用弁護人資格を有します。被告人は、投降して逮捕されており、犯行事実も素直に認めています。よって、証人・証拠審理の必要も無く、裁判の迅速化に協力しております。寛大な判決を受ける余地があろうかと思料いたします」

1等書記官:「意見。被告人らの重火器使用は、宣戦布告無き戦争行為です。国際法に照らせば戦争犯罪に相当し、捕虜の扱いに関する権利は認められません。特に、その8については無警告で重火器により首を撃ち抜くという残虐行為です。被害者がサイボーグのリモート体であった偶然により殺人は避けられました。しかし、被害者は即死に等しい衝撃により重い精神障害に苦しんでおります。このように犯情が芳しくないことから、寛大な処置は不要であります」

皇帝・マサ:「量刑算定は通常の基準とします。代用検察官、求刑を」

1等書記官:「その1について禁固5年と人権削除刑を重ねて求めます。その2からその8について、合計禁固70年を求めます。被告人自ら諜報戦を主張したので、逃亡予防緊急措置の要件を満たします」

皇帝・マサ:「判決。主文、被告人を人権削除刑および禁固75年に処する。人権削除刑の執行に伴い、禁固刑の執行を停止する。逃亡予防緊急措置は即時執行を認める。但し、執行方法は特例とする。現在の被告人所在地に法定処刑室がないため、大使館医務室にて代用する。執行施設の制約により、執行は経済特区大使館付き医官に外部委託する。執行監督官には、武官・真理亜、武官・マサを指名する。以上。閉廷します。でわ、皆さん、後始末は宜しく。リモートリンク解除」

戻ったマサ:「ああ良かった。今回はスプラッタ免除だわ」

真理亜:「ちゃんと聞いていたの?。執行監督官に指名されたわよ」

マサ:「設備の都合で手足切断は医官がやって、仕上がりだけ見るんでしょ」

真理亜:「バカ。非人が暴れて医官に危害加えたらどうするの」

マサ:「えーっ。立ち会うんですかぁ」

真理亜:「当たり前でしょ。さあ医務室に連行するわよ」

キャロル:「て、手足切断?!。な、何をする気!」

真理亜:「ああ、陛下は説明を省略してたわね。今から逃亡予防緊急措置だ。即ち、絶対逃げられないように藻前の手足を付け根から取り外すんだ。人権削除刑の本執行は本国でしか実施できないから、その状態で移送する。手足が無いとトランクに収容しやすくなって、好都合なんだな。本国に着いたら、人権のない実験動物として飼われることになる。藻前の使い道はもう決まっていてね。非人間型サイボーグになるんだよ。ほら、この資料の第1部。こいつに脳移植されて、惑星開発施設残置型制御装置の試作品になるのさ」

キャロル:「ひっ、い、厭ぁぁぁあああぁぁぁあああ」

マサ:「先生。一つ慰めを言うとですね。本来なら手足切断は無麻酔です。でも、ここの医官じゃ麻酔しないとやれないでしょうから、少し楽ですよ」

真理亜:「その通り。藻前は運がいいほうなんだよね。さあ行こうか」


(北米連 国防総省秘密研究施設内格納庫)

技師:「一歩ずつ踏みしめるように前に進んで下さい」

スージー:「10歩で良い?。はい、1,2...うん良さそうね」

技師:「右に90度。そのまま進んで、...あ、こっち向かずに」

スージー:「あ、ご免なさい。つい見ちゃうな、目をつぶって...」

ビル:「おっと。ぶつからないでくれ」

スージー:「あ、失礼。どう、うまく歩けてる?」

ビル:「大きいから同じかどうかわかりにくいが、良さそうだな」

技師:「軽くかがんでジャンプしてみて。結構です。良いですね。これなら、人間らしい動きと言っていいですよ」

スージー:「うーん。足の裏の感覚がいまいち判らないのよ。手でものを掴むときの感覚も本当にこれで合っているか自信がないわ」

技師:「そうですか。信号モニター上では合っていそうなんですが」

スージー:「リモートの感覚と体の感覚が重なって紛らわしいのよ。うーん、これじゃ不安だわ。手足を切断して貰ったほうが良いかしらね」

ビル:「おい、何を言い出すんだ。何もそこまでしなくても」

スージー:「だって手足の微妙な感覚が正確じゃないとあとで困るでしょ。宇宙で機材のトラブルにあったときなんか素手の感覚が必要よ。感覚信号が重複している今の状態でその微調整は難しいと思うのよ。技師さん、もう、運動の等価性チェックは十分かしら?」

技師:「99%は。ええ、あと1時間付き合っていただければ確実です」

スージー:「衛生兵さん、手術スタッフに招集をかけて下さい。できれば、2時間後に四肢切断手術をお願いしたいということで。それから、脳摘出までの間は介護が大変になるけどよろしくお願いね」

ビル:「おい、本気か?」

技師:「仰ることはごもっともですが、もう少し調整してからでは?。」

スージー:「ビル、不安なら私がやってみて成功してからでもいいのよ」

ビル:「悪いがそうさせて貰う。介護を受ける心構えは、まだダメだ」

衛生兵:「本当に宜しいのでしょうか?」

技師:「全てこの人達の意志に沿うように指示されている。構わん」

スージー:「頼むわ。じゃあ技師さん、1時間集中してやりましょう」


(北米連 国防総省秘密研究施設内手術室)

脳外科医:「急だったので整形の専門家でなくて済みません。ここの施設で手足の切断は想定していなかったものですから。それで頭蓋骨なら自信があるのですが、手足は骨髄断面管理が心配です。できれば、関節での離断で済ませたいのですが宜しいですか?」

スージー:「思いつきで無理をお願いして済みません。中途半端に手足が残っているとテストがしづらくなります。ですから、切断箇所は肩関節と股関節の離断でお願いします」

脳外科医:「承知しました。ん、おい、お前顔が赤いぞ。まさか、今度はダルマッ娘フェチだと言い出すんじゃないだろうな」

衛生兵:「お恥ずかしいですが、かなりその気があります」

スージー:「脇と股間の剃毛から作業の連続だったからね。切断の話をしてしまったので、想像して萌えちゃっていたのね。しっかり射精してすっきりしてきたら?」

脳外科医:「部分麻酔は一人で出来るから、やってこい」

衛生兵:「はっ。すぐ戻ります」

脳外科医:「注射打ちます。チクッとしますがすぐ治まりますよ。ふう、しかし、いまさらながら貴女は思いきったことをしますな」

スージー:「間もなく用済みの体です。新しい体の方が大事でしょう」

脳外科医:「その割り切りは凄いですよ」

衛生兵:「戻りました」

脳外科医:「よし、始めるぞ。右足からだ。電メス」


(翌日、北米連 国防総省秘密研究施設内格納庫)

ビル:「スージー!。昨日切ったばかりでもう始めるのか。大丈夫か?」

スージー:「手足の感覚を忘れない内に続けたほうが良いからね。台車に乗ってるだけだから楽勝だわ。衛生兵さん、もうチョイ前にやって。技師さん、ボディ起動して下さい。よし、視覚見えた。手も動くね。周囲を見回して...安全ね。動かすわよ。お、快調快調」

技師:「感覚の強度はどうですか?」

スージー:「結構いけてるかな。条件変えて足裏の感触を見たいわ。格納庫から出て良いですか?。」

技師:「扉開けます。少々お待ち下さい。...どうぞ」

衛生兵:「追いかけなくても良いんですか?」

スージー:「あっちの視覚で十分よ。目隠しつけて下さいな。ありがと。よし、前進。うん、地面の凹凸は一応判るか。技師さん感度5%上げて。うん、この踏みごたえなら、いいかな。ちょっと走ります」

技師:「走る姿勢は見違えるくらい良くなっています。これは凄い。しかしこれだけ走るとアナルの排気ガスが目立つなあ。気の毒に」

スージー:「はは、地上だけの我慢だからね。速度上げますよ」

技師:「2`以内で戻って下さい。無線の到達が心配です。おおすごい。時速50`出ていますね。うまく止まれますか?」

スージー:「やってみるわ。う、おっとっと。大丈夫だわ。慣れれば、これが普通の歩行感覚に出来そうよ。帰りますね」

技師:「見事な走行でした」

スージー:「次は手の感覚ね。技師さん、体格に合うボールあるかな」

技師:「用意させます。今日は、格納庫の物品で試して下さい」

スージー:「いいわよ。ビル、うまく行ったわよ。あなたはどうする?」

ビル:「うん。手足切断の必要性は解った。ただなあ...」

スージー:「どうしたのよ」

ビル:「笑わないでくれ。脳摘出前に最後の自慰をする気だったんだ」

スージー:「そんなこと!。看護師に手コキを頼めばいいでしょ。もし断られたら、私がまだ残っている口でやってあげるわよ」

ビル:「わかった。看護師に頼むよ。介護人憑きのフェラじゃなあ」

衛生兵:「必要なら、私は黒子に徹してお仕えします」


(北米連 国防総省秘密研究施設内手術室)

脳外科医:「いよいよ最終段階ですね」

スージー:「首チョンパよろしく。思い切ってばっさりやって下さい。大変な手術ですけど、先生の体調はどうですか?」

脳外科医:「はは。先に言われちゃいました。万全です。お任せ下さい」

スージー:「衛生兵さん。さんざん無理なお願い聞いてくれてありがとう」

衛生兵:「お手伝いできて良かったです。成功を祈ります」

脳外科医:「手順 を確認します。現在step.2の初期状態です。最初に首の血管を人工心肺に繋ぎ換えます。これで脳血流を確保し続けます。次に、首を切断し脊髄断端を処理します。この段階までは、ご要望通り覚醒下で行います。宜しいですね」

スージー:「無理言って済みません。自分の生首をその場で見てみたくて」

脳外科医:「首を切断すると口が利けないので感想は後で言って下さい」

スージー:「満足したらウィンクでお知らせしますわ」

脳外科医:「その先の顔面と後頭部の解体は神経が多いので全麻に移行します。解体作業が順調ならそこから3時間ほどで生命維持装置に収容されます。生命維持装置が起動すれば30分ほどで覚醒できる予定です。そこまでの間の出来事は後ほど映像でご確認下さい。今回も除去した各部位は冷凍保存されますのでご了承下さい」

スージー:「承知しております」

脳外科医:「では、首に麻酔打ちます。一瞬チクッとしますよ。あ、おいお前、今度は生首フェチだと言うんなら、すぐ言え」

衛生兵:「違いますよ。さすがに生首は圏外です」

スージー:「ははは、3連勝は無理だったようね」

脳外科医:「切開始めます。電メス」

衛生兵:「はい。極性、電圧間違いありません」

脳外科医:「鉗子。よしここだ。人工心肺良いか?」

衛生兵:「起動済みです。管どうぞ」

脳外科医:「刺し込むぞ、それっ。保護管よこせ」

衛生兵:「はい。次、固定器ですね」

脳外科医:「そうだ。うん、よし。これで脳血流は安心だな」

衛生兵:「超音波ギロチンを設置します」

脳外科医:「髄液流失を最小にするため超音波ギロチンを使います。位置合わせさえ出来てしまえば、首の切断は一瞬で終わります。以後は口が利けなくなるので言いたいことがあったら今の内に」

スージー:「頑張って下さい。さあどうぞ」

衛生兵:「セットしました。位置合わせ完了」

脳外科医:「脊髄断端保護材をよこしておけ。じゃあ、行きますよ。1、2の3、よし切れたぞ。頭少し上に曳いてくれ。急げ。よし保護材、ここだ。むん。ふう、髄液流失は最小に出来ました」

スージー:「...(死なないとわかっていても、さすがに怖かったわ。体に神経が繋がってたら最後の失禁をしてしまうところだったわね)」

脳外科医:「冷凍作業班を入れろ。胴の保存急げ」

衛生兵:「冷凍作業班、入ってくれ」

作業員:「うっ...」

脳外科医:「早く持っていけ。ここで吐くんじゃないぞ」

作業員:「もごもご。(胴抱えてダッシュ)...おえぇぇぇ」

脳外科医:「あいつらにはきつかったな。首断面保護シール。よし、これでひとまず安全確保だ。スージーさん、大丈夫ですか?良かったら舌出してみてください」

スージー:「(生きてるわよ。)べろべろばあ」

脳外科医:「頭部カバーの金具で首をつるして縦にします。できたら鏡を出しますから鑑賞どうぞ。おい、つり上げ具だ」

衛生兵:「はい。フックこれです。鏡取ってきます」

スージー:「(さすがにグロいわね。胃が無くて良かったわ。でも、こうしてみると面白いわね。ちゃんと生きて考えてる。人間なんて脳だけあれば十分ってことよね)」

脳外科医:「おい、獄門台の用意だ。上下で支えながら解体します。残りの頭蓋骨を分割して除去しながらカバーを付けていきます。そろそろ全麻に切り替えますが宜しいですね。スージーさん、よければ、ウィンクで合図して下さい」

スージー:「(あ、合図しなくちゃ)ウィンクウィンク」

脳外科医:「良いようですな。人工心肺に全麻剤を入れろ。よし、効いてきたな。獄門台を調整して首の底面をきちんと支えろ。ロック良いな?。うむ。顔面から解体にかかるぞ。電メス」


(ビルの居室)

脳外科医:「スージーさんの脳摘出は無事終わりました。10分ほどで覚醒する予定です。お会いになりますか」

ビル:「会っておこうか。感想を聞くのはちと怖いがな」

脳外科医:「看護師、お連れしろ」


(生命維持装置保管室)

スージー:「ん、ああ、無事終わったようね。あら、ビル!」

ビル:「もう感覚器官と音声は繋がっているんだな」

スージー:「麻酔が切れる前にやってくれたようね」

ビル:「首チョンパは、どんな感じだった?」

スージー:「怖いのは一瞬ね。終わってみればあっけなかったわ」

ビル:「そうか。一瞬とはいえ、トラウマになったら厭だな。俺は全麻にして貰うよ。お前のボディ搭載はすぐ出来そうか?」

スージー:「体の感覚がないのは気味悪いから早くして欲しいわね。一通り点検が済めばやってくれる筈なんだけどね。私の体が無事動いたら、あなたの番よ。最後の手コキは頼めたの?」

ビル:「恥ずかしくてまだ言えていない。こういうことは苦手でな。それもだが、ダルマ状態での調整作業が辛くなってきた。お前と違って、台車に立てられたとき股間が痛くてな」

スージー:「男は大変ねえ。早く終わって、無くなった方が楽よ」


(北米連 南部国境砂漠地帯)

ビル:「体の慣らしを兼ねて国境警備か。ここでは様々な事が起こる。動きの確認にはもってこいだな」

スージー:「あ、あそこ不法越境者よ。走って反対側に回り込むわ」

ビル:「ちっ、手術が数日早かったせいか、いつも先を越されるな。手足切断をためらったのが悔やまれる。まあいい。今に追いつくぞ」

スージー:「愛国民兵会だ。そこの越境者、止まれ。動くな。逃げようとしたら撃つぞ。あ、待てっ!」

不法越境者:「うわあ。何だあれは。ロボットが出たあ。逃げろお。ひいい、尻から煙を吐きながら追って来るぞ」

スージー:「くっ。素足感覚でも、この体重じゃ砂に足を取られる。ビル、そっちに逃げたわ。取り押さえて」

ビル:「ふん。チャンスだ。こらあ、薄汚いパニック人ども。止まれ」

不法越境者:「あわわわ。前にももう1体立ちはだかっている。くそお。こうなりゃ破れかぶれだ、やってやる。これでも食らえ」

ビル:「何をする。こいつら。あっ、やっちまった。潰しちまったぞ」

スージー:「捕まえた?。あら、ゴキブリみたいに潰れちゃったわね」

ビル:「バットで殴りかかってきたんで、つい昔のつもりで...。これくらいのことで、3人も殺す必要なんか無かったのに。薄汚いパニック人にだって、家族もあるだろう。なんてこった」

スージー:「バットで殴りかかってきたなら完全な正当防衛だわ。我々には視覚記録ディスクがあるから、訴えられても勝てるわよ」

ビル:「バットぐらいでは、こっちはかすり傷にもならないんだ。こんな、一方的な殺戮が正当防衛?。理屈は解るが割り切れん」

スージー:「素直に止まらなかったせいよ。気にすること無いわ」

ビル:「ろくに訓練もせず、国境警備なんてするんじゃなかった」

スージー:「あんな犯罪者のことなんか気にしなくて良いわよ。次からは素手でやらずに、機銃で撃つことにしましょうね。さあ、牧場に帰りましょう。仲間が待っているわ」


(愛国民兵会会長の牧場)

愛国民兵会会長:「献血協力者諸君。私の牧場へようこそ。今日は諸君にしっかり血を増やして頑張って貰うため、ご招待した。しっかり食って、このビルとスージーを支えてやってくれ給え」

会員達:「うおおお。やったるぞー」

スージー:「私たちの生命維持はあなた方が頼りですので宜しくね。ビル、あなたも挨拶しなくちゃ、ほら」

ビル:「ああ...」

スージー:「どうしたの?。昼間のこと、まだ気にしているの?あの犯罪者たちは自業自得なのよ。忘れましょう」

愛国民兵会会長:「ん、ビル元気がないようだな。ああ、すまんな。食事の出来なくなったお前達の前でパーティなど、目の毒だったな」

スージー:「目の前の食べ物のことなら、遠慮は要りませんよ。みんな、私たちのために無理をして栄養をとる必要があるんですから。 ビルが悩んでいるのはそのことではなくて、昼間...」

愛国民兵会会長:「うむ。そうか。ビルは正義感が強いからな。わかった。明日、知り合いの精神科医に診に来て貰おう。手遅れになって本物の鬱になったら大変だからな。お前はいいか?念のため、精神安定剤を貰っておいた方が良くないか」

スージー:「私はこの体になってからむしろ頭が冴えてきていますよ。それに、この体では薬の適正使用量を見積もるのが難しいんです。よほどの問題がなければ薬に頼らない方が良いと思います」


(納屋)

スペルマン:「よお、リンダ、これからお前はどうする気だ?お前がビルに片思いだったのは俺も気づいていたんだぜ。だが、ビルはお前に見向きもせず、性器のない体になっちまったな。俺が代わりになってやっても良いんだぜ」

リンダ:「あんたじゃダメよ。螺子の方がよっぽどましだわ」

スペルマン:「そんなに冷たくするなよ。よお」

リンダ:「なによ、この酔っぱらい。あ、放して、いや...」

ビル:「おい。そこで何をしているんだ」

スペルマン:「お前が冷たいから、代わりにリンダを慰めるんだよ」

リンダ:「助けて、いや...」

ビル:「やめろ、このぉ、あっ...」

スージー:「どうしたのよ?。何の騒ぎなの?。あっ」

リンダ:「私をレイプしようとしたスペルマンを止めようとして、ビルが...」

ビル:「俺はもうお終いだ。とうとう仲間まで...。」

スージー:「スペルマンが悪いのよ」

ビル:「そうじゃない。俺は、俺が許せない」

スージー:「どこに行くつもり!。あ、そっちは武器庫。ビル、やめなさい」

ビル:「スージー、世話になったな。一人で宇宙に行かせることになってすまん」

スージー:「どうして。やめて。正当防衛なのよ。やめて、お願い...」

ビル:「離れろ。(ボムッ)」

愛国民兵会会長:「爆発音がしたぞ。何事だ!?」

スージー:「ビルが、スペルマンを殺してバズーカで自殺...」

愛国民兵会会長:「なんということだ。何故こんな事に」


(愛国民兵会 砂漠の格納庫)

愛国民兵会会長:「スージー、たった一人でこんなところに住ませて悪いな。全国の会員から続々と寄付が集まっているからもう少しの我慢だぞ。お前が快適に暮らせるような家を必ず建てるから、任せておいてくれ」

スージー:「私はここでも十分快適ですよ」

愛国民兵会会長:「そんなことを言うな。ビル亡きいま、お前一人が頼りだ。全国の会員達も気持ちは一つだ。出来るだけのことをさせてくれ」

スージー:「あんまりプレッシャーをかけないで下さいね。私はただ、宇宙に出たいという自分の目的のためにこの仕事を請けたのです。それ以上でも、それ以下でも無いんですよ。仕事にベストは尽くします。でも、小娘帝国に対抗できるかは、やってみなければ判りません。用意していただいた武装は質・量とも十分だと思います。しかし相手は大勢のサイボーグが居るのです。未知の技術も持っています」

愛国民兵会会長:「お前ならやれるさ。敵は遠距離探査艦だ。少々優れた技術力があっても、十分な武器を積む余裕はないだろう。こっちは、武装と加速力に特化した戦闘専用艦なんだからな」

スージー:「帰ってくる探査船を惑星間で捕捉するのに十分な加速力はあります。ただ、相手の艦の装甲強度など全く判らないので止められるかどうかですね。捕まえて臨検に乗り込めれば、体の武装ではこちらの優位が確実ですわ。連中の体格は人間と変わらないから、重火器の搭載は絶対に不可能ですよ。胸部の重火器で威嚇すれば、やつらは盗掘品を差し出すでしょう」

リンダ:「会長、スージーさん、ちょっと、いいですか?」

愛国民兵会会長:「おお、リンダ。先日は大変だったな。どうだ。元気出たか?」

リンダ:「あの。やっぱりスージーさん一人では危険じゃないですか?」

スージー:「臨検に乗り込むときに船を留守にするのは多少気になるわね。でも大丈夫よ。リモート操作が出来るようにして貰ったからね」

リンダ:「無線が妨害される恐れだってありますよね」

スージー:「そこまで気にしていたら何もできないわ。ビルは帰ってこないのよ」

リンダ:「私がビルの代わりに宇宙に行きます」

スージー:「何を言い出すの!。サイボーグなんて簡単になれるものじゃないのよ。私はね、宇宙飛行士の夢に再挑戦するという自己実現の目標があるから出来たの。誰かのために、というだけで一生この体で暮らすなんて耐えられないわ。ビルのことは忘れて、自分の生きる目標をしっかり持ちなさい」

愛国民兵会会長:「そもそも献血者が二人足りないんだ。不可能だよ」

リンダ:「双子の弟が間もなく18歳になります。HLAは合いますよ。もう弟たちとは話し合いました。献血に協力してくれると言っています」

スージー:「これをご覧なさい。こんな恐ろしい手術に、貴女みたいな普通の娘が耐えられるかしら」

リンダ:「うっ」

スージー:「それを良く読んで、頭を冷やしてゆっくり考え直すのよ。私が1回目の作戦から無事に帰ったときにまだ同じ考えなら、もう一度話を聞いてあげるわ」


(北米連 砂漠の民間宇宙港)

スージー:「それでは行ってきます」

愛国民兵会会長:「頼んだぞ。儂もレッドナイトで発射高度まで送っていく。宇宙局が縄張り根性で民間有人飛行だからと発射場を使わせてくれないのは腹が立ったがな。しかし、途中まででも一緒にいけるという点ではこっちの方が良いのかもしれんな」

スージー:「武装ユニットや長距離エンジンの打ち上げは実績もなく結構危ないんです。上で渡してくれる方が良いですよ。このスペースシェリフ・ワンで上がる方が安全です」

民間宇宙港管制官:「レッド・ナイト離陸どうぞ」

会員パイロット:「レッドナイト、テイクオフ...高度20`発射地点まで3分」

スージー:「スペースシェリフ・ワン発進準備よし。じゃ、見送りどうも。行きます」

会員パイロット:「無事分離しました」

スージー:「メインエンジン、サイドブースター点火。よし、加速ついてるな。上昇開始、高度30`、50`、80`、120`、とうとう宇宙に出たわ。私はカモメ、なーんちゃって。さて、武装ユニット引継地点確認ね。よし、ここ」

愛国民兵会会長:「わがサイボーグの能力は十分だな。凄い勢いで上がっていった。儂らが着陸する頃にはもう軌道に乗っているって訳か」

会員パイロット:「ちょっと羨ましいですね。私もHLAが合えばなあ」

愛国民兵会会長:「お前にはこれからもスージーの送迎役を続けて貰うからな。羨んでいないでしっかり役目を果たすんだぞ。いいな」


(高度200`、衛星軌道)

スージー:「こちらスペースシェリフ・ワン、宇宙局へ。引き渡し物件を捕捉した」

宇宙局管制官:「コントロール渡します。それから、規則ですので念書に電子サインを」

スージー:「はいはい、いまさら判りきっているのにね。えー、宇宙局は民間人の宇宙飛行について一切の責任を持たない。全て自己責任である。機材の性能は保障しない。不具合によりいかなる損害を受けても宇宙局に責任はない。武器類の使用は、正当防衛の場合を除き、刑法に則り犯罪として処罰される。ふははは、禿笑。この体で入れる刑務所なんて有ったら一度入ってみたいものだわ。正当防衛による戦闘行為であっても、当局は民間の紛争に一切介入しない。etc...。はいはい、結構よ。じゃあこれで良いわね。ドッキング始めるわよ」

宇宙局管制官:「どうも。個人的心情としては精一杯応援しますので、頑張って下さい」

スージー:「口先だけでも嬉しいわ。ありがと。よし、サイドブースター投棄。OK。武装ユニット、相対速度1m/s、減速、ほい捕まえた。次、長距離エンジンね。キタキタ。よーし、合体完了。メインコンピューター起動。標的の推定進路算定...。即出た。さすが腐っても宇宙局公式品ね。さて、盗人小娘どもにお灸を据えてやるかな」


(在N共和国帝国大使館)

真理亜:「今日の午後、非人の引き取りが来るわよ。移送準備をしておいてね」

マサ:「ずいぶん待たされましたね。折角の女子高生生活が毎日介護で台無しでしたよ」

真理亜:「よく言うよ。床ずれ放置でひいひい言わせておいて。まあ非人だから良いが」

マサ:「医官から告げ口ですか。あんなの治療してやる義務なんて無いのになあ。特区の医師は通常なら非人なんかに接する機会もないし、条件反射みたいなものかな。あ、ところでさっき、ハルから北米連のらしき大型衛星出現の報告がありましたね」

真理亜:「低軌道で2基の大型衛星に有人機らしいやつが合体したって件ね。新たな火星有人探査にしては小さいし、月に行くには大きすぎるし謎よねえ。とりあえず、黒塗り迎撃艇を用意して密かに監視するよう命じておいたわ」

マサ:「あと2ヶ月で、”みくら”が帰還しますよね。気になりませんか?」

真理亜:「月で満漢がやられたような、北米宇宙局による妨害工作だというの?あの時とは情勢が違うのよ。世界が注目しているから秘密になんか出来ないでしょ。地上で暗躍する工作員のように一般人に紛れてこそこそやる訳じゃないのよ。そもそも月と違って惑星間空間では隠れる場所なんかどこにもないじゃないの。宣戦布告も無しに政府機関がそんなことを出来るはずが無いわ」

マサ:「厭な悪寒がするんです。キャロルが何か知らないか締め上げてみましょう」


(地下室)

真理亜:「おい非人。床ずれは直ったか?」

キャロル:「先生をこんな体にしておいて、何をいまさら」

マサ:「貴女は無断欠勤で免職になって、代わりに新しい担任が着任しましたよ。もう先生じゃなくて、元工作員の非人です。床ずれの治療はお情けに過ぎません」

真理亜:「藻前の返事次第では、もう少しだけ情け深くなってやっても良いよ。今日、早朝に、北米宇宙局が大型宇宙船を打ち上げた。何か知っているか?」

キャロル:「ああ、たぶんアレね。別に秘密ではないわ。政府の事業でもないし」

真理亜:「知っているのか。宇宙局でないところが大型宇宙船を上げるのか?」

キャロル:「おそらくその船は愛国民兵会の民間保安官が乗った戦闘艦よ。藻前たちの艦が冥王星で盗掘した物資を奪回しに行くんだわ」

真理亜:「愛国民兵会?。何だそりゃ?。それに盗掘とはどういう意味だ?」

キャロル:「愛国民兵会は主に国境警備のボランティアをやってるNGOよ。まあ、大がかりな自警団みたいなものね。ついでに泥棒退治だってやるわ。宇宙でこそ泥を退治するためだとサイボーグ保安官の志願者を集めていたわね。我が国は領有権を主張しなくても冥王星発見者の所有権は認めているからね。つまり、お前たちが掘り出した氷は盗掘品で民間が奪回するのは自由ってこと。愛国民兵会は気の荒い連中よ。正当防衛名目で不法越境者を撃ち殺しているわ。お前たちの探検船がどんな目に遭うか、楽しみねえ。けけけけけ、いい気味だ」

真理亜:「もういい。これでこいつに用はない。マサ、移送準備よ。トランクをこっちに寄越しなさい。手足のチルドケースも点検しておくのよ。それから、リエに連絡してその船を迎撃艇3隻でで追跡させなさい。先に撃ってきたら粘着焼夷弾頭による反撃を許可するとも言っておいて。相手はサイボーグらしいから油断しないようにとも言うのよ」

キャロル:「ちゃんと答えてあげたのに、トランク詰め?。酷いなあ」

真理亜:「うるさい!。最後の嫌みで帳消しだ。こうしてやる」

キャロル:「痛いっ。わ、狭いよお、暗いよお。人でなしぃぃ」


(静止軌道工場衛星 軌道警備部隊司令部)

リエ:「真理亜侯からの連絡により、監視中の宇宙船は民兵の戦闘艦と判明した。マツ、ミツ、ササの3名は迎撃艇で追跡、攻撃の兆しがあれば反撃しなさい。なお、相手は愛国民兵会の民間宇宙保安官と称する戦闘サイボーグらしい。帰還中の”みくら”を襲う恐れがあるから、地球軌道離脱前に捕捉すること。惑星間に行かれたら追いきれないから、待機軌道上でうまく挑発するのよ」

マツ:「挑発に乗って撃ってこなかったら攻撃できないんですか?」

ミツ:「無視して発進されてしまったらどうしますか?」

リエ:「戦争ではないから、正規軍である我々は先制攻撃が出来ないの。無視されたらお手上げね。そのために殿下には無線で警報を出しておいたわ」

ササ:「そうですか。難しい任務ですね」

リエ:「最悪でもそいつの発進時に正確な速度と方向を殿下に知らせたいわ。監視に付いているハルの黒塗り迎撃艇が燃料切れそうだから、急いで行って」


(北米連方式による手術の妄想で迷走したり、男のサイボーグは必ず失敗する原則を守ったりで、出撃に手間取ってしまいました。次は引き続き(27)民間宇宙保安官(後編)の予定。)

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