−−(30)再建計画−−
(新皇帝即位式)
侍従長:「新皇帝陛下即位宣言の儀ぃー」
新皇帝・朝子8世:「即位宣言。私、朝子8世は初代皇帝が発布した17条の憲法に則って治世を全うすることを誓います。このたびの紛争では、離宮地区の荒廃、宇宙開発の遅延など多大なコストを強いられました。損失回復と危機の再来に備えるべく、皇室並びに八公家の者は臣民の先頭に立って働いて貰います。シビリアン出身の高官諸氏も臣民の代表者として朝廷を支えてくれるよう希望します。みな、多忙を極めることになるので今日は簡単に済ませます。以上」
侍従長:「続きまして、新皇太子認証の儀ぃー」
元老院議長・さやか(白の公家当主):「皇室典範に基づき認証します。過去五年間の次期皇太子選挙結果累積ポイント首位者は、朝子10世殿下です。選挙結果に対する異議申し立てはサイトは本日午前0時に閉鎖されました。皇位継承有資格者による異議申し立ては1件だけございました。元老院にて慎重なる審議の結果、当該異議は全会一致で無効と判定されました。よって、元老院は朝子10世殿下を新皇太子として認め、就任を要請します」
朝子10世:「新皇太子に選定されました朝子10世です。私としては、中央での政務より艦長としての長期任務に適性があると思い異議を申し立てました。しかし、残念ながら元老院の全会一致をもって却下されてしまいました。私ども皇族は、皇室典範の定める義務には従わなければなりません。仕方ないので、1日も早く私の遠出が再開できますよう、帝国の基盤強化に努めさせていただきます。前陛下の遺言に従って地球外素体生産地を実現すべく、高官の皆さんも一緒に頑張って下さいませ」
参列者一同:「朝子8世陛下万歳!。朝子10世東宮萌えー!」
(その夜、久しぶりにハルの店 )
常連のオサーン:「もう一杯!」
ハル:「はい構えました。クリトリス押して下さい」
常連のオサーン:「ぽちっと。嬉しいねえ、こうしてまたハルちゃんのおしっこ飲めるんだから。心配してたんだよ。最後の戦闘では近くでICBMが自爆したんでしょ。大丈夫だったの?」
ハル:「真空の宇宙空間では爆風被害って少ないから大したこと無いと思ったんですよ。でも、工場衛星の基地で調べたら白血病の疑いありって言われて、緊急に降りることになって」
常連のオサーン:「大変だったね。もう体は良いの?。夜の商売はきついでしょ?」
ハル:「私らは造血ユニットが5組に分かれていて4基は部品センターに預けてるんです。通常でも宇宙に3,4年居た後は、メンテナンスセンターで入れ替えて再生に回すんですよ。今回はその周期が前倒しされただけで済むので、すぐに健康被害が出るわけじゃないんです。ただ、被害を受けた造血ユニットの再生には10年くらいの培養が必要だそうです。だから、こういう事がたび重なると造血ユニットのローテーションが出来なくなります。そうなったら、数年間は航宙士休業って事になっちゃいますね」
常連のオサーン:「なあんだ。そうなったら、このお店がずーっと開店するんだね。ぼくちゃんはその方が嬉しいな」
ハル:「勘弁して下さいよ。こっちはあくまでも副業で、宇宙勤務手当ほどは稼げません。それに、いよいよ困ったら遺伝子組み替え豚が身代わりになって再生してくれますからね。公務での損害なら豚の費用は宙軍持ちですし。あ、いらっしゃいませ...あ、マサさん!」
マサ:「真理亜様も一緒よ。即位式の打ち上げ2次会ってわけね」
ハル:「即位式っていっても、テレビ中継もなく地味ですよね。どんな様子だったんですか?」
マサ:「新皇太子様の選定に実名でイチャモン憑けたっていう勇気のある人が居て驚いたのよ。それがさあ、誰かと思ったら本人だもんなー」
ハル:「へええ、殿下らしいって言う気もしますが、そりゃ無理な話ですよねぇ」
真理亜:「前陛下の遺言に沿って素体生産地として金星を可住化するには氷隕石が沢山要るわ。大きな氷隕石を集めるには冥王星方面との定期便が要るから艦長が足りないのは事実よ。一応、筋は通っているけど、じゃあ代わりに誰が東宮様になるかって言うと答えがないもんね。今まで北米連の言いなりだった産油国が原油を売り渋ってるから暖房用の燃料が高騰したでしょ。西欧連では物価高に対する民衆の不満を逸らすため産油国への侵攻を公言する政治家も増えたわ。もし友好的な産油国が侵攻されたら、従来の非干渉政策を変えざるを得ない場合もあるからね。仮に平穏が続いても離宮地区のジャングル修復に手間がかかるから他の民生事業が絞られるわ。大きな政策変更をまとめるには人気が必要でしょ。氷集めなんか殿下抜きでやるしかないわ」
ハル:「ふーん、私ら軌道警備部隊から冥王星航路に回される可能性も有るんですか?。冥王星となると、行ける船は”みくら”しか無いですよね。同型艦が増備されるんですか?」
真理亜:「人事局から編成案の打診が来たけど、ハルは耐G特性が良好だから当確ね。でも、乗るのは”みくら”型ではないわ。高速連絡艦という新しい艦種に乗ることになるわ。前回の探検でカロンには水資源が豊富にあって融解すればすぐ使えるのが判ったでしょう?つまり、向こうに採水施設を設置すれば推進剤が補給できるから片道分積めば済むわけよ。それで、”みくら”型2番艦用に用意されていた部品を流用した高加速の新型艦が建造中なの。推進剤タンクを減らし原子炉から過熱水を引いて蒸気噴射をする補助推進器を追加したものよ。船体が軽く推力が大きいから満載でもブースター無しで1.5Gの連続加速が出来る予定でね。推進剤消費が激しいから最大加速は片道2時間が限度だけど1時間で秒速55`に達するわ」
ハル:「それは速いですね。だけど体が保つかな。あ、わかった、そのためだったのか!。今回の降下後に受けたメンテナンスでは頭蓋をバラされて脳を裸にして検査されたんですよ。放射線障害の検査にしてはやけに厳重だと思ったら、耐G特性を調べていたのか」
真理亜:「そういうことよ。貴女は脳血管に弱いところが無さそうだってデータが出てるわ。最近降りてきたうちで艦隊勤務ができそうな娘は片っ端から調べられているの。高速化で冥王星まで片道1年で行けるとしても、現地作業と休養も入れたら3年半周期でしょ。最終的には4隻の高速連絡艦と7組の乗員を揃えないと金星冷却化計画に足りないからね」
マサ:「ああ、あのしつこい検査か。海賊退治で頭打った覚えないのになんでかと思ったら」
真理亜:「藻前の軽い脳味噌ならGだってそんなに影響しそうも無いが一応規則だからね」
マサ:「そんな高速艦だと操舵員の確保が一番難しいですよね?」
真理亜:「とりあえず最初だから理美を回して貰えることになりそうよ」
ハル:「お母さんは候補に入ってないんですか?」
真理亜:「冬子は当分の間研究所勤務になるわ。無脊髄型サイボーグの研究が重点課題になってね。例の北米連の自警団が作ったサイボーグの身体制御データから色々解明されたことがあってね。あのデータに詳しくて、自分の体でで一番使いたがっている者が担当すれば使いこなせる鴨って事。これが成功すれば、特例志願兵の3割くらいが身体障害者手帳を廃止できるから財政上大事なのよ。まあ、そういう建前の他に冬子は功績が大きいから家庭生活に配慮したって面もあるけどね」
ハル:「公式に認められない一般シビリアンとの内縁関係を考慮する事なんてアリなんですか?」
真理亜:「人事権を握っているのは宙軍大臣、つまり10世殿下でしょ。裏で少しだけアリだわ」
マサ:「新編成が固まったら宇宙に上がる前に経済特区の料亭で懇親会でもやりましょうよ」
真理亜:「良い心がけよ。どこの国の軍艦でも宴会の音頭取りは副長の最重要任務だからね。ましてや、任務中は飲食ができない我々にとってこういう機会は貴重だから。青の公家が出資したホテルに入居している星雲海ならお任せコースを超特価にできるわよ」
マサ:「へ?。私が副長なんですか?。純正貴族で階級も同じ雀奴少佐が居るのに」
真理亜:「キャサリン事件のせいで藻前がの方が2年先任だからと言うのが建前ね。そして、有能な私の許でなら副長はバカでも務まるが、主任操舵員は違うからと言うのが本音よ」
(経済特区の料亭 星雲海 特等席のメイン・カウンター)
料理長:「真理亜侯、青の公家様にはいつも何かとご支援いただき有り難うございます。今日は貸し切りに出来ると良かったのですが、一人上得意様の先約があって済みません。間を3人分くらいは開けておけますから、ご承知下さい」
真理亜:「いいわよ。こっちこそ騒々しくって済みませんと言っておいて下さいな。なにぶん、私らは外見に似合わず荒くれの船乗り集団ですから、一般の方には迷惑ですしね。ところで、その上得意さんってどんな方ですの?」
料理長:「大東亜国の方です。本業はサイボーグ技術系の科学者なんですけど、出稼ぎですね。なんでも個人で研究所を運営しておられるとかで、その資金稼ぎだそうです。満漢人民共和国がダルマっ子政策を強引に推し進めているので、ここは特需景気でしょう。外科医や義肢装具師が足りないので出稼ぎの外国人までかき集めているじゃないですか。素人同然の未熟外科医でも雇われてるって噂だから、専門家なら相当な高給になりますよね。ここのおまかせコースに組み込まれている松茸カツ丼が、大変お気に入りで頻繁にお見えです」
真理亜:「ふーん、そう言えば整形の資格持ってる貴族でバイトしている娘も増えてるわね。(体内通信)みんな、お楽しみ中に悪いけど、生命維持装置の話は声に出さないでね。相席客が、外国のサイボーグ専門家らしいわ。大東亜人だから工作員ではないと思うけどね。一応、機密漏れにならないようにして頂戴。(/体内通信)ねえ、その方の名前聞いて良い?」
料理長:「酉山様と仰います」
真理亜:「ありがと。ちょっと興味があるからコースが済んだらご挨拶したいわ。食後に何か一杯差し上げておいて下さいな。(論文DB検索...酉山...有ったわ。ふむ、私設サイボーグ研究所主宰...北米大手財団研究所の勧誘を拒否...なかかな骨の有りそうな科学者ね。なるべく味方に引き入れておきたいわね)」
料理長:「かしこまりました。お好みを伺って、お出ししておきます」
マツ:「さすがに公家ご贔屓の料亭ね。初めて見る料理ばっかりだわ」
ミツ:「マサさんも、今やここのオーナー家の一員なんですね。すごいわ」
ササ:「貴族様って、普段はこんな良い物ばっかり食べているんですか。羨ましい」
マサ:「私は入籍してからすぐ任務続きだったから、公家邸にはまだ10日しか帰ってないわ。普段の暮らしと言われても、女子高生の日常しか答えようが無いなあ」
機関長内定者・知子3世大尉:「皇室では日常の食生活ってかなり質素よ。行事にかり出された日は設宴に出ることがが多いから、宴会料理って飽きちゃうでしょ。何も行事がない日くらいは丼物とか麺で軽く済ませたくなるのよ」
ハル:「えーっ、次期かその次の皇太子の噂もある先帝の孫殿下が丼物ですか?。意外な。カツ丼とか親子丼って外国映画のせいか刑事や小役人の残業食ってイメージ強いですよね」
知子3世:「そんな噂は皇族の命名規則を知らない外野のたわごとね。御祖母様は異例よ。私らは、遺伝子パターンの能力系統別に名前が決まるの。知子は技術開発向きなのよ。皇族の主流から外れた歴史の浅い遺伝子型で、本来国家指導者を務める型ではないわ。御祖母様が選ばれた頃は衛星工場拡張期で富国強兵政策の中軸が宇宙工業の確立だったわ。今は軍事バランス綱渡りの時代だから、国家指導者向きの朝子系統が務めるべき時よ」
ハル:「へええ。それなら、新型艦の機関長の方が本業に近いんですね。なるほど」
理美:「丼物と言えばここのコースの仕上げは松茸カツ丼ですね。楽しみだわ」
料理長:「当亭名物の松茸カツ丼でございます。この後はデザートになります。食後にまだ飲まれるようでしたら、軽いおつまみなども見繕うようにいたします」
理美:「うわー、美味しそう。これにありつけただけで来た甲斐があったわ」
料理長:「お好みですか?。2,3人前ならおかわりもお請けしますよ。残業食のイメージを打破すべく研究した自信の品ですので気に入って頂けると嬉しいです」
理美:「こういうの好きなんです。こんな時、壊れないお腹になっていて良かったと思うわ」
ハル:「確かにわざわざ腹部機器を組み替えてきた甲斐がありますね」
酉山博士:「料理長、そろそろ。私もカツ丼を貰おうかな」
料理長:「承知しました。酉山先生もこれがお好きですね」
酉山博士:「ちょっとわけありでね。カツ丼に拘っていると、幸せを呼ぶ気がするのだよ」
料理長:「こちらは、そろそろデザートにいたしますか」
マサ:「デザート兼酒で、ブルーハワイが良いわ」
料理長:「かしこまりました」
真理亜:「(どれ、酉山博士に探りを入れてみようかな。)一寸おじゃまして宜しいかしら?こっちは荒くれの船乗りの宴会だったものですから、騒々しくって済みませんでしたね」
酉山博士:「はあ?。若い女性ばかりの宴会で賑やかなのは結構でしたが、皆さん船員さん?とてもそうは見えませんが???。はっ、もしかして宇宙艦、ということは...」
真理亜:「たぶん、ご想像の通りですわ。私、青の公家・宙軍大佐の真理亜と言います。実家が、このホテルの経営にも少々関わっていますので、料理長とは懇意にしております。それで、酉山先生が経済特区へ出稼ぎに見えたサイボーグの研究者と知って興味を持ちました。公表されている業績によると、先生は独自に全身サイボーグに繋がる技術を開発なさったとか。それ程の方なら、ここで出稼ぎなどなさらずとも、恵まれた環境で研究に打ち込めるのに」
酉山博士:「あなた方の国と違って外国では公然と全身サイボーグの研究なんて難しいですよ。制約が多すぎて個人主宰の研究所で細々とやっています。人間での実績はありません。実は、もう少しで技術が完成って時に、実験に使うはずだった私の娘が亡くなってしまって。自由に飛行機に乗れる体のうちに南の島に行きたいというので妻に連れて行かせたんです。ところが、運悪く帰りがけに飛行機が落ちてしまったのです。遺体は見つかりませんでした。その現場がこの島なのでつい足が向いたんですよ。もちろん資金稼ぎもやっていますけど。研究の方は、その後素体になってくれる人間がなかなか見つからなくて停滞しています。その代わり、私の国は微細加工技術が得意なんで、鳥のサイボーグ化は成功したんですよ。鳥は脳が小さくて小脳や肺のの機能が高度だから、ある面で人間よりずっと難しいんです」
真理亜:「(もしかしたら理美だった可能性もあるわね。交渉材料に使えるかも)ああ、12年前の事故のことですね。お気の毒でした。でも、遺体は出ていないんですね。あのとき、何人かの生存者が帝国本体の施設に運ばれて緊急改造手術で救命されています。基本的に外国人はそういう処置の対象外ですが身元不明で記憶のない人も居たようです。国家機密の問題もあったので、その後外国人だと判っても帰れずにいた可能性があります。あなたが帝国本体の入国許可を得るのは大変困難ですから私が調査して上げましょうか?」
酉山博士:「そんな可能性が!。確かにこの国なら...。調べて下さい。お願いします」
真理亜:「その代わり、私のお願いを聞いて欲しいのですが」
酉山博士:「どういったことでしょう?」
真理亜:「私どもは、あなたのような科学者が大国にスカウトされるのを畏れています。また、小脳や脊髄の機械化といった今後の重点課題に取り組む研究者が不足しています。継続的な資金援助と引き替えにあなたの私設研究所をこの経済特区へ移転して下さい」
酉山博士:「なるほど。たとえ娘が見つからなくても、悪いお話ではないですね。ここでなら、技術力が認められれば、人間の改造手術に関わる機会も得られますよね。援助と引き替えで監視下に置かれるとしても人体改造に理解のない国で働くよりは良い。取引先や研究所に居る部下の都合もあるので即答はしかねますが、検討しますよ」
真理亜:「ご理解頂けて幸いです。それでは御滞在先をお教え願えますか」
酉山博士:「このホテルですよ。出稼ぎ先の契約が2ヶ月残っているので当分動きません」
(北米連 愛国民兵会会長の牧場)
愛国民兵会会長:「お前達の活躍もあって、ようやく牛泥棒が減ってきたな。ヤブーの奴が氏んで、昇格した副大統領は小娘帝国侵攻よりも国民保護を優先している。おかげで長年我々が主張してきたように南部国境のフェンスが整備されて警備も強化された。宇宙局から仕事の依頼が来ているのだが、この調子なら請けても良いと思うがどうだ?」
スージー:「宇宙局からなら、宇宙での仕事ですね?」
愛国民兵会会長:「月面基地へ往復する輸送船の護衛をしてくれと言ってきたのだ。小娘帝国と公式に和平を結ぶ状況ではないが、敵対行動はとりあえず収まっている。それで、月面基地に補給物資を運んでヘリウム3を持ち帰る便が出ることになった。国連事務総長の仲介ということで月への輸送便は妨害しないように話がついたらしいんだ。実質は小娘帝国との関係が良い満漢が裏取引をまとめたのさ。月の裏の開発権と引き替えでな。とはいえ、睨み合いの中での航路再開だから不測の事態に備えて護衛が必要だろう。まだ不安があるからと最初は無人で飛ばすので、もし襲われたら簡単に盗られてしまう。今後は満漢も月に船を出すとなると、そっちと小競り合いになる可能性も心配だ。我が国には宇宙で戦える者などお前達しかいないから、断れば護衛無しになるんだ。それに、スペースシェリフ・ワンなら打ち上げ方法が違うからICBMと誤認されない。つまり、お前達さえ先に手出ししなければ、戦火をあおることはないんだ」
スージー:「私は元々宇宙での仕事がしたかっただけですから、内容は何でも良いです。貨物船の護衛なら民間防衛の領域ですよね。軍に属さない我々の方がやり易いでしょう。前の小競り合いは民事紛争を通告したので、一応、私らは戦争に関わっていませんからね。リンダはどう思う?」
リンダ:「まだ宇宙での戦闘のスリルは忘れられませんが、贅沢は言えませんね。
朝子10世とは決着をつけたかったけど、収まりかけた戦火をあおるわけにはいきません。これ以上食糧難になったら、我々を支えて貰うのが難しくなりますからね」
愛国民兵会会長:「そこを理解しているなら、やってもらっても大丈夫だな。宇宙局の頼みは無碍にできないが、お前達の敵愾心が心配なので返事に迷っていたんだ」
リンダ:「盗賊を大勢殺したし、荒事には飽きてきましたね。もう充分です。それに、この物価高じゃあ、すぐお金になる仕事をしないと私らの維持費も厳しいでしょ」
愛国民兵会会長:「今度は地味で忍耐の要る任務だが宜しく頼むぞ」
スージー:「ところで、軌道に置いてきたスペースシェリフワンの増結船体は無事かしら?」
愛国民兵会会長:「戦争の間には何者も接近していないことを確認済みだ。小娘帝国の奴らはICBMの迎撃以外に宇宙での戦闘行動をやっていなかったようだ。自爆装置を畏れて近づかなかったのかな。補給品は月への貨物船に便乗で上げてくれる。頑丈な船だから故障はないだろうが、点検はドッキング後に詳しくやってくれ」
(青の公家邸)
真理亜:「今日、ここに呼んだのは、貴女の個人的な問題について話したかったからなの」
理美:「個人的なことですか?。そう言えば、真理亜様には採用でお世話になりましたね。でも、その後私に関することは公私とも殆ど現東宮様にお任せしてきましたが?」
真理亜:「今回は、きっかけになったのが、私の報告から始まったことなのよ。それに、もしかしたらかなり時間がかかるので東宮様と相談の上で私が引き受けました。この話を聞くと貴女が動揺するかも知れないので、次の任務の安全にも関わるし」
理美:「なんだか、伺うのが怖いですね」
マサ:「あのーぉ。個人的に深刻な話なら私は逃げ去った方が良くないですか?」
真理亜:「気分的にはね。でも副長内定者としては、知っておいて貰った方が良いわ。実はね、理美のお父さんかも知れない人が特区に来ているのよ」
理美:「はあ、しかし今さら私の身元が分かっても名乗り出るわけに行かないのでしょう?正直なところ、事故前の記憶は全然戻っていませんし、私には東宮様が親代わりですから」
真理亜:「私だって通常なら知らなかったことにしておくんだけど、そうも行かないの。その人というのが、かなり有力なサイボーグ技術の研究者で特区につなぎ止めておきたいの。全身サイボーグに繋がる技術を個人主宰の研究所で開発していた人物なのよ。そういう人が、北米連や満漢にスカウトされたら帝国の国益に差し障るでしょう。だから、理美には悪いけど仮に別人だったとしても暫く餌になって欲しいのよ。もちろん、実のお父さんだったら特区に研究所を移転するように説得して欲しいしね」
理美:「漸く操舵員として自信がついてきたし、私にはもう宇宙の仕事しか考えられません。今さら出身地に帰るよりも、冥王星定期航路の操舵席を我が物にするほうが大切です。ですから、帝国が危機になって遠距離飛行の機会が減ったら私も困るんです。今の地位を守るためなら、その人がたとえ実の父でなくても精一杯説得します」
真理亜:「そう、だったら巧くやってくれるわね。頼んだわよ」
(メタロリホスピタル=酉山の出稼ぎ先)
陳:「人民共和国政府希望達磨子政策費用低減。交代制労働者手足共用化希望。為餓死者発生回避、食料消費削減食肉捻出一層必要。達磨子生産倍増必須。要求水準参交代制労働者九人宛共用手足四式也」
輸出義肢営業課長:「手足共用化難問有。為混信防止、神経断端送受信機被与達磨人固有番号。神経断端送受信機帝国本体製品也。固有番号決定半導体製造時也。経済特区独自変更不可。当然切換式化不能也」
陳:「人民共和国政府超大口顧客也。特段配慮希望」
輸出義肢営業課長:「専門家協議必要。後日回答。非期待希望」
陳:「謝々。肯定的回答希望。再見」
輸出義肢営業課長:「先生、満漢領事館の書記官がまた無理難題をふっかけてきたんです。先日来、しつこく値切ってくるのを拒んでいたら、それなら手足を共用にしろと言うんです。3交代制の労働者なら勤務中以外は手足が要らないから9人で4組を使い回すようにしろと。予算不足なので、このままでは餓死者の発生を回避する目的が達せないと言うんです」
いつぞやのダルマッ娘好き整形外科医:「私としては出来るものならやってあげたいですね。だって、同じ予算で切断手術が増えるでしょ。丸々2.25倍は無理でも2倍に出来たらなぁ。今は収入の大半が宇宙工場の支払いに回っているのが、こっちの実入りに変わりますよね」
輸出義肢営業課長:「営業的には確かに美味しいんですが、帝国宙軍の協力は無理ですよね」
ダルマッ娘好き整形外科医:「そりゃ、あちらの収入減に繋がるから仕様変更はダメでしょう。仮に経済政策としては許容しても、半導体生産システムをいじるのは時間がかかりそうだしね。うーん。何かいい手はないかな。そうだ、出稼ぎで凄い先生が来ていたな。相談してみよう。その代わり、もし成功したら一つ私の頼みも聞いて下さいな」
輸出義肢営業課長:「何でしょう?」
ダルマッ娘好き整形外科医:「私が股関節離断手術を担当するのは女の子だけにして下さい。男の股関節離断は切断後に性器が突き出ていてきもいからやりたくないんですよ。私は性器寄りに縫い目が来ない術式が売りなので、女の子じゃないとやる気がそがれます」
輸出義肢営業課長:「今は満漢政府の注文が大半ですから、女の子だけってのはきついなぁ。あの国は一人っ子政策が農村の因習と合わなかったせいで、男の人口比が多いですからねえ。他の先生に男の手術ばかりやらせたら、不満がたまって辞める人が出かねません」
ダルマッ娘好き整形外科医:「性転換するか、せめて宦官にしてから来て貰えませんか?南亜連にはそう言う手術を安くやってる地区が多いし特区だってその次に安い地区なんだ。満漢人民共和国はとにかく人口を抑制したいのだから一石二鳥だし、受け入れるでしょう」
輸出義肢営業課長:「わかりました。満漢領事館に打診してみますから検討の方宜しく」
酉山博士:「ご相談とはどういった件ですか?」
ダルマッ娘好き整形外科医:「断端トランスポンダを改造せずに義肢を共用化したいのです。満漢人民共和国が飢餓回避のために達磨っ子政策をやってますよね。予算が足りないんです。このままでは春先に大量の餓死者が出そうだというので、何とか助けて上げたいんですよ。むかし密かに全身サイボーグを作ったという噂もある酉山先生なら出来ませんか?」
酉山博士:「その噂は誤りですよ。技術完成の寸前に娘を事故で亡くしてしまったんです。私の国では素体のなり手がそうそう見つからないので、その後は研究が停滞しています。しかし、餓死者が大量に出るというのは気の毒だ。うーん、一つだけ方法がありそうですね。ただ、前提として神経側のトランスポンダ部品を同番号で重複購入する必要があります」
ダルマッ娘好き整形外科医:「手術失敗や修理での需要があるので重複購入は許されます。もしかして、一人の体に複数のトランスポンダを埋め込むお考えですか?」
酉山博士:「その通りです。神経に繋がるアナログ側でなら並列接続は可能ですよね。帝国製のトランスポンダは小さいので断端周囲の筋肉を少し削れば収まるでしょう。義肢を付ければ断端が磁気吸着機構に覆われるので電波漏れはわずかです。義肢を外したときだけ断端に磁性金属のキャップを付けさせれば混信しないでしょう」
ダルマッ娘好き整形外科医:「私はトランスポンダの並列重複接続に自信が持てません。満漢領事館の要求を満たすには、4個のトランスポンダを入れなくちゃいけないんです。向こう3年間の増収分の5%を差し上げますので、術式の確立をやって頂けませんか」
酉山博士:「良いですよ。満漢の人たちもお困りのようだし、お引き受けしましょう」
(経済特区の料亭 星雲海 特等席のメイン・カウンター)
理美:「酉山博士の説得を引き受けたせいで、またここに来れるなんて役得でした」
真理亜:「あの人はここが相当に気に入っているようよ。先日も居たのよ」
理美:「そう言えば、相席の客が一人居ましたね。あの人でしたか」
真理亜:「貴女の動揺を心配してその場ではこの話を出さなかったのよ」
酉山博士:「真理亜大佐、さんざんお待たせして申し訳有りません。帰ろうとした矢先に、同僚から相談事を聞いてくれと頼まれましてね」
真理亜:「どういたしまして。料理長が食前酒を出してくれていますから」
料理長:「酉山先生は、いつものやつで宜しいですね?」
酉山博士:「そうして下さい。ところで、その娘は?」
理美:「理美です。元の名前は思い出せません。今は宇宙艦の操舵員をやっています」
酉山博士:「すると、貴女が?。やはり、記憶は戻っていないのですね。残念だが大変な怪我だったというから、その方が精神衛生上は良いかもしれないな。たとえ貴女が私の娘だったとしても、もう昔の名前に拘るつもりはありませんよ。とにかく私のせいで厭なことを思い出させてしまって、済まなかったね」
理美:「憶えているのは、手足や眼が無くなって人工臓器の管が繋がった状態からです。でも、今は完全な体になって宇宙で活躍させて貰っているので落ち着いています。12年前に事故で救出されたときの、黒こげになった自分の写真を見ても平気でした」
真理亜:「酷い写真ですが、手がかりになればと思い、お持ちしました。私らは吐き気と無縁の体だから良いけど、食事前に見るのはきついかも知れませんね」
酉山博士:「うっ、これは酷い。これでは到底誰だか見分けようがないですね。当時の私のサイボーグ技術では救命できたかどうか、全く自信はないですね。貴女はこの国で改造手術を受けられて、運が良かったと思いますよ」
理美:「あなたがお父さんなら、腕を信じられなくて申し訳ないけど、そう思います。こんな状態から復活して、冥王星探検で艦の操縦を任されるまでになれたんですから」
酉山博士:「あの探検隊に参加していたのか。それは凄い。きつい加速が続くんでしょ。私の技術力ではそんな飛行に耐えられるサイボーグができるか、まだ判らないですよ。制約の多い国の、私設研究所で細々とやっていたのでは後れをとるばかりですね。何しろ大東亜では、たちの悪い宗教政党がいつもちゃっかり与党に入っていましてね。長年に渡り公権力を利用し、彼らの価値観を国民に押しつけようとし続けているのです。その結果、サイボーグの実験どころか、死刑囚の臓器を移植に使うのだって困難です。見かねた私の娘が素体になってくれると言い出したのですが、その矢先の事故でね」
真理亜:「先生の研究成果を応用すれば、無脊髄型サイボーグの障害を除けるでしょう。我々と提携していただければ、いずれ核パルス推進艦に耐えられる乗員も出来ますよ」
理美:「核パルス推進艦かあ。理論上は冥王星まで10日で飛べるのでしたっけ。実現したら是非乗ってみたいわ。でも核では酷い目にあったし難しいかしら」
真理亜:「反核憲法が禁じるのは核兵器よ。動力としての核爆発は否定していないわ。先帝が核攻撃で消滅したからという感情的な反対など、この国ではあり得ないわよ。地球外に素体生産地を得るためなら、タブー無しにあらゆる手段が実行されるわ。まあ、今の世界情勢では摩擦になりすぎるから、明日建造って訳には行かないけどね」
酉山博士:「羨ましいですね。私の国では200年前の核被害がまだ尾を引いています。核パルス推進どころか、原子力発電や迎撃ミサイルまで一緒くたに反対する輩も居てね。新たな核被害を防ぐための迎撃手段を否定するなんて、気違い沙汰なんですけどね」
理美:「核パルス推進艦は禁じられてないんだ。いつか乗れるようになったら良いなぁ。酉山博士がお父さんなら、その技術ができた時は再改造をお願いしたいですね」
酉山博士:「そうか、12年前の約束を果たしてくれるんだ。わかったよ。研究所をここに移転して、貴女がたと提携することにしましょう。この料亭の松茸カツ丼もすっかり病みつきになってしまったしね」
理美:「まあ、私、元々カツ丼好きです。ましてここのは私も病みつきになりそうだわ。2等兵の給料じゃ贅沢は出来ないから、奢ってくれるパパが見つかったら良いなあ」
真理亜:「この娘のDNAデータもお持ちしています。これで鑑定なさったら?」
酉山博士:「もし違ったら決意が鈍りそうだから、鑑定は移転後にしますよ。今は、再改造をやらせてくれると言うこの娘の気持ちに、応えたいと思います」
真理亜:「そうですか。すぐに決めていただけるとは有り難いわ。私たちは近々任務で宇宙に出てしまいますので、長引いたら困るところでしたの。移転費用援助の件など後の細かいことは、我が公家の執事が対応いたします。ご希望が有れば何なりとお申しつけ下さい。大抵のことはできますので」
理美:「とりあえず、暫定パパ発見に乾杯ってどうですか?」
酉山:「いいですね。いつか必ず君を再改造することを誓ってね」
料理長:「お祝いってことで秘蔵の銘酒をお出ししましょう」
(宙軍研究所 惑星開発施設実験部)
作業員:「おい非人、井戸掘りはもう良いぞ。お前は艦隊に貸与されることになった。今から、カロンへ輸送するため厳重に梱包される。まあ向こうでまた井戸掘りだがな」
キャサリン:「カロン!。そんな寂しいところに一人で残されるなんて。厭あぁぁ」
作業員:「さすがに1柱じゃ気が狂うかも知れんというので、仲間を付けてやる。非人には勿体ない配慮だ。新皇帝陛下も新東宮様もお優しい方で良かったな。今から仲間に引き合わせてやる。精々仲良くするんだ。さあ持って行くぞ」
キャサリン:「けっ、今さら何が慈悲だってんだい。人でなしどもめ」
作業員:「ふう、お前らは重くてかなわん。ほれ、そいつが一緒に行く仲間だ」
キャロル:「貴女は誰?。やっぱり、何かの罪で人権削除刑に処されたの?」
キャサリン:「名前ったって今じゃただ”おい非人”さ。罪ってもねえ。いくらスパイだって、侵入しただけでここまでされるなんてあんまりだわ」
キャロル:「スパイ!。貴女、北米連の工作員なの?。私もなのよ」
キャサリン:「そうよ、私はキャサリン」
キャロル:「ああ、キャサリン姉さん、なんてこと。私キャロルよ!」
作業員:「なんだ。おまいら、姉妹かよ。揃ってどじなスパイとは禿笑だぜ」
キャサリン、キャロル:「「畜生!。今に見ていろ!」」
作業員:「ほお、元気が出たようだな。活きが良くないと使えんから何よりさ」
(M55ロケット発射台)
マサ:「あーあ、何で私らだけ先に上がるんです?。理美は良いなあ。今夜、お父さんらしい人にまた料亭で奢って貰ってるなんて。貴族の方が惨めだわ」
真理亜:「新造艦だから当然ね。積み込み前の艤装チェックは幹部の仕事よ。それに、酉山博士の気持ちをつなぎ止めるのは国益に関わる重要任務でもあるのよ。おまけに、この便の貨物室には最優先で搬入する重要物品が乗っているからね」
マサ:「まあ、真理亜様と一緒なら良いか。ところで重要物品て何なんです?」
真理亜:「今回はカロンに採水施設を置くのが目的だから、すぐ判るでしょ。無人惑星開発施設に欠かせない制御装置、つまり人柱に決まっているじゃない」
マサ:「げえぇ。もしや、あいつらのどっちかですか?。恨み背負って飛ぶのぉ!」
真理亜:「2柱セットでね。あんまり寂しくて発狂しないようにとの勅命よ」
マサ:「ぎょえー、恨みダブルじゃないですか。怖いよー」
真理亜:「相変わらずバカね。何を軍人らしからぬ事言ってるの」
マサ:「私の信条は軍人たる前にコギャルたれですから。宙軍の仕事は目的ではなく、私がコギャルであり続けるための手段に過ぎません。宗教なんか信じませんが、占い・都市伝説のたぐいはコギャルに必修です。制度上は死人同然でも、現に生きている仇敵の怨念だったら考慮します」
真理亜:「なるほど。そういう固い信念は宙軍サイボーグ兵に最も大事な資質ね。バカっぽいけど、飛行の安全に必要なものだから間違ってはいないわ」
(静止軌道第一工場衛星 宇宙艦建造ドック)
マサ:「こんどの新型艦”なると”は、随分鶴っ首ですね。なんだか弱そう」
真理亜:「主船体を短縮したけど格納庫は”みくら”級と同じ大きさだからね。その分だけヘッドフィギュアと主船体の間が伸びてしまったのよ。でも、そのせいで後進用バーニアがいい場所に付けられて操縦性は改善したわ。逆に前進用バーニアが過熱蒸気推進器に押しのけられて斜め装備になったけどね。どっちかというと、入出港の微妙な操作で後進の方が重要だからこっちが良いわ。各部の強度も加速力用見合いで改善されたから見かけによらず頑丈だってさ」
マサ:「主船体短縮で兵員室が小さくなって定員が減ったでしょ、大丈夫かな?」
真理亜:「エンジングリッドの材質改善で飛行途中の交換が要らなくなったわ。そのほか、今までの実績から消耗しやすい部材は補強されているのよ。冥王星航路でたった20名じゃ厳しいけど、手が掛からない艦にはなっているのよ。まあ、糊代がないから全員が全ての科業を応急に代行できるよう訓練しないとね。例えば、操舵員は雀奴と理美だけだから巡航時のバックアップは藻前もやるのよ」
マサ:「えっ、それは危ないのでは?」
真理亜:「従来の艦なら、その通りだわ。でも、この艦には対策がされているわ。操縦系にエミュレーションソフトが入っていて、運動イメージの変換が出来るの。他の資源収集艦とか百式迎撃艇のような搭載艇の操縦イメージで動かせるのよ。藻前なら迎撃艇のプロだし、加速特性が似ているからぶっつけ本番で動かせるわよ。当然変換遅延があるから入出港なんかは無理だけど巡航なら問題ないはずね」
マサ:「なるほど。それでも他に大型艦向きの娘は居るでしょう?」
真理亜:「動かすだけならね。でも万一の射撃まで考慮したら藻前が一番だわ。艦載エキシマの操作は操舵員がやるんだし、副長なら艦橋に常駐だからね。今さら北米連が何か仕掛けるとは思わないけど、隕石を撃つ可能性が有るでしょ。発進後1時間で秒速55`に達してしまうから避けきれない確率は上がるし」
マサ:「射撃を期待されてということなら仰るとおりですね」
真理亜:「その他の未経験科目も航行中に一通りVRで練習して貰うわよ」
マサ:「えーっ、まだ勉強ですか?。体内CPUパンクしそう」
真理亜:「そうならないように着任前整備で新型の基板に交換したでしょ。不揮発メモリが倍増したし、情報検索コプロセッサが憑いたでしょうが。まだ宙軍全員に装備できる生産台数が無いのを優先的に回して貰ったのよ。加速航行時間が長くて殆ど遊べないから学習くらいしか出来ないでしょ」
マサ:「往復の丸2年勉強続きは、厳しいなあ」
真理亜:「なんちゃって女子高生みたいなこと言うんじゃないわよ。さてと、ちょっと倉庫で人柱どもの機嫌でも見ていこうかな」
マサ:「どうせ嫌みしか言いませんよ。むかつくだけです」
真理亜:「むかついたら、苛めてやればいいのよ。当然の権利なんだから」
(北米連・砂漠の民間宇宙港)
愛国民兵会会長:「貨物ロケットが上がったぞ、こっちは出られるか?」
会員パイロット:「離陸許可出ました」
愛国民兵会会長:「よし。レッドナイト発進だ」
会員パイロット:「高度順調に上がっています」
スージー:「毎度送迎ご苦労様。最終チェックOKよ」
愛国民兵会会長:「うむ。今回はとことん荒事を避ける飛行だ。難しいが頼んだぞ」
リンダ:「途中で満漢の月基地建設船を追い越すことになりますからね。気を付けます」
会員パイロット:「発進高度です。切り離します」
スージー:「スペースシェリフワン、メインエンジン、サイドブースター点火」
(静止軌道第一工場衛星・ベイ 出航風景)
マサ:「”なると”乗員点呼終わりました。全員、定位置に着いています」
真理亜:「出航準備良いわね。口閉めて」
理美:「閉めました。ベイ減圧中です。気圧ゼロ。出港許可出ました」
真理亜:「よし、出して。理美は初体験しっかり味わうのよ」
理美:「下部バーニア、出力50%。上がります。う、うっあう...まだ抜けません。艦底高度5b。ひっ、あひひ...イきました。出力40%、抜けそうです」
雀奴:「そうそう、初めての時は優しく抜くのよ」
理美:「右サイドブースター5%、そーっと、ひいぃ、あ、先っぽ抜けた。高度10b。係留ポール離脱確認。ジャイロ回転速度微調整、方向良し。ベイ、ハッチ全開確認。ヴァギナルハッチ閉鎖。上昇速度毎秒4b。横に秒速3b、ハッチ通過予定位置に同期。後進バーニア40%、くぐります。後進バーニア80%。ハッチ抜けました。ベイからの距離、50m、150m、400m、800m...安全距離到達」
雀奴:「巧かったわよ」
真理亜:「針路に向けて。全員、高加速対応体制!」
理美:「旋回始めます。方位東30度。原子炉出力上げます。出力60%。推進剤電離良し。グリッド電位上昇。増加推進剤炉心に注入、原子炉100%。過熱蒸気路開放。原子炉過負荷運転開始、120%に到達。出力固定」
真理亜:「計画通り推力出てるわね。そのまま、連続加速に入って」
マサ:「対銀河方位確認。針路ぶれ、北に0.3度、西に0.1度出てますね。速度は順調に上がっています、太陽に対し秒速10`超えました」
知子3世:「初めて使う機関が問題なくてほっとしましたわ」
理美:「方位修正しました」
真理亜:「とりあえず安心ね。このまま針路維持」
理美:「雀奴侯、せっかくの新造艦でしたのに出航譲っていただき済みませんでした」
雀奴:「”なると”も処女だったから理美が相応しかったのよ」
真理亜:「理美もこういうことが出来る歳になったのね。あっという間だったわ。みんな忙しかったわね。ところで、理美の本体の方はどうなの?」
理美:「ま、まだです。今回の休養中はお父さんらしい人が現れたし、ちょっと」
真理亜:「まあ、慎み深いのね。マサとはえらい違いだわ」
マサ:「私はどうせ根っからの人工性器ですから」
真理亜:「そう言う問題かよ」
(中軌道 スペースシェリフ・ワン)
リンダ:「貨物船から補給カプセル射出されました」
スージー:「捕まえたわ。連結良し。ミサイル取り出してくるから燃料吸い上げて置いて」
リンダ:「はい。ちゃんと入ってますね。10分で終わります」
スージー:「ミサイルも収容できたわ。宇宙局に連絡して貨物船を予定通り月に向けさせて」
リンダ:「あ、帝国工場衛星からこけし船出現。拡大映像確かめます。見たこと無い型だわ。なんというか、鶴っ首のこけし船ですよ。きもーい。あんなのおまんこに入れられたら気が狂うわ」
スージー:「私らにはもう無いから大丈夫よ。で、針路は?。輸送妨害の恐れはどうなの?」
リンダ:「全く無関係の向きです。うわ、こけし船とは思えない高加速で飛び出しました」
スージー:「どれ?。うーん、速いわね。この方角は...また冥王星に行くのかよ」
リンダ:「戦争が一息ついた途端、もうですか。遠ざかって行くわ、悔しいですね」
スージー:「仕方ないわよ。私らにとって、今は奴らより満漢が心配すべき相手だわ。私らしかサイボーグが居ないんじゃ外惑星には手が出ないし、奴らは月に興味ないからね。満漢は、今回の休戦裏工作で漁夫の利を得て月の裏側を手に入れてしまったでしょ。でも、貪欲な国だから裏だけで満足しないわ。いつか月面を巡る争いになると思うの」
リンダ:「それもそうですね。私達は今やれることに集中するしかないですね」
(”なると”艦内)
真理亜:「艦長です。今度の任務は周知の通り、カロンに採水施設を設置することです。これが、戦後の再建計画の重点課題の一つである地球外素体生産地獲得の第一段階です。後に就航する高速連絡艦は、この水資源をあてにして隕石移動装置の輸送に当たります。そして、金星冷却作戦に必要な大型氷隕石を搬出する事業が延々と続けられるのです。また、一部の氷隕石は工場衛星の生産力強化や満漢の月面基地への販売に回されます。その収入で、計画全体の費用を賄うわけだから、つまり我々の生活費にもなるのです。採水が失敗すると、我々自身は帰りの推進剤に困り、後続艦が任務変更を強いられます。無論、修復困難な装置の故障などに備えて救援を待てるだけの物資は搭載しています。でも、安心するのは構いませんが、決して油断はしないで下さい。”なると”は間もなく秒速55`に達し、さらにメインエンジンによる加速を続けます。10日目には秒速500`の計画最大速度で慣性航行に入る予定です。まだ、誰も経験したことのない高速での飛行です。些細なミスが大事故に繋がります。20名で従来の30名分の仕事をこなしながら注意力を持ち続けるのは大変です。そのため、この艦は航行途上での整備に極力手が掛からないように改良されています。また、搭乗メンバーの体内CPUは最新のものへ優先的に換装させて貰いました。情報検索コプロセッサの効果で新しい仕事を身につけるのがかなり楽になったはずです。人工皮膚も外観、耐寒性とも優れた新素材”白雪姫”を最初に使用させて貰っています。これらの優遇措置を精一杯生かして、任務を成功させて下さい」
マオ:「この”白雪姫”ならカロンで思い切り滑っても安全だわね」
ミキ:「見栄えも良いしね。だけど、スケートやる暇有るのかしら」
マオ:「私らがカロンに行ってそれをやらなかったら、何しに行ったか判らんがね。採水施設が完成してから帰りに使う水を取り貯める間は、十分に暇があるわ。今回はパパが宙軍当局から映像の独占使用権を獲得したから気合い入れなくちゃ」
ミキ:「気合いは良いけど、さらにやりすぎて壊れないでね」
マオ:「そう言いながらミキだって改良した衣装持って来てやる気満々だね」
ミキ:「そりゃあ、あんたには負けたくないから当然よ」
(宇宙に出た娘達はとりあえずそれぞれ建設的な方向に向かって活動を再開しました。しかし、2ちゃんを遙かに超えるレベルで人大杉の地上では帝国の力が及ばない場所でせこい争いがなかなか無くなりません。次回予告:(31)国盗り物語)

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