−− (34)アイス・キーパー −−

(経済特区 地底アイスワールド分園)

ミキ:「16回転ジャンプ...あれっ?。!Σ( ̄□ ̄|||) ガビーン! 。4回転になってしまった。低かったなあ。おかしいわ。何でパワーが出なかったかね」

観客:「( ゚д゚)ポカーン???」「なんかおかしくない?」「お腹でも壊してるのかな?」「サイボーグが病気?。まさかぁ」「破壊工作じゃ?( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )」

マオ:「(ミキの奴、不調だな。今日はいただき)高速13回転ジャンプ!決まった...(ズルッ)あっ、足首関節の角度制御が追いついてないわ...はは、冗談冗談...ふむ、ステップシークエンスは普通にスイスイと出来るな。さっきの動作遅延は何だったのかしら。連続8回転ジャンプ、今度こそ決まった???...えっ?また...ぐきっ。
ぎゃっ...あっ(((( ;゚ρ゚)))アワワワワ ...足首取れちゃったorz」

観客:「おおお。すごい。今日の目玉はメカバレショウでつか(*'A`)ハァハァ 。もっとやってぇ」

マオ:「(゚д゚)マズー 。何とか誤魔化さねば。理美、ハル、みどり、予定変更。すぐ出て!」

ハル:「そんなあ。いきなり何をやったらいいんですか?」

マオ:「理美はカロンでやったとおりで良いわ。ハルとみどりはM字開脚滑走でもやって見せて。こうなったら、今日はお笑い&エロ路線で誤魔化すしかないわ」

みどり:「えーっ、ここでやるのぉ。トホホ」

マオ:「M字開脚滑走しながら散らばった部品を拾うのよ。私はとにかく一旦引き揚げなきゃ。よいしょっ、片足滑走...なんとか保ってくれよ」

理美:「あーっ。ショックアブソーバーのオイルまき散らさないで下さい。氷の掃除が大変です」


(地底アイスワールド 控え室)

ミキ:「マオ、またしてもドジッたわね。こんなの ネットに貼られちゃったがね」

マオ:「あんたこそ、突然膝のリニア牽引帯で力が出なくなってジャンプしょぼったじゃない」

ミキ:「くっ、事前のテストでは何も問題なかったのに...」

理美:「本番ではどうしても力みで余計な負荷がかかりますから、マージンが不足したのでしょう」

マオ:「どういうこと?」

理美:「私たちは全身サイボーグといっても小脳や脊髄が天然ですから、緊張すれば力みは生じます。身体制御CPUでは緊急時の運動を考慮して瞬間的な過負荷指令にはリミッターをかけていません。だから、力みによる無理な運動命令はそのまま関節や駆動回路に過負荷をかけることになります。サイボーグ体は各部品にマージンがあり、通常考えられる短時間の過負荷で故障することはありません。しかし、長年の訓練によって人外の高度な技を体得したミキさんやマオさんの場合は別です。おまけに、技の都合に合わせるため足首関節を変則的な構造にしているから急速に壊れたんです。ミキさんが突然出力低下に見舞われたのも駆動回路のパワーICが急速に劣化したせいでしょう。関節の自由度を増やすためにリニア牽引帯のストロークを延長した分、駆動回路が苦しいんです」

ミキ:「それもそうね。しかし、足首関節が標準品だと、なかなか見せられる技はねえ...」

マオ:「何か良い対策がないかな。やりすぎを検知してリミッターが効くように出来ないかしら」

理美:「パパの研究によると、運動が起こってから急にリミッターを効かすとかえって危険です。やはり、命令を発する側で末端の機器に加わる負荷を計算して限度内に収めるしかありません」

ミキ:「それが出来るように猛練習しとるがね。それでも力みが完全には除けんのよね」

理美:「技が高度化しすぎて練習でどうにかなるレベルを超えてしまったのでしょう。真に有効な対策は小脳と脊髄を機械化して完全に計算された運動命令を生成することです。でも、まだ未完成の技術ですし、仮に成功しても最初は脊損者のQOL改善が精一杯でしょう。今できる対策は、過負荷が避けがたい事を前提に全身バランスを計算した脚構造にするだけです」

ハル:「そういえば、お母さんが小競り合いの際に入手した北米サイボーグのデータを解析してたね。酉山博士の研究とは補完関係になりそうなので、近々組み合わせて見たいとか言ってたわ」

理美:「パパもその話をしていたわ。冬子大尉の望む使い方なら可能性があるって」

マオ:「冬子さんが使えるかどうかって状況だと私らがあてにするにはまだまだねえ」

理美:「ええ。私もパパに再改造して貰うのは楽しみなんですが、随分先の話みたいです」

みどり:「今から実験開始だと、成果が判る頃は私たちカロンに行っているんですね。お母さんの体が良くなって、また一緒に宇宙で活動できるようになったら良いなあ」

理美:「冬子大尉が復帰してくれると私ら耐高加速操舵員のローテーションが楽になるわ。パパには頑張ってもらわなくちゃね」


(酉山科学研究所)

冬子:「ごめん下さい」

酉山:「あ、冬子大尉。北米連のデータとこちらの収集したものを比較する件ですね」

冬子:「そうです。我々が手に入れた北米サーボーグの身体制御データのコピーを持ってきました」

酉山:「送っていただいた解析結果の要約は既に読みました。そのデータは物を掴む、歩く、走るといった基礎的な運動を入念に収集してあるのが特徴ですね。最初に素体の手足がある状態で並列接続したボディの運動制御を校正しているようです。しかるのち手足を切断して感覚を機械による感覚だけとした状態で再校正したのでしょう。脊髄に頼らず手足を円滑に動かすという目標に対してはよく考えられた取り方をしてありますね。

冬子:「ええ、その代わり重い巨体を前提にしたためか跳ぶといった急な運動が入っていません。内蔵バーニアで代替するから跳躍力は必要ないという考え方に基づいて構築された身体制御系です。おまけに、宇宙艦操舵員に欠かせない性感については全くデータがないのです。そちらで収集した理美のデータで補完できるのではとのご提案にはなんとお礼を言ったらいいか」

酉山:「理美が世話になった元素体教官の貴女にデータを使って頂くのはむしろ光栄ですよ。ただ、正直なところ理美の性感には重大な欠陥があります。操舵員としての機能なら問題はありません。しかし、低年齢でサイボーグ化したため脊髄が未成熟な性器の感覚しか経験していません。そのために、性的に成人になれないのです。自慰のやり方なんか小学生丸出しなんですよ。事故のためサイボーグ化時期を選べなかったというハンデだけはどうにもなりません。そのデータを2度の自然出産歴がある貴女にインストールすることは精神衛生上のリスクが大きいです。あと、量が非常に多いので帝国の身体制御CPUアーキテクチャでは扱いづらいのも問題ですね。これについては私が独自に考えたCPUアーキテクチャを使えば解決できそうです。案自体は以前からあったのですが、利用できるデバイス技術が無くてお蔵入りしていました。あなた方が工場衛星で使っているプロセスならサイボーグに搭載できるかたちで製造できそうです」

冬子:「性感が幼いという問題は時間をかけて成長の過程を辿りなおすことで克服するつもりです。私には協力してくれる夫もいますので、いずれやり直せると思います。CPUの生産に関しては脊髄障害を持つ特例志願兵が共同出資してラインを借り切る予定です。既に出資の受け皿となる匿名組合が設立されていて、私が資産管理者に選任されています」

酉山:「それは心強いです。しかし半導体ラインの私用借り切りは宙軍兵さんでもきついでしょう」

冬子:「帝国の障害者福祉に寄与するというので、悲田院も出資してくれるからできるのです。それにこれが成功してCPUが軍の公式品に採用されれば逆に利益が取れる可能性もあります」

酉山:「そうですか。皇室も乗り気ですか。成功させて、当研究所の商品にも使いたいですね。手足の特装品に関して輸出事業の許可を貰ったのですが、難しい注文ばかり来て困っています。例えばケンタウロスに憧れた金持ちのメタロリ娘から来た馬型下肢の製作打診には参ってます。人間の神経は脚2本分の命令しか出せないのに、それで4脚を円滑に動かせと言うんですよ」

冬子:「軍の方でも同様の課題はありますね。18式試作重機の歩行制御で困っています。今のところ2人がかりで動かすことになったのですが、息が合わないと難しくて」

酉山:「重機の巨体なら搭載制御装置も余裕がありそうですが従来技術では難しいんですか」

冬子:「1人で4脚を動かすことが日常化できないとソフトウェアの改良が進みません」


(カロンに向かう定期便 高速連絡艦”なると”)

マサ:「2度目となるとみんな慣れてきたのか余裕がありますね」

真理亜:「油断が怖いわ。特に藻前は危ない」

マサ:「有栖はどうしているかな」

真理亜:「公家の執事に任せておけば万事うまく行くのよ。今は任務に集中しなさい」

ハル:「格納庫の巡回終わりました。加速による荷崩れはありません」

真理亜:「ご苦労さん」

ハル:「大型隕石移動装置を7基も詰め込んでいるので、ちょっと心配でしたね」

知子3世:「輸送も大変だけど、組み立てるときは凄まじく忙しいわよ」

マサ:「降下艇無しで18試重機2機だけに頼るってのも気がかりですね。結局、今回の任務では後ろ足の自動追従が間に合わなくて2人がかりですからね」

真理亜:「そのために日常から一緒に行動している者を集めているから何とかなるわよ。特に、マオーミキ組とハルーみどり組は休暇中も氷の上で組んでいたんだからね。それに理美も一緒にやっていたから誰かが都合悪くなっても交代できるでしょ」

みどり:「おかげで初めてカロンにいけるのは楽しみです」

マサ:「金星に出来た水たまりを保たせるために5万dの氷1個は超特急だからね。移動装置3基をまとめて設置するのは前回重機4機でやってもきつかったわ。配置が悪いと制御し辛くなるしね。今回はあんまり風景を楽しむ余裕なんか無さそうよ」

ハル:「あの地点は周囲との温度差が600度もあるために凄い渦が発生してたでしょ。予想を上回るペースで溶けてますよね。急いでも4,5年後で間に合うんでしょうか?」

真理亜:「塵で太陽光が遮られたせいで最近は周囲温度が20度ほど下がっているわ。クレーターの深さが1`ほどあるから減ってきても底の方は溶けにくいでしょう。つなぎにメインベルトで探した大きめの氷も毎年入れているし、なんとかなりそうね」

マサ:「メインベルトの高々1000d弱の氷隕石じゃ焼け石に水なのでは?」

真理亜:「水の量だけならね。でも、速度を上げれば塵を舞い上がらせる効果は大きいわ。それに気圧が高いから少しでも温度が下がると降水が起きるでしょう。降水が続けば周囲の地殻が冷却されるし、少しは地下に浸透して溜まるでしょう」


(金星大気圏外 降下カプセル)

リエ:「これより大気圏に突入、第一プラットフォームに降下する。全員慎重に行動せよ」

マミ:「幾重にも安全装置があるとはいえやっぱり怖いですね」

リエ:「まあ、落ちたら確実に焼け死ぬからね」

ユミ:「万一の時は、氷隕石のクレーター付近に降りれば助かりませんか?」

リエ:「温度差で渦が発生しているせいで風が凄いからパラシュートが保たないわ。仮に着陸時は生きていたとしても脱出手段がないし、じわじわと硫酸の雨にやられるだけね。とにかく、余計なことを考えないで降下軌道の制御に集中することよ。さあ、減速始めて」

マミ:「カプセル姿勢、仰角120度。針路、赤道に対し北3度。底部バーニア噴射」

ユミ:「減速順調。針路キープできています。アイスシールド損傷ありません」

リエ:「よし。降下続行」

マミ:「仰角30度に戻します。大気抵抗出てきました。外壁温度はまだ変化無しです」

ユミ:「第一プラットフォーム誘導信号捉えました。高度差70`。針路乗っています」

リエ:「大気抵抗でずれることもあるから、いつでも修正できるようにして」

マミ:「ノイズで誘導電波切れました。アイスシールド厚み残り1b。外壁温度0度です」

ユミ:「姿勢、針路変化無し」

マミ:「アイスシールド消失。対地速度マッハ5」

ユミ:「誘導電波回復。高度差20`」

リエ:「低めだね。念のため噴射で3`ほど針路を上げて余裕を取ろうか」

マミ:「底面バーニア噴射。落下速度減少。想定針路プラットフォーム直上2.7`」

ユミ:「いまの噴射で速度が音速を割りました。パラシュート使えます」

リエ:「早すぎると気球で寄せなきゃいけなくなるから30秒後で良いわよ」

マミ:「予備パラシュート放出5秒前、4,3,2,1,出します」

ユミ:「想定針路、プラットフォーム直上2`に落ちました」

リエ:「50秒後にメイン開いて。念のため続けて気球も出すのよ」

マミ:「メインパラシュート放出10秒前、9,8,...放出。気球ハッチ開けます。水素ガス注入...。浮き出しました。メインパラシュートの上に達しました」

ユミ:「速度200`に落ちました。このままだと手前過ぎますね」

マミ:「後部バーニアちょっと噴射します。...これでどうです?」

リエ:「良さそうね」

ユミ:「速度90`。外部カメラにプラットフォームがはっきり見えてきましたよ」

リエ:「あとは自然減速で降りられそうね」

マミ:「落下速度45`、逆噴射少しかけます。速度15`。着床します」

ユミ:「停まりました」

リエ:「想定外の気流で滑り出さないように、出る前に電磁吸着かけて」


(プラットフォーム上)

リエ:「分解のため電源落とさなきゃならないから、全カプセルにもやい綱かけるのよ。最初は乗ってきたやつからね。うん、そっち側持って。かかったら貨物カプセルもね。かけ終わったカプセルは電源切って良いわよ」

マミ:「これだけ沢山あっても風船1基分と骨組みが0.1基分だけか。結構大変だわ」

ユミ:「でもこの第一プラットフォームを浮かべるまでの失敗続きよりは気楽ね」

リエ:「工事は明日からにして、今日はここの施設を点検するわよ。しばらくここで暮らすんだから、酸素製造機や宿泊施設が壊れていたら困るでしょ」

マミ:「水耕施設から出た酸素も備蓄しているのでは?」

リエ:「計画通り暮らしに余るほど採れているかは保証の限りじゃないからね」

ユミ:「水耕タワーの水位は正常そうですね。藻に泡が付いてるから生育してますよ」

マミ:「エアロック開きました。入ってみましょう」

リエ:「中の空気はどうかな?。ふむ、呼吸できそうね。履歴は...まあまあかな。この酸素増加率なら豚1頭は余裕で飼えそうね。艦から取り寄せようか」

ユミ:「豚が搬入できればいくらでも滞在できるから安心ですね」

マミ:「酸素が足りても餌は藻だけで大丈夫でしょうか?」

リエ:「実験で1年は大丈夫だったそうよ。念のため米も降ろすけどね」

ユミ:「だけど、こんな巨大施設ですら藻が4d育つ程度じゃ気が遠くなりますね」

リエ:「1基だけならね。組み立てたプラットフォームを次の拠点にできるでしょ。拠点が増えればもっと多くの人員を投入して指数関数的に増設できるからね。なにしろ、地球軌道上に資材が有り余っているから手があれば1万基まではすぐよ。この藻は重量当たりの炭酸同化作用が地上の雑草の10倍あるからバカにできないわ。いずれこの環境で生育できる穀物が開発されれば食料輸出もできるだろうし」

マミ:「でもここは重力があるから搬出コストが大きいですね」

リエ:「農業廃棄物から固体燃料を作れるからエネルギー的には赤字にならないわ。工場衛星で不足がちな炭酸ガスが多くて困るほどだし、大気中の水蒸気も多いのよ。設備と適切な植物があれば工場衛星より生産性が良くなる可能性は十分あるわね。あとは我々の人件費が賄えるかどうかね」

ユミ:「地球の食糧難がもっと酷くなれば採算性は良くなりますね」

リエ:「ほどほどの高騰ならね。払えない奴らが戦争始めたら商売にならないわ。みんなが満漢みたいに国力を達磨っ子政策にでも注いでくれれば良いんだけどね。貧しすぎたり、宗教にこり固まった国は戦争で食料を奪い合う方に行くからなぁ」

マミ:「ここは電力に余裕があるから大気中の水蒸気を凍らせて投下しては?空中でちびちび植物を増やすより水面維持に対して即効性があると思いますよ」

リエ:「それも良い鴨ね。地上を冷やす手段は手当たり次第にやった方が良いわ。プラットフォームが数基できたら実験してみるべきね」

マミ:「賛成していただけますか。では、冷凍装置の輸送を手配しておきますね」


(アリババ大砂漠 人工オアシス形成実験地近くの観測シェルター)

聖戦士隊員:「間もなく落下予定時刻だ。観測準備は良いか?」

アリババ連盟の地質学者:「地震計からの信号はOKです」

アリババ連盟の気象学者:「小娘帝国軍事衛星からの映像入ってます」

聖戦士隊・憲兵:「予定地周辺の侵入者居ません。まあ、居ても死ぬだけですがね。しかし、観測衛星くらいあの妖しげな帝国に頼らず、自前でやりたいなあ」

気象学者:「ああ、映像は氷隕石を買った国へのサービスでタダなんですよ。我々は衛星に金をかけるくらいなら砂漠緑化に回すべきですからね」

憲兵:「ふーん。タダならしかたないなあ」

気象学者:「あの国は、衛星を打ち上げてるんじゃなくて素材から宇宙で作るでしょ。素材も余り物を使っていて原価がバカみたいに安いからおまけに使えるんですよ。あ、隕石が大気圏に突入しましたね。ふん、約束通り落としてくれたようだな。地震が来るから気を付けて!。キター」

聖戦士隊員:「お、お?。大した揺れじゃないな」

地質学者:「砂が深いから衝撃が吸収されると予想してましたが小さかったな」

憲兵:「小娘帝国の奴ら、約束より小さいのを落としたんじゃないのか?」

気象学者:「大気圏突入時の映像からするとそんなことはないでしょう。2,3時間して舞い上がった砂が収まれば直接確認できますよ。私としては気候に大きな影響が出て外国からけちを付けられる方が心配でした」

聖戦士隊員:「落下地点はちゃんと予定通りだったのか?」

地質学者:「地震計の記録がほぼ均等に出たからちゃんと真ん中に落ちてますよ」


(経済特区 アリババ連盟合同総領事館)

総領事:「現地は窪地の底に水たまりが出来たので、契約通り原油による支払いをします。我が政府は今回の結果を受けて、10`間隔で直線状に人工オアシスを形成する方針です。これを繋げて緑化地帯のベルトを形成すれば、我が国の食糧事情も改善できます。引き続きご協力をお願いしたい」

弥生:「保水が成功したのは喜ばしいですね。私どもは、支払いさえ頂けば氷を用意しますよ。ただ、一つだけ注意願いたいことがあります。落下時は周囲数10`が埃に覆われます。したがって、耕地化するのは並べる人工オアシスが数個先まで出来てからにして下さい」

総領事:「それは当方の地質学者も指摘していました。当面は雑木程度しか植えません。国内では少しでも耕地が欲しいという声も強いのですが、何とか折り合いを付けました」

弥生:「それから、私どもの予測ではオアシスが数年で枯れる可能性も指摘されています。いざというときのため200`毎に再度氷を落とせる余地を残すことをお勧めします」

総領事:「それは緑化地帯の直線から外れた場所に設けても構いませんよね?」

弥生:「そこまで給水車の往来する道路か鉄道を余分に整備なさるおつもりなら良いですが」

総領事:「貴国では鉄が余剰気味なのでしょう?。レールを安く売ってくれると助かりますね」

弥生:「宇宙では余っていますが、地上に降ろすコストが高いんですよ。でも、この件は氷隕石の購入と関連した事業ですから精一杯努力はしましょう。その代わり、レール以外の車両や施設の購入についてもご検討下さい」


(帝都宮殿 御前会議)

朝子8世:「定例会議を始めます。まず、アリババの人工オアシスの件について報告を」

弥生:「最初の実験成功に気を良くして、列状にオアシスを作ると言っています。時間経過で枯れることもあると指摘したところ列を外して予備の落下地点を設けるそうです。そこからの水輸送ルートに敷設するため鉄道資材の安価な供給を求められました。車両や施設も抱き合わせでなら採算性があると思いますが、請けて宜しいですね?」

朝子10世:「相当金星に回しましたがまだ鉄は余るので赤字にならないなら賛成です。氷隕石補充の際に砂をかぶるので覆いを付けるよう勧めればその資材も売り込めるでしょう」

財部大臣:「バーターの原油はいくらでも転売先があるので財部省としても賛成です」

朝子8世:「宙軍大臣の提案も含め採算性に留意して進めて下さい。ところで、列状に落とすとなると冥王星方面の氷隕石採取は間に合いますか?」

朝子10世:「候補になる隕石は十分見つかっていますが、輸送のほうが厳しいです。従来の便では重機2機と降下艇1隻を積むために1回に輸送できる隕石移動装置は5基でした。いまカロンに向かっている”なると”は、18試重機で降下艇を代替し7基搭載しています。これがそのまま継続できれば良いのですが、新型重機の歩行制御に問題があります。マニピュレーターと4足歩行の制御が1人で出来ないため2人がかりでやっています。今回は、歩調を合わせられそうな乗員の組を揃えたのですが、毎回は難しいでしょう。一人で腕と4足歩行を同時に制御できる身体制御システムが出来ないと本格運用は無理です」

文部大臣:「人間は本来2足歩行です。それは脊髄を人工的に作るのと同じ課題なのでは?」

朝子10世:「その通りです。無脊髄サイボーグ身体制御改善の研究が成功すればいいのです。それが自在に出来るならソフトウェアのバリエーションとしてケンタウロスも可能になります」

文部大臣:「しかし、その研究自体が難航していると伺ってますが」

朝子10世:「実際、北米連のサイボーグから入手したデータの解析には手こずりました。データ量がむやみに多いのと、性感に関する部分が欠落していたことが難航の原因です。最近、経済特区の酉山科学研究所が協力するようになってからはだいぶ進展しています。あそこが補完関係になる研究成果を提供したので脊髄障害者用としての実用化は近いです」

文部大臣:「酉山?。ああ、特区に移転する前に鳥のサイボーグ化を成功させた機関ですね。確かにあの技術は小脳や脊髄の機械化に適していそうですね。筋は良いですが、脊髄障害のQOL改善とケンタウロスではかなり条件が違いませんか?」

朝子10世:「実寸のケンタウロスを軽快に走らせるとしたら、もちろんまだ無理です。しかし、重機の歩行というのは人で言えば脊髄障害者並みに鈍いので大差ありません」

刑部大臣:「このような重要技術を特区の民間研究機関に依存して大丈夫なのですか?」

朝子10世:「ある宙軍兵の個人的事情に関わるので詳しい理由は言えませんが信頼できます。この件に関しては皇室、正確には私自身が直接関わっていますので、全責任を負います」

刑部大臣:「東宮様ご自身が直接監督されるなら問題はありませんね」

朝子8世:「この件は東宮に任せるので極力早期に実用化なさい。次に金星の状況報告を」

朝子10世:「最初の大隕石と大気の温度差が大きいため予想を超える大渦が生じています。このため、氷が溶けるペースが計画より速く、小隕石の追加投入で保たせている状態です」

財部大臣:「メインベルト隕石で補ったのではかなりコスト増になりますね?」

朝子10世:「その通りです。大きさ、温度、水含有率のいずれも良くないので非効率です。水含有量の割に重くて核の冬が伴うためアリババの人工オアシス用に回せないのですからね。こっちをアリババの計画に使えればカイパーベルトでは大隕石収集に専念できたんですけど。幸い代替案について浮遊プラットフォーム増設現場から良い意見具申がありました。プラットフォームの日照が予想より強いので太陽電池が発生する電力が余っています。これを使って大気中の水蒸気を凍結させクレーター内水面に投下するというものです。氷塊の大きさは小隕石の1%程度ですが、プラットフォームが増えれば頻繁に投下できます。隕石よりも供給は安定するので水面の消失を防ぐつなぎの手段として有望です」

財部大臣:「数が多くなると冷凍装置にも相当なお金がかかりますね」

朝子10世:「コストの大半は製造費より輸送費です。冷凍装置は氷隕石より嵩張りません。半導体冷却素子なので一度持ち込めば半永久的に使え、氷投下量当たりのコストは有利です」

文部大臣:「外部から持ち込む氷と違い金星大気に放熱しますね」

朝子10世:「冷凍装置が放出する赤外線は極力上に向けて放射するように配置します。外に放射される赤外線の分だけは金星に熱を残さずに済みます」


(カロン上空)

ハル:「減速始めるからみどりも正確に脚を揃えてよ。よし、噴射始め。10分間連続ね」

みどり:「こんなにカロンが大きくなって...寒そう。お姉ちゃん、降下速くない?」

ハル:「速く見えても、18試重機の減速率ならこれで良いはずよ」

マオ:「月より遙かに小さいし、こっち側からは冥王星の引力もブレーキになるからね。初めての時は、私らも見た目でつい慎重になっちゃって、降りるのに余計な時間かかったわ」

ミキ:「レーダーの数値で落下のペースをプロットしてご覧よ」

みどり:「地表までの距離...うーん、さすがに重力小さいですね。こんなものか」

ハル:「残り2`、着地用意。位置調整、前方へ1`」

マオ:「採水ドーム前の氷原はなるべく踏み荒らさないでね」

みどり:「この忙しいのに滑るつもりですか?」

ミキ:「あんたたちは、積み荷を降ろしたらすぐ帰るけど私らは降下艇の給水待ちだがや。酉山研で試作した磁気サス足首ジョイントがカロンでも通用するか速く確かめたいしね」


(カロン地表 採水ドーム前)

マオ:「連続35回転ジャーンプ!。よーし決まったぁ。磁気サスは極低温でも効くわね。連続ステップの加減速も悪くないし、これなら完璧な演技が可能だわ。
これで先日のネット落書き犯人もあれを修正する羽目になるわ」

ミキ:「好調なのは良いけど、回しすぎで氷が抉れたがや」

マオ:「帰りがけに降下艇の試運転を兼ねてエキシマビームで凸凹を溶かしていくわ」

ミキ:「そおねぇ。ここは極低温だから表面を溶かしておけばすぐ真っ平らに凍るからね。カロンって、氷の整備が楽だからスケートやるにはいい環境だわ」

マオ:「ちょっと遠いのが難点だけどねえ。もっと手軽に来れればいいのにねえ。早く核パルス推進艦が建造できるようにならないかな。あれなら10日でしょう」

ミキ:「建造されたら乗員に志願するの?。再改造って怖くない?」

マオ:「そりゃまあ、小脳なんて奥まったところにあるから切り取るのはやっぱり怖いなぁ。生命維持装置の制御には関係ないけど昔は脳幹が潰れたら脳死って事になってたんだしぃ。でも私らに適用できるようになるのは、冬子さんや理美が成功したあとの話でしょう。ここまで技が高度化しちゃうとスケート続けるならどうせ脳改造は避けて通れないわ」

ミキ:「うーん、確かに最近怪我が多くなっているし仕方ないのかなあ。私、今日も脚の調子は良かったけど遠心力で肩関節が外れかけたのよ。やっぱり、部分的な強化が追いつかなくなってるから全身の統括制御は改善が必要よね」

マオ:「そうだったの。くく、もうちょっとであんたも腕がもげてメカバレだったか。お、採水施設の給水完了信号が来たわ。人柱どもも真面目に働いているようね。どれ、うん、ちゃんと満タンになっているわ。よし、さっさと重機乗っけて帰ろうよ」

ミキ:「リンクの整備忘れちゃダメじゃん」

マオ:「おっと、そうだったわ。氷原の整備も人柱に押しつけられればいいのにね」

ミキ:「あいつらにエキシマビームなんか与えたら、ぼこぼこに荒らされるわよ」


(金星成層圏 第7浮遊プラットフォーム 製氷施設)

マミ:「しっかり固まったわね。これでやっと50個揃ったか。手間かかったなあ」

ユミ:「渦周辺の風が強くてプラットフォームを真上に移動できないのがきついわね」

マミ:「まさか200`も先から氷を大砲で撃ち込む事になるなんて想定外だったわ」

ユミ:「でも方法があって良かったわ。無人飛行船も危なくて近づけないなんてね。せっかくのアイデアも、投下方法が無いんじゃあ一時はもうダメかと思ったわ」

マミ:「でも、あの大砲ってすごく古い資料を元にして作ったんでしょう。昔あった、戦艦っていう水上兵器で実績があった最大の砲身の模倣品だそうよ。地球上での射程が50`だって言うし、本当に2dの弾が200`も届くのかな」

ユミ:「ここの高度と気圧ならそれくらい飛ぶって言う計算を信じるしかないわね。それに昔の射程距離って、動く目標に当てられる限界だから飛ばすだけなら行くわよ。でも、昔の人はこれをレーダー無しで当てられる照準器まで作ったんだってね。ディジタル回路もない時代に船の揺れまで補正して飛ばすなんて、よくやるよね」

リエ:「発射準備は出来たか?」

マミ:「氷の砲弾50個は保冷式自動装填器にセットしました。火薬はこれからです」

リエ:「火薬袋の扱いは慎重にね。今どきの薬筐と違って小さな火花で誘爆するのよ。もし誘爆したらこの巨大なプラットフォームだってばらばらになるわ。特に静電気は厳禁だからね。入念に体の準備をしてから始めなさい」

マミ:「承知しています。体の静電対策にかかります」

ユミ:「あーあ。これをやる度に新品のメタルスキンに換えた上で全身金メッキか。しかも氷を扱うときはメタルだとひび割れしやすいから低温用人工皮膚でしょ。うんざりするわね」

マミ:「このために頭を坊主にするのも憂鬱よね」

ユミ:「SM用の電気鞭頭髪なら導電性だからOKよね。今度取り寄せようよ」

マミ:「あれって、風俗営業税課税扱いの贅沢品よ。高く憑くわ」

ユミ:「公務上必要ってことで管給品にしてくれるんじゃない?」


(火薬庫)

マミ:「よいしょっ、これで200袋目。やっとセットが終わったわ」

ユミ:「しかし贅沢よね。この火薬袋って全部天然シルクなんでしょ。高級ドレスが何着出来るやら。氷の製造より遙かに高く憑いてるんじゃないの」

マミ:「どうかな。満漢や印度では随分安いらしいし軽いから輸送費は無視できるわ。昔の大砲だから静電対策もそのままやるって言うのは、いまいち納得できないけどね。誘爆したらプラットフォームもろとも一巻の終わりだから冒険は出来ないのかな」

リエ:「火薬のセットは出来たか?」

ユミ:「たったいま、搬送装置に並べ終えたところです」

リエ:「良いタイミングね。クレーターまで250`の地点に来たわ。そろそろ風が強くなるから、砲台脇の監視所に入って揺れに注意していて」

マミ:「どうやら、撃ち終わるまでこの格好悪い外装を元に戻すヒマが無さそうね」

ユミ:「どうせリエさんが許してくれないわ。緊急時に火薬袋を触ることもあるって。まあ、製氷作戦のアイデアは自分らの提案だし、高額ボーナスも貰ったから我慢ね」

マミ:「氷の投下は私らのアイデアだけど、ださい大砲は一体誰が考えたのやら」

ユミ:「ださいって言えば、口径46aって半端よね。何で50aとかにしないかな」

マミ:「昔の尺貫法かなんかだときりが良かったのかな。白人って保守的だからね」

ユミ:「この大砲の資料って、大東亜のデータベースから拾ったんじゃないの?」

マミ:「白人が開発したのを無理矢理大型化したから半端なサイズになったそうよ」

リエ:「クレーターまで200`、プラットフォーム指向よし。衝撃注意。発射!」

ユミ:「うわあ。聴覚回路壊れそう」

リエ:「砲身冷却。監視所、異常はないか?」

マミ:「給弾装置、火薬装填装置とも不具合ありません。弾着はどうです?」

リエ:「まだ飛行中よ。方向は良いみたいだけど、反動で揺れたから距離が心配ね。プラットフォームの姿勢は大きく乱れなかったけど、昔の戦艦ほど重くないからね」

ユミ:「まだ届きませんか?」

リエ:「あ、落ちたわ。中心から2`だからクレーターの斜面には入ったわね。斜面がかなり急だから溶けずに転がり落ちるはずだわ。よし初弾命中っと!これなら毎週しつこく撃ち込めば水面を維持できそうね。どんどん撃つわよ。発射!」

マミ:「毎週これをやるのぉorz。大砲の代わりになるリニアカタパルトが欲しいわ」

ユミ:「本国で実験したけど飛距離が大砲の半分しか無かったらしいのよ。金星の気温が少し下がれば渦も小さくなるから、それまで大砲で間に合わせる気ね」

マミ:「気温が少しって、いつの話かしら。こりゃ当分は毎週メタルスキンヘッドか。前陛下の遺言実行は大事だけど、トホホだわ」

ユミ:「せいぜい火薬袋でシルクの感触でも楽しむしかないわね」


(冥王星ーカロン重力均衡点の”なると”艦橋)

マサ:「本国から指令です。金星で製氷作戦が成功したので氷隕石輸送計画変更だって。大隕石に設置する移動装置を3基から2基に減らして、低速で移動するのを増やせと。降下艇が1隻しかないのに設置場所が別れると時間がかかりますね」

真理亜:「今回は手間がかかるけど、今後のローテーションが楽になるでしょ。休みが取りやすくなるんだから良いじゃないの。早速作業員を集めて頂戴」

マサ:「隕石移動装置設置班は全員艦橋に集合せよ」

マオ:「どうしました?。予定変更ですかぁ」

マサ:「金星の方がうまく行ったので移動速度を落として数を増やせって」

ミキ:「すると工事箇所が別れるから推進剤の補給も多くなりますね」

マサ:「あれ?。面倒になるのに、あんたたち嬉しそうね」

マオ:「えへへ。給水待ち時間のお楽しみってやつですよ。脚の調子がいいし」

ハル:「休暇中は無理矢理引き込まれて大変だったけどカロンで滑るのは楽しいわ」

みどり:「そうそう。観衆の前でM字開脚滑走とかしなくて良いですし」

真理亜:「なるほど。カロンじゃそれくらいしか楽しみもないから、まあ良いけど。だけど、あんまり頻繁に体を壊さないようにしなさい。予備部品足りなくなるわよ。この艦は、重量制限がきついから、必要最小限しか積んできてないのよ」

ミキ:「お父さんの影響か、最近は理美が休憩時間に部品の再生をやっています。けっこう安くやってくれるので、便利ですよ。今日も肩を修理して貰ったんです。再生品といっても、あの娘才能があるから新品より性能が出るくらいですよ」

真理亜:「ふーん。理美はそんな能力もあるのか。採用して大当たりだったわ。マサに比べると随分お買い得だったわねえ」

マサ:「えーん、また苛められたよぉ」

マオ:「副長、お気を確かに。では、私らは隕石移動装置の搬送にかかります」

真理亜:「マサも出なさい。マーク済の氷隕石に異常がないか先行確認よ」

マサ:「私一人でですか?」

真理亜:「90式が上がってきてるでしょ。藻前はあれが得意機種だろうが。18試重機は2機とも隕石移動装置の輸送と設置に使うし降下艇は機関長が使う。これから採水施設を酷使するため原子炉をよく手入れしないといけないからね。藻前ならパワー不足の90式でもここらで自在に飛び回っていたから大丈夫だな」

マサ:「このごろ歳のせいか寒いのが苦手になりまして...」

真理亜:「おバカなこと言ってないで、さっさと行って来い!」


(金星可住化事業の開始以来、帝国の娘達は氷にまつわる苦労が尽きなくなりました。まあ、中には私用で勝手に苦労を増やしている娘も居ますけど。現実世界のフィギュアスケートは能力・年齢など、まるで素体審査会を見ているようです。徴兵担当官を派遣したくなりますが、妄想世界から現実世界に渡る手段がないのが残念です。妄想世界ではマオにお姉さんが居なかったり、情報の欠落はあるものの、やはり現実世界の戦況が妄想世界に影響を与えるのでゴール寸前で迷走していましたが、次回は本編最終回(35)「屯田兵」の予定です)

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