>改造を始めます YES/NO
「ちょっと、待ってよ。私、もう改造なんて嫌よ」
 YESと入力しようとした僕を止めたのは銀色の晴香の手だった。
「でも、このままじゃ勝てないよ。現状で出来る最強の改造をしないと。また、負ける気か?」
「う、でも、こんなの嫌よ。あなたが戦いなさいよ」
「無理なのぐらい知ってるだろ。何回試したんだよ?」
 初期設定でサイボーグになった人間以外改造はできない。このゲームが始まってすぐに何度も試した事だ。だから、サイボーグになれるのは今は晴香だけだ。
「うぅ、でも何で私だけなのよ?」
「仕方ないだろ。そういう設定になっちゃったんだから。それにこのまま進めれば、千鶴姉さんと、茜も仲間になる筈だろ」
 そう、TVゲーム「Cyborg Warriors」では、最初に登録したキャラが徐々に仲間に加わっていく筈だ。
 一人目は晴香、二人目は千鶴姉さん、三人目は妹の茜が登録されている。
「うん、けど、姉さんや茜ちゃんは無事なの?」
「多分、大丈夫だろう。少なくとも、仲間にならないでやられる事は無いはずだ」
「そうなの?」
「ああ、けど、そのためにはイベントを進めないと。晴香がやられたから余計な時間がかかっちゃったよ」
「うん」
「で、さっきの改造を始めるよ」
 僕は隙を突いてYESを押した。
「あ!」
「CW−1HARUKA、再改造を開始します」
 コントロールルームに機械音声が響き渡り、晴香の動きが止まる。
「やったわね」
「改造が終わるのを待ってるからね」
「この人でなしー!」
 作業員に運び出されながら、晴香は非難の声を上げたが僕は無視を決め込んだ。




 Cyborg Warriors

 3人のサイボーグを指揮して敵を倒す。シミュレーションゲームで有名なC.B.Rの最新作であるこのゲームを始めたが全ての始まりだった。
 キャラエディッタで自由にキャラが設定できるのが売りのこのゲーム、選んだのは幼馴染の晴香と、姉の千鶴、妹の茜だった。
 3人を写真で画像取り込みし、細かい設定を入力し、最後にスタートボタンを押した時だった。
 多分落雷だろう、凄い音がして世界が真っ白になった。

 真っ黒な空間で気がつくと晴香と千鶴姉さん、そして茜の3人が立っていた。
「CW−1 HARUKA」
 機械音声がすると、晴香の周りが明るくなる。
「CW−2 TIZURU」
 次は、千鶴ねえさんにスポットがうつり、
「CW−3 AKANE」
 最後に茜の周りに光が差し込んだ。
 三人とも突然の事に驚いている。僕自身も驚いているんだ。当たり前の事だろう。
 そうこうしていると、

 Cyborg Warriors

 と、大きな文字が現れ、再び世界が光に包まれた。
 次に気がつくと、軍服のようなものを着て椅子に腰掛けていた。
「司令、適応者をお連れしました」
 同じような服(もちろん女物だ)を着た女性が急に話かけてきた。
「司令? 適応者?」
 俺の事か? 適応者って? さらに混乱していく。
『お通ししろ』
 勝手に口が開き許可を出す。
 すぐに入り口と思しきドアが開き、軍服の男二人と入院着のような服に身を包んだ晴香が入ってきた。
「耕一。何がどうなってい『柚原 晴香です』え?なっ、何?」
『私が司令の柏木耕一です』
 また勝手に言葉が出た。それは晴香の方も同じようだ。
 だが、喋り終わると同時に周囲の人間の動きが止まる。
 それと同時に、胸のポケットの中でバイブレーターが激しく自己表示を始めた。
「ちょっと、耕一何がどうなっているの?」
 晴香が不安6割、怒り4割といった表情で叫んだ。
「俺もわかんないよ」
 不安なのはこちらも一緒だ。何が起きているのか分からない。
「ただ、もしかするとゲームの中に入っちゃったのかも…」
「は? 何言ってるの?」
 仕方ないから、俺は全て話す事にした。
 「Cyborg Warriors」を買った事、エディッタで3人を入力した事、雷?が落ちたこと、雑誌やOHPにあるオープニングそっくりだということ。
「耕一、勝手に私を使ったの?」
「いじゃんかよ。それより、それ所じゃないだろ」
「そうね。それでこれはどうなってるの?」
「わかんない」
「わかんないって、耕一どうするのよ? あ、そのバイブしてるのは何?」
「あ、ああ」
 取り出すと、ポケコンのようなものだった。
 開くとスクリーンには
>選択肢
>なんと声を掛けますか?
>A.済まない。こんな事をさせてしまうなんて…
>B.これからよろしく頼む
>C.今日から貴様は我々の命令に従ってもらう

「選択肢だ…」
 横から晴香が覗き込んだ。
「何これ?」
「どうも選ばないといけないらしい」
「…」
「…」
「本当にゲームなのね」
「そうみたい」
「どうするの?」
「どうしよう?」
「うーん、私はAかな」
 横から手を出して操作しようとするが、手はスカッと空を切る。
「あれ?」
 同じように繰り返すが、触る事すらできないようだ。
「なんで〜?」
「どうやら俺しか触れないようだな」

 まあ、晴香が選んだんだし、
「よし、それじゃあAにしよう」
 Aを選択。
『済まない。こんな事をさせてしまうなんて…』
『いえ、私が志願したんです』
『ああ。これから共に頑張ろう。我々は君を全力でバックアップさせてもらうよ』
『はい。よろしくお願いします』
 晴香が笑顔で返して、自動会話は終了した。
「これからどうなるの?」
「もちろん改造だろ…」
「マジ?」
「マジ」
「嫌よ」
「嫌って言っても…」
 そういった次の瞬間、晴香は敬礼し踵を返して部屋を出て行った。
「いやー!」
 断末魔のような悲鳴が聞こえて扉が閉じた。
 
 扉が閉じた次の瞬間、また世界が静止した。
 ポケコンを開くと、晴香のステータス画面が映し出された。
>ステータス変化
>好意   50 → 65 (+15)
>意思   80 → 90 (+10)
>CW−1のランクが変化します 協力者 → サイボーグ戦闘要員ランクE
 うわー、マジゲームだよ… ステータス管理されてるんだ…
 次という部分をクリックする。
>改造タイプを選んでください
>A.万能型義体AP−T2
>B.射撃型義体RP−T3
>C.格闘型義体BP−T4

 全部人型の義体だ。細かいステータスが表示されているが、一人目はAでやるのがお勧めと言う説明書の記述を思い出す。
 まあ、Aだろうな。
 Aを選択する。
>パワー   3 → 30
>スピード  4 → 30
>射撃    1 → 35
>格闘    1 → 35
>人間性 100 → 80
 一気にステータスが上がった。初期値は… 仕方ないな。
 これからが大変だ。
 OKの部分をクリックした。

「改造が終了したようです」
 晴香の改造が終わったようだ。
「もう会えるのか?」
「はい、起こしてあげてください」
 そう促され手術室へと向かった。
 そこにいたのは銀色の身体の少女だった。
 まるで晴香の身体を顔だけ残して銀色に染め上げたようだった。
「もう目を覚ますはずです」
 技官が説明をする。
 するとすぐに晴香が目を開けた。
「晴香。気分はどうだ?」
 周囲を見回し、身体を見下ろした。
「本当に改造されちゃったんだ…」
「ああ」
「でも、ちょっとカッコいいかな」
 そう言って、晴香は微笑んだ。
「でも、もうこれ以上の改造はごめんよ」

 それから1ヶ月の晴香のスケジュールは身体に慣れることがメインだった。
 今までとは全く違う身体の仕組み、人間離れしたパワーとスピード、それに慣れるのは中々時間がかかった。


「初の実戦だ。緊張するなよ」
 通信回線の向こうにいる晴香に声をかける。
「大丈夫、緊張しても筋肉の収縮なんてしないもの」
 声が少し震えがある。撃たれても大丈夫だと言っても、やはり緊張しているのだろう。
「落ち着いて、いまの晴香なら楽勝だぞ」
「うん、じゃあ行くわ」

 そして数分後、制圧完了。ミッション成功の連絡を受けることになった。
「死亡者0、逃亡者0、被弾0。見事な仕事ぶりだな」
 笑いながら晴香に語りかける。
「うん、なんとかやれたわ」
 笑顔で返す晴香。
「この調子で行けば、無事にゲームクリアできそうだ」
「うん、私も頑張るわ」
 近寄ってきた晴香が目を瞑った。
 そのまま、唇を重ねた。ファーストキスは冷たかった…

>ステータス変化
>好意   65 → 80 (+15)
>意思   90 →100 (+10)
>人間性  80 → 90 (+10)
>功績値が溜まりました
>CW−1のランクが変化します サイボーグ戦闘要員ランクE → サイボーグ戦士ランクD

「で、パワーアップのための再改造が出来るようになったんだ」
「嫌!」
 取り付く島も無い…
「そろそろ敵も強くなるし、パワーアップしとかないとマズイぞ」
「大丈夫だって。今の所、全然苦戦するような事は無いし、やばくなってから考えようよ」
「大丈夫かなぁ… そろそろボスが出てくる頃なんだが…」
 この心配はすぐに当たる事になった…

>強制任務です
 スケジュール管理画面で現れた文字は、ボスの出現を表していた。
「晴香、本当にボスが来たぞ」
「大丈夫。今まで通りやればいけるわ」
 自信満々な晴香をみて、こちらも少し自信が出る。
「よし、全力で行って来い」
「うん」
 結果的にこの考えは甘かったと言う事になる…

「この程度で勝てると思っていたとは… 笑わせるな」
 任務先にいたのは今までの敵とはレベルの違う相手だった。
「我輩の技術力は貴様らのそれを上回っている様だな」
 大型のロボットが吐き出した大口径の機銃は晴香の手足を打ち抜いていた。
「そんな… 強すぎる…」
 Dr.Mと名乗ったマッドサイエンティスト風の老人が高笑いし、ロボット共に消えた。

「YOU LOSE」

 俺達の初めての敗北だった。
回収された晴香は生命維持モードに入っており意識を失っていた。
 即座に回復処置が行われ、翌日には元通りになっていた。
「再改造の必要がある」
 そう切り出したのは俺だった。
「それだけは嫌だって言ったでしょ」
 そう言うと、晴香は司令室を出て行ってしまった。

>ステータス変化
>好意   80 → 70 (−10)

 好意が減ったか… まあ、当たり前だろう。

 それから数日間話し合いを続けたが、結果は決裂し、最終的にとった手段は強制的に改造する事だった。

>ステータス変化
>パワー  35 → 60
>スピード 34 → 60
>射撃   37 → 65
>格闘   38 → 70
>人間性  90 → 50
 改造の結果、戦闘力は大幅に上がった。これであの敵には確実に勝てるだろう。
 だが、人間性の低下がきつい。このままにしておく訳にはいかない。
 そんなことを考えていた俺に追い討ちがかけれた。

>強制改造によるステータス変化
>好意   70 → 45(−25)
>意思  100 → 70(−30)
>人間性  50 → 35(−15)
 マズイ。さらに下がるのか…
 本気で対策を考えないとやばい事になる。
「よくも、やってくれたわね。私の意思なんて無視なのね」
 顔合わせるなり、怒りに震えながら叫んだ。
「仕方ないだろ。勝たなくちゃならない。それとも、このまま負け続ける気か?」
「ふん。もう好きにすればいいわ。どうせ私を道具扱いして、クリアすればいいでしょ」
 晴香の機嫌は直りそうも無かった…


>強制任務の再チャンスです
 次週のスケジュール決定時に現れた文字はチャンスの到来を示した。

「く、我輩の最高傑作が… アレさえ完成していれば…」
 Dr.Mは負け惜しみをしながら消えた。
「勝てた… 耕一。私勝てたよ」
 前回全く歯が立たなかった敵に、晴香は圧勝する事ができた。
「やっぱり、ちゃんとやらないと勝てないのかな…
 嫌だけど、勝つためには改造しないといけないみたい…」
「ああ、出来れば次以降もまめにパワーアップしたいんだ」
「うん、考えておくね」

「それより、この奥調べた方が良いよね。
 Dr.Mもなんか作りかけの物があるって言ってたし」
「ああ、気をつけてくれ」
「うん」

 アジトの奥にあったのは、想像もしていないものだった。

「あれって、千鶴さんだよね」
「ああ、姉さんに間違いない」
 顔は間違いなく千鶴姉さんだ。だが、首から下に繋がってるのは肌色の肉体ではなく、作りかけの銀色の機械だった。

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