大型犬用の檻の中で綺麗なマットの上に銀色の身体を横たえる。最初のうちは辛かった環境も思いのほか早く順応してしまった。今ではこの体勢が一番リラックスできる。嫌だった首輪も今ではなんの違和感も無い。鏡に映る私の姿は金属で出来た外観以外は、完璧に犬そのものといっても過言ではないだろう。檻に張られた私の写真だけが私が人間だったことを表していた。
犬型の義体を与えられ、犬として躾けれ、犬として扱われている。そのことは私を急速に犬へと変貌させていった。
今では専用のトイレで人前で用を足しても何の羞恥心も無い。果たして、1年後に自分が人間だったということ覚えていられるだろうか?
大事に飼ってくれるなら、人間でなくても構わないかもしれない。そんな思いが過ぎる。
だめだ。私は人間だ。
鏡の中の銀色の犬が見つめている。
「貴女は犬じゃない。どう見ても犬そのもの。檻の中を快適だと思っている。犬以外の何だと言うの?」
そんな言葉が聞こえてくる。
私は人間。でも人間でいられるのはそう長くはなさそうだ…
「犬になってもらえませんか?」
会議室で言われた第一声はこんな物だった。
「動物型義体の研究とそれを使用するに当っての人間の心理学的影響について調べたいのです。つきましては貴女には犬型の義体への改造手術を受けていただきたいのです」
「冗談じゃありません。嫌です」
「1億円の報酬と保管しておいた元の身体への再移植、および学位課程の卒業資格と修士・博士課程の授業料免除です。条件としては悪いお話では無いはずです。それに今期の受講料の支払いが滞っているようですね。失礼ながらご実家の財務状況を調べたのですが、あまり芳しくないご様子ですね」
返事に詰まる。
「大学側としては規則どおり月末には退学処分という結論を下さなくてはなりません」
両親は投資に失敗して学費の振込みは無理だと連絡があった。このままでは大学を辞めるどころか住む家すらなくなりかねない。
「では、資料だけでも読んでおいて下さい」
HDプロジェクトと書かれた紙束を渡された。紙束には極秘・持ち出し禁止と赤く大きな字で書かれていた。
中には期間や目的、予定されているテスト内容などが一部黒く塗られてびっしり書かれていた。
その中でも目を引いたのは、被験者との重点契約事項だった。
-
私はHDプロジェクトへ被験者として参加を希望し、D型義体への改造処理を受けることを同意します。
-
私は、すべての私の権利と、人としての基本的人権を1年間停止することに同意し表明します。
-
私の契約は、担当教授及び助手によって、すべての状況において実験用備品として扱かわれる事を許可し、これは解除不可能とします。
-
私は、実験に関係する全ての規則、及び、規律を守り、実験用備品としての状態を保つことを同意します。
-
私への医学テスト、機能テスト、及び、他の処置を許可します。
-
私は、私に対し厳しい犬の調教プログラムが実行されことに同意し、その為には無条件に身体改造や潜在意識プログラミングが含まれている事を承認します。
-
私は、この実験に関して私の情報がどのように使われるかを、担当教授および助手に一任します。
信じられないような文面だが、本当に私を犬に仕立て上げるつもりらしい。一般には流通していないD型義体すなわち犬型の義体のサンプル画像まである。
「一応、極秘事項になっていますので口外はしないで下さい。今すぐに決められるのは難しいと思いますので3日間猶予を設けましょう。3日後の同じ時間にこの場所へ来ていただけますか?」
「はい、それでは3日後に」
金銭的な余裕はまったく無いことは確かだった。それにこの時期に退学処分になったら就職することも困難だ。
それに対して、1億円という報酬と博士課程までの授業料免除。魅力的過ぎる提案だ。そして、それが1年間ではどうやっても得られないであろうと言うこと。
いつの間にか結論は出ていた…
「決まりましたか?」
再び顔を会わせた教授の第一声は回答を促すものだった。
「はい。被験者として参加します」
顔を上げることが出来ず、俯いたまま消え入るような声で答える。
「それはよかった。いや、君ならやってくれると思ったんです」
「そうなんですか」
「はい。ではこの書類にサインを」
前回見せられた書類とは違う束を渡され、幾つもの箇所にサインと拇印をする。
「これで契約は完了。明日から1年間頑張ってもらうよ」
「お願いします」
こうして私の犬としての生活が始まった。

風俗 デリヘル SMクラブ