ついにやってしまった・・・。今、腕の中で眠る無垢な少女の顔を見下ろしながら私は躊躇いを感じている。いや、ここに到って躊躇い感じている自分自身に驚いていると言うべきか。ここまでことを起こしてしまった以上、今更後戻りはできない。この子には顔を見られている。ここで引き返したら身の破滅だ。
 お恥ずかしい話だが...。私は昔から10歳くらいの少女が好きだ。「時よ止まれ!おまえは美しい」と言ったのは誰だったか...。
私の眼鏡に適った少女達も残酷な時間の流れの中で成長を...いや、敢えて言うなら老化への道を進んでしまう。
 私は彼女たちを老化から救いたかった。もちろん、社会的に許される行為でないのは理解している。しかし、だからこそ挑戦する意義のある行為だと思ったのだ。
 そのために、私は「とある秘密結社」の研究員として働いてきた。私は良心と引き換えに、人体改造に必要な数々のノウハウと資金を手に入れた。良心?そんな言葉は忘れたつもりだった。ビル破壊、ハイジャック...。悪の秘密結社に所属するからには多少のことは看過してきた。
 だが、今回の計画だけは許せなかった。小学生を拉致監禁して改造し醜い怪人にしたてあげ学校を襲撃させるというのだ。しかも、その改造を私にやらせようと言うのだ。私は組織からの離脱と徹底交戦を決意した。

 私の腕の中の少女。名は朱美。私と同じ町内に住み、名門小学校に通っている極普通の少女だ。友達思いで芯の強いこの子なら、きっと私と一緒に「組織」と戦ってくれるだろう。科学者としての冷酷な自分が弱い自分を抑え込み、世界のためという大義名分が私を最後の迷いから解き放った。
 私は車の後部座席に優しく少女を横たえると、転がって怪我をしないように...暴れて自らを傷つけないように、しっかりと固定した。私はハンドルを握ると家々の窓から零れる暖かな光に背を向けるようにして、ゆっくりと車を走らせた。



 目がさめると、まっしろな天井が見えた。なぜ?体が動かない。だから見えるのは白い天井だけ。さいしょボンヤリしていた頭がハッキリとしてくると、体が動かせないことが急に気になりだした。
 あたし、どうしちゃったんだろう?心臓がドキドキして胃がちぢむような感じがする。おヘソの下がキューっと痛くなって、せなかがゾクっとなった。

 あたしは、思わずギュッと目を閉じた。悪い夢ならさめてくれたら...。そうだ、何があったかを思い出してみよう。
 学校の帰り…クラブ活動で遅くなったから急いで帰ろうとして…いつもどおり公園を通る近道をぬけて…。そのとき、人の良さそうなおじさんに道を聞かれたんだ。本当に困ってる感じ、マンガに出てくる道に迷ってる人って感じのおじさんだった。
 地図を見ながら説明してあげてると、首のうしろあたりにチクっとして…。

 最後に聞こえた声は「ゴメンネ」だった。

 コンコンとドアをたたく音がしてだれかが部屋に入ってきた。
「目が覚めたかい?」
 聞いたことのある声…だれだったっけ…。ぎゅっと閉じていた目をあけると、道を聞いたおじさんの顔が見えた。
「おじさん、誰? あたしに何をしたの? こんなことして良いと思ってるの!」
 あたしは大きな声でさけぼうとして…。小さな声しか出せないことに気づいた。
「すまない…。他に頼める人が思いつかなかった…。本当は無理やり進めてしまっても良かったんだよ。君の事を考えるとそうするべき…、いや、こんなことに巻き込まないのが一番だったんだが…」
 おじさんはポツポツと話始めた。待って!あたしの質問に答えて!必死な顔でできるだけ大きな口で「ダレ」と言うと、おじさんはやっと気づいたようだ。
「あぁ、私は…北崎だ。あ、本名を言っちゃダメだったか…。仕方ないな。どうせ後戻りはできないんだから…」
 少し寂しそうな顔で、おじさんは話を続けた。
 すぐにでも逃げだしたかったけど、体が動かないから仕方ない。たぶん誘拐だと思うけど下手にあばれて犯人?を刺激しちゃダメ。もし聞いてるフリで済ませても、後から話をきいていたか調べるかも知れない。国語の松岡先生がよく使う手だ。まず話を聞こう。



 全身拘束された朱美を見ながら、私は申し訳ない気持ちで一杯だった。
 一見して、彼女は気丈に私の話を聞いているが、時々目だけはキョロキョロと周囲をうかがっている。
 さっきはこの子の一途な目に射抜かれて、ウッカリ本名を言ってしまった。あぁ、なんてことだ。もう後戻りなんかできない。でも、この状況下で人の話を聞こうとする朱美の聡明さと健気さに私は舌を巻いた。どこか迷い続ける自分の中で、冷徹な自分が満足そうな微笑みを浮かべるのを感じた。
 ともすれば、焦って早口になりそうな自分を抑えて、出来るだけ判り易く説明する。「組織」のこと、自分のこと、目前に迫った「組織」の計画のこと。
 あぁ、私は何をしているんだろう。こんな説明をしても小学生には理解できるはずがない。全ては自分自身への良い訳に過ぎないのに。
 それでも朱美は彼女なりに理解しているのだろう。途中から私の目を見据えて話を促すような眼差しを向ける。時々それとなく視線を彷徨わせるのは、説明不足か聞き取れないところのようだ。もう一度説明すると、判ったというように瞬きをする。

 私は朱美に「組織」に対抗するためのサイボーグが必要だと打ち明けた。ロボット、つまりアンドロイドではダメなこと。即座に判断して動ける人間が素材として必要であること。それが作れるのは世界で自分しかいないこと。悲しいかな自分が唯一できるのは少女を素体としたサイボーグだけであること。
 思わず、私は朱美に向かって土下座をしていた。すまない、申し訳ない、より多くの命を救うため、君の命を貸してくれ。科学者の我侭、私の身勝手さにつき合わせることになってしまった。
 言うべき言葉が見つからなくなって、私はもう一度朱美の顔を見た。



あたしは、だまって北崎さんの話を聞いている。イロイロ聞きたかったけど、声が出せないから仕方ない。北崎さんはツッカエながらも判りやすく話をしてくれている。
 なんだか、マンガみたいな話。アクのヒミツケッシャ?まっどさいえんてぃすと?ウソでしょ?信じられないー!
 え、組織にタイコーするためにはサイボーグが必要だって…。しかも改造できるのは少女だけ…。だから私!そんな…。
 突然、となりで座っていた北崎さんの顔が見えなくなる。
 物音と声の感じで、床にすわりこんで頭を下げてるのがわかる。しばらくして、もう一度北崎さんは私の顔を覗き込んだ。困ったような顔をしてる。でも、目だけは必死な感じ。おとなりのマー君が泣きそうな顔をするときの目...。アタシを頼ってるときの目だ。

 しばらくあたしを見詰めた後、北崎さんは話を続けた。
「私が君を守る!この身に替えても君の命は守ってみせる」
「生活は苦しいものになるだろう、だが二人で頑張ればきっと明るい未来がくる」
「私は君を死なせたりしない。万が一死ぬときは二人一緒だ」
「リ○ン」「な○よし」で読むような熱っぽいセリフが並んでいく。も、もしかして、プロポーズって奴?でも、なんだかオカシイよ。

 北崎さんの説得が続いている。

「例えどんなことがあろうと、私は君を絶対直す。私の命に代えても直す」
「どんなダメージからも修復する。たとえ肉片になっても再生させる」
「君を不死身のサイボーグに...。いや、限りなく不死身に近いサイボーグに改造させてくれ」

...北崎さん、ちょっと、それ、シャレになってないよぉ。

「もし君が戦わないというなら、それも構わない。でも、どれだけの子供達が犠牲になるか...」
「君の努力次第で、君の大切なものを守れるんだよ」
「犠牲者の中には君の友達も含まれるだろう。何もしなければ君も死んでしまうだろう」

...今度は脅し?ソレ、ちょっとズルイと思います。

「サイボーグは年を取らない。君はずっとそのままの姿だよ」
「君は美しく、可愛く、史上最強の小学生になるんだよ」

...でも、それって…。良いことばかりじゃないでしょ?
素敵な彼氏とか可愛い赤ちゃんとか…。あきらめないと…。

「全てが終わったら、君を元通りに戻せるように研究中だ」
「ちゃんとした人間として、普通の生活にだって戻れるハズだよ」
「でも、今は研究中だから…。100%の保証は出来ない。すまない」

...なぜだろう。あたしは北崎さんを信じてみようと思った。あたしが頑張らないとみんな襲われちゃう。親友の喜美子や礼司君を守ってあげないと。
 それに、ここまで秘密を知ったあたしを、このまま帰らしてくれるはずがない。
 それに…、それに…、何よりあたしを一人前に扱ってくれてる。
 いつも子ども扱いしかしてくれないお母さん、成績しかみてくれないお父さんにはちょっとウンザリしてるんだよね…。そうだ、家族は??

 あたしは大きな口で「か・ぞ・く・は?」って聞いてみる。

「改造前と変わらないようにするから大丈夫だ。身長、体重、スリーサイズからホッペタのプニプニ感まで完全に再現する。CTスキャンやMRIもコンピュータにジャミングとハッキングをかませて完全に乗っ取るからばれたりしない」
「もし、家族と温泉旅行に行っても判らないはずだよ」
「味や舌触りは変わらない。ただ、トイレには行けなくなる」

 これ以上聞いてもダメだろうと思った、たぶん、あたしには理解できない。わかったことは、北崎さんは諦めないってことだ。この調子で、ずーっと説得される。最初に「引き返せない」って言ってるし。

 言ってることは無茶苦茶だし、ハッキリ言ってキチガイ科学者だと思う。でもウソは言わないってない。あたしを子ども扱いしてない。無理やりヤッちゃえば良かったのに、この人の言うことが本当ならあたしをあやつり人形にするのも簡単だと思う。
 それでも必死に説得する…。変だけど良い人。私は諦めて声をかけた。

「判りました。あたししかいないんでしょ? 最後まで面倒みてくださいね。あと、人間に戻す研究は絶対完成させてください」

 北崎さんの顔が明るくなった。しかられてしょげ返っていたヒロ君が給食を目の前にして復活?したときみたいな笑顔だった。

「そ、そうか。じゃ、早速…。オペさせてもらうよ。大丈夫まかせてくれ!」
 北崎さんはあたしを残して部屋から駆け出して行った。



 オペルームに戻ると、私は愛用の眼鏡を掛けた。眼鏡は良い。心が落ち着く。いつも悩み続ける自分、弱い自分の揺れ動く感情を安定させられる。
 いつものように冷徹に計画の再確認をしつつ、手だけはオペの準備を続けながら…。心の奥に温かい感情が残っているのを感じた。
 理性と理論だけで行動する限りにおいて100%の成功を納める私。感情は…私の中の負け犬は、何かと私の行動を制約し続けてきた。
 だが、今回は少し違うようだ。私の中の負け犬は、目標を見つけた猟犬のようだ。信頼できる主人を得たように生き生きとしている。
 朱美の力か。彼女の信頼が私の気持ちを高揚させている。理性と感情。二つの私が、今、一つの目標に向かって100%の力を、いや、120%の力を出し切ろうとしている。
 今の私なら、オペは間違いなく成功するだろう。
 今の私とサイボーグ化した朱美なら、「組織」を壊滅できるだろう。

 だが...。最後はどうなる?朱美は元の身体に戻りたがっている。子を産み育てられる身体とは、老いて死にゆく身体だ。私は老いから少女を救いたかったのではなかったろうか?

 まぁいい。今はオペに集中しよう。そして組織の壊滅に全力を尽くそう。ここで全ての答えを出す必要はない。私の頭脳をもっても未来の全ての事象を予測して答えを出すことは出来ないのだから。


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