174号は、G氏が知人から入手した性奴である。出自などの過去については、性奴にもある程度の守秘が法的に認められているため不明である。

 彼女には、永久貞操帯が装着されていた。内部に留置されていた電動ローターも、動かなくなって久しい。尿道口からはカテーテルが伸びており、バルブの開閉で排尿する仕組みとなっていた。
 このような改造を施された性奴は、オークションに出品しても大した値段が付かない。G氏はタダ同然で引き取った。
 施設で心身共に徹底的に調教されていた174号は、そのことについては特に欲求不満を漏らすことはなかった。オーナーのG氏も特に気にして言及することもなかったという。
 
しかし、男の微かな欲望を察知し、それを満たすために全身全霊で応えることを叩き込まれていた彼女は、オーナーの本音をそれとなく感じ取っていたのだった。
 彼女には豊富な経験と技術があったが、口だけでの務めにはどうしても限界がある。

 G氏にはそれなりの収入があり、もう1体の性奴を手に入れるのは容易なはずだ。にも関わらず、自分だけを可愛がってくれていることに174号は感謝し、誇りに思っていた。だから、彼女自身も自分の本来の能力を生かすため、貞操帯の破棄を真剣に考えた。
 オーナーにこのことを提案してみたところ、案の定あっさりと賛成を得た。

 だが、立ちはだかる障壁は想像以上に分厚かった。いろんなところに相談してみたものの、期待した返事は得られなかった。貞操帯は非常に強固かつ凝った造りとなっていたたのだ。相当大きな工具で力づくで千切る他なく、体と密着している限り無理、と口を揃えて断られた。体を傷つける程度では済まないことは明らかだった。

 諦めかけていたときに、かろうじて一つだけ方法が提示された。
 それは・・・、体の臓器をコンパクトに統合された人工品に取り替え、工具を使うクリアランスを確保するという、まともな神経では受け入れることのできないものだった。

 174号は、この処置を受けさせるようにオーナーに願い出た。
 彼女の精神的な強さはG氏も十分理解していた。
 しかし、やはり後悔することになってしまうと・・・、という心配は拭えなかった。

 G氏は考えた末に条件を出した。
―――どうせ改造するなら、本格的な玩具になること。
    何をどうすればいいかは174号自身で決めること。
    所有者に特別な感情を持つことは許されない。
 酷い要求だが、むしろ後悔する力をも奪ってしまった方が彼女のためだろう、と考えてのことであった。

 しかし、ハードルが高ければ高いほど彼女のモチベーションは向上する。174号は、自らのプロポーションには自信があった。姿見の前で、彼女の倒錯した精神がその決意を強固にした。
―――このカラダを、性玩具に・・・。

 オーナーは費用を用意した。それを使い切るまで、未完成のカラダは一切使わないと告げた。納得いくよう好きなように試行錯誤してもらうつもりだったからだ。それでもなるべくチグハグにはならぬよう、慎重な計画で順序立てて改造されることになった。いずれの処置も、174号自らの意思によるものである。

 まずは不特定多数の愛好家に試用してもらいながら、改善すべき点を探していった。性奴として働かされるのではなく、玩具として使用される方が、自分の性に合っていることを相手に伝えた上でテストされた。

 手始めに、歯が柔らかい素材に交換された。もちろん、男性器に不快な刺激を与えない為である。
 口技に長けた174号はもともと歯を突き立てるようなミスはしなかったが、余計な足枷を取り除くことで動きの自由度が高まった。

 顎や舌にも手が加わり、長時間の使用でも疲労が残りにくいように強化された。ほとんど疲れないため訓練に没頭させることができた。多少は勝手が違うものの、今では以前以上にまで使いこなせていると彼女自身は言っていたそうである。
 ちなみに口に関しては電子的、デジタル的な改造はあまり施されていない。脳と口は基本的にアナログ接続のまま残されているため、男性器の状態を過不足なく察知し、適切なレスポンスを返すことができる。174号が本来備える才能を生かすことが尊重された。

 さらに彼女は、自分を性奴174号として育て上げた組織の、ある調教センターに身を寄せた。そこで主にメンタル面での再調教を受けた。

 念のため、眼球は暗所にも対応したカメラに交換された。しかし本来ラブドールには必要ないものであり、普段は視覚は遮断しているそうである。
 運用形態もモノらしく見直され、洗浄や排泄といった体のメンテナンスも人の手に委ねられた。手間を軽減する為、頭髪は頭の表皮ごと人工品とされた。

 そしてようやく臓器の刷新が実現した。これにより、窒息や嘔吐を起こすことなく男性器を喉奥深くまで挿入できるようになった。同時に大量の液体を嚥下し続けることもできるようになった。人形化への道において、174号に最も必要とされる能力を手に入れた。
 さすがにこの改造費用は高額であったが、内容を考えれば安くついたとオーナーは語っている。174号という適切な素材があってこその改造である。

 同時に貞操帯は撤去された。自分が自分でなくなってゆくことを、彼女はこのとき最も強く意識した。同時に、新たな生き甲斐を持つきっかけを与えてくれたことに感謝した。

 給餌は不要となった代わりに、交換式カートリッジによる栄養補給や充電が必要になった。口には消化器が一応繋がってはいるが、使用者の性器から分泌されるもの程度しか処理できない。他の物を嚥下することは構造的、衛生的に想定されておらず、故障の原因となるため禁止である。
 貞操帯を外してしまった現在、もう少しまともな、人間に近い能力のある臓器にとり替えることもできるが、維持性や機能性を重視するためにこの形態とされた。
 老廃物は交換式カートリッジに溜まるようになっており、アヌスには通じていない。

 その一方、排尿のような行為はきちんと再現できるようにされた。精製された余剰水のタンクはもちろん尿道に繋がっていて、圧力まで細かくリアルにコントロール出来ると言う凝り様である。
 皮肉にも、サイボーグ化によって数年ぶりに排尿感を味わうことができた彼女であった。

 上述のように、直腸はその本来の機能から解放された。奥には任意の液体を入れられるリザーブタンクが接続されている。いつでも気軽に挿入出来るようにとの配慮で、彼女は好んで薬用ローションを貯蔵している。とことんリアルに再現された排尿に対し、アヌスからは透明の粘液が卑猥に流れ出る。この不気味なギャップが、新しいカラダで彼女自身が気に入っている点の一つらしい。

 また、外出時の可搬性を考え、手足は取り外し可能とされた。

 ヴァギナはもともとテストの評価も良かったので、ある程度の訓練を課すだけに留められた。既に子宮は性奴になるときに除去されている。

 機能を果たすことに貢献しているものも、細部に至るまで妥協せず改良した。
 機能を果たすことに貢献していないものは、徹底して排除した。

 最後に残された予算を使って注文した、格納用の箱が調教センターに届いた。製品はそこへ梱包され、オーナーの元に送られた。その晩、オーナーは久しぶりに174号に対面できることになった。

 待ち望んだモノが届き、期待に胸を膨らませながら蓋を開いた。

 全身の100%が、玩具そのものとなっていた。
 使用者の性的欲望を煽るもの、及びそれを癒すものだけで構成されていた。
 造形美と機能美を高次元で融合した、新しい芸術作品の誕生・・・、
 などと高尚な表現をしたくもなるが、その本質は彼女自身が述べているように飽くまでも卑猥な目的のために造られた工業製品なのだ。分かり易く言い換えれば、勃起から射精までの推移を手軽かつ確実にこなせるようサポートすることだけが、その存在意義なのである。

 オーナーは玩具を箱から取り出して手足を本体に装着し、「洗浄済」と書かれたシールを口と股間から剥がした。
 目を開けて立ち上がるように命じた。生まれ変わった174号に、初めて与えた命令だ。
 玩具は、スポンサーの目の前で仁王立ちになった。その成果を包み隠さず無言で報告した。
 思わず息を呑むような美しい製品に、ただただ圧倒された。
 久しぶりという言葉を掛けることができないほど、完全に別モノへと生まれ変わっていた。
 オーナーも無言で、茂みを失った女性の秘部「だった」亀裂に、指を滑り込ませていった。ゆっくりとした愛撫の末、少しずつ湿り気を帯びて来ると、ようやく彼女は微笑んだ。
「早速、そこをご利用ですか?」
「う〜ん・・・。いや、後にしよう。まずは口がどう変わったか試したい」

 オーナーはズボンから取り出したものを、玩具が備える1つ目のシリンダーにあてがった。そのまま誘われるように、奥深くへと、ゆっくり、ゆっくり沈めていった・・・。

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